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人類の夢を背負ったクルマだった! アルファ ロメオ「モントリオール」誕生秘話

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人類の夢を背負ったクルマだった! アルファ ロメオ「モントリオール」誕生秘話

■クルマが夢を語ることができた時代に生まれた「モントリオール」

 2020年は、自動車界における「アニバーサリーイヤー(記念の年)」の当たり年。自動車史上に冠たる名作たちが、記念すべき節目の年を迎えることになった。

「カウンタック」の原型になった! アルファ ロメオのコンセプトモデルとは?

 1970年にデビューし、今年でちょうど50歳となったアルファ ロメオ「モントリオール」もそのひとつ。かの「スーパーカーブーム」時代以来、今となっては不当とも思えてしまう扱いを受けていたのが、誕生から半世紀を経た近年では、にわかに再評価されるようになった感のある、真正のイタリア製グラントゥリズモである。

 母国であるイタリアでは依然として新型コロナ禍に翻弄されながらも、熱心な愛好家たちが愛車とともにヨーロッパ各国から集結し、規模は小さいながらも心づくしの祝賀ミーティングがおこなわれたという。

 そこで今回は、われわれVAGUEではその誕生ストーリーを紹介することで、隠れた名作の生誕50周年を、ささやかながら祝福しよう。

●人類の最大の夢を具現化したクルマ

「人類とその世界」というテーマを掲げ、1967年4月28日から10月27日まで、カナダ・モントリオールで開催された万国博覧会「Expo ‘67」。カナダの建国100周年記念として開催された、この世紀の大イベントには総勢62か国が参加し、183日の会期中には延べ5031万人が来場することになった。

 そして、このモントリオール万博におけるイタリア館に展示され、大きな人気を博していたのが「人類の最大の夢を具現化したクルマ」と銘打たれた、ベルトーネ製のアルファ ロメオ「モントリオール」だ。イタリアンGTの伝統を体現した、美しきコンセプトカーである。

 スリークかつエキセントリックな2+2クーペのデザインは、直前に独立したジョルジェット・ジウジアーロの跡を継ぐかたちで、カロッツェリア・ベルトーネのチーフスタイリストの地位に就いた鬼才、マルチェッロ・ガンディーニの手による。

 そのプロポーションは、同時代のガンディーニ作品であるランボルギーニ「ミウラ」にも似たミッドシップ的なものだったが、実体は同時代の「ジュリア・スプリントGT」系と同じ、ホイールベース2350mmのフロアパンを流用したフロントエンジンの後輪駆動車だった。

 アルファ ロメオ・モントリオールで試行されたデザインテイストは、自動車デザイン史に輝く名作ランボルギーニ・ミウラで確立されたガンディーニの方法論を踏襲したものといえるだろう。

 しかし、Cピラー付近に設けられた7条の巨大なスリットは、ベルトーネ時代のジョルジェット・ジウジアーロの傑作アルファ ロメオ「カングーロ」のフロントフェンダーに設置されたエアアウトレットのモチーフを再現したものとされるなど、伝統的な古典美も盛り込まれた、万博でお披露目されるに相応しい華やかなスタイルとされていた。

 パワーユニットは、総アルミ合金製直列4気筒DOHCのいわゆる「アルファ・ツインカム」。このプロトティーポでは、スプリントGTの106ps仕様ユニットを搭載すると公表されていた。

■プアマンズ・フェラーリなどではないモントリオールとは?

 モントリオール万博会場で受けた高い評価に手応えを感じたアルファ ロメオ社首脳陣は、コンセプト提唱者であるヌッチオ・ベルトーネの強い意向もあって、モントリオールのシリーズ生産化に乗り出すことにした。

 しかし「人類の最大の夢を具現化したクルマ」を標榜するには、直列4気筒という一般的なレイアウトで、排気量は最大でも2000ccのアルファ・ツインカムでは不十分、とも判断された。

●ティーポ33のV8エンジンをコンバート

 そこで彼らは、当時のFIAスポーツカー選手権タイトルを目指し、グループ6レーシングスポーツとして開発された「ティーポ33」シリーズ用をベースとする、V型8気筒4カムシャフト(バンクあたりDOHC)の専用エンジンを搭載するという英断を下すに至ったのだ。

