「環境」「GX化」「BEV普及」という世界的な環境目標の根拠となる「COP(国連気候変動枠組条約の締約国会議)」で、大変なことが決定した。先進国は途上国に毎年1.3兆ドル(150兆円以上)支払え、というもので、もしこれが(日本を含む)締約国に義務化されるとなると、「いい加減にしろ」と脱退する国が続出することに……世界のカーボンニュートラルの土台がひっくり返った?? 次世代モビリティと国際情勢に詳しい池田直渡氏が、2024年11月11日~11月24日に実施され、大荒れとなった「COP29」の結果を読み解きます。これ…いったいどうなるの???
文:池田直渡、画像:UNclimatechange/全国地球温暖化防止活動推進センター/環境省 https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20241216-topic-66.html
「カーボンニュートラル」の底が抜ける…!?? COP29の衝撃 欧州勢が仕掛けたBEV戦略の危機的状況
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■誰が払うのか……「決裂」といえるほど釣り上がった気候資金
その名のとおり、国連にて1992年に採択されて以来、国際的な気候変動に対するルールを決める機関として機能してきたのが、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)である。毎年世界各地で会議が行われる。会議はその回次と都市名を付けて「COP3京都会議」「COP21パリ会議」のように呼ばれ、2024年11月の「COP29アゼルバイジャン会議」が最新である。
グローバルな環境規制を考えれば、世界的協調が必須なのは明らか。しかしあくまでも平和的手法で主権国家にルールを守らせることは非常に困難であり、国連下部組織の会議による話し合いでルールを積み上げていくことをもって、各国の義務遂行への強制力としてきたわけだ。
そういう意味で言えば、国際ルールの本体とも言える国際的な話し合いが、COP29で実質的に決裂した。
日本から浅尾慶一郎環境大臣が出席。ニュージーランドのサイモン・ワッツ気候変動担当大臣兼財務大臣とのバイ会談し、炭素市場や太平洋地域協力を含む気候変動協力などについて議論した(環境省撮影)
決裂したポイントは「気候資金」である。気候資金の裏付けになるのは「気候正義(クライメートジャスティス)」である。産業革命以来、化石燃料を使用し、地球の気候変動に悪影響を与えてきたのは、先進国であり、インフラの脆弱な途上国はこれまでも、洪水や干ばつなどの気候災害の被害を受けてきた。
さらには、途上国の経済発展に際して、先進国の発展期には不要だった「温室効果ガス排出削減」のための巨額の資金が必要であり、世界の環境を破壊しながら発展してきた先進国は、途上国のこれらの被害を金銭保証すべきとする考え方である。
この考え方そのものはUNFCCC成立以前から議論されてきており、長らく国際合意の形成に苦労してきたポイントである。ここ数年はこの気候資金の目標額を年間3000億ドル(約45兆円)で議論してきたが、ずっと揉め続けていた。
それぞれの立場を考えれば、途上国は環境レベルの破壊と人命の損失に対する補償なのだから「高くて当然」という話になるだろうが、先進国にしてみれば、環境や公害などの概念のない時代から、人類の発展を支えてきた科学技術への弛まぬ努力をそこまで悪しざまに糾弾されても厳しい。
実際のところ金額の落とし所を探ってきたというか、端的に言えば「その額は払えないから、現実的な妥協点を見つけよう」ということをやんわりと言い続けてきた。
ところが今回のCOP29アゼルバイジャン会議で、この気候資金の請求額が前述のとおり年間3000億ドルで押しきられたのみならず、中期目標として2035年までに官民合わせて、さらに一桁上の年間1兆3000万ドル(約150兆45億円)に拡大することで合意させられた。
■「年間150兆円」という負担額の非現実性
試みに、この「150兆円」になった場合の日本の負担額を試算してみる。前提として国連負担金の割り当て率である約8%と仮定すると、我が国の負担額は年間12兆円。国家予算の12%あるいは消費税12%ぶんを新たに支出しなければならなくなる。あまりにも非現実的な額であることがお分かりいただけると思う。
しかもそれだけの額を要求しながら、途上国側がどう言っているかと言えば、インド代表のチャンドニ・ライナ氏は「この額は微々たるものだ」と発言している。つまり今回の破格の補償額設定は、一件落着とは程遠く、次回ブラジルで開催される予定のCOP30でも、気候資金はさらなる増額を求められ、今まで以上に紛糾を続けると思われる。
