自動車メディア業界で2月の恒例行事となっているのが「JAIA(日本自動車輸入組合)輸入車試乗会」。組合に加入する各インポーターが最新モデルを用意し、自動車メディアがそれらを朝から夕まで何台も取材するというもの。今回は、まず注目のEV(電気自動車)3モデルに試乗してみた。
EVでもポルシェらしさは忘れない「タイカン」
今回試乗したのは、ポルシェ タイカン、アウディ eトロン スポーツバック、そしてテスラ モデル3の3モデル。同じ日に試乗したので、それぞれの違いと個性を鮮明に感じることができた。ちなみに、試乗コースは市街地と自動車専用道路。限界性能ではなく、日常使用の領域で乗り比べたのでレポートしたい。
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まず最初にハンドルを握ったのは、タイカン。それも2021年1月に追加された後輪駆動(RWD)モデルだ。前輪用と後輪用に2モーターを搭載する4WDグレードを主力とするタイカンにとって、1モーターのRWDモデルは、パワーも価格も抑えられた、いわゆるエントリーグレードとなる。とはいえ、ローンチコントロール時のオーバーブーストでは、最高出力300kW(408ps)を発生する、スーパースポーツの性能を備えた4ドアEVクーペだ。
タイカンの実車を目の前にして最初に感じた印象は「低いな」ということ。4ドアであっても、いかにもスポーツカーという雰囲気を醸し出しているところは、さすがにポルシェだ。
運転席からの眺めも、いかにもポルシェ。メーターがデジタル化されているけれど、その配置や意匠は、これまでのポルシェ車の伝統を感じさせる。ダッシュボードの中央にはアナログの時計まで備わる。これまでのポルシェの進化の先にあるクルマであることを強く感じることができる。
街中での走りはスムーズで扱いやすい。ハンドル操作に少し力がいるのもポルシェらしいなと思わせる。ただ、気になるのは音。インバーターのものと思われる「ウイーン」という音がけっこう耳につき、ある意味、EVを運転していることを念押しされているような感覚に陥る。このような音を消すのはポルシェならそれほど難しくないはず。これはメカニズムの音を聞かせようという、ポルシェの意図なのかもしれない。
今回は街中と短い自動車専用道路での試乗だったから、タイカンの実力のほんの表面をなでただけという感じだ。しかし、直進時のハンドルの落ち着いた座り具合や、コーナリングの安定性、そして鋭いダッシュからは、その実力の高みはとんでもないところにまで到達していることが予想できる。
まさに「ポルシェ」という高性能スポーツカーブランドに恥じない内容といえるだろう。「EVに興味があり、その一方でポルシェをこよなく愛する」という人には、ぴったりの1台ではないだろうか。
■ポルシェ タイカン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4965×1965×1395mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:2170kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:240kW(326ps)<ブーストモード(ローンチコントロール時):300kW(408ps)>
●最大トルク:345Nm(ローンチコントロール時)
●バッテリー総電力量:79.2kWh(パフォーマンスバッテリー)
●航続距離:354~431km
●駆動方式:RWD
●タイヤサイズ:前225/55R19、後275/45R19
●車両価格(税込):1203万円
乗った印象は意外とオーソドックスな「モデル3」
続いては、テスラ モデル3。手ごろな価格とサイズ、テスラらしい個性で本国アメリカだけでなく、欧州や中国でも大ヒットし、日本でも注目を集めているコンパクト セダンだ。試乗したのはエントリーグレードとなる、1モーターの後輪駆動モデルだ。
このクルマならではの特長は、走り出す前のサプライズだろう。クルマへのアクセスはカードキー、もしくはスマートフォンのアプリだ。カードキーの場合は、Bピラーにカードをタッチする。駅の改札口でカードをタッチするような感覚でドアロックを解除して乗り込み、シートベルトを締めて、セレクターをDにシフトして、アクセルを踏み込めば、すぐにスタートできる。システムのスタートスイッチを押す必要はないし、パーキングブレーキの操作もない。
インテリアも普通のクルマとは大きく異なる。物理的なスイッチが、ほとんどないのだ。ハンドルコラムにある左右のレバーと、ハンドルスポークのスイッチ2つ、アクセルとブレーキのペダル。それと天井にあるハザードスイッチ、これだけだ。それ以外の操作はセンターコンソールにある15インチのディスプレイで行う。これほど操作系が簡素化されており、しかも運転支援システムも充実しているというクルマは見たことがない。この革新性や先進性こそが、テスラ最大の特長であり、魅力といえるだろう。つまり、折りたたみ式ガラケーの世界にスマートフォンが登場したようなものだ。
