闇バイトが暗躍する自動車盗難の最新事情
「年々盗難のペースが加速している状況です。ピーク時の2003年と比べれば件数は約10分の1に激減していますが、『減った時代』はもう終わった、というのが実情です」
施錠なんて秒で破られる! 純正セキュリティも役に立たない! 窃盗団から愛車を死守する「多層的セキュリティ」
そう語るのは、バイク・クルマの盗難防止に心血を注ぎ、信頼を勝ち取ってきたメーカー、キタコ(KITACO)で、盗難防止ブランド「K・TECT」の開発を行う石橋稔氏。
「手口の変化という意味では、10年以上前はプロの単独犯が痕跡をまったく残さず姿を消す、いわば職人的な犯行が目立っていました。ところが最近は様相がまったく違います。組織化が進んでいて、闇バイトが深く関わっているという話をよく耳にします。リサーチ役、データ入力役、実行役と完全に分業されていて、まるで会社組織のように動いている。しかもターゲットにロックオンしたら、そのクルマが停まっている時間帯、場所、装着している盗難防止用品まで徹底的に調べ上げてから犯行に及ぶと聞いています。
発生場所も変化しています。以前はコインパーキングが主な現場でしたが、いまは一般住宅の駐車場からの盗難が大半を占めるようになっています。自宅に停めているから安心、という感覚は完全に過去のものです。
さらに怖いのは、窃盗団の組織が相当強固なピラミッド型の上下関係になっていて、実行犯は「盗んでこなければ自分の身が危うい」という状況に置かれているという話も聞きます。つまり、犯行役も必死で、欲しいクルマと決めたらなんとしても盗みに来る。だからこそ言いたいのは、電子対策も物理ロックも、何重にも組み合わせて使ってほしいということです。1種類の対策で満足している場合ではない時代になっています」
茨城県警からの相談で4輪用の開発に着手
キタコは2003年に盗難防止アイテムの開発をスタート。いかにして「壊されない」ものを作るかに心血を注いできた。その背景には「プロの窃盗団が”3分から5分”で犯行を完了させる」という現実があり、必然的に強度重視の物理ロックへと行き着いた。同社が開発した超硬合金の「ウルトラロボットアーム」は、大型のボルトクリッパーや油圧カッター、高速カッターでも切断に時間を要し、最強クラスの防犯性能を誇るアイテムとしてテレビ番組にも取り上げられたほどだ。
2012年にはバイク用ロック製品で培った実績を背景に、茨城県警から盗難対策の相談依頼を受け、そのSOSに応える形で開発を開始した。というのも茨城県は長年、自動車盗難率が全国ワースト上位にランクインし、とくにハイエースやランドクルーザー、アルファードといった人気車種を狙った組織的窃盗が活発な地域である。デジタル防犯が突破されるのであれば、最後は「物理的な強さ」に立ち返るしかない。バイク界で「最強ロック」と評価されたキタコの技術に、警察が白羽の矢を立てた格好だ。こうして、さまざまな意見交換と盗難手口の研究を経て、クルマ用ハンドルロックの商品化へと至った。
「ランドクルーザー系やアルファード系など、海外転売ルートに乗りやすい人気SUVが狙われやすいのは事実です。加えて注目したいのがプリウス、とくに30系。盗難被害そのものも多いのですが、じつは盗んだプリウスを別の車両を盗む際の”犯行用車両”として使うというケースも報告されています。盗難車が次の盗難に使われるという、非常に厄介な連鎖です」
「そしてハイエース。世界的に需要が高く、海外転売目的での盗難が後を絶ちません。K・TECTとしてはハイエースに対して特別な思い入れがあります。もともとバイクパーツを製造しているメーカーとして、ハイエースにバイクを積んでサーキット走行を楽しむユーザーさんが非常に多い。その方たちの愛車を守りたいという気持ちが、4輪用ハンドルロック開発のそもそもの出発点になっています。その思いもあり、200系(1~8型)ハイエース対応の専用品を年内、または来年頭にラインアップ予定です。ご期待ください」
見える物理ロックによる犯人への心理的抑止効果
