収益の低い軽自動車をあえて推さない戦略
全軽自協(全国軽自動車協会連合会)によると、2018暦年締めでの上半期の軽四輪車総販売台数は100万120台。自販連(日本自動車販売協会連合会)の販売統計によると、2018暦年締め上半期の登録車総販売台数は173万2358台となるので、新車総販売台数に占める軽自動車の割合は約36%となっている。またホンダは自社軽自動車“Nシリーズ(N-BOX、N-WGN、N-ONE、N-BOXスラッシュ)”が2018年6月末時点で累計販売台数が200万台を超えたことを発表した。
世の中のクルマへの興味が薄れるなか、構造的といっていいほど、景気にも左右されることもなく、新車販売の苦戦傾向の続く日本の新車販売市場のなかで、数少ない元気のあるクラスが軽自動車とされている。
いまや軽自動車はOEM(相手先ブランド供給)も含めれば、日系乗用8メーカーすべてでラインアップされている。国内市場で圧倒的な販売シェアを誇るナンバー1メーカーであるトヨタも例外ではない。
トヨタは現在“ピクシスシリーズ”としてダイハツから軽自動車のOEMを受けている。軽乗用車ではキャストベースのピクシス・ジョイ、ミライースがベースのピクシス・エポック、ウェイクベースのピクシス・メガがラインアップされ、また商用車としてハイゼットベースのピクシス・バン&トラックもラインアップされている。
他メーカーを押さえ、圧倒的な販売ネットワークを誇るトヨタなので、さぞや売りまくっているかと思いきや、全軽自協の販売統計とみえると、2018暦年上半期の軽四輪車総販売台数のうち、トヨタの軽自動車が占める割合は2%となっている。
2017事業年度におけるトヨタの軽乗用車の月別販売台数をみると、多少凸凹はあるものの、ピクシスシリーズ全体でみると月販ベースで2500台をひとつの目安として販売を絞り込んでいるようにも見える。
トヨタ系ディーラーで聞いてみると、「弊社では軽自動車であっても受注すれば、セールスマン各自はセールスマージンがもらえますが、他のトヨタ系ディーラーのなかには軽自動車の受注に関してはマージン支給がなかったり、軽自動車だけマージンが少ないといったところもあるようです」と話してくれた。
さらに事情通に聞くと、「軽自動車でも受注すれば登録車と同じセールスマージンが支給されるディーラーでも、取り扱い車種全体でバランス良く売らないと、セールスマージン自体を支給しないという[足きり]を設けているところもあるようです」と話してくれた。
つまり、たとえば利益率の少ないコンパクトカーすべてでノルマを達成するのではなく、ミニバンやSUVなど、高収益車種と呼ばれるものも受注していないと、ノルマを達成していてもマージンを支給しないということらしいのだ。
ホンダが初代N-BOXを発表し、軽自動車のラインナップ強化に舵をきったときに、業界の一部から「ホンダはパンドラの箱を開けてしまった」ともいわれた。
ホンダ以前に日産が2002年にスズキからのOEM車となるモコを発売し、日産にとっては初めて本格的に軽自動車をラインアップすることとなった。その後も三菱eKワゴンのOEM車となるオッティや、スズキ・アルトのOEM車となるピノなどを矢継ぎ早に市場投入して、軽自動車のラインナップ拡大を進めた。
軽自動車の発売当初は日産系ディーラーでも前述のトヨタディーラーのように、軽自動車の受注に関してはマージン支給額を減らすなどしていたのだが、やがて登録車との差別化をやめてしまったと聞いている。
自動車販売の世界では、軽自動車はやはり購入予算が登録車に比べれば少なめになることから、“買いやすい”し“売りやすい”ので、セールスマンの受注内訳も売りやすい軽自動車が目立ってしまうと聞いたことがある。
現状の日産は日本市場では施策的に軽自動車、ノート、セレナ、エクストレイルに集中して積極推販を進めていることもあるようだが、軽自動車を積極的に取り扱うと、大型高級セダンなどの高額車両の売れ行き不振に陥りやすくなってしまうのである。もともと日産の大型高級セダンなどを乗り継いできたお客のなかには、日産の軽自動車が注目され店頭でも目立つようになると「雰囲気が変わった」と、日産車から離れるひとも当時は目立ったと聞いている。
