ホンダが世界に誇るホットハッチ、「シビック タイプR」にあらためて乗った! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。
ホンダ シビック タイプRの特徴
1.走りは圧巻の一言
2.まるでフロントが軽いミッドシップカーのよう
3.気になる点
4.e:HEV RSおよびライバルとの違い
5.総評
1.走りは圧巻の一言
(前のページから続く)クラッチペダルを踏み込み、赤いスターターボタンを押して、2.0リッター直列4気筒VTECターボエンジン(K20C型)を目覚めさせる。アイドリングの時点から、野太く重低音の効いたエキゾーストノートが車体を微かに震わせ、只者ではない雰囲気を漂わせた。
もう一度クラッチペダルを踏み込み、アルミ削り出しのひんやりとしたシフトノブを握って1速にギアを入れる。クラッチの踏力は、330psのスポーツカーとしては適度に重みがあるものの、決して渋滞で左足が悲鳴を上げるような重さではなく、ミートポイントも掴みやすいため、発進は容易である。
K20Cエンジンは、最高出力330ps(243kW)を6500rpmで、最大トルク42.8kgm(420Nm)を2600rpmから4000rpmの幅広い中回転域で発生。市街地を低速で流している時は、2.0リッターの排気量と小径タービンによる優れたレスポンスの恩恵により、2000rpm以下の低回転域から豊かなトルクが湧き出ており、頻繁にシフトダウンを行わなくてもズボラな運転が許容されるほどの柔軟性と扱いやすさを持つ。街乗りにおいては、このクルマがサーキットのラップタイムを削るためのモンスターであることを忘れてしまうほど従順だ。
しかし、いざ高速道路の合流や前方の開けたワインディングロードでアクセルペダルを深く踏み込むと、本エンジンのエンジンの本性が一気に牙を剥く。2500rpm付近からターボが本格的に過給を始めると、強烈な加速Gが立ち上がり、フロントタイヤが路面を掻きむしろうとする。そこからレッドゾーンの7000rpmに向けて、エンジンの回転上昇とともにパワーが二次曲線的に炸裂していく感覚は、かつての自然吸気VTECエンジンのような「高回転域での透き通るような突き抜け感」とは異なる。これほどの巨大なパワーとトルクを前輪の2本だけで路面に伝えるのは、至難の業であるはずだが、専用チューニングされたデュアルアクシス・ストラット式フロントサスペンションとヘリカルLSD(リミテッド・スリップ・デフ)、そしてミシュラン・パイロットスポーツ4Sが見事にトラクションを確保し、不快なトルクステアを抑え込みながらボディを猛烈な勢いで前方に射出していく。この加速感と直進安定性の高さは、まさに圧巻の一言に尽きる。
エンジンと並んで、いやそれ以上にこのクルマのハイライトと言えるのが、6速マニュアルトランスミッションの高い完成度だ。シフトレバーのストロークは短くチューニングされており、手首のわずかな返しだけで「カチッ、カチッ」と金属的な手応えとともに吸い込まれるように次のギアへと入っていく。この変速フィールの精緻さと剛性感は、現在世界中で販売されているすべてのマニュアル車の中でも間違いなく最高峰に位置するだろう。ギアの噛み合う感触が手のひらにダイレクトに伝わり、ドライバーの意志と機械が完全にリンクしているかのような深い没入感をもたらす。
さらに秀逸なのが、進化した「レブマッチシステム」。シフトダウン時にクラッチを切って下のギアを選択するだけで、システムが自動的かつ瞬時にエンジンの回転数をピタリと合わせてくれる。これにより、ヒール・アンド・トウといった高度なペダル操作を行わなくても、プロのレーシングドライバーのようなショックのない完璧なシフトダウンが可能だ。このシステムのレスポンスは速く正確であり、ドライバーはブレーキングとステアリング操作のみに意識を集中しながらコーナーへ進入できるため、サーキットでの安全性と速さの両方に貢献を果たす。
2.まるでフロントが軽いミッドシップカーのよう
シャシー性能とハンドリングに関しては、もはや前輪駆動車の物理法則を超えた、異次元の領域にある。ステアリングのギア比はクイックに設定されており、わずかな舵角を入れた瞬間にノーズが鋭くインを向き、ボディ全体が遅れなくそれに追従。フロントに重いエンジンを積んでいるFF車特有のアンダーステアや、コーナーの出口で外側に膨らんでいくようなもたつきは感じられず、まるでフロントが軽いミッドシップカーのようにノーズが軽快かつ正確に旋回していく。
この卓越した旋回性能を根底から支えているのが、前述のデュアルアクシス・ストラット式フロントサスペンションと、四輪独立で減衰力を緻密に制御するアダプティブダンパーシステムだ。ドライブモードは「Comfort(コンフォート)」「Sport(スポーツ)」「+R」の3段階が用意されており、さらにエンジンレスポンス、ステアリングの重さ、サスペンションの硬さ、エンジンサウンドなどを自分好みに個別に設定できる「Individual(インディビジュアル)」モードが備わっている。