またモデル3は、従来からの主力セダンであったテスラ モデルSに比べて、ひとまわり以上も小さくなっている。モデルSは全幅が1964mmもあって、日本で普段使いにするには大きすぎた。そういう意味でも車両価格が500万円を切り、全幅も1850mmのモデル3は、日本市場でも普通に使えるセダンではないだろうか。
そんなモデル3の走りはどうかといえば、ひとことで言えば「必要十分」。もちろん、アクセルペダルを踏み込めば、0→100km/h加速6.1秒という俊足を誇る。この数値は、ポルシェ マカンのスタンダードモデル(6.4秒)を上回るもの。しかし、街乗りで感じるのは速さや軽快感ではなく、安心や落ち着き。ひと言で言ってしまえば「普通のアメリカンセダン」そのもの。人とクルマの接点であるHMI(ヒューマン マシン インターフェース)は最新でありながらも、走り味は意外にもオーソドックスなのがユニークなところではないだろうか。
■テスラ モデル3 主要諸元
●全長×全幅×全高:4695×1850×1445mm
●ホイールベース:2880mm
●車両重量:1760kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:未発表
●最大トルク:未発表
●バッテリー総電力量:未発表
●WLTPモード航続距離:565km
●駆動方式:RWD
●タイヤサイズ:235/45R18
●車両価格(税込):479万円
先進性と高級感を融合させた「eトロン スポーツバック」
最後にハンドルを握ったのは、アウディのeトロン スポーツバック 55クワトロ Sライン。ボディ全体の派手なラッピングは、デモカー専用アイテムだ。「eトロン」はアウディのEVを示す名称だが、複数のモデルが存在する。ただのeトロンはSUV。今回のeトロン スポーツバックはクーペSUV。eトロンGTは4ドア グランツーリスモ。そして、コンパクトSUVのQ4 eトロンとクーペSUVのQ4 スポーツバック eトロンも日本仕様が発表された。
今回試乗したeトロン スポーツバックは、全長4.9mの堂々たる体躯に95kWhもの大容量バッテリーを搭載し、さらに前後2つのモーターで駆動する4WDモデル。アウディ最初のEVとして投入された、アウディ電動化の嚆矢となる。
その先進性は運転席に乗り込んだだけでも十分に感じられる。小型カメラで後方を撮影してディスプレイに映し出すバーチャルエクステリアミラーをはじめ、3つの大きなディスプレイを使ったアウディバーチャルコクピットは、文句なしに現在のカーエレクトロニクスの最前線をゆく。これまでのアウディや欧州プレミアムカーの路線を継承しつつ、未来を開拓しようというアウディの意地を感じさせる。
短時間の試乗でも、その走りには重厚感があり、プレミアムカーらしい快適性と静粛性が備わっていることを再認識させられた。ゆったりと街中を流すだけでも、クルマとしての、つくりの良さが感じられる。先進のEVというだけでなく、プレミアムカーに乗っているという満足度が得られる。これは、今回試乗した3台の中では最も強く感じられた印象だ。
「クルマがEVになると、どれも同じような白物家電のようになるのでは」という不安はあった。しかし、家電が進化してバラエティ豊かになったように、EVも進化することでそれぞれの味わいを醸成しているのだろう。短い時間ではあったが3台を乗り比べてみれば、エンジン車と同じように、それぞれの味わいの違いが楽しめた。
EVだらけの時代になっても、それほど悲観することはないだろう。そんな時代になれば、そんな時代なりの面白いクルマが登場してくれそうだという気にさせてくれた試乗会だった。(文:鈴木ケンイチ/写真:Webモーターマガジン編集部)
■アウディ eトロン スポーツバック 55クワトロ Sライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4900×1935×1615mm
●ホイールベース:2930mm
●車両重量:2590kg
●モーター:交流同期電動機×2
●システム最高出力:300kW(408ps)
●システム最大トルク:664Nm
●バッテリー総電力量:95kWh(パフォーマンスバッテリー)
●WLTCモード航続距離:423km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:265/45R21
●車両価格(税込):1291万円
[ アルバム : インポートEV3台@JAIA試乗会 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
みんな知りたいのは、電池性能や充電を中心とする実用性どうなのか。
合同試乗会で短時間体験試乗して、「EVだらけの時代になっても、それほど悲観することはないだろう」とかって、もうアホじゃないかと、、、