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事故と喧嘩はマカオGPの華。極めて刺激的な東洋一の公道バトル

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事故と喧嘩はマカオGPの華。極めて刺激的な東洋一の公道バトル

 72回目を数える伝統のマカオGPは、今週末2025年11月13日(木)~16日(日)に開催される。年一回、中華人民共和国・マカオ特別行政区で開催される同イベントは、『火事と喧嘩は江戸の華』ならぬ『事故と喧嘩はマカオGPの華』と呼ぶに相応しいほどに刺激的である。

『天下泰平』の江戸時代にあって、木造住宅が集中していた江戸(東京)は僅かな失火が大火に繋がりかねず、そこで活躍する火消しの一挙手一投足が注目を浴びた。また、短気な江戸っ子の街中でのいさかいも、普段は平穏な暮らしを営む庶民にとっては非日常のイベントであった。

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 一方のマカオは、16世紀にポルトガル人が貿易拠点として居留し始めてから、明や清と微妙な距離感を測りながら本土とは異なる『天下泰平』の時期をたどり、独自の文化や慣習を作り上げてきた。1999年12月に中華人民共和国へ返還されると、徐々に中国共産党の影がちらつくようになったとはいえ、今もメインランド(本土)よりは自由闊達な雰囲気を醸し出している。

 特別行政区としての位置づけもあり、制限付きながら自由経済が許されているマカオ。巨大で派手な建築物を誇るカジノや“夜の店”があちらこちらにあるのはその象徴であり、犯罪率の低さもあって本土から足を運ぶ中国人観光客がせっせとお金を落としている。また、2005年7月にマカオの歴史地区が世界文化遺産に登録されてからは純朴な観光客も増えた。

 そしてマカオは国際会議やスポーツイベントの誘致・開催にも積極的だ。なかでもマカオGPは街中の公道を午前6時から午後6時まで封鎖し、二輪や四輪のレーシングマシンが喧嘩上等とばかりに疾走する非日常が演出されるので、地元民にも観光客にもに人気。しかも、事故が頻発するため観客はそのたびに、「アイヤー!」と一斉に叫んでその光景と雰囲気を楽しむのである。

 さて、マカオGPの舞台となるギア・サーキット(全長6.12km)は、短いストレートとコーナーが連続した山側区間、長いストレートを中高速コーナーで結ぶ海側区間に大別できる。山側区間は最小7mの道幅しかなく、前走車のミスやトラブルがなければ追い越しはほぼ不可能だ。ちなみに最小7mの道幅とは、常時追い越しが禁止されているメルコ・ヘアピンである。

 もともとブラインドコーナーの多い山側区間でも最大の難所は、それなりに速度が乗った箇所でブレーキングポイントに路面の凹凸があって右90度コーナーを迎えるポリス・ベンド。毎年のようにGT3マシンの“墓場”となり、赤旗必至の多重事故が今年も観られる可能性は高いだろう。

 海側区間は“フィッシャーマンズ・ベンド”と呼ばれる山側出口の右コーナーから始まり、“Rベンド”と呼ばれる右の90度最終コーナーからが勝負どころ。貯水池脇の“リザーバー”と呼ばれる高速左コーナー、さらにはギア・サーキット屈指の超高速右コーナーである“マンダリン・オリエンタル・ベンド”を経て、実質的な第1コーナーである右低速90度コーナーの“リスボア・ベンド”に向けてドライバーが我先にと飛び込む。

 Rベンドからリスボア・ベンドまではまったくの直線ではないがアクセル全開区間で、リザーバーとマンダリン・オリエンタル・ベンドというふたつの高速コーナーを挟んでいるのがミソ。富士スピードウェイのメインストレート約1.5kmよりも長い、約2.1kmの距離がギア・サーキット最大の魅力とも言える。フォーミュラカーではとくにトゥ(スリップストリーム)の使い合いが見どころで、海側区間だけで2度3度の順位変動も珍しくない。

 海側区間は道幅も広く、非公式ながら14mとされている。まあ、最大全幅2mのGT3マシンが4台並んで競り合ってもまだ余裕がありそうだから、あながち間違ってはいないだろう。最大全幅が1.85mとされるFR(フォーミュラ・リージョナル)マシンなら、5台が並んでリスボア・ベンドに飛び込もうとするかも知れない。それくらい、リスボア・ベンドは勝負どころである。

 その超接近戦は観るものをゾクゾクさせる一方、リザーバーやマンダリン・オリエンタル・ベンド立ち上がりではコーナーを曲がり切れず、大きな事故が発生するというのもよくある光景。そして超高速からのビッグブレーキを強いられるリスボア・ベンドは、狭い山側区間の始まりという事情もあって先陣争いにより大きな事故がたびたび発生して、赤旗中断となるのはお約束だ。

 リスボア・ベンドの観戦席チケットがいの一番に売り切れてしまうのも、このような理由がある。もし読者の皆さんがマカオGPへ行くのならば、リスボア・スタンドの観戦席は真っ先に確保すべきである。決勝レースでの観戦席確保が難しくとも、予選レースあるいは予選/練習日の観戦席確保は絶対であると保証したい。

 長々と書き散らかしたが、マカオGPのレースは動画サイトのYouTube(マカオGP公式チャンネル)や、公式ウェブサイトで観られる。

 また、11月13~16日のマカオGP開催期間中は、前出のYouTubeチャンネルや公式サイトでライブストリーミングやライブタイミングの用意もある。とくに15日(土)と16日(日)は朝から晩まで、二輪グランプリ、ツーリングカー、FIA-F4、TCR、GT3、グランプリの称号が懸かるFRとレースが朝から晩まで目白押し。もちろん無料で、面倒臭い登録手続きなどは不要だ。

 とはいえ、「えー、メインレースがフォーミュラ・リージョナル? 物足りないよね……」と読者が首を傾げるのも理解できる。筆者も最初はそう感じた。実際、FIA F3で実施された2019年のポールタイムは2分05秒台で、旧F3で実施された2018年のポールタイムでさえ2分09秒台。その意味では、FRで実施された2024年のポールタイムが2分19秒台というのは物足りない。

 しかし、ここで今一度歴史を振り返ってみよう。旧F3規格で初めて1983年に開催されたマカオGPのグランプリレース、ポールポジションを獲得したアイルトン・セナのタイムは2分22秒02。1990年にポールポジションを獲得したミカ・ハッキネンのタイムは2分20秒88。その後10年でタイムは目覚ましく短縮され、佐藤琢磨が優勝した2001年のポールタイムは2分11秒983にまで到達している。

 つまり、ラップタイムはあくまで速さを想像するための一指標に過ぎない。それよりも、現代のFRドライバーたちが若くて血気盛んだったころのセナやシューマッハーと同じくらいのラップタイムで、あの難攻不落のギア・サーキットを攻略していると想像してみたらいかがだろう?

 しかも、今年は7名の日本人ドライバーがグランプリの懸かるFRレースに参戦する。2018年旧F3時代の9名には及ばないとはいえ、やはり注目したいところだ。温故知新という言葉は適切ではないかも知れないが、新しい時代のマカオGPがFRマシンやGT3マシンや日本人ドライバーによって切り開かれることを願って止まない。

[オートスポーツweb 2025年11月12日]

文:AUTOSPORT web
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