市街地や荒れた舗装路では「Comfort」モードの選択が必須だろう。このモードであれば、足回りはハイパフォーマンススポーツカーとしてはしなやかにストロークし、路面の段差やマンホールの継ぎ目からの突き上げをある程度マイルドにいなす。決して高級セダンのような乗り心地ではないが、助手席の同乗者から大きなクレームが出ることは少ないであろう。
しかし、ドライブモードを「Sport」に切り替えるとダンパーが一気に引き締まり、路面の微細な状況がダイレクトにボディに伝わる。そして「+R」モードを選択すると、サスペンションはサーキットの完全に平滑な路面のみを前提とした、ストロークを制限した極限の硬さへ。日本の一般的な公道、特に補修跡の多い路面やギャップのある荒れた峠道で安易に「+R」を使用すると、ボディが路面の起伏で激しく跳ねてしまい、逆にタイヤの接地圧を失いやすくなる可能性がある。そのため、公道を速く、そして安全に走るためのセットアップとしては、エンジンのレスポンスやステアリングの重さはSportや+Rの鋭い設定にしつつ、サスペンションの減衰力だけはComfortにして路面追従性を確保するといった、Individualモードでの個別設定が個人的にはオススメだ。
3.気になる点
さて、日常の使い勝手における弱点は、取り回しの悪さだ。最小回転半径は実に5.9mに達する。これは一般的な大型SUVや全長5mを超えるミニバンよりも小回りが利かない数値であり、住宅街の狭い十字路での左折や、スーパーマーケットの駐車場での枠入れ、片側一車線の道路でのUターンなどにおいて、ドライバーは幾度となく切り返しを強いられる可能性が高い。
さらに、運転席からの視覚的には分かりにくいものの、リアフェンダーがベースモデルよりも大きく外側に張り出しているため、狭い道での対向車とのすれ違いや、壁際への幅寄せ駐車時には車両感覚を掴むのにやや苦労するかもしれない。
実用面での欠点をさらに挙げれば、燃料タンクの小ささが長距離ドライブにおける最大の足枷となるだろう。燃料タンク容量は47L。WLTCモード燃費の12.5km/Lのカタログ数値を基準にしても航続距離は心許ないが、実燃費はさらに厳しい。ストップアンドゴーの多い街乗りで8〜9km/L、高速道路を大人しく巡航してなんとか12km/L前後、そしてひとたびサーキットやワインディングでVTECターボの咆哮を轟かせるようなスポーツ走行を行えば、燃費はあっという間に4〜5km/L台にまで落ち込む。これを考慮すると、週末のロングツーリングでは、頻繁な給油を強いられることになるかもしれない。グランドツーリング的な使い方を好むユーザーにとっては、せめてあと10L、60L近いタンク容量があれば……と、願うかもしれない。
4.e:HEV RSおよびライバルとの違い
さて、シビックタイプRの評価をより立体的なものにする上で欠かせないのが、同じシビックのラインナップに最近追加されたハイブリッドのスポーティグレード「e:HEV RS」との比較だ。
ホンダは2024年にガソリンエンジン搭載の6速MT車「RS」グレードを投入してスポーティなイメージを強化したが、続く2026年にはハイブリッドモデルであるe:HEVにも「RS」を追加設定。e:HEV RSの車両価格は約465万円に設定されており、タイプRと比較して150万円ほど安価だ。パワートレインは2.0リッター直噴アトキンソンサイクルエンジンに2モーターハイブリッドシステムを組み合わせたもので、モーターの最高出力は184ps、最大トルクは315Nmを発揮し、ハイブリッドならではの恩恵としてWLTCモード燃費は24.0km/Lと優秀な数値を叩き出す。
このe:HEV RSにおける最大の技術的トピックは、プレリュードのコンセプトモデルにも採用され話題を呼んだ新制御技術「Honda S+ Shift(エスプラスシフト)」の搭載だ。ベースとなるトランスミッション自体はモーター駆動を主体とする電気式無段変速機(e-CVT)でありながら、ソフトウェアの高度なチューニングと制御によって、あたかもハイパフォーマンスな有段のデュアルクラッチトランスミッション(DCT)が搭載されているかのような、ダイレクトでキレのあるシフトフィールとエンジン回転数の変化を人工的かつ自然に作り出す。スポーツモードを選択し、スポーツアダプティブ制御が介入すると、クルマの各種センサーが走行状況を常に推測し、コーナーが迫ってハードブレーキングを行うと、最適な仮想ギア段へと自動でアーリーダウンシフトを実行。コーナリング中には高いエンジン回転数をホールドしてトラクションとレスポンスに備え、立ち上がりでアクセルを開けると再び鋭いアップシフトを行う。この際、エンジンと発電用モーターの緻密な協調制御により、アップシフト時には瞬間的にエンジントルクを抜き、ダウンシフト時には逆にトルクを高めることで、車両の前後Gの鋭い変化を意図的に演出し、ハイブリッド特有のモーターレスポンスの良さを活かした、高価なスーパースポーツ勢をも凌ぐ応答時間の速さを実現した。
