バーンファインドでプロジェクトなジャガー Eタイプ
昨今のクラシックカー界でしばしば登場する「バーンファインド」や「プロジェクト」という言葉。前者は「納屋で発見された」、つまり長年放置されていた状態を指します。いっぽう後者は、レストアを施すためのベース車両のこと。2024年9月に英国の名門ボナムズ社が開いた「The Beaulieu Sale Collectors’ Motor Cars & Automobilia 2024」オークションには、まさしく「バーンファインド」で「プロジェクト」な、1台のジャガー「Eタイプ シリーズ1 OTS」の姿がありました。
ピンク・ジャガーは純正色!「Eタイプ シリーズIII」がなんと約1320万円で落札! V12エンジンが再評価されています
歴史に残るスポーツカーの傑作、ジャガー Eタイプとは?
ジャガー「Eタイプ」は1961年3月、ジュネーヴ・ショーにてセンセーショナルな誕生を果たし、現在でもなお20世紀後半を代表するスポーツカーとして敬愛される名作。しかし元をただせば、1950年代のル・マン24時間レースで大活躍した「Cタイプ」および「Dタイプ」の後継車として開発された純粋なレーシングスポーツ「E1A」および「E2A」なる2種のプロトタイプから進化し、開発の途上から市販スポーツカーに方向転換されたという若干複雑な経緯を持つ。
そのため、センターモノコック+サブフレームの先進的なシャシー構造や、もともと航空機メーカーの「ブリストル・エアクラフト」で活躍した空力スペシャリストで、ジャガーに移籍したのちはCタイプやDタイプも手がけたマルコム・セイヤーが担当した空力ボディデザインも、ともにDタイプから発展したものとなっていた。
生産モデルのボディタイプは、前任モデルに相当する「XK150」時代の「ロードスター」と「ドロップヘッド・クーペ」を統合したオープンモデル。現在では「ロードスター」と表記されてしまうことの多い「オープン2シーター(いわゆるOTS)」と、特徴的な横開き式ハッチゲートを持つ「クーペ」の2本立てとされている。
エンツォ・フェラーリをして「世界一美しい」と言わしめたボディスタイリング
またパワーユニットも、Dタイプの流れを汲むもの。とはいえ、ジャガーの凄いところはXK150、あるいは「マーク2」サルーンなどにも採用されていた量産エンジン「XK」型直列6気筒DOHCユニットをパワーアップして、ル・マンで大活躍したDタイプにも載せていたことであろう。それゆえ、実質的にはXK150の高性能版「3.8S」用エンジンのパワーを15psほど上乗せ、265psまで増強しつつキャリーオーバーすることになったのだ。
かくして誕生したEタイプは、Dタイプからの継続性を強調した車名が与えられたいっぽう、当時から世界最大のスポーツカー市場であったアメリカでは、すでに高い人気を博していたXK150の後継車であることもアピールすべく「XK-E」と呼ばれた。
そして、かのエンツォ・フェラーリをして「世界一美しい」と言わしめたとされるスタイルに高度な設計、同時代のアストンマーティン「DB4」の約半分に相当するリーズナブルな価格なども相まって、チャールトン・ヘストンにディーン・マーティン、そしてスティーブ・マックィーンなどのセレブリティたちが先を争ってXK-Eの注文書にサインするほどの爆発的人気を博すことになったのである。
レストアのインフラが整ったイギリスでは、まさにダイヤの原石?
このほど、ボナムズ「The Beaulieu Sale Collectors’ Motor Cars & Automobilia2024」オークションに出品されたジャガー Eタイプ OTSは、文字通り「バーンファインド」の個体。シリーズ1最初期の1962年5月1日に初登録されたというこの車両には、新車としての初登録以来8人のオーナーが記載された旧式フォーマットの継続記録簿(1965年11月29日発行)が付属しており、1974年に購入した8人目のオーナー(故人)が最後の記録者とされてはいるものの、1965年11月以前のオーナーは不明とのことである。
オリジナルのボディカラーは「オパールセント・グレー」で、1972年に「オパールセント・マルーン」に再塗装されたのち、再びグレーに戻されたといわれている。
このEタイプ OTSは、8人目のオーナーが週末に楽しむクルマとして短期間使用されたのち、1979年ごろから2年ほど前に現在の納屋へと移動されるまでの約40年間にわたり、ケント州グレーヴセンドにある家族のガレージに保管されていた。
そして、今回のオークションには「プロジェクト」状態で出品され、写真で見たとおりのコンディションで販売されることになっていた。現在ではなかなか希少となっているオリジナルのハードトップが残されているのも、特筆すべきことといえよう。
また旧式の「V5C」登録履歴証明と前述のログブックも、ともに提供されるという。くわえて3.8Lの「XK」エンジンのブロックには「R4523-9」の刻印があるが、ヘッド側の刻印は見えないとのことであった。
ちなみにジャガー Eタイプでは、最初期の3.8から4.2に至る「シリーズ1」がもっとも高く評価され、V12エンジンを搭載した最終進化形の「シリーズ3」がそれに次ぐポジション。6気筒時代の最終モデルである「シリーズ2」は、ルックスの点でシリーズ1には及ばないうえに、錆などの問題も発生しやすいことから、市場価格についてはかなり「お求めやすい」価格で推移している。
今なおあらゆるパーツが入手可能
そんな相場観のあるなか、ボナムズ社の営業部門は今回のオークション出品にあたって2万5000ポンド~3万5000ポンド(邦貨換算約477万円~668万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。そして実際の競売では2万8750ポンド、現在のレートで日本円に換算すれば、約549万円で落札されることになった。
たしかに、3.8L時代のEタイプ OTSの相場価格からすれば、1/4か1/5以下に相当するハンマープライスではあるものの、スクラップを待ちながら長年にわたって納屋で放置されていたクルマに、これほどの価値があるのか・……? という疑問を持たれるのは、ある意味当然のことだろう。でも、熱心でしかるべき知識と財力のあるコニサー(通人)にとっては、文字どおりの「ダイヤの原石」ともなり得る可能性があるのだ。
ジャガー Eタイプのような英国の人気クラシックカーは、今なおあらゆるパーツが入手可能で、レストアを手がけるスペシャルショップも少なからず存在する。だから、ジャガー Eタイプを得意とするレストア工房に10万ポンドを投ずる。あるいはメカの腕に覚えのあるエンスージアストなら、自らの手で修復を完遂すれば、確実に15万ポンドで販売できるようなクルマへと変身を遂げるのは間違いないところである。
あとは完成後、自身が楽しむために手元に置くか、あるいは売りに出すかは新たな買い手次第……、ということなのであろう。
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