新金線の歴史と鉄道旅客化の挫折
新金線は正式には「新金貨物線」といい、総武線の新小岩駅と常磐線の金町駅を結ぶ貨物線である。千葉県内からの貨物列車を隅田川経由で東京都心へ運ぶことを目的に、1926(大正15)年に開業した。隅田川への架橋が進んでいなかった総武線沿線の物流改善に大きく貢献した路線である。
【画像】「えっ、ここが金町駅!?」 1990年頃の街並みを見る!(全16枚)
関東大震災後に隅田川への架橋が完成した後も、御茶ノ水駅から秋葉原駅への急勾配を越えられない貨物列車は新金線経由で運行が続けられた。日本の高度経済成長期には、物流網の拡大を支える役割も担った。しかし、
・トラック輸送の普及
・武蔵野線、京葉線の開業
などにより、貨物列車の運行本数は大きく減少した。
一方で沿線では宅地化が進み、旅客輸送への需要が高まったことから、第二次世界大戦後には旅客化を検討する動きが見られるようになった。1951(昭和26)年には「金町、新小岩両駅間の貨物専用に乗客用電車線併設の請願」が国会に提出されたが、財政事情などから2年後に当時の吉田内閣が否定的な見解を示している。
また、新金線は単線で運行されていたことから、貨物需要が伸びていた高度成長期には旅客化と合わせた複線化の計画も浮上し、実際に用地買収も進められた。しかし、貨物輸送の需要がトラックへ移っていったこともあり、計画の実現には至らなかった。
その後、1980年代になると、常磐線の混雑緩和やつくば市への鉄道アクセス確保を目的に、つくばから南流山、松戸、亀戸を経由して半蔵門線へ直通する新たな路線計画が浮上した。
この計画では、新金線を活用する案も検討された。しかし、新小岩駅や亀戸駅で乗り換えが発生することで、総武線の混雑をさらに悪化させる可能性があるとして採用されなかった。
つくばへの輸送ルートは、ラッシュ時の想定輸送人員が約9万人で、新金線経由のルート(約2万1000人)の4倍以上となる北千住経由へ変更された。この構想によって実現したのが、現在のつくばエクスプレス(2005年開業)である。
葛飾区による旅客化への模索
新金線は何度も旅客化が求められてきたが、水戸街道など交通量の多い道路と交わる踏切があることや、前述したように単線であることから輸送力に限りがあり、計画の実現は難しい状況にあった。複線化や高架化を求める声もあったが、費用面の課題もあり実現には高い壁があった。
一方、沿線自治体である葛飾区では、長年にわたり新金線の旅客化を課題として位置付け、専任の担当者を置くほか、準備金の積み立ても進めていた。特に次世代型路面電車(LRT)への関心は強く、区議会ではJR富山港線をLRT化した富山市を視察するなど、検討を進めてきた。
また、行政だけでなく市民団体も活動を始めた。新金線実現の会は、沿線ウォーキングなどの催しを開き、新金線の存在を広く知ってもらう活動を行った。中には、実際に新金線を走る団体臨時列車を運行する取り組みもあり、鉄道ファンを中心に注目を集めた。
そして2022年8月には、葛飾区や鉄道事業者、学識者、行政オブザーバーで構成される新金線旅客化検討委員会が設置された。同委員会では、整備方法として
・貨物線の線路を旅客列車も走る
・貨物線の隣に線路を整備して旅客列車を走らせる
・貨物線の隣にバス専用道路を整備してBRTを走らせる
という三つの案を検討した。さらに、国道6号線の新宿踏切・高砂踏切、金町駅周辺の対応について、全線または一部を高架化する案と、踏切などの平面交差を残す案を組み合わせ、合計6パターンの整備方法を比較した。
BRT案採用の決定と残された課題
そして2025年1月、新金線旅客化検討委員会は検討結果を葛飾区に提出した。しかし、その内容は鉄道による旅客化ではなく、貨物線の隣にバス専用道路を整備してバス高速輸送システム(BRT)を走らせる案を前提とした整備案であった。
建設費や工事の難しさ、貨物列車との共存などを総合的に比べた結果、BRT案が最も実現性が高いと判断された形である。ここまでが、新金線を巡って決まっている内容である。
新金線の旅客化は最終的に鉄道ではなくBRTによる整備となったが、葛飾区が長年抱えてきた南北方向の交通課題の解消が期待されている。LRTによる旅客化を強く求めていた新金線実現の会も、現在はBRT案に賛成し、早期の交通整備を望む姿勢を示している。
ただし、水戸街道の新宿踏切における平面交差区間や高砂付近には、
「なお課題が残る」
と筆者(宮田直太郎、フリーライター)は考えている。これらの場所では一般道路を利用する案もあるが、住宅が密集し交通量も多いため、新金線BRTの整備が円滑に進まなければ、周辺の交通環境がさらに悪化する恐れもある。
果たして、そのような事態は起こりうるのか。現地を訪れ、状況を確かめた――。
新宿踏切と連続する交差点のリスク
筆者は7月の日曜日、最大の課題となる新宿踏切付近を訪れた。浅草から草39系統のバスで向かい、新宿警察署前で降りると、すぐ近くに踏切がある。
