車両火災の原因はさまざま
海外事例として、EVが燃えてしまうショッキングな映像や画像がニュースで流れることがある。国や地域の警察当局や、事故調査委員会などによる事故報告がなされる場合もある。
開発競争が激烈! 電気自動車用リチウムイオン・バッテリー:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第11回
燃焼した原因はさまざま考えられる。たとえば、クルマ同士または自損事故によって外部から大きな衝撃がクルマに加わったことによるもの。
近年、EVに限らず衝突安全技術が進歩し、また電池パックへの外部からの衝撃に対しても、設計および製造時に自動車メーカーは最大限の注意を払っていることに間違いはない。それでも、衝撃が極めて激しければ、どのようなパワートレイン搭載車であっても、車両火災の可能性はゼロとはいい切れないだろう。
筆者はこれまで、さまざまな国や地域でEVに関する基礎実験や実証試験、そして量産にいたるまでの過程を現場で取材してきた。それと平行して、EVに搭載する各種バッテリーの製造メーカーの研究開発や製造工程も詳しく見てきた。
そうしたなかで、現在EVの主流となっているリチウムイオン電池について、内部短絡と呼ばれる現象などによって電池が発火する実験についても立ち会っている。
また、車載電池に関する国際カンファレンスも数多く取材してきたが、リチウムイオン電池研究の権威らは「燃えないようにするため、電池をどう管理するかが重要」という表現を使っていたことを思い出す。
この「どう管理するか」は、さまざまな視点で捉えることができる。
全固体電池は燃えにくいだけで燃えないわけではない
ひとつは、電池をどう設計するかだ。リチウムイオン電池にも正極・負極・セパレータ・電解質などで多様な組み合わせが考えられる。
近年、自動車メーカー各社でも量産化に向けた開発が急ピッチで進む、全固体電池があるが、各社の電池開発関係者らは発火の可能性について、電解質が固体になっても燃えにくいだけで燃えないとはいい切れないという。全固体電池になっても、発火の抑制をどう管理するかが重要なのだ。
次に製造過程についてだ。製造の効率を上げることと、発火などが起こらないための安全性を担保することを両立させなければならない。
あわせて、製造工程で人のミスによって電池に異様な衝撃が加わらないようにするための、製造ラインの設計や安全第一を作業する人たちに徹底してもらうための業務管理体制の確立などが必須だ。
また、電池の温度管理など車載制御機能の適正化も重要となる。近年は、SDB(ソフトウェア・デファインド・ヴィークル)という表現がよく使われるようになり、車載制御システムの統合化か、外部との通信機能の強化などの議論が活発になっているところだ。そのなかで、車載バッテリーの安全性を上げる工夫も考えられる。
そして、外部からの充電については、技術的には高出力化が進んでいるほか、EVから外部への給電機能も併用する、電力マネージメントシステムで新サービスの議論が進んでいる。
ここでも、EV単体のみならず、電力システム全体での安全性の確保の重要性がさらに増すことになるだろう。
2030年代のEV本格普及期に向けて、EVの安全性に対する各方面の努力は着実に進んでいるものと考えられる。
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