熟成されたレクサス「LS500h “EXECUTIVE”」は、今なお魅力的なフラッグシップサルーンであるのか? 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。
日本ならではの美意識とおもてなし──レクサスLS500h “EXECUTIVE”試乗記
レクサスLS500h “EXECUTIVE”の特徴
1.概要
2.美しきエクステリア
3.プラチナ箔&西陣
4.コクピット
5.快適な後席
1.概要
今回の試乗車は、レクサスブランドを牽引するフラッグシップモデルであるLS500h “EXECUTIVE”だ。
レクサスLSを語る上で、日本の自動車史に輝く初代モデルの存在を抜きにするわけにはいかない。バブル経済の絶頂期に産声を上げ、日本では初代「セルシオ」として発売された歴史的名車は、圧倒的な静粛性と滑らかな乗り心地、そして精緻な作り込みによって、世界の高級車市場の勢力図を塗り替えた。トヨタ・レクサスのブランドイメージを決定づける存在となった。
目の前にある現行型LSは、デビューからすでに長い年月が経過しており、ライバルであるBMW「7シリーズ」やメルセデス・ベンツ「Sクラス」が次々と最新のテクノロジーを纏ってフルモデルチェンジを果たしていく中において、ある種の古典的な高級車としての佇まいと乗り味を残しているモデルと言えるだろう。
巷の噂では、次期型のレクサスフラッグシップは電気自動車(BEV)へと完全に移行するといった憶測も飛び交っている。現行LSもいずれはその役目を終える運命にあると思われていた。
しかし一方で、この内燃機関とハイブリッドシステムを搭載した現行LSが、さらに熟成を重ねて作り続けられるのではないか? といった根強い噂も存在する。
実際にステアリングを握り、現行LSとじっくりと対話してみると、なるほどその噂にも頷ける部分が多々あることに気づかされる。たしかに、最新のデジタルデバイスという点では、欧州の最新フラッグシップサルーンに一日の長があるかもしれない。古さは否めない部分もある。しかし、このクルマには「レクサスLSらしさ」の価値が間違いなく宿っている。人間の感性に寄り添う細やかなおもてなしの心や、長距離を移動しても疲労を感じさせない黒衣としての役割だ。熟成を極めた現行LSは、ひとつの完成形として今なお推奨できるモデルであることを、今回の試乗を通じて強く確信した。
2.美しきエクステリア
まずはエクステリアデザインからチェック。LS500h “EXECUTIVE”のスタイリングは、流麗でスタイリッシュ、そして躍動感に満ちたプロポーションを誇っている。“静”と“動”を併せ持つフラッグシップセダンにふさわしい存在感を放つ。ショーファードリブンとして後席にVIPを乗せる使われ方が多いモデルでありながら、自らステアリングを握りたくなるようなスポーティな佇まいは、登場から年月を経た今でも古臭さを感じさせない。
車両のスペックシートに目を向けると、ボディサイズは全長5235mm、全幅1900mm、全高1450mm、ホイールベースは3125mmの堂々たる体躯を誇る。ここで特筆すべきは、全幅が1900mmに抑えられているという点。昨今のプレミアムセダンは全幅が1900mmを大きく超えるのが当たり前の時代となっている。しかし、日本の道路環境や都市部の駐車事情を考慮すると、この1900mmは重要な境界線となる。都心のコインパーキングでの駐車や路地でのすれ違いにおいて、このサイズ感はドライバーに安心感をもたらしてくれるのだ。日本市場での使われ方を決しておろそかにしないレクサスの姿勢が、この全幅の数値に明確に表れている。
フロントマスクを特徴づけるスピンドルグリルは、緻密に計算されたメッシュパターンが存在感を主張。2020年のマイナーチェンジによって、このスピンドルグリルのメッシュ色はダークメタリックへと変更され、より落ち着きのある、フォーマルなシーンにも映える上品な印象が付与された。サイドラジエターグリルはスクエアな形状を外側に配置することで、端正なスタンスの良さを表現する。
