日本車の新車販売におけるMT車の販売比率は1985年には51.2%だったのに、1990年には27.5%、2000年には8.8%と減り続け、直近の2017年のデータでは、2.6%まで下がっている。
まさにMT車は絶滅寸前という状況だが、日本車メーカーで唯一、気を吐いているのがマツダだ。
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なんとOEM車を除くと、3列7人乗りSUVのCX-8を除く7車種にMTをラインアップしているのだ。
なぜここまでMT車をラインアップするのか? MT車にこだわる理由があるのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 マツダ
スポーツカーでもデュアルクラッチの時代、あえてマツダがMTにこだわる理由とは?
2019年5月24日に発表された新型マツダ3
マツダ3の6速MTはファストバックの15Sと15Sツーリングのほか、10月発売予定(7月予約受注開始)のSKYACTIV-Xにラインアップされる 。ちなみに6速MTと6速ATは同価格(写真はマツダ3海外仕様左ハンドル車の6速MT)
マツダ車の特徴のひとつに、6速MT(マニュアルトランスミッション)の積極的な採用がある。
スポーツカーのロードスター、コンパクトカーのデミオ、SUVのCX-3やCX-5、セダン&ワゴンのアテンザ、新型車のマツダ3まで、幅広い車種に6速MTが用意される。6速MTを選べないのは、OEM車を除くと最上級SUVのCX-8のみだ。
今では新車として売られる乗用車の97.4%(2017年)がATで占められている。ハイブリッド車のように、ATしか選べない車種も増えた。
MTを採用してきたフェラーリやランボルギーニといったスポーツカーメーカーもすでに3ペダルのMTを廃止している。
R35GT-Rも2組のクラッチを使うデュアルクラッチトランスミッションのみで、最初から3ペダルのMTは用意されていない。
新型ポルシェ911は、デュアルクラッチのPDKは8速にまで多段化が進んでいる(911GT3は改良新型でMTが復活しているが……)。
また、新型スープラの兄弟車であるZ4の欧州仕様の2L、4気筒モデル( sDrive20i )にはMTが用意されるものの、新型スープラにはいまのところ、MTは用意されない。
なぜ、スポーツカーにあまりMTが採用されなくなったのか? それはドライバーのマニュアル操作よりもクルマが行うデュアルクラッチ操作のほうが速く、0~100Km/h加速や最高速度がMTより上回るためだ。
AT限定免許の影響もあるだろう。1991年の創設からすでに30年近くが経過しており、今では第一種普通運転免許を新規取得するドライバーの60%以上がAT限定になった。
マツダ車が6速MTを積極的に採用しているといっても、6速MTの販売比率が特に高いわけではない。
マツダ広報部に聞いた、6速MT比率は以下の通り(2018年4月~2019年3月まで。CX-5は改良でディーゼルにMTを加えた2018年11月以降)。
■マツダ車のMT比率
●デミオ 4%
●アテンザ 7%
●CX-3 3%
●CX-5 4%
●ロードスター 76%
●ロードスターRF 53%
スポーツカーのロードスターは6速MT比率が高いが、デミオやアテンザ、SUVは10%以下だ。
ロードスターは各グレードに6速MTが用意され、RSのようにATを選べない6速MT専用のグレードもあるが、ほかの車種は6速MTのグレードが少ない。アテンザやCX-5の6速MTは、クリーンディーゼルターボに限られる。
なぜマツダがMTにこだわるのか直撃!