 総排気量は「ティーポ33/2」の2リッターとも「ティーポ33/3」の3リッターとも異なる2593ccとされていたが、ロードユーズを見越して200psまでデチューンを施すとともに、最大の特徴にして魅力のポイントである低いボンネットを損なうことなくV8ユニットを搭載するためには、多大な努力が払われることになった。

 例えば、直4アルファ・ツインカム用の幅の狭いエンジンベイに収めるために、V8用のクランクケースを小型化する必要に迫られたアルファ ロメオ技術陣は、当時最新の航空機技術を導入した1平方センチ当たり17kgという高い比重を持つタングステン鋼製カウンターウェイトを採用し、クランクシャフトを極限まで小型化することで対応した。

 また、潤滑システムをドライサンプ化することでオイルパンを廃し、エンジンブロックの天地を低めることにも成功している。

 そして燃料供給については、当時アルファ ロメオ社傘下にあり、ティーポ33系のほかにもツーリングカーレース用マシン「1750/2000GTAm」に採用されていたスピカ社製機械式インジェクションに賄わせることにする。採用の理由は、当時のアルファ ロメオが採用していたウェーバー社製キャブレターでは、配置するスペースを捻出できないからだった、といわれている。

 生産型モントリオールの開発チームは、スピカ製インジェクション用の噴射ポンプやカバー類をVバンク内側に配置する傍ら、そのスペースをひねり出すためにボンネット中央には大型のNACAスクープ風パワーバルジを設けるなどの諸策を講じ、なんとか低いノーズを実現するに至ったのである。

 一方、フロアパンと前:ダブルウィッシュボーン独立/後:トレーリングアーム固定のサスペンションをジュリア・スプリントGT系から流用したシャシは、万博に出品されたプロトティーポから大きくは変わっていない。

 一見した限りでは、手近なところで済ませたようにも思われるが、このレイアウトは1960-1970年代初頭のETC選手権を席巻した「ジュリア・スプリントGTA」および「GTAm」シリーズにも採用されたものと基本的には変わらず、200psのモントリオールにも充分と判断されたようだ。

 くわえて、4輪ディスクのブレーキも踏襲されるが、ディスク面積を拡大するとともに、4輪ともベンチレーテッドに強化されることになった。その結果として、生産型のモントリオールは当時の自動車メディアから、V8エンジンの性能はもちろんシャシのパフォーマンスでも高い評価を得るに至ったのだ。

 これらの地道な努力を積み重ねて開発された生産型モントリオールは、1970年のジュネーヴ・ショーでデビュー。同時代のジャガー「Eタイプ」やポルシェ「911」より少しだけ高く、フェラーリ(ディーノ)やマセラティよりはかなりリーズナブルな価格設定がなされていた。

 しかし当時のアルファ ロメオの例にもれず、生産車両の品質に問題を抱えていたこと。あるいは発売時期からほどなく、オイルショックによる世界的不況に見舞われたこともあって、1977年に生産を終えるまでの台数は、3925台(ほかに諸説あり)に留まったとされる。

 しかし、モントリオールのV8サウンドをひとたび聴けば、ティーポ33シリーズと同系の出自を持つ気高きイタリア式グラントゥリズモ(GT)であることが即座に理解できるとともに、決して失敗作などとは思えなくなってしまうに違いない。

 これはあくまでアルフィスタのひとりである筆者の私見だが、モントリオールが「プアマンズ・フェラーリ」と呼ばれるのは、あくまで当時のメディアやマーケットの評価であり、アルファ ロメオ技術陣は自社の伝統的GTのフィロソフィーを忠実に遵守したものとして開発したに違いないと考える。

 つまりモントリオールというクルマは、アルファ ロメオが現代のフェラーリにも相当する超高級スポーツカー/GTメーカーだった時代の伝統を1970年代に再現した、正真正銘のアルファ・グラントゥリズモ。そう心から確信しているのである。

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