また、フロントの表情を決定づけるヘッドランプには、安全技術である「ブレードスキャンアダプティブハイビームシステム(AHS)」を標準装備。本システムは、LEDの光を高速で回転するブレードミラーに反射させることで、対向車や先行車を幻惑することなく、細やかな配光制御を行う画期的な技術だ。デザイン面でも、このAHSと3眼ランプユニットを上下に配置することでランプ全体に厚みを持たせ、フラッグシップにふさわしい風格と毅然とした表情を作り出す。クリアランスランプのL字型発光もより強調され、昼夜を問わずレクサスであることを強く印象づける。
リアビューに回ると、水平基調の落ち着いた佇まいの中に、力強さが秘められていることがわかる。リヤコンビネーションランプ内のメッキモールはピアノブラックに変更されており、これによってランプ上下の一体感が増し、ヘッドランプとの親和性を高めつつ、さらなる風格を醸し出す。
今回の試乗車で強く心を打たれた要素のひとつが、エクステリアを包み込む「銀影ラスター」と名付けられたボディカラーだ。オプション価格で¥330,000の高価な特別塗装色であるものの、その価値は十二分にあると断言できる。レクサスが「SUPERIOR COLOR」として新たに開発したこの色は、彼らが長年追い求めてきた金属質感を持つシルバーだ。
資料によれば、この銀影ラスターは、わずか1ミクロンのベース層の中に、特殊な光輝材である蒸着アルミを平滑かつ均一に配列する高度な精密塗装技術によって実現されたという。中塗り層やカラーシーラー層も含めた全層を平滑化することで、これまでのシルバーでは到達し得なかった、鏡のような光沢と、滑らかで強い金属反射を生み出す。
実際に太陽光の下でこのクルマを眺めると、ハイライト部分の鮮烈な輝きと、シェード部分の深く沈み込むような陰影のコントラストに息を呑む。ボディの豊かな面構成に合わせて、光と影がまるで生き物のように移ろい、周囲の景色を鮮明に映し出す。昼間の日差しの中では硬質な金属の塊としての存在感を放ち、夕暮れ時や夜の街灯の下では周囲の光を柔らかく吸い込んで妖艶な表情を見せる。
試乗中、銀影ラスターの魔力を象徴するような出来事があった。街中でクルマを停めていた時のことである。通りすがりのおそらく60代と思われる男性が足を止め、このLSをじっと見つめていた。そして、話しかけてきたのだ。「すごい綺麗な色ですね。一体なんという色なんですか?」と。その男性はクルマに詳しい“マニア”ではなく、純粋に目の前にある物の美しさに惹きつけられたようだった。まったく見ず知らずの通りすがりの人を立ち止まらせ、質問を投げかけさせるほどの力が、この銀影ラスターにはある。単なる移動の道具を超えて、所有する喜びや見る者を魅了する力こそが高級車の真髄であるとするならば、このボディカラーはその要件を満たす。
3.プラチナ箔&西陣
ドアを開け、インテリアに足を踏み入れると、そこには日本の伝統美と現代のテクノロジーが見事に融合した世界が広がっている。
今回の試乗車に設定されているインテリアカラーは「ブラック(プラチナ箔&西陣)」である。この内装オーナメントはオプション価格¥660,000の設定となっているが、作り込みの背景を知り、実際に目で見て触れてみれば、それが決して法外な価格ではないことが理解できる。
この内外装コーディネートのテーマは「月の道」。満月の夜の前後数日間だけ、波間に月明かりが反射して一筋の光の道ができる情景だ。
ドアトリムのオーナメントパネルに採用されている「プラチナ箔」は、石川県金沢市の伝統工芸品である金沢箔を手掛ける「箔一」との協業によって生まれた。プラチナは金に比べて硬いため、極限の薄さまで均一に打ち延ばすには、熟練した職人の中でもひと握りの技術者しか成し得ない至難の業を要するという。さらに、その極薄のプラチナ箔を、職人が1枚1枚手作業で貼り合わせていくのだ。箔を貼る際に生じる自然なシワや光沢の変化によって、パネルは一枚として同じ表情を持たない。