マツダ内製のSKYACTIV−MT(CX-3)。手首の返しだけで意のままに操作可能なショートストロークの6速MTだ
スポーツカーのロードスターならまだしも、なぜセダンやSUV、コンパクトカーにまでMTを採用するのか? マツダが6速MTにこだわる理由はなにか? その理由をマツダ広報部に聞いてみた。
「マツダはどの車種でも、人馬一体に代表される走る喜びを感じていただけることをテーマに開発されています。
そのひとつの要素として、6速MTを用意しました。6速MTを設定するにあたっては、どの車種でも人間中心の設計開発思想を貫き、運転を純粋に楽しめるマニュアルトランスミッションの操作フィーリングを追求しています。
またマツダ車を購入してくださるお客様も、運転の楽しさを期待されていることが多いです。
そこでスポーツカー以外の車種で6速MTを楽しみたいというご要望に応えるべく、2012年から始まった新世代商品群では、CX-8を除くすべてのモデルに6速MTを設定しています」。
このコメントにある新世代商品群とは、2012年に発売された先代CX-5と現行アテンザから始まった新しい商品ラインアップだ。
外観は魂動デザイン、メカニズムはすべてSKYACTIV技術に基づき、優れた走行性能と運転の楽しさを重視している。
そして6速MTの操作は、運転の楽しさを構成する要素のひとつになり得る。シフトレバーとクラッチペダルを操り、シフトアップやシフトダウンすることも楽しいからだ。
ATとの対比でいえば、テクニックを要することもMTの魅力だろう。極端な話をすれば、AT車の場合は、セレクトレバーをDレンジに入れてアクセルペダルを乱暴に踏みつけると、急発進してしまう。
ところがMT車でラフな操作をすると、急発進すらできない。エンジン回転を動力性能とタイヤのグリップ力に見合う回転域まで高め、クラッチをデリケートにつながねばならないからだ。
動力性能の高い車種で、アクセルペダルを踏み過ぎて過剰な駆動力を与えれば、発進時に激しいホイールスピンを生じて車両はマトモに前へ進まない。
また、クラッチのつなぎ方が唐突では、強いショックとともにエンジンが停止する。デリケートな操作が必要だから、踏み間違いに基づく急発進も発生しないわけだ。
クラッチを操作していると、駆動力の断続を当たり前に行うから、問題が生じた時にはクラッチペダルを踏んで駆動力を即座にカットできる。
たとえ、走行中にアクセルペダルが戻らなくなった時も、クラッチペダルを踏めば駆動力はホイールに伝わらず、暴走も防ぎやすい(ただしアクセルを開いた状態でクラッチを踏むと、駆動系統を破損する心配は生じる)。
言い換えればMTの操作は高等で難しい運転技術だから、独特の操る楽しさがあり、同様にAT車が誕生したりAT限定免許が普及する理由にもなっている。
マツダが大学と連携して行うMTと老化防止の研究
2019年3月のジュネーブショーで初公開されたCX-30は2019年11月に日本発売予定。CX-30にも6速ATと6速MTがラインアップされる予定
そうなるとMTの操作は、頭脳と手足を複雑に連携させて使うため、高齢化に伴う老化を防ぐことにつながるかもしれない。
そこでマツダは、 東京大学との産学協同研究 によって、MTと老化防止の研究も行っている。特に脳の老化は、クルマの運転にとって最大の障壁だが、これを運転によって防ごうとする考え方だ。
老化を抑える日常的な対策として、料理、編み物、楽器演奏、絵を描く、園芸などが挙げられる。これらも練習や上達を伴う技術だから、MTの操作に通じているだろう。
マツダが研究する通り、MTの操作が老化防止に効果的だとすれば、MT車は中高年齢層に適したトランスミッションともいえそうだ。
老化が抑えられ、メカニズム的にもペダルの踏み間違いに基づく急発進事故を防ぐ効果が期待される。
急発進事故の防止には、緊急自動ブレーキなどの安全装備が効果的とされるが、すべての事故を防げるわけではない。複数の対策を講じることが大切で、MTもその手段になり得るだろう。
実現のためには、MT車の選択肢を増やすことも求められる。過去を振り返ると、1980年代の中盤はMTとATの新車販売における販売比率が約50%程度だったが、1990年頃にはATが72.5%に増えてAT限定免許も創設された。これが普及を加速させ、2000年頃にはAT比率が92.1%に達した。
背景にはMTを採用する車種が急減したこともある。AT車の売れ行きが増えて限定免許まで創設されると、1990年代にミニバンの車種数が充実した影響もあり、メーカーはMTを選べる車種を一気に減らした。
クルマ好きのMT派ユーザーを取り込みたい!
マツダがMTに力を入れる背景にも、この市場動向があるだろう。MTを用意すれば、クルマ好きのMT派ユーザーを取り込めるからだ。ホンダシビックでも、6速MTがセールスポイントになっている。
従来のMTは、時代遅れのメカニズムとされた。ATであればドライバーがギヤチェンジから開放され、ハンドル操作に専念できるため、快適性だけでなく安全性も高まるといわれた。
今のATならパドルシフトを使ったマニュアル変速も可能だから、速さという意味でもわざわざMTを選ぶメリットは薄れている。
しかし、クルマの価値観とニーズは常に変化する。クルマは簡単に、便利に使えることを追求しながら進化してきたが、最近は安全面を中心にその限界が見え始めた。
クルマが100年に一度の変革期を迎える今だからこそ、MTに新しい役割が求められているのかもしれない。
※参考/MTが用意されている主な日本車(マツダ車以外)
●トヨタ
86、カローラアクシオ/フィールダー、カローラスポーツ、ヴィッツGR/GRスポーツ
●日産
フェアレディZ、ノートNISMO S、マーチNISMO S
●ホンダ
シビックタイプR、シビックハッチバック、フィット13G F、フィットRSホンダセンシング、S660
●スバル
WRX STI、BRZ
●ダイハツ
コペン
●スズキ
ワゴンR FA、アルトF&ワークス、ハスラー、スイフト&スイフトスポーツ、ジムニー&ジムニーシエラ
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