舟旅3路線目の経済実験
東京で今、「舟旅通勤」という新たな交通インフラに注目が集まっている。一見すれば、都心での優雅で快適な移動に映る。しかしその実態は、補助金に支えられた制度、高コスト構造、そして現実の通勤ニーズとの乖離が背景にある。舟旅通勤は、こうした課題を乗り越え、都市交通として定着できるのかが問われている。東京都は近年、水上交通の整備に注力してきた。複数回の社会実験を経て、2023年10月に豊洲~日本橋航路を開設。2024年5月には晴海~日の出、そして2025年5月14日には五反田~天王洲が新たに加わった。
なぜ、三つ目の航路に五反田~天王洲間が選ばれたのか。所要時間はおよそ30分。電車と徒歩を組み合わせた場合より約10分長い。にもかかわらず、航路に期待が寄せられている理由は
「エリア間の回遊性」
にある。天王洲は再開発が進み、アートスペースやカフェ、企業施設が集積。一方で五反田は、居酒屋や小規模飲食店が立ち並び、雑多でにぎやかな街並みを形成する。性格の異なる2エリアを水上でつなぐことで、新たな人の流れが生まれることが期待されている。
コスト構造の実態
利便性以外の要素に期待が寄せられる航路で、採算が取れる運営は可能なのか。
五反田~天王洲航路に導入された船舶「海音(かのん)」は、屋根のない小型旅客船で、定員は44人である。東京都が設定した乗船運賃は片道900円(子どもは500円)だ。鉄道のIC運賃が片道418円なので、ほぼ2倍の料金となる。
収支はどうか。仮に定員44人が満席なら、1便あたりの売上は
「900円 × 44人 = 3万9600円」
となる。一方、運航にかかる費用は
・人件費:船長とデッキクルーの最低ふたりを配置する必要がある。1便あたり1~2万円程度。時給換算に保険や拘束時間も含む。
・燃料費:軽油を使う中型旅客船では、30分運航で1便あたり2000~5000円かかる。燃料価格や速度により変動する。
・維持管理費:年間の整備、係留、保険、検査などの費用を日数と便数で割ると、1便あたり数千円となる。
・間接コスト:予約システム、マーケティング、清掃、船着場使用料などを含め、1~2万円程度と見積もられている。
となっている。
補助金制度の限界
こうしたコストを踏まえると、現状の運賃収入だけでは経営は成り立たない。そのため東京都は以下の助成を実施している。
・事業費の半額補助。ただし上限は日額10万円(運航規模に応じて段階的に設定)
・新造船には1隻あたり最大1億円
・改良船には最大2500万円/隻
実際には、この助成が航路運営の柱となっているのが現状だ。
この補助金は妥当なのか。水上交通を新たなインフラとして提案する目的から見ると、極めて合理的な措置である。しかし補助は期間限定の制度に過ぎない。東京都も現時点では立ち上げに注力しているが、今後も補助で航路を支え続けるかは不透明だ。明確なビジョンは示されていない。
補助が打ち切られれば、運航の継続は一気に困難になる。
この脆弱な構造をどう克服するか。補助金なしでも成り立つ運営体制の構築が、いま最も重要な課題となっている。
利用者像と行動変容の検証
では、経営を支える上で利用者の増加を見込めるかどうか。まず、実際にどのような層が舟旅通勤を利用しているのかを確認したい。
2022年の社会実験後に実施されたアンケート結果によると、乗船目的で最も多かったのは「通勤・業務」で54.5%。次いで「観光」が28.3%、「買い物・私事」が9.2%となった。
魅力を感じた点としては、「船での移動」が87.4%と圧倒的に多く、次いで「座れる」が51.2%、「作業や飲食ができる」が19.7%。一方、「普段使っている移動手段より便利」と答えたのは10.3%にとどまった。移動手段としての効率性よりも、乗船体験や船内の快適性に価値を見出している層が多い。
属性を見ると、男性が62.3%、女性が37.7%と男女差がある。年齢層では30~50代が全体の75%を占め、若年層の利用は限定的だった。
今後の利用意向では、「利用する」「たぶん利用する」の合計が68.7%。しかし「週5日以上」と答えたのはわずか3.3%。「週1~2日」が44.1%、「月に数回以下」が41.9%にのぼる。電車やバスのような日常的な通勤手段としては想定されていない。
適正価格に関する設問では、
「500円」
との回答が最も多く32.9%。以下、「400円」10.3%、「300円」23.9%、「200円」16.6%、「100円」8.1%と続く。既存の交通機関と同等か、それ以下でなければ利用者は増えないという現実が浮かび上がる。
こうしたデータが示すのは、
「単に航路を設けるだけでは通勤行動の転換は起きない」