そのプラチナ箔のパネルを取り囲むように配されているのが「西陣織」のドアトリム表皮だ。京都で1200年の歴史を持つ西陣織の「細尾」との協業により、自動車の内装材としての基準をクリアし、世界で初めて量産化に成功したものだ。この西陣織には「引き箔」と呼ばれる伝統的な装飾技法が用いられている。和紙に銀箔を貼り付け、それを細かく裁断して糸状にした引き箔糸を織り込んでいく緻密な作業だ。この引き箔糸が面として輝くことで、光の当たり具合や見る角度によって濃淡が刻一刻と変化し、水面を見立てた「銀波」を表現している。
試乗中、助手席や後席に座ってこのドアトリムを眺めていると、欧米の高級車にありがちなカーボンファイバーや光沢のあるウッドパネルとは異なる、奥ゆかしくも深みのある静謐な美しさに心が洗われる思いがした。日本の伝統工芸の粋を集め、それを最新の工業製品であるクルマの内装に昇華させたこの空間は、まさにレクサス、ひいては日本車でしか味わえない唯一無二の価値だ。
4.コクピット
運転席に腰を下ろすと、水平基調のインストルメントパネルが広々とした空間を演出しつつ、ドライバーを包み込むような適度なタイト感も備わっていることに気づく。コックピットの設計はアップデートが重ねられており、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)が進化した。
目を引くのは、ダッシュボード中央に鎮座する12.3インチのタッチワイドディスプレイ。途中の改良により画面を前方に近づけ、ドライバーが直接画面にタッチして直感的な操作を行えるようになった。画面の角度もわずかに運転席側に向けて配置されており、視認性と操作性が向上。スマートフォンとの連携機能(Apple CarPlayやAndroid Auto)も標準対応しており、現代のデジタルライフに適合している。
しかし、ここで称賛すべきは、レクサスが何でもかんでもタッチパネルに集約するという昨今のトレンドに盲目的に追従しなかったてんだ。エアコンの温度調整や風量調節といった走行中に頻繁に操作する機能には、確かなクリック感を持つ物理スイッチが残されている。最新の欧州車では、こうした空調操作すらも巨大なセンターディスプレイの中に組み込まれてしまい、ブラインドタッチができず視線移動を強いられるケースが増えている。対してLSは、物理スイッチで瞬時に温度を変えることができる。この「当たり前のことが当たり前にできる」ことのありがたさを痛感させられた。
5.快適な後席
LS500h “EXECUTIVE”のグレード名が示す通り、このクルマのもうひとつの主役は後席空間だ。運転席での素晴らしい体験から、後席左側のいわゆるVIP席に身を委ねてみた。
まず驚かされるのは、広大なレッグスペース。助手席を最前部までスライドさせると、最大で約1020mmもの空間が生まれる。このクラスのロングホイールベースモデルの中でもトップクラスの広さだ。
シート形状は、深く包み込まれるようなデザインが採用されており、座面や背もたれには低反発ウレタンを使用。シート表皮とクッションパッドの縫い合わせ位置を深くする「深吊り構造」によって表皮がたわみやすくなり、体圧が分散される。座った瞬間にからだが優しく沈み込み、クオリティの高いソファに座っているかのような、ソフトでありながらしっかりと体を支えてくれる感触が得られる。
さらに、電動レッグレストがせり上がり、シートバックが大きくリクライニングする。フルフラットとまではいかないものの、かつての航空機のビジネスクラスを彷彿とさせるリラックスした姿勢をとることが可能だ。温感リラクゼーション機能を作動させ、身体をマッサージすることもできる(次のページへ続く)。
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