スーパーGTのGT500クラスで、2023年、2024年とタイトルを連覇し、2025年は3連覇に挑んでいるTGR TEAM au TOM’Sの1号車au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の特別コラムがオートスポーツでスタート。au TOM’S GR Supraで昨年までトラックエンジニアとして2連覇を飾り、2025年はチーフエンジニアを担当している吉武聡(よしたけさとし)氏が、毎戦レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。
5月3~4日の第2戦富士で1号車は、公式予選で7番手、3時間の決勝で2位フィニッシュとなり表彰台を獲得しました。コラム第2回では、事前のタイヤ選択やレース中の路面温度変化への対応、1号車の作戦も解説していただきます。
新連載【トムス吉武エンジニア/レースの分岐点】変化するウエット路面にどう対応するか。開幕ウイナー1号車の戦略
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■3時間レースのタイヤの選び方
みなさんこんにちは。TGR TEAM au TOM’Sのチーフエンジニア、吉武です。
第2戦富士、1号車の結果は2位表彰台となりました。レースの途中では優勝が見える手応えもあったので、終わった直後は悔しさが残りましたが、今となっては、サクセスウエイトを40キロ積んでいたことを考えれば、これ以上ない結果だったのかなと思っています。
今回の富士3時間レースのポイントは、『事前のタイヤ選択』と『決勝の路面温度変化』だったと思います。
GT500ではレース距離が300kmまではレースウイークに持ち込めるタイヤ本数がドライ4セットですが、今回のように300kmを越える3時間レースの場合は6セットと2セット追加で行われます。
1号車も含めたブリヂストンタイヤ勢は、おおまかにソフト/ミディアム/ハードの3種類のコンパウンドから6セットを選びます。今回、持ち込みタイヤ選択の締切であるレース1週間前の時点では決勝日の雨予報もあり、どのコンパウンドを何セット持ち込むのか悩んだチームが多かったのではないかと思います。
各コンパウンドのセット数の考え方について解説すると、選び方はおおまかに3パターンに分かれます。それぞれ、2種類のコンパウンドを3セットずつ選ぶ『3+3』のパターン、2種類のコンパウンドを4セットと2セットずつ選ぶ『4+2』、3種類すべてのコンパウンドを3/2/1セットに分けて選ぶ『3+2+1』のパターンです。今回は、トヨタ勢のなかでも選択が分かれたと聞いています。
今回、1号車は『ミディアム3+ハード3』の持ち込みタイヤ選択をしました。『3+3』の利点としては、公式練習やウォームアップ走行で両方のコンパウンドを実際に試しやすいことです。ドライバーにとっても、実際に使った感覚をもとに決勝の第2、3スティント目のタイヤを選べるので、レースウィークでの選択肢の幅が広いです。
逆に『3+2+1』の場合は、とくにレースでいろいろな天候に対応することができます。基本的には、温かいコンディションから寒いコンディションまでをカバーしたいので、1セットだけ持ち込んだコンパウンドはバックアップとして選ぶことになります。ただ、1セットのみ持ち込んだコンパウンドは、公式練習で試すことができません。ですので、昨年までの実績やテストでのデータをもとに使用を判断することになりますが、その時はぶっつけ本番になりかねません。
さらに今回は、決勝3時間のなかで路面温度が徐々に下がっていくことも、タイヤ選びのポイントになりました。スタートとゴールで、路面コンディションがまったく異なる状態に変化するため、同じコンパウンドで3セット通すのではなく、3スティント目は柔らかいものを使うことが前提となっていました。以上のような理由で、1号車は今回ミディアム3セットとハード3セットを選択しました。
■微妙な“4度ダウン”。迷った第2スティントのタイヤ選択
こうして迎えた予選日、午前の公式練習では終盤にメカニカルトラブルが起きてしまい、GT500専有走行を走れず13番手。公式予選へ向けては、セットアップを大幅に変更し、タイヤは路面温度の上昇と決勝での使用を見据えてハードで臨みました。そしてQ1は山下選手が5番手通過、Q2は坪井選手が7番手となり、想像以上の速さを発揮することができたと思います。
決勝日は、レース前のウォームアップ走行で5番手となり、タイヤも悪くなさそうな手ごたえでした。そして、レース前の基本プランとして、スタートドライバーの坪井選手がミニマムの1時間以上を走り切った場合、その後は山下選手にダブルスティントを任せる作戦を決めていました。
第1スティントは、予選で使用したハードでスタート。スタート直後にDENSO KOBELCO SARD GR Supraにパスされてしまい、その後は前のNiterra MOTUL Zに詰まる展開になりました。ただ、まだレースは序盤ですので坪井選手も様子見といいますか、まわりの動きが落ち着くまではリスクを負わずに走っている印象で、24周目にNiterra Zを抜いてからはペースも上がっていきました。
