BYDによる世界首位への挑戦
中国自動車大手・比亜迪(BYD)の王伝福董事長は、2026年6月の定時株主総会で5年後(2030年)までに販売規模で世界一になるとの目標を掲げた。BYDの2025年の新車総販売台数は約460万台に達し、世界第6位につけている。特にバッテリー式電気自動車(BEV)では、年間約225万~226万台を販売し、米テスラ(約164万台)を抜き去った。暦年ベースでは初の世界首位への躍進だ。
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2025年の世界販売ランキング上位を見渡すと、首位はトヨタ自動車で約1031万台、2位はフォルクスワーゲンで約859万台、3位は現代自動車・起亜で約701万台と続く。いずれも世界第2位の市場規模を持つ米国での販売を大きな柱としており、この強固な販売基盤が世界での台数を下支えする。一方、英フィナンシャル・タイムズによると、BYD幹部は米国市場に参入しなくても、世界首位を達成できる――との認識を明らかにした。
これまで、世界一の自動車メーカーになるには米国市場での成功が不可欠とされてきた。しかし、その前提は変わり始めている。中国市場が世界最大規模へ成長するなか、インドや東南アジア、南米などの新興国でも需要拡大が顕著だ。さらに世界的なEV普及の流れに加え、物流網やサプライチェーンなども競争力を大きく左右する時代へ移行した。
本稿では、BYDの成長戦略だけを取り上げるのではなく、世界一の自動車メーカーになる条件がどのように変化しているのかを読み解く。BYDが掲げる世界首位の目標を実現するには、どのような条件が求められるのかを考察する。
多極化する自動車市場の構造
かつて、自動車メーカーがトップに立つには、世界市場のおよそ2割を占める米国で販売を伸ばすことが絶対条件と見なされていた。米国は広大な国土を持ち、世界有数のクルマ大国であることから需要が安定しており、常に有望な市場の筆頭だった。米国での成功が、世界で認められる存在になれるかどうかの分水嶺として機能していたわけだ。
しかし現在では、その定説が徐々に崩れつつある。中国が世界最大の自動車市場へ成長し、中国政府がEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を新エネルギー車(NEV)と位置づけて普及を後押しした結果、市場のEVシフトが急速に進展した。2025年の世界新車販売台数(約9568万台)のうち、中国市場は3割超となる3435万台を占め、1673万台にとどまる米国を大きく引き離して最大市場の地位を確立した。BYDはこの波に乗り、低価格モデルの拡充によってNEV市場で飛躍的な成長を遂げた。
さらに、新興国市場の急拡大も、世界一を目指す条件を揺るがす要因だ。インド、東南アジア、中南米などの新興国市場は合計で約1500万台規模に達し、単一国としての米国市場に匹敵するインパクトを持ち始めた。中東やアフリカも含めれば、新興国での需要は今後も伸びていく公算が大きい。
その半面、BYDの屋台骨である中国国内市場では、激しい価格競争や技術的優位性の縮小によって、販売の伸びに鈍化の兆しが見え隠れする。生産能力の余剰感も相まって海外市場の開拓は急務であり、これを背景に中国の自動車輸出は急激に拡大、2023年には世界最大の輸出国へ躍り出た。BYD自身の実績を見ても、輸出台数は2024年の約43.3万台から、翌2025年には前年比145%増の約105万台へと急成長を記録した。
中でも象徴的な地域が東南アジアだ。BYDをはじめとする中国勢はタイやインドネシアへ進出し、高い価格競争力を武器に日本車の牙城を崩しつつある。タイにおける日系メーカーの販売シェアはかつての8~9割から7割未満まで急落し、代わってBYDなど中国勢が2割超のシェアを獲得するに至った。
このように、中国や新興国を中心に自動車市場の構造は多極化への道を歩む。北米での成功を大前提とした時代は終わりを告げ、世界販売を支える市場の選択肢は大きく様変わりしている。
米国依存を避ける市場分散戦略
とはいえ、BYDが米国市場への参入を完全に諦めたと判断するのは早計だ。彼らは米国市場に頼らずとも、世界で戦い抜ける戦略を模索しているに過ぎない。現在、米中対立を背景に、米国では関税政策や安全保障を理由としたサイバーセキュリティ規制など、中国企業を対象とする強力な保護貿易政策が敷かれている。こうした政治的緊張によるリスクを考慮すれば、米国への直接参入は将来の大きな火種を残しかねない。
そのため、BYDが世界首位を目指す戦略は、米国市場への直接進出よりも、新興国や欧州などへ販売先を分散させ、特定市場への過度な依存を回避しながら成長を維持することに重点が置かれる。