無理をとおせば道理が凹む。支払える可能性がない金額をゲームのように釣り上げたところで、「架空の数字をただただ積み上げるだけ」で実質的に何も生まれない。常識的には今後、実効性のある話し合いはできなくなる。それはUNFCCCの存在感の急速な低下を招くだろう。
しかも過去30年以上を掛けて積み重ねてきた議論を、決裂させるような発言をどの国も言いたくない。その結果、非常識な金額は今後もウナギ登りに増額されていく。
一方、途上国のほうは、こんな金ヅルは絶対に手放せない。被害者の立場で加害者を糾弾しつつ金が入る「正義の儲け話」である。もとより満額取れるとは思ってはいないだろうが、額を引き上げるだけ引き上げて、払えるぶんだけ可能な限り長く毟り取ろうとする流れが続くだろう。
■欧州が仕掛けたEVシフトで世界中が大炎上…
欧州が日本の台頭を押さえ込もうとして仕組んだEVシフトは、彼ら自身が味方に引き入れようとして焚き付けた途上国によって大炎上を起こしてしまい、今やもう誰にも火が消せない。
新興国を下に見て、利用するだけ利用して自分たちが儲けるつもりが、いつの間にやら強請られることになった欧州各国はまさにいい面の皮なのだが、世界中を巻き込んでしまったので笑えない。
しかも、現実はもっと酷い。世界でのCO2排出量のランキングを見れば、皮肉なことにトップの中国以下、2位米国、3位インド、4位ロシアと、「払わないと言いそうな国」が並ぶ。中国、インド、ロシアは途上国側。米国は就任早々「パリ協定からの離脱」の大統領令に署名した政権が始まり、到底この金額を払うとは思えない。1位から4位までの合計で全排出量の実に57.6%。フリーライダーが約6割にも及ぶという、わけのわからない状態である。
2021年時点での世界の国別CO2排出量ランキング/出典:全国地球温暖化防止活動推進センター/EDMC/エネルギー・経済統計要覧2024年版
■動き続ける「ゴールポスト」に日本は柔軟に対応できるのか
さて、では気候変動への取り組みはどうなっていくのだろうか? 筆者はふたつの未来を想定している。
第1のケースは、世界がこれまで積み上げてきた議論を無碍にできないとすると、先進国、それはつまりEUと英国と日本などの国々が、折り合う程度の気候資金を負担しつつ、フリーライダーの存在に目を瞑りながら、善意で環境対策に取り組むというケースだ。
ただし、その場合、フリーライダー組の中には、安価で性能のいい化石燃料に逆戻りし、製造過程などでもコストの高い環境技術を避けて安価な製品を製造し続ける国が出てくるだろう。そうなれば正直者は市場競争で圧倒的に不利になる。つまり環境意識が低いほうがビジネスで有利になる。
仮に化石燃料を排除しない世界線になれば、EVシフトを大胆に進めてしまったEUのメーカーは、高価で使い勝手の悪いEVの販売が極端に低迷して、倒産するところが出てくる可能性も十分にある。生産設備に巨額投資をしてしまったものは今更無かったことにはできない。回収ができずとも負債は残るのだ。その負債を返済しつつ、気候資金を払い、なおかつコスト高の環境対応を継続していくのは茨の道である。
第2のケースは、世界中の国やメーカーがUNFCCCの三十数年を容赦無くゴミ箱に放り込み、もはや気候変動などなかったことにして、全員で化石燃料に回帰するというケースもあるかも知れない。
現時点では、社会もメーカーも、そういう「すべてを御破算にする意識」でいるとは考えにくいが、ルールを決める枠組みそのものが破綻すれば、従うべき基準を失う。国際的な強制力がない世界で、それぞれの企業や国があくまでも自発的に環境意識と経済のバランスを取るしかなくなる。
振り返ると、我が国の自動車産業は、EVシフトへ向けた生産設備投資に慎重であったことが、大いに現時点でのリスクを低減しており、この競争の盤面変化には有利な面もある。あるにはあるのだが、一方でメーカーの真面目な気質と、一度決めたことをひっくり返すことが極端に苦手な我が国の行政は、いわゆる「御破算戦略」が取りにくい。
それは、とりもなおさず市場競争力の弱体化を産むだろう。一歩間違えば板子一枚下は地獄である。
ただし、かつてのマスキー法のように、世界が諦めた技術を徹底的に追求した結果、世界で日本だけがゴールに辿り着き、安価で環境性能の優れたクルマを生み出して、圧倒的な成功を収める図も、あながちないとは言えない。
さて、COP29の不調で、世界の未来は大きな変化の局面に入った。何もかもがわからない。想像を絶するムービングゴールポストに際し、世界はどう対応していくのだろう。
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みんなのコメント
自分達は無理だと言ってれば この構図は変わらない。欧州のEVや温暖化対策も 後退してるんだから
もう COP29の取り決めなんて意味も無くなるんじゃないの? 日本も泥舟に乗る必要は無いよ 脱退したところでデメリットも無いと思いますよ。