なぜハンドルロックだったのか。K・TECTが提唱する防犯の極意は「ロックのキモは見えていること」だという。目に見える防犯対策は窃盗側への”心理的抑止”として機能し、時間がかかる対象は回避されやすい。プロの窃盗団は犯行前に必ず下見を行うため、外からひと目で「このクルマは強固なロックが装着されている」と認識させることが、最大の防御となる。
「盗難されるクルマは、車種よりも”対策しているかどうか”で狙われやすさが変わります。高級車でも物理ロックが装着されていれば、犯人はリスクが高いと判断して避ける。逆に普通のクルマでも無対策なら狙われる。K・TECTとしては”盗難されにくい車両環境を作る”という発想が大切だと考えています」
もちろん、見えるだけでは不十分だ。窃盗側はロックの破壊や切断を試みるため、場合によってはハンドル自体を切断するケースもある。そこで「ハンドルの切断を成立させない構造」を考案。無理に動かせばホーンが鳴り、ハンドルを切断させない。ロック本体を外させないガード構造や、サンダーの刃が入りにくい形状を採用した。さらにフィンランドの高セキュリティ錠前ブランド「ABLOY」製キーシリンダーを採用し、テロ対策レベルのピッキング耐性も備えている。
それでも「世の中に100%完璧な防犯はない。時間をかければ、どんなロックもいつかは突破される」と言う。だからこそ重要なのは、”突破するのに時間がかかる”と思わせる心理的抑止だ。ひとつの対策を破られれば終わってしまう。だからこそ多重化が鍵となる。
「割に合わない」と犯人に思わせるのが大事
「犯人が一番嫌うのは時間と目立つことです。暗い、人目がない、カメラがない、対策が見えない、この条件が揃った車両から順番に狙われます。逆に言えば、ハンドルロックが車内から見えているだけで、計算が狂います。”あのクルマは時間がかかる、やめておこう”と判断させることが、そのまま防犯になる。完璧な防御より、割に合わないクルマと思わせることのほうが現実的に効果が高いです」
その点でハンドルロックのよさは、装着しているだけで防犯メッセージになること。セキュリティアラームは鳴って初めて機能するが、ハンドルロックは存在そのものが抑止力になる。しかも視覚的に”やっている感”が出るので、習慣化もしやすい。”今日くらいはいいか”という一瞬の油断が一番危ないので、そこを防ぐ意味でも有効だ。
「ですが、正直に言いますと、時間と道具をかければ、どんなロックも突破することができます。それは否定しません。でも、だから意味がないとはまったく思っていません。犯人が嫌がるのは、作業時間、作業音、人目、発覚リスクです。物理ロックはそのすべてを引き上げる。”このロックは切れない”ではなく、”このクルマは面倒だ、次にしよう”と思わせることが目的です。K・TECTのロックが強度と同じくらい見た目の威圧感にこだわっているのはそのためで、見た瞬間に諦めさせるというのは設計上の本気の狙いです。100%は無理でも、そのクルマを諦めさせれば守れたことになる。防犯はそういう積み重ねだと思っています」
社会全体での取り組みが必要
最後に、防犯対策の商品を開発している立場からメッセージをもらった。
「盗まれてから後悔する文化を変えたい、というのが正直な気持ちです。メーカーとして私たちにできるのは、使いやすくて続けやすいアイテムを作り続けること。ユーザーには防犯を面倒なことではなく、愛車を持つ当たり前の習慣として根付かせてほしい。ただ、個人や企業の努力だけでは限界があるとも感じています。ひとつ率直に言わせてもらうと、盗難で捕まった際の罪が軽すぎるという問題があります。リスクが低ければ犯罪の抑止力になりません」
「被害を受けたオーナーの損失や精神的なダメージを考えると、社会全体での盗難抑止に向けた取り組みが、より一層強化されることを願っています。駐車場の環境整備や地域コミュニティでの情報共有とともに、行政・企業・ユーザーが連携して取り組むべき問題だと感じています。K・TECTとしては、ロックを売るだけでなく、防犯文化の醸成に貢献できるメーカーでありたいと思っています」
※本記事は雑誌CARトップの記事を再構成して掲載しております
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みんなのコメント
下見、物色の為の敷地内立ち入り、物理的接触、未遂、既遂問わず一律死刑にしたらいいよ。
割に合わないだろ?