当面の間、BYDにとって基盤となる市場は中国であり続ける見通しだ。国内での足場を固めつつ、欧州、東南アジア、中南米、中東などへ販売網を広げていく算段である。特に欧州では現地生産を強力に推し進め、輸入関税の影響を最小限に抑えながら競争力を底上げする方針を打ち出した。
また、メキシコやカナダなど、米国の周辺市場へのアプローチにも戦略的な意図が透けて見える。メキシコでは、自動車への一般関税引き上げリスクや米国の政策不確実性を踏まえ、BYDは工場投資計画を一時保留にしたものの、市場進出自体には引き続き前向きな姿勢を保つ。一方のカナダでは、中国製EVに対する関税を100%から6.1%へ大幅に引き下げる政策転換が行われ、これがBYDにとって新たな追い風として作用する。
BYDの海外展開は、周辺国や新興国へと販売地域を多極化することで地政学リスクの影響を抑え、持続的な成長を実現する狙いを持つ。今後は、いかに多くの地域で安定した販売基盤を築けるかが、グローバル競争力を左右する最大のカギとなる。
競争力を支える海上物流の内製化
世界規模で販売を拡大するには、単なる現地での売る力に加え、原材料調達から最終消費者へ届けるまでの全プロセスを最適化するサプライチェーン・マネジメントの高度化が欠かせない。世界各地の工場で車両を生産する体制を整え、さらに輸出を想定するならば、港湾や運搬船を含めた強固な物流インフラが不可欠だ。これらの条件が揃って初めて、世界首位に匹敵する販売台数が現実味を帯びてくる。
この視点に立つと、BYDが海上物流の完全な垂直統合に乗り出した意味は極めて大きい。ここ数年、中国からの自動車輸出が急増した反動で、自走して車両を荷役する自動車専用運搬船(Ro-Ro船)のリース料が高騰し、物流インフラの不足が深刻なボトルネックとして浮上していた。
こうした課題に対し、BYDは約687億円を投じ、1度に9000台以上の車両を運搬可能な世界最大級の自社専用船BYD Explorer No.1(BYD深セン)をはじめとする専用運搬船を最大7隻運用する計画を進め、海上物流の内製化へ踏み切った。自動車運搬船は風の影響を受けやすく海難リスクをともなう特殊な船種だが、自社運用へ切り替えることで1台あたりの輸送コストを30%~40%削減し、年間最大14億ドルの巨額な費用節約を見込む。
バッテリー開発から車両プラットフォームの構築、完成車生産、そして海上輸送に至るまで、付加価値を生み出す全工程を自社グループ内に取り込む垂直統合モデルは、競合他社には容易に模倣できない圧倒的なコスト競争力と安定供給のスピードをもたらす。世界中へ車両を滞りなく供給できる物理的な物流網の支配こそが、1000万台構想を支える真の販売競争力の源泉といえる。
勝敗を分けるグローバルリスク管理
BYDが世界一の座を射止めるための条件は、かつてのような北米市場の制覇から大きく様変わりした。世界首位という目標を達成できるかどうかは、もはや同社による製造面での自助努力だけで決定づけられるものではない。各国の規制や通商政策、そして予測困難な地政学リスクが最大の障壁として立ちはだかる。
とりわけ米国では、安全保障を盾にした中国企業への締め出しが顕著だ。サイバーセキュリティに関する規制を巡っては、吉利汽車集団傘下のEVブランドポールスターが、米国内や韓国で生産した車両であるにもかかわらず、中国関連のソフトウェア規制(コネクテッドカー規制)が適用され、米国での販売制限を余儀なくされた。この事例は、BYDをはじめとする中国勢全体に対する強い警告として機能する。
その一方で、BYDの屋台骨である中国市場の成熟化や国内競合との苛烈な価格競争、さらには欧州や新興国における保護主義的な動きなど、市場環境の不確実性は依然として拭えない。強みとするNEV領域の技術的優位性をどこまで維持できるかも同時に問われている。
現在、自動車産業において世界一を達成するための絶対条件は、強固な中国内需を土台とした新興国への市場分散(地政学リスクや保護主義への対応)と、サプライチェーン全体および海上物流インフラを支配する垂直統合エコシステムの確立へと明確にシフトした。
BYDの躍進と1000万台への挑戦は、自動車産業の競争が単なる製造力の枠組みを超え、グローバルなリスク管理と強靭な物流網の構築が企業の勝敗を分ける新たな転換点を迎えた事実を、如実に物語る。(成家千春(自動車経済ライター))
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みんなのコメント
買う時はダンピングで安いからと海外で売れているが、手放す時に愕然としそうだな。結局安くないじゃんって。
今でもガソリン車は抽選販売で、実質EVしか買えない。
そういう強制的な販売をしないと買う人はいないというのがEVの現状。
BYDの販売台数も嘘だったという事が判明した今、中国勢に迫る勢いなど無い。