という事実だ。多くの利用者は、非日常的な体験を気軽に楽しむ手段として水上交通を捉えており、通勤インフラとは見なしていない。
行政の思惑と都市政策の文脈
東京都が舟運を推進する背景には、
・水辺の賑わい創出
・都市の魅力向上
といった都市ビジョンがある。2015年に設置された「東京の総合的な交通政策のあり方検討会」傘下の水辺空間活用ワーキンググループでは、羽田空港と都心・臨海部を結ぶ航路の充実、PR施策の展開、船着場と水辺空間の一体的整備が方針として掲げられた。これが現在の新航路開設につながる動きの始まりである。
しかし、その後のワーキンググループの資料を追うと、ビジョンの具体化が難航していることがうかがえる。資料には「船着場にカフェを併設する」「水辺をライトアップする」といった構想が現れ、「水辺のにぎわいづくり」という言葉も多用されている。
つまり、交通インフラ整備、観光振興、防災機能の補完といった複数の目的が混在したまま現在に至っている。
そのため舟旅通勤は、新たな交通インフラとしての東京の水上交通復活に期待されながらも、利便性や採算性を欠いたまま推移している。この状況は小池都政の問題というより、都市政策における見せ方と機能性のバランスの難しさを示しているように見える。
水辺活用自体は意義ある取り組みである。しかし、水上交通の活性化はそれとは切り離して検討したほうがスムーズだろう。
過去の舟運事例の比較と失敗学
ここまで五反田~天王洲航路を中心に述べてきたが、先行するふたつの航路も成功しているとはいい難い。『朝日新聞』2025年3月17日付電子版では、都の担当者が
「日によるが、1日数人~数十人ほど」
と語っている(現状、統計データは非公開)。これは2022年の実証実験時とほぼ変わらない数字である。結局、現状では必然性のある交通手段とはなっていないことが明白だ。
例えば大阪市が維持する無料の公営渡船は、都市インフラとしての役割が明確だ。大阪湾岸では大型船の航行を前提に橋が高く架けられており、歩行者や自転車の選択肢が限られる。だからこそ渡船は日常の移動手段として合理性があり、年間150万人以上が利用する生活航路として定着している。
一方、東京都の舟運はどうか。前述のとおり、運賃は鉄道より割高で、所要時間も長い。加えてウェブでの事前予約制(当日販売もある)や船の外観も含めて、非日常的な乗り物という印象が強い。新たな生活航路とはとても言い難い。
今後の可能性と選択肢
舟旅通勤を持続的に運用するには、採算構造と制度の再構築が不可欠だ。まず、運賃体系や運航時間帯、便数、鉄道・バスとの接続性といった基本設計を見直す必要がある。
現在の片道900円という価格設定では、日常の移動手段として選択されにくい。移動時間に不利があっても、価格次第で「移動コスト」の面から再評価される余地はある。鉄道との単純比較ではなく、利用者が納得できる時間と費用のバランスで設計し直すべきだ。
次に、通勤・通学という日常利用に固執するのは現実的でない。想定される利用層のライフスタイルや行動時間、移動目的を再検討し、平日昼間や休日の移動ニーズを掘り起こす必要がある。定時運航だけでなく、不定期のイベント運航や地域イベント連携の臨時便、団体利用のチャーター運航など、柔軟な運航形態も導入すべきだ。
さらに、災害時輸送や観光との複合利用は、運営主体の戦略次第で制度設計に組み込める。水上交通の役割を日常移動の代替だけに限定せず、
「移動手段の選択肢を分散させる都市機能」
として整理し直すことで、都市全体の交通負荷の平準化も期待できる。
こうした制度設計の再構築は、民間のマーケティングや運航ノウハウだけでは限界がある。政策レベルで航路の目的を明確にし、公共財としての役割と事業性の線引きをはっきりさせる必要がある。
運営主体や財政支援の仕組み、航路の位置づけを全面的に見直さなければ、持続可能性は担保できない。現状の
「実証実験の延長」
としての運営では、収益性も都市政策としての効果もいずれ行き詰まるだろう。
東京水路再生の経済的意義
現状の舟旅通勤は、都市交通の実質的な補完にはなっていない。しかし、水辺に賑わいを取り戻すという当初の理念には大きな価値がある。
かつて東京は、多数の水路や川が張り巡らされ、貨物や旅客の移動に活用されていた。だが高度成長期以降、多くは埋め立てられたり暗渠化されたりした。残った水面も利用価値が低いとみなされてきた。
舟旅通勤は、そうした東京都の水面の価値を再生させる点で非常に意義深い。だからこそ、水面が真の生活インフラとして機能するための制度設計が不可欠である。(県庁坂のぼる(フリーライター))
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