車の最新技術 [2023.06.09 UP]
CJPT第二章へのスタートか?【池田直渡】
文●池田直渡 写真●トヨタ、池田直渡
【あの頃、あの車】39年前に発売したMR2ってどんなクルマだった?
先週の記事では、商用車の大再編のニュースの解説記事を書いた。親会社トヨタと子会社日野、親会社ダイムラートラックと子会社三菱ふそうという2つの商用車グループの大規模提携である。
ではその流れはどこへ向かうのだろうか? という予測を続編として考えていこう。
さて、大再編の根底にあるのは、ユーロ7を筆頭とする環境規制への対応である。それをクリアしていくためにはBEVとFCEVの2本立ての技術が必要になってくる。近距離輸送でダウンタイム(クルマが走れない時間)が設定できる運用ならばBEVが使えるが、航続距離が求められる長距離輸送や24時間運用が求められるケースにはFCEVの方が圧倒的に適性がある。しかしながらそれらを同時に開発し、厳格過ぎるユーロ7に対応していく巨額のコストを負担していくには、もう合従連衝(注:状況に応じて各勢力が結び、また離れるさま)するしかない。ユーロ7の項目のいくつかは測定手段すら確立していない規制が含まれているなど、規制される側からすればそれは「一体どうしろと言うのか?」というものだ。
この辺りの話は、すでにトヨタ、いすゞ、ダイハツ、スズキが提携して設立した新会社「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」が中心になって実証試験を回していくことが発表されている。
CJPTのプロジェクトは、車両とインフラを特定区間ごとに同時に構築していく戦略だ。と言ってもわかりにくいと思うので、もう少し解説を加えよう。
東京と福島の物流を考えた時、その輸送は3つの段階に分解できる。考え方としては「幹と枝と葉」だ。まずは「幹」となる東京と福島高速道路輸送の両端に置かれるゲートウェイターミナルをFCEVの大型トラックで結ぶ。これは定期運行なので、両端のゲートウェイターミナルにさえ水素ステーションを用意すれば、運用可能だ。
FCEVの大型トラックが活躍するのは都市間の長距離輸送
次が、「枝」となる福島のゲートウェイターミナルから、地域ターミナルまでの輸送。仮に福島のゲートウェイターミナルが常磐道の双葉町や浪江町あたりだとすると、そこから海岸沿いの相馬やいわきあたりまでの中距離輸送なら、BEVの小型トラック(2トン)で運用できるが、標高が高く距離が長い会津方面とかになれば、FCEVの小型トラックが必要になる。
そして「葉」に当たる地域ターミナルから、各店舗や家庭へのラストワンマイルはトヨタ、ダイハツ、スズキのBEV軽トラで運ぶ。
スズキ、ダイハツ、トヨタが共同開発している商用軽バン電気自動車。輸送の「ラストワンマイル」を担当する
ゲートウェイターミナル間の輸送は24時間休みなく行われるからダウンタイムの不要な水素で、中距離と短距離の輸送は一般に夜間は動かないので、充電のためのダウンタイムがあっても構わないのでBEVで行ける。
つまり幹はFCEV、枝は条件によってBEVとFCEVを使い分け、葉はBEV軽トラと適材適所で構築される「脱化石燃料」を目標にしたカーボンニュートラルネットワークになる予定で、これはすでに実証実験が始まっているのだ。
このプロジェクトのユニークな点は、水素インフラの設置場所が、長距離輸送の両端のみと最低限で済むことだ。幹でも枝でも、FCEVの車両は全て必ずゲートウェイターミナルを経由して運行され、しかもこれによって、確実に一定量の水素消費が発生するので、水素の定期需要が増加し、水素製造に対する量的コスト的見積もりが運任せではなくなる。水素インフラを構築する上でなんとかバランスを取らなくてはならない「作る・運ぶ・使う」がセットで計画できる。
東京-福島のこの仕組みを「原単位」として、次は東京-愛知、福島-宮城、愛知-大阪と広げていけば、やがて日本全部をネットワークする水素供給網が広がり、乗用車はこの商用ネットワークに相乗りすることで水素インフラを享受できることになるはずだ。
川崎重工が展示した液体水素の輸送コンテナ
仮に乗用車を前提としてインフラ網を構築していたら、いきなり全国で一斉に充実させないと成立しないが、原単位をコピペしていく方式の商用ネットワークの成長をみながら、自分の使用エリアがカバーできていると思えるタイミングで、乗用車オーナーが適宜判断すれば良い。
水素の使い方としては、FCEVの他に、内燃機関の燃料とする水素エンジン車の研究開発も行われている
CJPTのもうひとつの取り組みは商用車輸送の効率化で、これは荷主のデータを吸い上げて、DXによりトラックの輸送効率を向上させる計画だ。トラックの積載効率は50%と言われており、それはつまり行きは満載だが帰りは空荷だと言うこと。これに対して仮に帰り便に半分だけでも荷物が積めたら物流全体としては大改善になり、当然輸送効率が上がって、CO2は大幅に削減されることになる。これが商用車のコネクテッドの目的である。荷主から集荷の依頼があった時、類似方面への帰り便をアサインすることができれば、良いのだが、そのためには可能な限り多くのトラックの運行予定がオンラインで結ばれていなければならない。
という話をしてようやく、ダイムラートラックと三菱ふそうの狙いの話ができる。先ほど「可能な限り多くのトラックの運行予定」と書いた通り、順列組み合わせが多ければ多いほど、条件の合致するケースは増える。となれば、おそらく三菱ふそうは、近くCJPTのアライアンスに合流するのではないかと考えることに不思議はない。
あらかじめお断りしておくがここは、まだ具体的な発表があるものではない。あくまでも提携の流れというファクトを元にした推測に過ぎないことをご理解いただきたい。
さて、ではダイムラートラックにとってはどうなのか? 普通に考えて、彼らはこのCJPTの取り組みをすでに知っている。子会社の三菱ふそうをCJPTに加入させつつ、おそらくはCJPTの手を借りながら、欧州に原単位方式をコピペしながら水素インフラの普及を進めて行くつもりだと筆者は考えている。どの地域であっても、水素インフラの構築が簡単ではないのは同じである。結局「作る・運ぶ・使う」をバランスよく、かつ手に負える規模で始めて行くより他に方法はない。少なくとも筆者はこれほど現実的なプランを他に見たことがない。
商用車の大規模再編は、実はエネルギー再編への序章だったのではないかと筆者は考えているのだ。
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