その時点で「第2スティントのタイヤはどうしようか?」と坪井選手と相談しました。このタイミングで、1号車のペースは周りとくらべても速い方だったのですが、坪井選手のコメントでは、そこまで良いフィーリングでもない様子。連続でハードにするのか、それよりも少し低い路面温度にマッチしやすいミディアムに変えるのか迷いました。最終的には、第1スティントでミディアムを使ったライバルのタイムを確認し、路面温度が低下する予想と去年の実績も踏まえて、第2スティントはミディアムに変えることに決めました。
39周目にピットインし、山下選手に交代しました。しかし、走り始めてすぐに「あまりにも遅すぎるから、早めに変わりたい」というリアクションがあり、急きょダブルスティントをやめてプラン変更。山下選手には、ミニマムの1時間を走り終えるまで耐えてもらうことになったのですが、ここからはNiterra Zに追われる展開となりました。
この時、山下選手がペースを上げられなかった原因は、路面温度とタイヤのマッチ具合にあると思います。
今回のレースの路面温度は、スタート時が38度、フィニッシュ時は27度だったので、3時間で11度も下がりました。今のスーパーGTのタイヤは、路面温度が5度変わるとコンパウンドが1段階変わると言われていますので、第1スティントで調子が良くても、コンパウンドを継続した第2スティントでダメというパターンが発生します。
第2スティントのスタート時点は34度だったので、スタート時から4度低下する微妙なコンディションでした。ですので、変えてすぐのタイミングでは、どちらかと言えばミディアムよりもハードが合う路面温度だったのかもしれません。ただ、第2スティント中にも時間経過とともに路面温度が下がっていき、実際に第2スティントのラスト10周ほどはグリップしはじめてタイムも良くなってきた様子でした。ですので、第3スティントは引き続きミディアムを選択して坪井選手に交代しました。すると、第2スティントは何だったんだ?と感じるほどペースが戻りました。
この、第2スティントでペースに苦しんだシーンは、履いたタイヤが作動温度の範囲を完全に外していたというわけではなく、コンディションにマッチするタイヤを履いていたライバルのマシンがさらに速さを発揮していた、というイメージです。ミディアムのなかにも、ゴムの種類だけで3~4種類はありますので、今のGT500は本当に細かいところで争っているという感覚ですね。
ですので、今回1号車としての心残りな部分は、第1スティントで坪井選手とタイヤを相談する際、ライバルのタイム状況や自分たちのスピードを的確に伝えられなかった点です。坪井選手のフィーリングはあまり良くなかったようですが、タイムとしてはまわりよりも速いペースで走れていたので、その部分を坪井選手に伝えられていれば、第2スティントでハードを選択できていたのではないかと反省しています。
ただ、サクセスウエイトの状況を考えると2位表彰台は充分な結果です。実は、山下選手はNiterra Zに追われながらもかなりの燃費走行をしていたので、そのおかげでピット作業時間も短くでき、第3スティントでARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8に追いつくこともできました。ですので、「変わりたい」と話した山下選手も、路面温度の低下とタイヤの作動を待つ我慢の状況ながらさすがのドライブでした。
さて、次の第3戦の舞台はマレーシアのセパン・インターナショナルサーキットです。1号車は、早くも燃料リストリクターが2段階絞られるので、決勝でポイントを獲れるかどうかの戦いになると思います。それでも、久しぶりのセパンなので、GT300も含めて未経験のドライバーが多いでしょうし、ハプニングが起きる可能性は高そうです。その点、坪井選手と山下選手は、オフのテストでもみっちり走っていますので、問題ないと思います。あとは、夕方のスコールも考えられますし、タイヤメーカー側のデータも少ないはずなのでどこかにトラブルが起きるかもしれません。1号車としては、予選はかなり厳しいかもしれませんが、決勝ではライバルが落ちてきたところを上がって、何とか1ポイントを獲りたいですね。
●Profile:吉武聡(よしたけさとし)
福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務からTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ入社。F3のエンジニアを経て2020年からはスーパーGT500クラスで36号車(現1号車)を担当。2021年、2023年、2024年に王者に輝いた。2025年は1号車のチーフエンジニアを担当し、スーパーフォーミュラ・ライツでは35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを務めている。
[オートスポーツweb 2025年05月29日]
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