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マツダ 「スカイアクティブ-X」エンジンをわかりやすく解説

掲載 更新 65
マツダ 「スカイアクティブ-X」エンジンをわかりやすく解説

マツダの最新技術を投入したガソリンエンジン「スカイアクティブ-X」は、2019年12月にマツダ3に搭載して発売された。さらに2020年1月にCX-30にも搭載されている。市販化までの道のりを振り返ると、次世代エンジンとしてスカイアクティブ-Xエンジンの概要が発表されたのが2017年8月で、それから2年余を経て市販化されたことになる。

SPCCIの名称は普及したが

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マツダは次世代エンジンのコンセプトを発表以来、ドイツにあるR&Dセンターでプロトタイプ車での試乗会や技術の概要を発表し、スカイアクティブ-XエンジンはHCCI、つまりHomogeneous-Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火するガソリンエンジンで、ディーゼルのように高圧縮して希薄燃焼で燃焼させる技術コンセプトという発想をベースに、マツダが独自開発したエンジンだ。そこで高圧縮比での火花点火システム、「SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)」という名称が一気に知られるようになった。

しかし、その後はマツダによるスカイアクティブ-Xエンジンに関しての続報や関連情報がぱったり途絶えてしまった。2019年8月頃に発売予定とされていたスカイアクティブ-Xエンジンを搭載したマツダ3に関しても特にアナウンスもなく12月まで延期されている。

スカイアクティブ-Xエンジンを搭載したマツダ3の試乗会は2019年11月下旬に行なわれているが、エンジンに関するプレゼンテーションは断片的であった。このような経緯で、スカイアクティブ-Xエンジンの全貌に関しては、依然として情報は希薄な状態が続いていた。

しかし2019年版「マツダ技報」の発表により、ようやくその全貌が明らかになった。今回はその内容をベースにスカイアクティブ-Xエンジンの全貌に迫ってみよう。

スカイアクティブ-Xエンジンのコンセプト

スカイアクティブ-Xエンジン、つまり「HF-VPH型」エンジンは、具体的にはスカイアクティブ-Gエンジンに対して 全域で10%以上のトルク改善を図り、同時に量産ガソリンエンジンとして世界最高レベルの燃費率を目指す次世代エンジンとされている。

そして、大幅に熱効率を高めるためにリーンバーン(希薄燃焼)とし、従来からの常識を上回る高圧縮比に挑戦している。そのため、従来よりも多量の空気やEGRを導入して燃焼させるリーンバーンとなっている。目標の空燃比は30で、つまり理想空燃比の2倍の空燃比による比熱比改善を行なっているわけだ。このリーンバーン=比熱比向上は燃費改善効果だけでなく,ポンピング損失や冷却損失も低減させ、燃費改善効果が大きい。

ちなみに、歴史的に見るとガソリンエンジンで直噴を採用し、リーンバーンを追求したパイオニアは1996年に登場した三菱自動車のGDIエンジンで、このコンセプトは他の自動車メーカーに大きな影響を与えた。ただ、当時の直噴システムは燃料圧が50バール程度と低く、ガソリンの霧化性能が悪いなどリーンバーンのシステムが不完全で、成功したとはいえなかった。

独自のシステム構成

マツダのスカイアクティブ-Xは空燃比30といった超リーンバーンに挑むには、希薄混合気で、しかも圧縮比16といった高圧縮の中できれいに燃焼させるためにはブレークスルーが必要となった。そのブレークスルー技術が「SPCCI」だ。

つまり、希薄混合気の状態で意図通りに着火させ、燃焼室内の希薄な混合気全体を燃焼させるために、高エネルギーの点火システムを採用し、点火プラグ周辺の濃いめの混合気に着火させ、その燃焼圧力で燃焼室内の希薄な混合気全体を燃焼させるというシステムだ。


そのためには、まずは通常の直噴システムで設定される燃圧の2.5倍にもなる燃圧70MPa(700バール)の超高圧直噴システムを採用した。インジェクターは一般的な横方向からの噴射ではなく燃焼室中央にインジェクターを配置するセンター直噴を採用している。

そして通常より高エネルギー点火システムで点火するスパークプラグの点火部が、インジェクターと隣合わせになるように吸気ポートの中間部から斜めに燃焼室中央に向かって配置される。そして、燃焼室内で希薄な混合気を撹拌して均一な混合気とするため、吸気ポートにはスワール(横渦)コントロール バルブを設置している。

ただし、高負荷域ではスワール流ではなくタンブル(縦渦)流を使用するようになっている。このように、軽負荷域でのリーンバーンのためのスワールと高負荷域で使用するタンブル流を成立させるためにピストン頭部の形状は専用に開発された浅皿型の凹形形状となっている。

