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コンコルドはなぜ消えたのか? マッハ2の夢の終焉! 燃費3倍と「ソニックブーム」の壁とは

掲載 更新 41
コンコルドはなぜ消えたのか? マッハ2の夢の終焉! 燃費3倍と「ソニックブーム」の壁とは

パニック映画とコンコルド

 1979(昭和54)年12月15日、『エアポート’80』という映画が日本で公開された。原題は『The Concorde… Airport ’79』。公開時期の違いにより、邦題と原題の間に1年のずれがある。

【画像】「えぇぇぇ!?」 これがコンコルドの「フライトデッキ」です! 画像で見る(5枚)

 この作品は、航空パニック映画『エアポート』シリーズの第4作にあたる。主演はアラン・ドロンだったが、実質的な主役は超音速旅客機「コンコルド」だった。

 物語は、架空の航空会社「フェデレーション・ワールド航空」に所属するコンコルドが、ワシントンからパリ、さらにモスクワへと飛行するという内容だ。その途中で、武器密売企業による妨害や攻撃を受ける。ミサイルを回避しながら超音速で飛ぶなど、展開は荒唐無稽である。

 一方で、コンコルドの機体は美しく描かれ、豪華な内装や上質な機内サービスも忠実に再現されていた。

『エアポート’80』は北米では振るわなかったが、国際市場では一定の注目を集めた。現実に存在した超音速旅客機への憧れを呼び起こす作品だった。撮影にはエールフランスの実機が使われている。

 コンコルドは1976年から、エールフランスとブリティッシュ・エアウェイズによって定期運航された。大西洋を約3時間半で横断したが、2003(平成15)年に退役した。今では、世界のどこにもコンコルドの姿はない。

 2025年時点で、民間旅客機の中で最速クラスにあたるのは、ボーイング747-8型機の巡航速度(マッハ0.855)である。かつてのコンコルドの巡航速度(マッハ2.04)には及ばない。

 コンコルドの退役から20年以上が経つが、民間の超音速旅客機はいまだに登場していない。

巡航速度はマッハ2.04

 コンコルドは、英国のBAC(ブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーション)と、フランスのシュド・アヴィアシオン(後のアエロスパシアルの前身)などが共同で開発した超音速旅客機である。「Concorde」という名称はフランス語で調和や協調を意味し、英仏両国の協力関係を象徴していた。

 製造されたのは、試作機や試験機を含めて20機。1969年3月2日に初飛行に成功した。その後、1976年1月21日に、エールフランスとブリティッシュ・エアウェイズの2社が定期便として商業運航を始めた。

 この英仏協力体制は、単なる技術連携にとどまらなかった。当時米国が構想していた超音速旅客機計画に対抗する意図もあったとみられている。

 コンコルドの巡航速度はマッハ2.04(約2,179km/h)。この速度性能によって、ロンドン~ニューヨーク間をボーイング747の約半分の時間で結んだ。商業運航された民間旅客機としては、当時も今も、史上最速である。

 一方、ソ連が開発したTu-144も存在した。1977年11月から1978年6月にかけて、モスクワ~アルマアタ(現・カザフスタンのアルマトイ)間で商業運航を55回だけ行った。しかし、技術的な課題や信頼性の問題により短期間で終了している。

 結果的に、長期にわたり定期商業運航を実現した超音速旅客機はコンコルドだけとなった。

 機体は細長く、流線型の胴体と三角形のデルタ翼を持ち、尾翼はない。独特なフォルムをしている。機首は可動式で、滑走時には下を向けて操縦視界を確保し、巡航時には上げる構造だった。この外観は、空力と速度性能の両立を追求するなかで生まれた。

コンコルドの広まりと高い注目度

 その速度性能により、ビジネスや外交における移動時間は大きく短縮された。運航期間中の利用者数はおよそ250万人から300万人にのぼる。ピーク時には年間10万~15万人が搭乗していたと推定されている。

 運賃は通常のファーストクラスの数倍に設定されていた。そのため、利用者の多くは富裕層や政府関係者など、ごく限られた層だった。

 コンコルドは単なる高速移動手段ではなかった。エールフランスとブリティッシュ・エアウェイズのフラッグシップ機という役割も担っていた。機内は1クラス制で、サービスはファーストクラス相当。専用ラウンジ、豪華な機内食、記念品なども用意されていた。この体験そのものが、一種のステータスシンボルだった。

 就航路線は限られていた。主に大西洋横断が中心で、代表的なルートはロンドン~ニューヨーク、パリ~ニューヨークなどである。また、ロンドン~バーレーン~シンガポール線では、ブリティッシュ・エアウェイズとシンガポール航空が共同運航を行った。機体には両社の塗装が施され、注目を集めた。

 日本にも数回飛来している。1972(昭和47)年には試作機がデモンストレーションと販売促進のため羽田空港を訪れた。さらに1979年の東京サミットでは、フランスのヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領がコンコルドで来日した。羽田空港にはおよそ1万人の見物客が集まったと報じられている。

コンコルドが直面した問題点

 超音速で空を飛び続けたコンコルドだが、その運用には多くの課題があった。

 最大の問題は燃費と経済性だった。コンコルドは超音速飛行を可能にしたが、その代償として燃料消費量が非常に多く、運航コストも極めて高かった。複数のデータによれば、座席マイルあたりの燃料効率は同時期のボーイング747と比べて大きく劣っていた。機種によっては、747の3倍から4倍の燃料を消費していたという報告もある。そこにオイルショックによる燃料価格の高騰が重なり、収益性は当初から長く低迷した。

