「リッターカーキラー」、「高速で後ろに付かれたら素直に譲れ」と、その戦闘力の高さを示す言葉の枚挙にいとまがない車種、それがスズキの「アルトワークス」です。軽自動車ながらDOHCターボユニットを搭載して、あまりの高出力に馬力自主規制のきっかけともなったこのクルマについて、その歴代モデルを振り返りながらすこし掘り下げていきたいと思います。
【写真13枚】→「今見ても古さを感じさせない!」40年前に登場した初代アルトワークスと歴代モデル
●文:往機人(月刊自家用車編集部)
1980年代後半、激化した軽ターボ車によるホットハッチ競争
初代の「アルトワークス」が誕生したのは1987年です。
この時期の日本の経済はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、バブル景気の急坂をガンガン登っていた頃です。国産の各メーカーは潤沢な資金にものを言わせて新たな技術を貪欲に追求していき、今となっては考えられないくらいにコストを掛けた開発が進んでいました。
その勢いは軽自動車のジャンルにも及んでいて、まず1983年に三菱が「ミニカ」にターボを投入します。これで火が点いた軽のライバル各社から続々ターボ搭載車が登場し、それまでは実用一辺倒だった軽自動車のジャンルに、走りを楽しむというカテゴリーが芽生えました。
この流れは、スズキとともに軽自動車の専門メーカーであるダイハツが1985年に発売した「ミラ・ターボTR-XX」でいっとき頂点を迎えます。この「TR-XX」に搭載されたエンジンは、547ccの直列3気筒 SOHCターボ(インタークーラー付き)で52psを発生。ライバルを大きく引き離し、ハイパワーな軽の代名詞となります。
◆スズキ 初代アルトワークス(1987年)
ボンネットフードにエアスクープを設けるなど、スポーティーさを強調した精悍なスタイルを採用した。車内に目を移すと、4本スポークのステアリングを採用し、赤い基盤のメーターはスポーティさを演出。タコメーターは1万回転を軽く超える目盛りが振られていた(イエローゾーンは8,000rpm、レッドゾーンは9,000rpmから)。
―― 1987年に登場した、スズキの初代アルトワークス。
サイドサポートが大きく張り出した専用設計のバケットタイプのシートを採用。特にRS-R(4WDモデル)は、シートのサポート部分に鮮やかなピンクの派手なファブリックが使われていた。
―― スポーティさを演出する車内。タコメーターは1万回転を超える表示が…。
―― 専用設計のバケットタイプのシートを採用する。
満を持してスズキが真打ち的に「アルトワークス」を投入
さてこの流れをスズキが指を咥えて見ているわけではありませんでした。すでにターボエンジン車は投入していましたが、水面下で密かに高性能なDOHCユニットの開発を進めていたのです。このユニットは1986年に「アルト」に搭載されました。軽自動車としては初となるDOHC・4バルブ仕様のエンジンの搭載にあたって、「ツインカム12RS」という勇ましい名が与えられます。このDOHCユニットはノンターボだったため、48psとライバルのターボ仕様に比べると非力感が否めませんでしたが、軽自動車初のDOHCとしてかなり話題を集めました。
そしてその翌年、「12RS」がまるで前フリだったかのように、真打ちの「ワークス」が発売されました。1気筒あたり4バルブという高性能仕様の「F5A(DOHC)」にターボをドッキングさせ、それまで最強の座に居た「TR-XX」を大きく上回る64psで一気に頂点に君臨しました。
ちなみに、新型車の登録時点では驚異の78psを発生させていたそうですが、その前例の無いくらいの高い出力に及び腰になった当時の運輸省(現・国土交通省)が待ったをかけたため、64psまで出力を落として再申請することで認可が下りたとのこと。64psでもブースト圧が0.9kg/cm2と高めなのに、78ps仕様ではどれくらいの高ブーストをかけていたのでしょうか。
この「アルトワークス」の出現がきっかけとなって、「これ以上パワー競争を白熱させては危ない」と感じたお役人や自工会の偉いさんたちの配慮によって、“自主規制”のカタチで出力に64psという上限が設けられました。
