英国人が「コッシー」と呼ぶコスワース伝説
レース用エンジンを手掛けるコスワースとフォードとの関係は、1970年代から始まっていた。1980年代に入ると、RSを冠するモデルの多くには、専用チューニングが施されたユニットが搭載されるようになった。
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両社の信頼関係を示すように、「コスワース」という名を始めて追加する時、フォードは最も有能なモデルを選んだ。小さなボンネット内には、最大限まで能力が高められたYBユニットと呼ばれる、2.0L 4気筒エンジンが収まった。
この皮切りとなったのが、1985年の2ドアクーペ、シエラ RSコスワース。英国人が「コッシー」と呼ぶ、伝説が生まれた。
鋳鉄製のピント・ユニットをベースに、コスワースはツインカム仕様となるYAAユニットを開発。さらにターボチャージャーを追加し、RSコスワースの定番エンジンとなる、YBユニットが完成した。
フォードはシエラの魅力を広く知ってもらう手段として、モータースポーツへ着目。YBユニットはレーシングカー用の理想的なエンジンだと判断され、最終的に1万5000基という大量生産の契約が結ばれた。
シエラが参戦を目指したレースの規定では、5000台が市販されていれば充分だった。しかしパートナーシップの関係性を深めるべく、遥かに数の多いRSコスワースが生産されたのだ。実際、ツーリングカー・レースでは圧倒的な性能を発揮した。
シエラのドライブトレインを短縮し搭載
その次に提供されたのが、シエラ・サファイア RSコスワース。4ドアサルーンのボディに、シエラ RSコスワースと同じドライブトレインを搭載し、コスワース仕様のなかで最多の販売数を稼ぎ出した。
サファイア RSコスワースはサーキット・イベントだけでなく、世界ラリー選手権(WRC)にも参戦した。ただし、オフロードに備えて四輪駆動化されたものの車重が重く、ランチア・デルタやトヨタ・セリカを相手に苦戦を強いられた。
シエラがモデル末期を迎えるなか、フォードのラリーチームはコンパクトでライトウエイトなマシンを強く求めた。5代目エスコートにRSコスワースが登場する、お膳立てが揃ったといえた。
既にエスコートはコンパクト・ハッチバックとして充分な人気を得ており、シエラのようにモータースポーツでイメージを向上させる必要性は高くなかった。とはいえ、ラリーマシンのベースとしては好適だった。
そこで、高性能モデルの開発を担うフォード・スペシャル・ビークル・エンジニアリング(SVE)は、サファイア RSコスワースのドライブトレインとプラットフォームを短縮。エスコートの3ドア・ボディシェルと融合させた。
ボディパネルは、ドイツ・カルマン社に製造を依頼。エスコートのシルエットは保たれつつ、要所要所が拡大され、ボディキットが追加され、鋭敏な走りに備えた。
3500rpmを超えるとパワーが急上昇
肝心の4気筒エンジンは、コスワースのチューニングでYBT型へ進化。最高出力は227psまで引き上げられた。
世界ラリー選手権の参戦に求められた規定の量産数は、2500台。ホモロゲーション取得のため、1992年の終わりまでに急ピッチで台数が揃えられた。
初期のエスコート RSコスワースで弱点といえたのが、大径タービンがゆえのターボラグ。だが、ギャレットT3/T04ターボがブースト圧を高めれば、怒り狂ったかのように突進した。このドッカンターボの個性が好きだ、という人も少なくない。
今回ご登場いただいたブラックのエスコート RSコスワースは、後期型の1996年式。小径のターボが組まれており、型式もYBPユニットへ改められている。
ギャレットT25ターボが比較的滑らかにブースト圧を生み出し、市街地でも扱いやすい。3500rpmを超えると、目に見えてパワーが急上昇していく。やはりホットハッチらしく機敏に走るには、タービンの回転数を保ち続ける必要がある。
ラリードライバーを意識しながら積極的にアクセルペアルを傾ければ、秘めたスリリングさを堪能できる。トルクを34:66の比率で前後に割り振るセンターデフによる四輪駆動で、グリップ力は非常に高く、コーナリング・スタンスの調整もしやすい。
幅が8Jもあるワイドなホイールを覆うべく、フェンダーは明確に膨らんでいる。軽量化と相まって、動的能力は間違いなく高い。多くのラリーチームが、好んで選んだ理由が良くわかる。
モータースポーツと切っても切れない関係
ボディはコンパクトになり、敏捷性はシエラの比ではない。それでいて、不安定になるほどホイールベースが短いわけでもない。実際、WRCでも少なくない勝利を掴んだ。技術的に一歩先を行く日本メーカーに苦戦し、年間タイトルは奪えなかったが。
それでも、RSコスワースはモータースポーツと切っても切れない関係にある。ラリーステージでの勇敢な走りと栄光が、ロードカーの支持へ結びついていた。
エスコート RSコスワースの魅力を深く堪能するなら、ラリーステージのように徹底的に攻め込むのがいい。迫りくるコーナーへ集中している限り、ベーシックなエスコートと殆ど変わらない内装のことも忘れられる。
高級感を期待してエスコート RSコスワースを選ぶ人は、1992年にもいなかったとは思う。それでも、シエラ XR4iなど前世代のモデルと乗り比べると、安普請感は否めない。
レイアウトは整っていても、ダッシュボードの製造品質は高くない。積極的に扱えるタフな操縦系も、低速域での味わいでは洗練性が足りていない。英国価格は同時期のBMW 5シリーズと並んでいたが、インテリアで特別感を漂わせる部分は殆どない。
唯一、レザーシートはエスコート RSコスワースの専用アイテムだった。しっかりサイドボルスターも立ち上がっている。
XRグレードとは一線を画す本気の仕上がり
エスコート RSコスワースでは、一途なシリアスさこそ1番の訴求力といえる。2段になったホエールテール・ウイングを背負い、それまでのXR(エクスペリメンタル・レーシング)グレードとは一線を画す、本気の仕上がりにあった。
コスワース・チューニングのエンジンが、ベーシックなハッチバックの能力を飛躍させた。働者階級のヒーロー的なコッシー伝説は、ここから始まった。
協力:フェアモント・スポーツ&クラシック社
フォード・エスコート RSコスワース(1992~1996年/英国仕様)のスペック
英国価格:2万2050ポンド(新車時)/8万ポンド(約1440万円)以下(現在)
販売台数:7145台
全長:4211mm
全幅:1738mm
全高:1405mm
最高速度:231km/h
0-97km/h加速:5.7秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1275kg
パワートレイン:直列4気筒1993ccターボチャージャーDOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:227ps/6000rpm
最大トルク:28.1g-m/4500rpm
ギアボックス:5速マニュアル(四輪駆動)
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