2022年シーズン前半戦のF1は、復活を遂げたフェラーリと、ダブルタイトル獲得を狙うレッドブルの激しい争いとなった。開幕戦を制したのはフェラーリだが、その後はトラブルやミスで失速。一方のレッドブルはトラブルに見舞われながらも、チーム力を活かしてドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権の両方で、ライバルに大量リードを築いてサマーブレイクを迎えている。そんなF1に欠かせない無線のなかから、autosport webでもおなじみのF1ジャーナリスト、柴田久仁夫氏が印象に残ったやり取りを選出した。
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【F1第10戦無線レビュー(2)】首位を奪い返したサインツ「フェラーリで初優勝できて、なんと言っていいのかわからない」
●第5位:周冠宇「あとでパンツ履き替えないと」(F1第7戦モナコGP 決勝)
周:トライしたんだけどね。あとでパンツ履き替えないと
モナコGP決勝レース49周目、トンネル出口からのシケインブレーキングで角田裕毅(アルファタウリ)を抜こうとした周冠宇(アルファロメオ)。派手に挙動を乱し、マシンはほとんど横を向いてしまうが、かろうじて立て直した。
ちびりそうなくらい焦りまくったのだろう。それでもあの状況で、こんなジョークを言える周は、なかなか大物かもしれない。
●第4位:カルロス・サインツ「フェラーリで、しかもシルバーストンで初優勝できるなんて」(第10戦イギリスGP 決勝)
アダミ:ハミルトンが30秒5で最速だった
サインツ:わお。でも、どうでもいいよ(笑)
アダミ:こんなレースをしてくれて、本当にありがとう
サインツ:感謝は、僕の方だ。フェラーリで、そしてシルバーストンでF1初優勝ができるなんて、なんて言ったらいいのかわからない
ルクレール:僕らはレースを失った。ああ、なんてことだ。唯一ポジティブな点は、カルロスが勝ったことだ。この勝利を、祝おうじゃないか
イギリスGP決勝レースチェッカー後、カルロス・サインツ(フェラーリ)陣営は歓喜に沸いた。サインツはフォーミュラBMW選手権に参戦していた2010年、同じシルバーストンで今回と同じポール・トゥ・ウィンを果たしている。F1デビュー150戦目の初勝利の直後、その記憶が去来したのだろう。
対照的にシャルル・ルクレールは、一時は首位を走りながら、4位に終わった。不可解な戦略を指示したチームへの不満を、必死に押し殺しているようだった。
●第3位:セルジオ・ペレス「ハックション!」(F1第13戦ハンガリーGP フリー走行1回目)
ペレス:ハックション!
バード:ブレス・ユー
ペレス:ハックション! ここ、アレルギーがあるみたい
ハンガリーGP初日FP1のセッション中、いきなりペレスがくしゃみを始めた。F1ドライバーも人間だから、走行中にくしゃみをすることもあるだろう。しかし無線でくしゃみを聞くのは、初めての経験だった。どうしてわざわざ無線ボタンを押しながら、くしゃみをしてしまったのだろう? しかも2回も。ちなみに担当エンジニア、ヒュー・バードの「ブレス・ユー(Bless You あるいはGod Bless You)」は、直訳すると「神のご加護を(お大事に)」という意味で、誰かがくしゃみをしたときに英語圏ではこう答えます。
●第2位:マルコス・パドロス「ボックス、いやステイアウトだ!」(F1第7戦モナコGP 決勝)
パドロス:ボックス、ボックス、ハードに履き替える
パドロス:いや、ステイアウト、ステイ、ステイ! ステイアウトだ!
ルクレール:XXXX!XXXX! なぜだ!? どういうことだっ! 何やってるんだ!
今季のフェラーリのドタバタを象徴する無線交信。シャルル・ルクレール(フェラーリ)は地元モナコでポールポジションを獲得し、レースも首位を快走していた。しかしあまりに保守的すぎるタイヤ交換作戦で、首位の座を失う(ちなみにカルロス・サインツはこの指示に反抗したおかげで2位表彰台を獲得した)。
さらにスリックタイヤへの交換の際、2台一緒にピットに呼び戻し、担当エンジニアのマルコス・パドロスが慌てて「ステイアウト!」と言い直したが、時すでに遅し。ルクレールはサインツの作業の間しばらく待たされ、4位に終わった。
●第1位:ランド・ノリス「ハッピーバースディ・トゥ・ウィルのママ~♪」(F1第4戦エミリア・ロマーニャGP 決勝)
ジョゼフ:ランド、今日は母の誕生日でね。きみが表彰台に上がったら、ケーキを作るって彼女は言ってたんだ。つまり、(表彰台と誕生日の)二重のお祝いってことさ。
ノリス:ハッピーバースディ・トゥ・ウィルのママ~♪ ところでママの名前は何なの?
ジョゼフ:シャーロットだ。きみの大好きなクリスマスケーキを作ってあげるってさ
ノリス:ハッピーバースディ・トゥ・シャーロット♪ この表彰台は、あなたに捧げるよ!
ジョゼフ:ありがとう。最高だ!
ノリスが今季初の表彰台をとなる3位を獲得したのは、第4戦エミリア・ロマーニャGPだった。チェッカー直後、担当エンジニアのウィル・ジョゼフが「今日は母の誕生日なんだ」と伝えると、ノリスはハッピーバースディを歌い出した。
ノリスのユーモア感覚、人柄の良さ、そして何よりドライバーと担当エンジニアの強い絆が窺える、最高の無線交信だった。
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