見た目に惚れたら肩すかしくらうこともある愛車選びの面白さ
「結婚相手は顔だけで選ぶと失敗しがちですが、愛車は顔で選んでもほとんど失敗することはありません!」などと偉そうに言うつもりはないのですが、愛車遍歴を20台近く積み重ねてみて、当たらずとも遠からずではないかと実感しています。
「3つ年上の恋人」は観音開きの「ランクル80」! デートはいつもスリリングな「泥んこ遊び」
というのもカーライフジャーナリストの仕事をしていながら誠に勝手ですが、独身時代の愛車はすべて選んだ基準は80%が顔(デザイン)、残り20%が予算(極めて低い)という体たらく。10代・20代は貧乏学生→薄給編集者でしたから、必然的にデザイン以外で贅沢な条件をつけることができなかった、というのが悲しいところなんですが、裏を返せばどんなボロ車でもデザインだけは自由に選べる。そして見た目に惚れていれば、少々の難はアバタもエクボと許せてしまうものなのだと、身をもって体験してきました。
肉食系だと期待して購入した10年落ちの5代目マスタング
唯一、まったく失敗ではないものの、事前に抱いていたイメージとかなり違うことにビックリさせられたのが、発売から10年後に中古車で購入したフォード・マスタング(5代目後期型)でした。マスタングといえばコルベットやカマロと並んでアメリカン・マッスルカーの代名詞的存在ですよね。映画『ブリット』で、スティーブ・マックィーンが駆る1968年型のマスタングに憧れた人も多かったと思います。
そしてツール・ド・フランス、SCCA( スポーツカー・クラブ・オブ・アメリカ)、ドラッグ・レース、NASCARといったモータースポーツ・シーンでの熱い走り。とくにシェルビーとタッグを組んだ時代の死闘は今も語り継がれています。私は学生時代、そういった情報をアメ車雑誌などで目にしていて、頭の中でかなりの肉食系スポーツカーというイメージが出来上がっていきました。
本場LAで出会ったコンバーチブルのマスタングにひと目惚れ
そんなとき、大学の卒業旅行で初めて行ったLA。ちょうど5代目マスタングが全米で大ヒットしていたころで、街なかや海沿いを走るマスタングを見て「うわっ、本物♡(ハート)」と釘付けに。コンバーチブルなんてもう、それはそれはカッコよくて、「いつか絶対、これを買う!」と決心して帰国したのでした。
ただ、就職先がイタリア/フランス車をメインとするエンスー雑誌の編集部だったことと、給料が安すぎてクルマを買うなんて夢のまた夢、という状況だったために、その決心を現実のものとするのに10年もかかってしまいました。しかもコンバーチブルやV8エンジンモデルは、中古でもまだまだ高額で手が届かず、V6エンジンのクーペモデルがやっと。
でもそれでも見た目は正真正銘、夢にまで見たマスタング! 無事に納車されたときには嬉しくて嬉しくて、実際はフロントのバンパーにぶつかった歪みがあったのに、ダメージはないと中古車屋にダマされていたことにも気づかず(笑)。知人の指摘で気がついたのは3カ月も経ってからのことでした。念願のイケメンと付き合えたからって浮かれすぎですよね。でもそれを知ったからといって、とくに腹も立たないくらい、ひと目惚れ効果はまだまだ継続中。
見た目はチョイ悪だけどジェントルマンだったV6マスタング
それよりも、乗り始めて少しずつ「あれ~?」と思い始めたのは、マスタングの乗り味。V6だからというのも多少はあるでしょうが、獰猛だとばかり思っていたOHVエンジンはドロドロ感よりも軽やかさが印象的。一発の速さではなく、アクセルを全開にして一拍遅れてからだんだんと伸びていく加速フィールがとても心地いいのです。
ボディや足まわりは適度にユルさがあり、高速コーナーもガチで曲がっていくというよりは、じわ~っと荷重移動しながら抜けていく感覚。FRスポーツのなかでもおおらかさがあって、なんというかこれはもう、肉食じゃなくて草食系!? それなのに顔つきだけはイカついもんだから、高速道路を走っているとまったく煽ったりしてないのに、前のクルマがどんどん車線変更して勝手に道を譲ってくれちゃう。で、譲ってもらった手前、悪いから一生懸命アクセルを踏むんだけど、ぜんぜん追い越せない(笑)。そんなギャップが面白いクルマでした。
肉食系に非ずもいつかまた乗りたい憧れのコンバーチブル
でもこうしたマスタングの本性は、生い立ちを考えれば納得できるものなのです。マスタングが生まれた1960年代は、アメリカにコンパクトカー全盛時代がやってこようとしていたころ。当時のフォード副社長・アイアコッカ氏は、コンパクトカーをつまらないものにしたくないというパッションで、綿密なマーケティングのもとにマスタングを生み出したとされています。
魅力的なキャラクター、エレガントなスタイリング、控えめな価格設定、誰もが快適に乗れる豊富なオプション設定などなど。いわばマスタングは大衆のためのコンパクト・スポーツカーとしてこの世に生まれ、その宿命の通り、大衆に愛され続けている偉大なクルマと言えるでしょう。そんなわけで、お姫さま抱っこしてくれるような肉食系マッスルカーではなかったけど、マスタングはまたいつか乗りたい1台です。
トホホな失敗カーとの思い出もいまでは大切な財産!!
そして、期待通りではなかったという点で失敗したもう1台は、ダートラ競技にハマっていたころに練習車として購入した、三菱ギャランVR-4(6代目)。これも10年落ちくらいで中古で購入したんですが、ラリーでランエボが大活躍する前に、その基礎を築いたと言われているのがこのVR-4なんですよね。なんたって、“Victory Runner 4WD”の頭文字を付けられたグレードですから。ダートラの先輩たちがこぞって、「あれはいいぞ、楽しいぞ」とVR-4を褒めるもので、超期待して納車後初の練習へと出かけてみたら、「なんじゃこりゃっ」。
まずはコテ調べとばかりにパイロンスラロームをやったのですが、ぜんぜん曲がれないではないですか。新車当時、乗ったことがあるという先輩にも乗ってもらうと「あれ? おかしいな」などと言っています。そして結論は、「10年の4WD技術の進化はすごいな!」って、そんなぁ……。トホホな愛車となってしまいました。が、今となっては時代を築いた名車に乗れたことは、大切な私の財産です。
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みんなのコメント
2000年代初頭には、生産中止に追い込まれていたシボレー・カマロやダッジ・チャレンジャーを再び市場に引きずり出した功績は大きい。
やはりマスタングは「スペシャルティ」「ポニーカー」の王道だ。