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運転は驚くほどシンプル AECリージェントI 486へ試乗 1931年式ロンドンバスを修復

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運転は驚くほどシンプル AECリージェントI 486へ試乗 1931年式ロンドンバスを修復

自家用車が普及する前の移動手段

90年前、毎日の通勤をアシストしてきた1台のロンドンバス。ところが、耐用年数を迎える前に現役を引退。戦後は、スクラップ置き場に放置されたらしい。幸いにも、破壊は免れたが。

【画像】レストアで復活したロンドンバス AECリージェントI 486 同年代のクラシックと比較 全100枚

グレートブリテン島の西部、ヘレフォードシャーで住宅として使われているのが発見されたのは1969年だった。ロンドンバスの保存協会が買取り、レストアに挑むものの断念。2012年に再開されるが、交換用エンジンの費用が高すぎ2018年に再び滞った。

しかし保存協会は諦めることなく、2022年6月にメカニズムのリビルドを完遂。1931年12月4日にバーミンガムで任務を開始したAECリージェントI 486は新車のような姿に復元され、公道を走れるまでになった。

レストアは、バーミンガム都市交通の前身、バーミンガム・コーポレーション・トラムウェイ&オムニバス社によって委託された、60のプロジェクトのうちの1つ。現在はワイサル交通博物館に所蔵されているが、今回は特別に試乗が許された。

自家用車が今のように普及する前、祖父や祖母はこんなバスへ毎日のように乗っていた。当時、リージェントI並みに市街地を快適に移動できる乗り物はなかったといっていい。

このリージェントI 486は初期の金属フレームを備える、貴重な1台に当たる。ボディトリムにはクロームメッキが施され、ウッドパネルには分厚くニスが塗られ、ボディパネルは美しくカーブを描く。フロントガラスはチェーンで上部が開閉する。

エンジンはリージェントの7.4L 直列6気筒

オリジナルのリージェントI 486には、6.1L直列6気筒のエース社製ガソリンエンジンがボンネット内に搭載されていた。豊かなトルクで、石畳の敷かれた道を週に約1300km走っていた。

しかし就航から6年後の1937年、早々に現役を引退。5.0L 5気筒のガードナー社製ディーゼルエンジンを搭載した、デイムラーのバスへ交代している。

現在は、リージェント用の7.4L 直列6気筒エンジンが搭載されている。オリジナルの6.1Lユニットは、もはやどこに消えたのかわかっていない。燃費は3.2km/Lということで、現在のディーゼルエンジンを載せたバスよりだいぶ良い。

先日といってもだいぶ前だが、レストアを終えたバスの除幕式があった。筆者も、バーミンガムの市街地で行われた試乗会へ招いていただいた。

当然のように、足は自然と階段へ向かった。2階へ登り最前列のシートへ陣取った。シートは肉厚でスプリングが効いていて、レザーで仕立てられていた。クロームメッキで上等に仕立てられた車内から、気持ちよく周囲のクルマを見下ろせる。

ダーク・ブルーとクリーム・イエローのツートーンで仕上げられた2階建てバスが、21世紀の交通をすり抜ける。当時の喫煙者は、揺られながらシートの目の前にある灰皿へ、吸い殻を擦りつけていたのだろう。

停車ボタンへ指を伸ばし、次のバス停で降りる意思を伝える。階段の下り口では、車掌が手を伸ばし料金を求める。スタイルだけ。本当は運転してみたい。

紆余曲折のレストア費用は約8300万円

博物館へ戻ると、リージェントIを運転してみないかと提案してただいた。レストアに50万ポンド(約8300万円)の費用が掛かった、貴重なクラシックカーを。

重心位置はかなり高そうだ。運転席は狭く、大人1名ぶんのスペースしかない。責任は重大だが、もちろん喜んでお誘いを受けることにした。基本的にはクルマの1つだ。

運転を指導してくれたのは、博物館のボランティア・チームの支援を受けながらレストアを率いた、ロブ・ハンドフォード氏。ロンドンバスの愛好家が発見し、メタルフレームの貴重な例が復活するまでの思い出を交えながら。