64psという破格の出力を活かすため、シャーシやサスペンション、ブレーキなど、車体の各部に強化の手が入れられました。しかしFF仕様では前輪の2輪のみでその強出力を受け止めるには無理がありました。そのため、「アルトワークス」にはフルタイムの4輪駆動の仕様も用意されていました。
結果、普通車のスポーツモデル以上の仕様と装備を手に入れた「アルトワークス」は、1.6Lクラスのスポーツグレード車をカモれるほどのパフォーマンスを発揮。乗る人が乗ればワインディングでは登りも下りも敵無しと言われていました。
◆初代アルトワークスに搭載されたエンジン
最上級グレードRS/Rには軽自動車初の新開発直列3気筒543cc EPI DOHC 12バルブインタークーラーターボエンジンを搭載。足回りにはビスカスカップリング方式のフルタイム4WDシステムを採用した。最高出力は、自主規制で抑えた64PS/7,500rpm(ネット)を発揮。
車体や足まわりも軽の頂点にふさわしい仕上がり
1988年にベースの「アルト」がフルモデルチェンジされたため、「ワークス」も2代目となりました。これを機に「アルト」のいちグレードから独立した車種になりました。
まずホイールベースが217mmから2335mmへと大きく拡大されました。これにより居住スペースが広がるとともに、直進安定性が向上しています。「ワークス」に搭載されるエンジンは、先代の「F5A系」からショートストローク化を図った「F5B系」へと切り替わり、高回転の特性が強化されました。
また、「F5A(SOHC・ターボ)」を搭載する下位グレードが新たに追加されました。そして1990年に軽自動車の規格が変更され、排気量が550ccから660ccになったのを受けて、660cc仕様の「F6A系」に切り替わったのも大きなトピックです。
外観では丸目ヘッドライトが採用されて、遠目からでも「ワークス」だと分かるルックスになっています。軽規格の変更の影響はボディにも及び、全体的に大きくなりました。それを機に、それまでは“4ナンバー”の“バン(商用)”登録だったのを“5ナンバー”の“乗用”に変更されています。1992年には、全日本ラリー選手権で勝つためのホモロゲーション獲得用として競技仕様に仕立てられた「ワークスR」が発売されています。
◆スズキ 2代目アルトワークス前期型(1988年)
ノーマルのアルトとは異なる異型丸型ヘッドランプや、フルエアロパーツを備えた専用デザインとなった2代目アルトワークス。
―― 1988年に登場した、2代目アルトワークスの前期型。
◆スズキ 2代目アルトワークス後期型(1990年)
1990年に軽自動車新規格に対応して排気量を拡大したF6A型3気筒657ccエンジンを搭載。最高出力の64PS(ネット)は変わらないが、中・低速から大きいトルクを発揮し、より力強い走りを可能とした。このモデルからアルトワークスはセダンタイプの乗用車規格に変更された。
―― 軽自動車の新規格に対応した、2代目アルトワークスの後期モデル。
車内に目を移すと、コックピットにはスポーティな3本スポークのステアリングが装着され、そのセンターには「WORKS」のロゴがあしらわれている。グリップ感も向上し、よりスポーツ走行に適した形状となった。また、シートは肩口まで支えるようなバケット形状を維持。特にサイドサポートの張り出しがしっかりしているため、コーナリング中の体のズレを最小限に抑えてくれた。
―― WORKSのロゴが入った、スポーティなステアリング。
―― バケットタイプのシートを採用。
軽の新規格にフル対応した3代目「ワークス」
2代目で独立車種となり、新たに採用された丸目のフェイスが「ワークス」のアイコンとなりました。3代目もそのフェイスを受け継ぎ、共通の雰囲気にまとめられていますが、骨格となるシャーシは大きく変化を受けています。外寸の枠が拡大されたことで設計に余裕ができたため、高まる安全意識への対応を込めたシャーシへと刷新されました。これにより衝突安全性などが大幅に向上しています。
