50ccの原付バイクから1000ccオーバーの大型車まで500機種以上の純正キャブレター用に燃調キットを開発、販売するキースター。1940年代から70年以上にわたってキャブレターパーツを製造し続けてきた同社の製品は世界中のユーザーから頼りにされてきた。ホームページ上にはバラエティに富むキット内容が掲載されているが「愛車に適合する製品がない」というユーザーもいるのでは? そんな時は遠慮せずキースターに問い合わせてみよう。手元にキャブレターがあれば新たなキット開発のきっかけになるかもしれない。
→【画像】「ラインナップにない機種のキャブで困っているオーナー必見!」燃調キットを作ってくれるかも<キースター|燃調キット>
●文/写真:栗田 晃 ●外部リンク:岸田精密工業
必要なのはキャブ本体とパーツリスト! 燃調キット開発プロセスとは
日本製自動車の性能は優秀で、日本国内で役目を終えた後も中古車として世界各地に輸出され、何十年という時を経ても現役で活躍していることが多い。そうした自動車の補修部品を製造メーカーに頼るのは難しく、社外品=サードパーティが頼みの綱となる。
キースターもそうした場面で活躍してきたメーカーだ。主な市場は海外で、トヨタや日産、三菱やスズキ車のキャブレターパーツの製造と輸出を行ってきた。兵庫県尼崎市の本社工場では、1970年代のトヨタカローラの純正キャブレター用パーツを今も製造している。
キャブレターパーツメーカーというとケーヒンやミクニなどと何らかの関係があるのだろうと考えるユーザーもいるようだが一切関連はなく、現物のキャブレターに使用されているジェットやニードル、フロートやパッキンやガスケットの実物をベースに図面化、それに基づいて製造するのがキースターのやり方だ。
そのため、新たな燃調キットを製造するには内部パーツの構成、部品形状を採寸するためのサンプル=実際のキャブレターが不可欠となる。スタッフがバイクショップやネットで集めた素材を分解し、同時にパーツリストで純正部品番号との紐付けを行い地道に部品点数を増やすことでラインナップを構築してきた。
ただし現在でも、すべての車種向けにキットが存在するわけではない。ではラインナップにない車種のキットが欲しいユーザーはどうすれば良いのか?
先述の通り燃調キットの開発にはノーマルキャブの実物が欠かせないので、キースターに連絡した上で送付することが出発点となる。
キースターでは届いたキャブを分解してジェットやニードルなどの部品を確認し、他の車種でも使用実績があるか新規製作が必要かを判断、ガスケットやパッキンなど型製作が必要な場合は並行して進行する。また燃調キットならではのジェットやニードルのバリエーションは社内独自の手法によって決定する。
燃調キットのラインナップはユーザーの声で拡充してきた。「まだないんだけど……」というサンメカは、キースターに熱烈ラブコールとキャブレターを送って欲しい。
―― アフリカ諸国を現役で走る1970年代のダットサントラックなどのキャブレター部品を現在も製造しているキースター。ECUが壊れたら終わるインジェクション車に対して、パーツ交換で修理できるキャブレターはタフさが魅力。
ベストセラーの派生仕様でも実物とパーツリストが必須
スーパーカブ50やモンキーゴリラなど、ホンダ横型50cc用向けの燃調キットは数多くあるが、MD50郵政カブ用キットはまだ製品化されていない(MD90用はキット化済み)。そこでこのキャブレター用の燃調キット開発を依頼することに。
―― 全体的なフォルムは燃料コック一体式のスーパーカブ用PBキャブだが、2個のキャブレターヒーター? とエアーカットバルブが付いているのが外観上の特徴。エアーカットバルブにOリングが付くのか?
―― パーツクリーナーでざっと洗浄してフロートチャンバーを取り外して内部を確認。メインジェットやジェットニードル、フロートチャンバーガスケットなどはキースターで採寸するので取り外さない。
―― 突然キャブレターを送りつけても現場が混乱するので、新たなキット化を希望する場合は事前に連絡すること。部品や構造があまりに特殊な場合は製品化が難しい場合もあるが、写真の藤原さんが対応してくれる。
―― キャブレターとパーツリストをセットで送ったので、まずはキャブレター号機を確認し、ジェットサイズをチェックする。既に製造しているパーツは流用可能か否かを検討し、ないものは図面製作に取りかかる。
独自で製作した図面で部品を製造。膨大なパーツが大きな財産に
初期の頃はすべてのパーツを図面に起こして製作していたが、キットが増えることで転用や流用できる部品が増え、加速度的にラインナップが充実したそうだ。社内にはジェットやニードルを製造する専用工作機械がズラリと並んでいる。
―― 製造した部品は独自の番号を付けてラックに保管されている。燃調キットの注文があった時は、構成部品をここからピックアップしてケースに収納する。ガスケットやパッキン類はケーヒンでもミクニでも似通った部品を使うことが多いので、自社製造部品と純正部品番号を紐付けることでキットを効率的に組むことができる。
―― 500機種分のキット構成部品を管理するには社内システムも重要。販売数量と使用部品点数と在庫量を連携管理することで、大半のキットは注文から2営業日以内の発送を実現している。
オーナーの協力が製品ラインナップの原動力になる
ロングセラーモデルの中には細かく仕様変更されているキャブもあり、そうした車種ではマニアックなユーザーが頼りにあることもある。セロー225のキット開発時には一人のセローマニアが6種類の純正キャブを提供し、年式ごとのラインナップが完成した。
―― 縦型エンジンを搭載したホンダCB90JXは1972年に登場。CB125JXやTL125イーハトーブ用キットは既に存在しているが、90JX用はなかったためオーナーがキースターに実物を送って製品化された。そうした地道な活動が同じ車種を所有するユーザーのためにもなる。
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