ロールスロイス ファントム ドロップヘッドクーペは2007年のデトロイトモーターショーでデビューしている。4ドアセダンである「ファントムの流れ」を汲むオープンモデルはどんなクルマなのか。英国流の超高級コンバーチブルはどんな味わいを持っているのか。ここではイタリアで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年8月号より)
ロールスロイスにとって日本は重要な市場
これまで、数多くの試乗会に出かけて行ったが、実はロールスロイスほどの高級ブランドのそれに参加するのは初めてだった。参加する人間(私のこと)は、高級ではないために、何らか違和感が生じるのではないかと、少々心配だった。試乗会場のイタリアへと向かう航空機の中では、ワイングラスを片手に「うーん、高級とはなんだ」などと一応は考えもしたが、あっという間に寝入ってしまうという体たらくであった。
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そんなわけで「高級」についての結論など出るわけもなく、ふと気が付けばローマのフィウミチーノ空港に着いていた。「ふつう」であれば、ここから試乗会場まではバスで向かうことになる。しかし、違った。そこにはなんと、ファントムが待機していたのだ。そして、試乗会場への2時間ほどの間に、さっそく未知の世界を知ることになる。
訊けばショーファー氏は10年ほど前まで、BTCC(英のツーリングカーレース)に出場していたという。ロールスロイス社の社員ではない。こうしたクルマのドライブを請け負う専門会社に属するのだそうだ。そして、そのドライビングが感動ものだった。とにかく乗員にストレスを与えない。クルマのあらゆる動きが非常にスムーズであるがゆえだろう。
また、法定速度を遵守するのは言うまでもなく、絶対的なスピードは出ていないのだが、なぜか速いと感じさせる。さらに驚くのは隊列走行の巧みさ、他車が間に入り込んだりしても、まったく動じることなくスムーズな運転を続け、どういうわけか、さりげなく隊列がまた整うのだ。急な加速をして、開いてしまった距離を詰めるなどということはしない。どういうわけか、本当に自然に、もとの隊列に戻るのだ。
ファントムのリアシートに収まり、これだけ長い間インプレッションを取れたことは非常に貴重な体験だった。しかも、ショーファー氏は超一流である。乗り心地には「しっかり感」があって、ふわふわと浮ついたところはない。この辺りはBMW流と言えるだろう。なかなかよい。
さて、試乗会場となったのは、ローマから120マイルほど北、トスカーナ地方にあるリゾートホテルだ。到着は夕方だったので、辺りの景色はよくわからなかったのだが、翌朝、目覚めて窓から外を見ると、そこは美しい丘陵地帯だった。
ホテルの庭先にはすでに10台ほどのドロップヘッドクーペが並んでいたが、試乗の前にプレゼンテーションがあった。それによると日本は、ロールスロイスにとってかなり重要な市場であることがわかる。2006年の世界販売は805台、そのうちおよそ半分がアメリカでもちろんトップ、2位は本国イギリス、3位が中国で、4位が日本となる。ちなみに、JAIAの発表によると2006年の日本での販売台数は54台だ。
また、日本でロールスロイスの販売を手がけるコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドは、アメリカのビバリーヒルズと並んで世界一のディーラーなのだそうだ。
ところで以前から話が出ていたが、今回のプレゼンでも明らかにされたのが「スモール・ロールスロイス」の存在である。2009年に市場投入する予定で、着々とプログラムは進んでいるそうだ。ただ、「スモール」とは言っても、価格は20万ユーロ級だそうで、ベントレーのコンチネンタルシリーズほどのお手頃(?)感はないようだ。ただ、次期BMW7シリーズと共有する部分はあるはずで、それがどういうレベルになるかということには非常に興味が湧く。
ロールスロイスなりの「駆けぬける歓び」がある
「高級とは何か」を考える旅は佳境を迎える。いよいよドロップヘッドクーペとのご対面だ。とにかく大きいというのが第一印象だ。ファントムよりは20cmほど短いとは言え、それでも全長は5m60cmもある。メルセデスSクラスやBMW7シリーズより、およそ50cmは長い。そして、幅はほぼ2m。これを真上から見た場合、その面積はおよそ6.7畳ということになる。
そのスタイリングは、4ドアセダンであるファントムの流れを汲むものだが、チーフ・デザイナーのイアン・キャメロンは「単にファントムのルーフを取るだけでも素晴らしいコンバーチブルになったはずです。でも、それでは完璧と呼べるものにはならかったでしょう。ドロップヘッドクーペの開発は、コンバーチブルというモデルの本質、とりわけロールスロイスにとってどんな意味を持っているのかということを考えるいい機会になりました」と言う。
それは具体的にどういうことかと言うと、ドロップヘッドクーペのエクステリアパネルは、ファントムのスタイルを継承しつつも、すべて新たに開発されたものなのだ。ファントムより20cm短くなっているので、各パネルの造形を微妙に調整しないと、プロポーションが崩れてしまうというわけだ。
また、コーチドア(前方が開く)を採用したことで、クラシックなスポーツカーイメージを醸し出すことに成功している。このコーチドアの採用は実利も大きい。後席の乗り降りがしやすく、また、Aピラーを一体成型することで、剛性を大きく高めることができたという。
キャビンに乗り込み、インパネまわりを見渡すと、その細部にいたるまでのクオリティの高さには、ため息が出る。真正面を見ると、タコメーターがないことに気づく。3連メーターは、右から、フュエル&水温メーター、スピードメーター、そして、走行時、その出力にどのくらいの余裕があるかを示すパワーリザーブメーターが並ぶ。
イグニッションキーをオンにして、エンジンスタートする前には、BMW7シリーズと同じ「ポーン、ポーン」という電子音がする。これはファントムもそうだが、あえてBMWと同じにしているようだ。エンジン始動を知らせるメッセージ音として、これがベストという判断なのだろう。
ソフトトップを付けた状態で走り出すと、まず感じるのが非常に静かなことだ。ソフトトップの内側は、非常になめらかでありながら、しっかりした材質の布で覆われていることもあり、ハードトップと何ら印象は変わらない。これだけ質の高いソフトトップを味わったのは初めてだ。
試乗車はオプションの21インチ、GYのランフラットタイヤを装着していたが、ステアリングフィールは想像していたより「緩い」感じだった。前日のファントム後席試乗、およびファントムよりホイールベースが短いスポーツモデルであるということから想像したものより、全般にソフトなフィーリングだった。
ただ試乗を進めるうちに、このちょっと「緩い」感じが、ボディサイズや重量、またそもそもコンバーチブルであるということなどから考えると、非常にバランスがいいものだと感じられるようになった。「飛ばす」クルマではないのだが、別の種類の「駆けぬける歓び」があるのだ。これは「高級のあり方のひとつ」ではないかと、納得できるものだった。
さて「高級とは何か」などと、半ばジョークで大上段に構えて試乗に臨んだが、本物のそれは「さりげないもの」なのだなと、ファントムの後席で、またドロップヘッドクーペの運転席で感じた。さりげなければさりげないほど価値がある。それは金満の「ニセの高級感」とは対極にある。イギリスの高級ブランドとは大したものだと、改めて感じた。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2007年8月号より)
ロールスロイス ファントム ドロップヘッドクーペ主要諸元
●全長×全幅×全高:5609×1987×1581mm
●ホイールベース:3320mm
●車両重量:2620kg (DIN)
●エンジン:V12DOHC
●排気量:6749cc
●最高出力:460ps/5350rpm
●最大トルク:720Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:240km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:5.9秒
※欧州仕様
[ アルバム : ロールスロイス ファントム ドロップヘッドクーペ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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