テーマは「ブラックバタフライ」
レクサスは2025年4月、イタリアの「ミラノ・デザインウィーク」で次世代コクピット・デバイス「ブラックバタフライ」をモティーフにしたインスタレーション『A-Un』『Discover Together』を世界初公開した。
ミラノ・デザインウィークは毎年、メッセ会場の国際家具見本市と、企業や団体が市内各地でデザイン思想や新製品を提示・展示するフォーリサローネ(fuorisalone=展示会の外の意味)で構成されている。レクサスの参加は後者で、第1回は2005年にさかのぼる。
レクサスは2019年以来、ミラノ市内トルトーナ地区の展示スペース「スーペルスタジオ・ピューを舞台にしている。参考までにトルトーナは1990年代までミラノ随一の工場街であった。企業の郊外移転にともない、廃墟や倉庫にクリエイターたちがスタジオを構えたことで、今日ミラノを代表するクリエイティヴ拠点となった。
開催初日、スーペルスタジオ・ピューで他の出展社による屋外家具のディスプレイを通り抜けると、今回のレクサス・パビリオンが現れた。
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結論を先に記すなら、20年前に始まったレクサスのミラノ・デザインウィーク出展のなかで、2025年は最もインタラクティヴ(双方向)性が高いものとなっていた。
最初に来場者を待っていたのは、黒い空間の中にライトアップされたレクサス「LF-ZC」だった。2023年ジャパンモビリティショー(JMS)に出展された2026年発売予定の次世代バッテリーEV(電気自動車)コンセプトである。
LF-ZCはステアリングこそ同じヨーク型(操縦桿型)だが、ディスプレイはJMS展示車が左右2分割だったのに対し、今回はステアリング前方に据えられ、カーブをともなった左右連続型になっている。これこそレクサスが次世代バッテリーEVへの搭載を目指した新世代コクピット操作デバイス「ブラックバタフライ」の姿だ。
「阿吽の呼吸」が示す、ヒューマンインターフェイスの未来
歩みを進めると、続く第2室から人間の心拍を思わせる低音のBGMが聞こえてきた。入ると、ブラックバタフライの形状を模した巨大スクリーンが眼前に広がった。没入型インスタレーション『A-Un』だ。そのサイズ、高さ3メートル×幅10メートル×奥行き4メートル。
実はただのスクリーンではなかった。約35kmにおよぶ竹の繊維を織り込んだ糸を、3カ月かけて手編みしたものだという。竹に関して筆者が付記すれば、2008年レクサス初のハイブリッドEV「CT200h」以来、さまざまな部分に採用してきた、ブランドを象徴するサステイナブル素材だ。
映像に盛り込まれているのは、さまざまな自然現象からサンプリングした「1/fゆらぎ」である。1/fゆらぎとは炎の揺れ、波の音、雨音にみられるものなどで、五感を通じて人間に心地よさを与えるリズムとされている。来場者の心拍と、1/fゆらぎが一致した瞬間、画面が劇的に変わってゆく仕組みだ。
『A-Un』は、クリエイティブ・ディレクターを「SIX Inc.」の設立者である野添剛士氏が、アートディレクターを「STUDEO」を主宰する池澤 樹氏が務めた作品だ。両氏とも国内外でおびただしい賞を獲得している広告界の精鋭である。ここで列挙するとあまりに長くなってしまうので割愛するが、日ごろ読者諸氏が目にしている広告にも、実は彼らの仕事が少なくない。
『A-Un』とは阿吽である。「阿」は吸気、「吽」は呼気を表す。音楽から人間関係、武術から伝統工芸に至るまで、呼吸を合わせる感覚、集中した瞬間に生じる究極の流れの感覚だ。インスタレーションは、互いの気持ちや動きを感じ取り、両者の呼吸が奇跡的にぴったりと合う「阿吽の呼吸」にインスピレーションを得た。
阿吽と呼吸とレクサス車のつながりは? その答えはパビリオンの一角に英語で記された説明文を引用するのが適切だ。ブラックバタフライも、人と世界が阿吽(あうん)の呼吸でつながることで、「人が操作して思い通りにクルマが動くだけではなく、人の意思を先読みしてクルマが新たな可能性を提案していくインターフェイス」になるという。同時に「社会をつなぐ窓」であるとする。
野添・池澤両氏によると、東京で開発していたときの画面と、現場の巨大スクリーンではかなり見え方が異なり、その調整に苦心したという。ただしそれは報われたようで、『A-Un』は、「フォーリサローネ・アワード」で一般票2位のほか、デザイン教育機関による特別賞も受賞した。
多様な視点で次世代デバイスと向き合う
『A-Un』の巨大スクリーンから左側に進むと、第3室『Discover Together』が待っていた。こちらは米国と日本の3チームが、それぞれブラックバタフライ実機3基と大型スクリーン1基を用いながら展開したインスタレーションである。
順路の最初は米国マサチューセッツ州ボストンのノースイースタン大学による「Our Energy Nexus」である。同大学でデータの可視化などを手がけるパオロ・チュッカレッリ教授と研究員3名が選んだテーマは「大気汚染の削減」だ。