タイプRの純粋な6速マニュアルによる、一挙手一投足に神経を尖らせる機械的な対話と、e:HEV RSの高度な電子制御による未来的なダイレクト感とイージードライブの融合は同じシビックの名を与えられながらも、異なるアプローチで「走る喜び」を追求する。サーキットでの絶対的なラップタイムの短縮や、内燃機関のバイブレーションを自らの手足で直接操るというクラシカルなロマンを求めるならば、間違いなくタイプRが最高の選択だ。
しかし、毎日の通勤から週末の数100kmに及ぶロングドライブまで、高い燃費性能と静粛性、そして同乗者から不満の出ない快適性を保ちながら、ひとたびワインディングに入ればステアリングのパドル操作でDCT顔負けのリズミカルな変速とスポーティな身のこなしを楽しみたいのであれば、e:HEV RSは理にかなった選択肢となる。
タイプRのガチガチに硬い乗り心地や、あまり良くない取り回し、長距離ドライブを躊躇させる小さな燃料タンクに疲弊してしまうであろうユーザーにとって、e:HEV RSは「現実的に毎日乗れるシビックの最高峰」として機能するはずだ。ホンダが提示した新しい時代のスポーツ像として評価したい。
市場における同価格帯の強力なライバルたちとタイプRを比較するといかに? まず、最大の国産ライバルと言えるのがトヨタ「GRカローラ」だ。GRカローラの最大の強みは、WRC(世界ラリー選手権)のノウハウが注ぎ込まれた高度な四輪駆動システム「GR-FOUR」を搭載していることだ。これにより、雨天時の高速道路や雪道などの低ミュー路における高いトラクション性能と安定感は、いかに優れた電子制御を持とうともFFであるタイプRを凌駕している。降雪地域に住むユーザーや、冬場にウインタースポーツへ頻繁に出かけるユーザーにとっては、GRカローラの方が実用的で安心感が高いだろう。
次にスバル「WRX S4」との比較だ。WRX S4は、スバル伝統のシンメトリカルAWDによる全天候型の高い走行安定性に加え、運転席の電動パワーシートや前席・後席のシートヒーターなど、タイプRが軽量化のために容赦なく切り捨てた快適装備がフルに搭載されている点も魅力だ。トランスミッションはCVT(スバルパフォーマンストランスミッション)のみとなり、マニュアルの設定はないものの、日常の移動の快適性や、同乗者への配慮を最優先しつつ、いざという時には高いスポーツ性能を引き出したい「大人のGTカー」あるいは「スポーツセダン」的な使い方をするのであれば、WRX S4の右に出るものはいない。逆に言えば、軽量な車体とマニュアルトランスミッションによるヒリヒリするようなダイレクト感、サーキットでの絶対的な速さ、そして将来的なリセールバリューの高さを求めるならば、快適装備を犠牲にしてでもタイプRを選ぶべきである。
5.総評
総括として、最新のシビック タイプRは、現代の自動車工学が到達した前輪駆動スポーツカーのひとつの到達点にして最高峰であり、その完成度はスゴい。¥6,179,800は、これだけの徹底的な専用設計と、スーパーカーをも脅かす330psのパフォーマンスを考えれば、世界中のスポーツカー市場を見渡しても高いコストパフォーマンスを誇る。
もちろん、妥協なきレーシング哲学ゆえに、日常使いにおいては痛みを伴う場面もあるかもしれない。が、それらはすべて、サーキットでの0.1秒を削り取るため、あるいは世界最高のドライビングプレジャーを提供するために意図的に切り捨てられたのだ。ステアリングを握り、素晴らしいシフトレバーを叩き込み、VTECターボのサウンドとともにコーナーを駆け抜けるその一瞬の快感は、それらすべての欠点や不満を瞬時に帳消しにして余りあるほどの魔力を持つ。
もし、家族からの不満や日常の不便さをスマートに回避し、高い次元でスポーツドライビングを楽しみたいのであれば、ホンダが新たに用意したハイブリッドのシビックe:HEV RSや、快適装備を満載したスバルWRX S4を選ぶのが賢明な判断だろう。
しかし、内燃機関の脈動を左手と左足で直接コントロールし、クルマと機械的な血の通った濃密な対話を楽しみたいといった渇望があるのならば、そして何より「世界最速のFF」を目指すホンダの意地に共鳴するのであれば、シビックタイプR以外の選択肢は存在しない。
電動化の波によって、純粋なエンジン車が少なくなりつつある今、これほどまでにピュアで、粗削りな部分すらも愛おしく思えるガソリンエンジン・マニュアルスポーツカーを新車で味わえる機会は、2度と訪れないかもしれない。
最新のシビックタイプRは、存在自体が奇跡なのだ。
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