この記事をまとめると
■ジャガーは2009年に4ドアセダンとして「ジャガーXF」をデビューさせた
アストンマーティンもジャガーの名声の影にこの天才アリ! イアン・カラムの芸術的デザインに世界が驚いた
■優れた空力と強力なエンジンをもつXFで最高速チャレンジをするPRアイディアが実現
■アメリカのソルトレイクで「ロケットスポーツXFR V8」は363.2km/hを記録した
ジャガー最速のセダンはどのように生まれたのか
史上最速というワードにときめかないクルマ好きはいないかと。そこで、メーカー別の最速マシンを探っていると意外な事実を発見しました。
これまで、ジャガーの最速マシンはXJ220だろうと思っていたら、なんと4ドアセダンのXFにぶち抜かれていました。349.4km/hというXJ220に対し、363km/hと文字どおりのぶっちぎり。XFのことを見直すことしきりとなった次第です。
ジャガーXFは、2007年のフランクフルトショーでデビューしたコンセプトカー「C-XF」を、2009年にほぼそのまんま市販車にした4ドアセダン。V6とV8、そしてディーゼルエンジンが用意され、ハイエンドモデルにはスーパーチャージャーも装備されました。
モダンなスタイルで懐古主義者からの評判は高くなかったものの、チーフデザイナーのイアン・カラムは初代XJをモチーフとしたフロントグリルや、リヤピラーはXKシリーズ、ヘッドライトはジャガー伝統の丸目4灯など随所にエッセンスを盛り込んでいます。
また、そうしたレトロスタイルを取り込みつつ、ジャガーの市販車としては最高のCd値0.29およびフロント・リヤのゼロリフトを実現しているのは見事としかいえません。
空力的に優れていて、強力なエンジンもラインアップしていたことから、XFの最高速にフォーカスしたPRアイディアが社内からもち上がったのは当然の流れ。提案したのは、1990年にジャガーに入社して30年以上ホイットリーの開発センターに勤めた、チーフエンジニアのデヴィッド・ムーアでした。
エキスパートドライバーでもある彼はXFの潜在的なポテンシャルに注目し、スペシャルマシンのプロジェクトを提案したのでした。
ムーアいわく「当時のジャガー上層部は、皆ジャガーを愛する人ばかりでしたから」とゴーサインの出たあとでコメントしています。もっとも、最初に苦労したのはカスタムするベース車両探しだったとのこと。なにしろ、XFは発売直後から生産が追いつかないほどの人気を博していたので、どこにもクルマがない状態だったのです。
ようやく実験室に残っていたテスト車両を見つけると、開発センターのエキスパートたちの協力をもとに、「まずはエンジンのリファインからはじめ、分解して組みなおすことからスタートしました」とのこと。このあたりは、レーシングエンジン作りのデフォルトであり、ムーアにとってはお手の物といったところでしょう。
ジャガー製エンジンのなかでも最高傑作の誉れ高いAJ133 V8はもともとポテンシャルの高い設計で、とりわけ耐久性は「このままル・マンで24時間走れる」ほどだったとか。ここに、スーパーチャージャーの老舗、ルーツのスペシャルパーツが組み込まれるのですが、これまた開発センターのエキスパートが秘密のアイディアを提供。耐久性に加えて、抜群のパワーを得ることに成功しました。
最高速の聖地ソルトレイクの舞台へ
ムーアはスペシャルXFが完成したあとには、アメリカのソルトレイクで開催されるスピードウィークで走らせることを決断。最高速にチャレンジするには絶好の機会ですが、アメリカにはジャガーでレースを闘っているロケットスポーツというファクトリーがあり、極限での走りに彼らのパートナーシップが欠かせないとの判断だったとか。
ロケットスポーツの代表であり、レーサーも務めるポール・ジェンティロッツィはムーアに対して、ソルトレイクならではのカスタムとチューニングを伝授したとか。たとえば、ボディはできるだけスムースに整え、パーティングラインは神経質なほど「綺麗に埋めよ」とか、アンダーパネルの設置や製法、果ては減速用パラシュートのセッティングまで、微に入り細を穿つアドバイスでした。
こうして、2008年11月のソルトレイクで「ロケットスポーツXFR V8」と名付けられたマシンは、ジェンティロッツィのドライブによって時速225.675マイル(363.2 km/h)を記録したのです。驚くべきことに、ミッションはノーマル車とまったく同じ6速ATで、エンジンともども一度たりとも不調をきたすことがなかったのだとか。
また、ムーアは「じつはソルトレイクは標高1200mほどの場所にあるだけでなく、塩の路面もタイヤのグリップには不利なものでしたから、条件を変えればより速くなると確信しています」とも語っています。たしかに、過給器を使うエンジンにとって高地の薄い空気は不利にも思えます。
また、タイヤについても適正な空気圧にするのに何度となくトライしたというコメントもありましたから、300km/hオーバーの世界はそれだけシビアなのでしょう。
もっとも、ロケットスポーツXFR V8は再び最高速チャレンジに及ぶことはなく、ゲイドンにあるジャガー・ダイムラー・ヘリテージトラストに収められ、現在でも展示されています。
ジャガー最速マシンを作り上げたムーアは「最高速もさることながら、このプロジェクトを通して何人もの親友が生まれたことが一番うれしい」と、クルマ好きの胸を熱くしてやまないコメントを残しています。
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