来場者は自身の体温をブラックバタフライのセンサーを介して伝える。すると、体温はより良い世界を形成するためのエネルギーとして、スクリーン上でひとつの星となる。星は画面上でリアルタイムに表示されるミラノの大気汚染レベルを徐々に低減していく。星のパフォーマンスは参加者が加わるごとに増すとともに連携し合いながら進化し、最終的にスクリーン上の夜空が美しくなっていく。
大気汚染は、自動車ブランドが従来避けがちだったテーマである。敢えて取り組んだ理由を研究チームのひとり、クロエ・ブロック氏に聞くと「レクサスLF-ZCが環境負荷の少ないバッテリーEVであることが構想を進めるきっかけになりました」と明かしてくれた。
隣のスクリーンには異なる宇宙の映像が投影されている。こちらは何ができるのだろうか? タイトルは「Earthspective」。Earth(地球)とPerspective(視点)を組み合わせた言葉という。
朴 正義氏率いる東京のデザインスタジオ「バスキュール」による制作だ。ブラックバタフライを通じて自分の名前を入力すると、その名がつけられた人工衛星がスクリーンに登場する。次に任意の発射地点─やはり、ミラノが多かったらしい─を選んで打ち上げると、映像は自分の衛星から見た地球へと切り替わる。
その心は「視点の拡張」だ。バスキュールでエンジニアを務める岩渕智幸氏は筆者に「私たちは日々、自分の視点から世界を見ていますが、ブラックバタフライを通じて宇宙空間と繋がることで、広大な視野の中で新たな視点を獲得できることを表現しました」と説明する。
さらに彼は「衛星の形状は(レクサスのラジエターグリルの意匠として用いられている)スピンドルに着想を得ました」と明かしてくれた。ヘッドホンからはロケット発射時、リアリティに溢れたカウントダウンが流れる。こちらはバスキュールでテクニカルダイレクターとして働くほか、DJとしても活躍している大澤咲子氏の力作である。
最後に待っていたのは、レクサスのインハウス・デザイナー高畠 元氏と田村ゆり氏による「Discover Your Butterfly」だった。来場者が最初に促されるのは、ブラックバタフライに息をふきかけることだ。するとスクリーン上に1匹の蝶が現れる。やがてその蝶は、太陽のフレアに囲まれながら無数の蝶を集める。さらに別の蝶たちとの個性が交わることで、映像は有機的に変化してゆく。バタフライ効果(きわめて小さな出来事が、将来予想もできないような大きな出来事につながる現象)という言葉に着想を得ている。
田村氏が筆者に解説してくれたところによれば、ディスプレイ上の蝶は40種類。それぞれ25色を用意したので合計1000種類がある。さらにアビリティ(特性)も14種類を用意したとう。きわめて精緻なシナリオである。実は彼女、日本流行色協会が主催する「オートカラーアウォード2021」で他のスタッフとともに受賞歴があるCMFデザイナーである。色、素材、仕上げのスペシャリストだ。そして描画にあたっては「敢えてアナログ感も大切にしました」と振り返る。
レクサス・インハウスチームは粋な“お土産”も用意していた。ストーリーの最後でブラックバタフライに表示されるQRコードを参加者がスマートフォンで読み取ると、自らの蝶をヴァーチャルで持ち帰ることができる仕掛けである。
若手クリエイターとともに創るブランドの継続的ビジョン
話は変わるが、自動車ビジネスにおいて一般的にプレミアムブランドは、ポピュラーブランド以上に利益率が高い。反面その価格から、購買層は高年齢化を招きやすい。実際に米国や英国では2000年代に入ってから、気がつけば消費者たちからオールドファッションとみなされ消滅してしまったブランドが数々あった。オールズモビル、ポンティアック、マーキュリー、そしてローバーがその例である。
レクサスはデザインウィークにおいて実車の魅力を直接アピールしたことは無いし、これからもないだろう。しかし彼らのブランドが一定の知名度を得ている背景には、デザイン都市ミラノで次世代クリエイターとの共創を20年にわたり地道に続けてきたことが少なからず奏功している。
2025年の参加クリエイターはレクサスによるチョイスであった。いっぽう2026年からは「LEXUS DESIGN AWARD -Discover Together-」と題したデザインコンペティションとなる。2013年から2023年まで実施してきた「LEXUS DESIGN AWARD」の再始動だ。受賞作は2026年4月ミラノで作品公開の機会が与えられる。
一般公開日、筆者がふたたびレクサス会場を訪れてみると、前述のバスキュールの岩渕・大澤両氏が、来場者たちがブラックバタフライを操作する様子を、後ろから見守っていた。自身の作品に対する愛情が感じられる、ほほえましい光景だった。2026年はどのようなクリエイターたちと、ここトルトーナで邂逅できるのだろうか。
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