ホンダもNシリーズがN-BOXを中心に良く売れているのはある意味良いことなのだろうが、日産と同じで、上級車種の販売の苦戦傾向が目立っている。ステップワゴンでさえも、“大きい”としてステップワゴンユーザーがN-BOXまで一気に代替え車種をダウンサイズしてくることも珍しくないとのことである。
いままでの登録車に代わって軽自動車が売れているだけだから問題がないようにも見えるが、取り扱うディーラーにとっては、利益率の低いクルマばかり売れていることになるので、当然収益が悪化してしまうのである。
また、軽自動車ユーザーは購入予算だけでなく、維持費についてもよりシビアに考えるひとが多いので、“ディーラー車検は高い”などとして、メーカー系ディーラーとは関係のない、格安車検専門業者やガソリンスタンドなどで車検をメインとしたメンテナンスを受けるひとも多く、“売り切り”状態になるのでアフターメンテナンス部門の収益にも悪影響が及びやすいのである。
ちなみにスズキやダイハツの軽自動車販売については、“業販店”と呼ばれる、正規ディーラーと新車販売の協力関係にある街のモータースや中古車専売業者のことである、この業販店での販売比率が高いので、もともと売り切りに近い販売形態が多いのである。
販売現場で、もともとトヨタが自社ブランドでの軽自動車を扱うようになったのは、メインでクラウンやハリアー、カローラなどトヨタブランドの登録車を乗っている顧客が、トヨタに軽自動車がないからとしてスズキやダイハツ、ホンダなどの他メーカーの軽自動車に乗っているケースが多く、“それならば”と扱い始めたと聞いている。
長年つきあいのある“馴染み客”が多いトヨタディーラーなので、「軽自動車欲しいのだけど……」と相談された時に、「トヨタにもありますよ」と切り出す程度で軽自動車をイチ押しで売っていこうという腹積もりはトヨタにはないようである。
“販売のトヨタ”というぐらいなので、軽自動車の取扱いにはかなり慎重な様子がうかがえる。そのためもあるのか、ピクシスシリーズの取扱いがオールトヨタではなく、カローラ店とネッツ店をメインに、一部地域のトヨペット及びトヨタ店(軽自動車比率の高い地域で希望のあった販売店のみ)となっている。
しかし一方でトヨタディーラーでは、ダイハツ軽自動車も購入することができる。タントやムーヴなど、ダイハツの看板軽自動車ベースのOEM車というのはトヨタブランドにはない。ダイハツはトヨタの完全子会社ということもあり、ピクシスブランドにないタイプのダイハツの軽自動車もトヨタディーラーで購入することが可能なのである。
ダイハツの軽自動車の購入を希望するお客がいたら、協力関係にあるダイハツディーラーへ紹介するパターンがある一方で、トヨタディーラーが自社名義で一度ダイハツディーラーから当該軽自動車を購入し、そのあと購入を希望しているお客へ転売するというパターンもあるようである。つまり、トヨタディーラーが直接メーカーであるダイハツから軽自動車を仕入れて販売しているというわけではないのである。
しかし一説では、“全国のトヨタディーラー”という大きいくくりにすると、ダイハツブランドの軽自動車を一番多く販売しているのは全国のトヨタディーラーになるともいわれているほどの販売実績を誇っているようである。
あくまで顧客の要望に応えるということで、積極的な軽自動車についての販売攻勢はしかけていない現状でも結構な数の軽自動車を販売しているのだから、トヨタが軽自動車の販売に本腰を入れたら……。圧倒的な販売ネットワークも持っているので、一気に“軽自動車販売ナンバー1ブランド”になるのは間違いないといえよう。ただしダイハツという軽自動車メインに車種をそろえる子会社があるので現実性は限りなくゼロだろう。
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