この踏切は信号によって通行が制御されており、一般的な踏切のように必ず一時停止する必要はない。平面交差という踏切の構造もさることながら、筆者が気になったのは周辺に交差点が多い点である。
新宿踏切から金町方面へ向かうと、すぐに新宿三丁目交差点、亀有警察署前交差点のふたつがあり、その先にも少し離れて金町1丁目交差点があるなど、交差点が続いている。一方、浅草方面では新宿踏切を越えた直後に中川大橋東交差点があり、その先には中川を渡る中川大橋が迫っている。
交差点が多いため、車両は信号待ちで停止する場面が多い。時間帯によっては、大きな混雑につながる可能性があると感じた。そのため、新宿踏切が平面交差のままであれば、旅客化の手段がバスであっても鉄道であっても、
「周辺の混雑をさらに悪化させる可能性」
は十分にあると感じた。
高砂周辺の狭隘道路と開かずの踏切
筆者は以前、高砂を扱った当媒体の記事(『なぜ京成高砂は「忍耐の街」と呼ばれるのか? 北総線乗り継ぎ6.2万人、スカイライナーすら速度を落とす現実とは』2026年4月19日付け)を作成した際に、新金線の走行ルートも訪れている。
高砂は段階整備構想のルートにおいて、専用道から一般道へ切り替わる地点である。しかし、高砂付近も旅客化に向けた課題は多い。新金線の線路は中川の土手沿いを走っているが、この周辺には民家や寺院が近接している。開業に向けて対応が必要になるのではないかと感じた。
また、この付近の一般道は片側1車線しかなく、混雑も激しい。段階的な整備期間中とはいえ、ここにBRTも走ることになれば、さらなる混雑につながる可能性がある。
何より、高砂には前述の記事でも紹介した京成高砂駅付近の開かずの踏切(高砂1号踏切、高砂2号踏切)がある。この踏切は京成本線と成田スカイアクセス線(北総線)の2路線をまたぐため、1時間のうち40分ほど閉まることもある踏切として知られている。
さらに、成田スカイアクセス線(北総線)は近年、
・インバウンドの増加
・千葉ニュータウンの発展
にともない利用が増えている。押上方面からの有料特急列車の運行も決まり、今後はこの踏切を通過する列車や車両の量がさらに増えると考えられる。もし新金線BRTがこの踏切を通ることになれば、時間通りの運行を保つことは難しくなる可能性がある。
一方で、この付近を避ければ京成線との乗り換えが不便になる。高砂付近は、新金線BRT計画が抱える課題を示す場所であると感じた。
ドライバー不足と輸送力を巡る課題
そして新金線については、沿線の交通事情以外にも課題がある。特に筆者が気になるのは、
「バスドライバーの確保」
である。現在、全国各地でバスドライバーの不足が問題となっているが、首都圏ではインバウンドの増加や住宅開発の進展によって需要も高まっており、状況はさらに厳しい。
「自動運転を導入すればよい」
という意見もあるかもしれない。しかし、その場合は技術面や制度面での課題が大きくなり、一般道を活用して費用を抑えられるというBRTの利点が小さくなってしまう。
また、BRTでは連接バスなど輸送力の高い車両を導入する事例もあるが、新金線の準備段階で採用する場合、狭い道路も少なくない葛飾区内で走行できるのかは疑問が残る。もともと鉄道での整備が検討されるほどの区間であるため、必要な輸送力を確保することは大きな課題になるだろう。
新金線の旅客化は2030年代後半の開業を目指している。多くの課題をどのように解決していくのか。葛飾区をはじめとする関係者の対応が問われている。
●参考文献
・葛飾区「新金線を活用した新たな交通システム推進事業」
・新金線実現の会「新金線いいね!」
・草町 義和「かつて半蔵門線直通案も、葛飾の「新金線」秘史 旅客化構想続く貨物線「バス専用道」案も検討」東洋経済オンライン 2025年6月28日版
・宮武和多哉「旅客鉄道の計画が「バス専用道整備」に早変わり? 葛飾区・新金貨物線の旅客化・LRT化計画は、なぜ断念にいたったのか」トラベルWatch 2025年9月30日(宮田直太郎(フリーライター))
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みんなのコメント
記事にある新宿(にいじゅく)踏切は信号に従えば一時停止が不要ですが、他県ナンバーなど不慣れなドライバーは一時停止することがあります。
また、環七に向かって100m位のところに信号があり、踏切内に停車するのを避けるために速度を落としたり停車せざるを得ないのが、慢性渋滞の原因です。
この渋滞を避けるため、柴又方面から高砂橋を経て環七につながる都道に迂回する車が多い間ですが、高砂駅直近の踏切が閉まったままのため、住宅街の細い裏道を多数の車が走るのがいつもの光景です。
新金線の旅客化やLRT、BRTを論議する前に新宿踏切前後の渋滞解消対策が優先されるべきと思っています。
なお、国道6号線の金町付近から環七付近までを3車線化する計画があり、用地買収が進められていますが、「いつ完成するの?」と言う状態です。
3車線化より高架化の方が費用がかかるかも知れませんが抜本的な対策だと思いますが。