―― 初代アルトワークス(左)と3代目アルトワークス(右)
そしてもうひとつのトピックがエンジンの変化です。この3代目「ワークス」で新開発のオールアルミ製ユニット「K6A」が投入されました。一気に10kgという軽量化を達成したことで、ハンドリングも大きく変化しています。出力は依然自主規制上限で変化はありませんが、トルクが10.5 kgmへと向上しているため、駆動系をハイギヤード化して高速巡航時の静粛性も向上させています。
◆スズキ 3代目アルトワークス(1994年)
新設計ターボチャージャーと大型インタークーラー、水冷式オイルクーラーを搭載。四輪ディスクブレーキも備えて、さらなる俊敏な走りを可能とした3代目。
―― 3代目アルトワークス。
再度の規格改正でボディサイズが大きくなった4代目で、一旦「ワークス」終了
1986年に軽自動車の規格が再度更新されたことを受けてモデルチェンジが行われ、「ワークス」も4代目となりました。全長と全幅が拡大されたのでシャーシを設計から刷新し、ホイールベースも拡大されましたが、運転フィールなどは違和感を感じない程度に抑えられているようです。
エンジンは「K6A」のままですが、可変バルブ機構の“VVT”が採用されたことで低回転から高回転まで力強さが向上しています。トルクはさらに上がって11.0 kgmを発生させています。この代からスロットルをを電子制御する“電子スロットル”が導入されて、よりスムーズな加速特性に仕上げられています。
外観は基本的に丸目のイメージを踏襲しているものの、アクの強めな異径ヘッドライトが採用されたことでインパクトの強い“不思議系”の印象となりました。そして2000年に行われたマイナーチェンジのタイミングで、「ワークス」人気の低迷と高まる環境意識への対応などの点から「ワークス」を含むハイパワーモデルが廃止されてしまいます。
◆スズキ 4代目アルトワークス(1998年)
新規格サイズとなった4代目アルトワークスは、マルチリフレクター式丸型ヘッドランプや専用エアロパーツを装着したデザインで登場。エンジンは電子制御スロットルを採用した新開発DOHCターボVVT、DOHCターボ、Siターボ(SOHC 6バルブターボ)の3種類を搭載。上級グレードRS/Z(2WD・ 5MT車)には、ヘリカルLSDと新開発の四輪ABSを標準装備した。
―― 新規格サイズを採用した4代目のアルトワークス。
15年ぶりに復活を遂げたアルトワークス。しかし、生産中止に…
2000年の廃止以降、ベースの「アルト」は「ワークス」不在のまま6、7代目へとモデルチェンジされていきましたが、ついに8代目へのモデルチェンジの際に、「ワークス」が15年ぶりに復活しました。2代のモデルチェンジを挟んで車体は大きく変化していて、エンジンも新規の「R06A型」となって従来の「ワークス」とは別物へと生まれ変わっていますが、このジャンルのファンにとっては待望の復活とあって大いに賑わいました。
エンジンはターボが小型化されてトルク寄りのセッティングになり、街乗りでの乗りやすさが向上しています。トランスミッションは新開発された2ペダルMTの“AGS(5速)”が採用され、AT限定免許でもMTの小気味良いシフトが楽しめるようになっています。
この後「アルト」は9代目へとモデルチェンジされますが、「ワークス」のラインナップは無く、現状では再び廃止という状況になっています。昨今はスポーツ系車種の立ち位置が微妙になっていることから、再度の復活については何とも言えませんが、また新たなデザインと戦闘力を身に付けてファンの前に登場してくれることを期待して待ちたいと思います。
◆スズキ 5代目アルトワークス(2015年)
先に登場したターボRSをベースに、専用開発したショートストロークの5 速オートギヤシフトを設定。専用チューニングのサスペンション、ホールド性の高い専用レカロ製フロントシートも標準装備された。
―― 2015年に復活した、スズキの5代目アルトワークス。
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