 ブリティッシュ・エアウェイズは1980年代後半から1990年代にかけて、富裕層に特化した高価格戦略やチャーター便によって収益化を図った。一定の成果はあったが、座席数はおよそ100席に限られていたため、たとえ運賃を高額にしても、収益性の向上には限界があった。

 エンジンや設計にも限界があった。コンコルドの高速性能は軍用技術を転用して実現されたが、そのエンジンは超音速飛行に特化していたため、低速での燃費効率が悪く、騒音も大きかった。空力性能を優先した機体設計は、効率的な大量輸送には適さなかった。

 環境への影響も深刻だった。超音速飛行にともなうソニックブーム(衝撃波)は地上に大きな騒音をもたらし、多くの国が陸上での超音速飛行を禁止または制限した。特に米国では1973年、パンアメリカン航空がコンコルド導入を断念した背景に、ソニックブームによる騒音問題があったとされる。さらに、離陸時に使用されるアフターバーナーの轟音も問題視され、空港周辺の住民から反発を受けた。

 保守や整備の面でも負担は重かった。超音速飛行によって機体には高温・高圧のストレスがかかり、とくにエンジンや構造部材の劣化が早かった。このため、他の旅客機以上に高度で頻繁な整備が求められた。保守費用は年々増加し、やがて部品供給や技術支援の確保も難しくなった。老朽化が進むにつれ、運航の維持はさらに困難になっていった。

コンコルドの退役と「逆進化」の結末

 すでに述べたように、コンコルドには燃費や騒音、運航コストの問題に加えて、米国での超音速飛行規制といった構造的な制約が多く存在していた。これらの要因によって、パンアメリカン航空や日本航空を含む多くの航空会社が導入を断念した。その結果、超音速旅客機の普及は進まなかった。

 そして2000年、コンコルドの運命を大きく変える事故が発生する。7月25日、エールフランスのコンコルド機がパリのシャルル・ド・ゴール空港を離陸直後に墜落した。乗客乗員109人と地上にいた4人、あわせて113人が死亡する大惨事となった。

 事故の原因は、直前に離陸したコンチネンタル航空のDC-10が滑走路に落とした金属片だった。これをコンコルドが踏んだことでタイヤが破裂し、その破片が翼に直撃。燃料タンクを損傷し、漏れた燃料に引火した。

 この事故を受け、全機の運航が停止された。その後、燃料タンクの補強や耐久性の高いタイヤの導入などの対策が取られた。2001年11月7日には運航が再開されたが、事故によるブランドイメージの失墜は大きく、乗客の信頼も戻らなかった。商業的な回復には至らなかった。

 さらに、2001年9月に発生した米国同時多発テロによって、世界的に航空需要が冷え込む。これが決定打となった。

 エールフランスは2003年5月31日に商業運航を終了。ブリティッシュ・エアウェイズも同年10月24日に最後の商業便を飛ばし、11月26日の博物館へのフェリーフライトをもって、コンコルドは完全に退役した。

 この退役は、単なる事故や赤字の問題だけではなかった。環境意識の高まりや、グローバルなコスト競争といった20世紀末の構造的変化を象徴する出来事でもあった。航空業界は、より燃費効率に優れた中・大型機による大量輸送へと舵を切り、コンコルドのような高速・少数精鋭型の運航モデルは主流から外れていった。

モビリティ業界における“逆進化”

 技術的には実現可能だった超音速旅客機は、経済性と環境負荷の問題によって姿を消した。自動車、鉄道、船舶はいずれも技術革新によって速度を高めてきた。市販車では一部のハイパーカーが時速490kmに達し、鉄道もリニアモーターカーを含めて500km/h超の時代が現実味を帯びている。

 しかし、航空分野では事情が異なる。現在の主要な商業機であるボーイング747-8型の巡航速度はマッハ0.855にとどまり、1970年代のコンコルドの速度を下回る。速度という観点に限れば、これは世界の交通史においてほぼ唯一の「逆進化」と言える現象である。

 近年、米国の航空機開発企業が民間の超音速旅客機の復活を目指して動き始めている。例えば、ブーム・スーパーソニックの「オーバーチュア」やスパイク・エアロスペースなどがその代表だ。

 これらの企業は、騒音や温室効果ガスの問題に対応するため、技術開発を進めている。ただし、燃費や静粛性、カーボン排出への対応といったすべての条件を満たさなければ、商業運航の再来は難しい。実用化には、なお長い道のりがある。

 人類の未来に、再び超音速の“航跡”が描かれる日は来るのか――。

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みんなのコメント

41件
  • ham********
    現在のジェット旅客機は、記事にもある通りマッハ1を下回る亜音速機ですが、これにはマッハ1を超えようとすると燃費がかなり悪くなるという理由があります。
    時短効果はあるものの、そもそも長距離国際線でそこまでの時短を求めるニーズはあまりないと思われるので、超音速でもキャビンの大きさや燃費を亜音速機並みにできるような、余程の技術革新でもない限り超音速旅客機は登場しないでしょう。
  • tkkas 0531
    確かにこの現代において100万円以上払ってでも
    マッハ2で移動せなあかん人間がどんだけいてるかって
    おはなしやね

    これだけネットが普及したからいちいち本人が出席せんでもよくなってきてる

    亜音速の飛行機で充分なんやろね
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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