燃焼の切り替え

スカイアクティブ-Xエンジンは始動直後は通常燃焼で、それ以上の回転域では大量の空気とEGR(再循環した排気ガス)による希薄燃焼になる。そして高負荷では通常燃焼に替わるといったように、状況に合わせて燃焼を切り替えるシステムになっている。つまりそれだけ高精度なエンジン制御が求められるわけだ。

そのために常に燃焼室をモニターするために、燃焼圧センサーを装備してモニターするシステムになっている。同時に、通常燃焼から希薄燃焼に切り替えるためには急激に大量の空気とEGRガスが必要となる。この急速な空気、EGRガスの供給が追いつかないと滑らかな運転ができなくなってしまうのだ。

燃焼切り替えのための秘密兵器が高応答エアサプライ

そのため、スカイアクティブ-Xエンジンはイートン製の機械式スーパーチャージャー、インタークーラーを装備している。ただ、マツダはこれを「高応答エアサプライ」と呼んでいるので、ちょっと想像がつきにくい。

このスーパーチャージャーは電磁クラッチを装備しており、大量の吸気が不要な場合は駆動されない。そして希薄燃焼に切り替わるタイミングでクラッチが接続され、外気とEGRガスがインタークーラーを経由して吸気ポートに圧送される。インタークーラーは排気ガスのEGRを冷却するために使用されている。

またスカイアクティブ-Xは、この外部EGRに加え、負荷が高まるとミラーサイクル運転が加わり、排気ガスの吹き返しが吸気ポート側に還流され、低負荷では排気シャッターバルブの作動により排気ガスが吸気ポートに流されるなど、内部EGRも燃焼室に導入している。

このスーパーチャージャーは希薄燃焼ゾーン以上では常時駆動され、高負荷領域の通常燃焼時でも駆動が続けられ、トルクの向上のために働いている。

排ガス浄化システムは、触媒、ガソリン粒子フィルターを装備し、通常の空燃比センサー以外にディーゼルエンジンのようなNOxセンサーを装備している。エンジンそのものは基本的に希薄燃焼、つまり低温燃焼を行なっているためNOxの発生量は少ないが、NOxが過剰になった場合を検出するためのセンサーで、NOxが検出されると通常燃焼に切り替わるフェールセーフ システムとしているのだ。

スカイアクティブ-Xをカプセル化

高圧縮比での燃焼ではディーゼルエンジンと同様のノイズが発生する。ノイズのエネルギーは従来のスカイアクティブ-Gの14倍、スカイアクティブ-Dの2倍に達するとされている。そのためスカイアクティブ-Dエンジンと同様にピストン振動音を抑制するためピストンピンにナチュラル サウンド スムーザー:NSSを採用している。

さらにエンジンの保温性能の大幅な向上と、遮音性を高めるために、エンジン全体を樹脂カバーで覆うカプセル化も行なわれている。このカプセルは従来のエンジンでは考えられないほど完全なエンジン全周のカバーが採用され、静粛性を向上させている。

スカイアクティブ-Xエンジンは低温始動時には通常燃焼を行ない、排気ガス温度が高まった状態になると希薄燃焼が可能となるため、電子制御サーモスタット、冷却水切替バルブ(CSV)、可変容量オイルポンプを装備し、エンジン水温の早期上昇を図っている。エンジン停止後は、できるだけ水温の低下を防ぐためにも、カプセル化されたエンジンカバーが必要なのである。

このようにスカイアクティブ-Xエンジンは高精度なエンジン制御と、様々なデバイスを駆使して高圧縮比、希薄燃焼と、6800rpmという高回転までの滑らかな吹け上がりを実現したエンジンとなっている。

もちろんこのエンジン性能には実はもう一つ、24Vマイルドハイブリッドのアシスト効果も少なくない。ドライバーがアクセルを踏んだ時の瞬間的な要求トルクの発生には、地味ながらスターター/ジェネレーターの駆動トルクも貢献している。このマイルドハイブリッドは減速時のエネルギー回生と、駆動アシストの2つの働きを持っている。

この駆動アシストは、加速時や燃焼モードの切替時だけではなく、トランスミッションの変速時のショック低減にも貢献している。

なお、今後のガソリンエンジンのトレンドは間違いなく熱効率の向上、つまり希薄燃焼の追求に向かうことは間違いないが、トヨタ、ホンダ、日産はマツダとは別の手法で希薄燃焼の実現に向かうことになると予想されている。

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マツダ 公式サイト

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みんなのコメント

65件
  • 出る前が一番盛り上がったね。ガソリン&ディーゼルの良いトコ取りの夢のエンジン。
    実際世に出てみると…ね。
  • ハイオク化、マイルドハイブリッド、スーパーチャージャー搭載
    実用域では1.5L NAレベルのトルクと燃費
    カタログ詐欺用パワーモード搭載

    こんなのを夢のエンジンとかほざいてたマツダ信者息してんの?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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