修復作業は紆余曲折を経ながらも進まず、やむなく1973年にハンドフォードがバスを買い取った。レストア・プロジェクトをバーミンガムで立ち上げたという。

1978年に、ワイサル交通博物館へ老朽化した状態でバスは届けられるが、2012年までは資金難でカバーが掛けられた状態だった。費用のめどが立つと、ボディとシャシーはロンドンの南、ドーキングを拠点にする職人のイアン・バレット氏へ託された。

彼はオリジナルの原寸大図面を偶然発見。それ以降は比較的順調に進み、2018年におおかたの作業は仕上がった。だが、肝心のエンジンがまだった。

「メカニズムのリビルドは、別の会社へお願いしていたんです。ところがエンジンは磨かれ、塗装されただけでした」。ハンドフォードが振り返る。

高級車のような風情の運転席

「コンロッドを支える、ビッグエンド・ベアリングが壊れていました。冷却系は詰まっていて、最終的に165か所の不具合があったんですよ。リビルドにはかなりの費用が掛かりましたが、ボディとシャシーは見事に仕上がっていたので、断念できませんでした」

彼はボンネットを持ち上げて、真新しいエンジンを見せてくれた。ボディのディティールにも見入ってしまう。フロントガラスを固定するボルトが、一列にピシッと並んでいる。

塗装だけでなく、ボディサイドのレタリングとストライプも完璧。モケット張りの運転席は、高級車のような風情がある。

ハンドフォードは、この水準の修復技術を持つ職人が減っていることへ、危機感を抱いている。「エンジンをリビルドした人はCOVID-19の流行で仕事が減り、そのまま引退してしまいました。彼にはスタッフがおらず、貴重な技術が失われたんです」

高い位置の運転席へ、ハンドブレーキ・レバーやシフトノブへ傷をつけないよう、慎重に乗り込む。「クラッチを切って2速へ入れて、ブレーキペダルを踏みながらハンドブレーキを解除します」。ハンドフォードが外で説明してくれる。

「少しアクセルペダルを倒せば発進できますよ」。約6.3tの重さがあるバスが、ガイドなしに駐車場から出発した。リージェントIは4速マニュアルを介して、リアタイヤを駆動する。滑らかな変速をするには、ダブルクラッチが欠かせない。

驚くほどシンプルに運転できたロンドンバス

10km/hを過ぎた当たりで、ギアを1段あげる。そのまま4速へシフトアップしても走れる。最高時速は64km/hしか出ない。

運転は驚くほどシンプルだった。メーターはスピードと油圧、水温のみ。ステアリングホイールは、新しいロンドンバスのロンドンアイより少し小さい。パワーアシストはないが、問題なく回せる。

7.4Lエンジンの豊かなトルクで、スムーズに速度が高まる。ただし、年代物のクルマらしくブレーキは効かない。早めのアクセルオフが重要だ。クラッチペダルを踏み込むと、トランスミッション側にもあるブレーキが効き制動力が高まる。

あっという間にリージェントIへの試乗は終了。90年前にバーミンガムの石畳を走らせていた運転手へ、敬意を抱くような体験だった。もし機会があれば、ワイサル交通博物館を1度訪ねてみて欲しい。最高の職人技を間近に確認できるだろう。

AECリージェントI 486(英国仕様)のスペック

英国価格:−
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:64km/h
0-100km/h加速:−
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:約6300kg
パワートレイン:直列6気筒6120cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:96ps
最大トルク:−
ギアボックス:4速マニュアル

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みんなのコメント

1件
  • こういう昔の物にはキズや汚れ一つにも浪漫を感じる。
    灰皿が汚れていれば「90年前に吸った人のかな?」とか。
    きっともう生きていないであろう人の痕跡って面白いなと思うけど、このバスの経緯を読むにそういう痕跡は無くなってるかもね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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