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世界に2台しか存在しない「ポルシェ 993 スピードスター」の謎

Porsche 993 Speedster / 991 Speedster

ポルシェ 993 スピードスター/991 スピードスター

世界に2台しか存在しない「ポルシェ 993 スピードスター」の謎

ポルシェ・ミュージアムの屋上に並べられた2台のスピードスター

ドイツ・ツッフェンハウゼンのポルシェ・ミュージアムの屋上に、2台のスピードスターが並べられた。1台は素晴らしい歴史を持ち、もう1台はこの歴史をさらに繋げていくことになる。

誰かがあなたに「タイプ993の911 スピードスターが新発見され、それは正真正銘のホンモノだった」と伝えたらどう思うだろうか? 「偽物だろう?」と考えても仕方ない。それほどまでに最後の空冷911のスピードスターは希少価値がある。実際、クーペモデルから新たに作られたレプリカである可能性が高い。

タイプ993のスピードスターは、2台のみが製造されている。1台は売却された。そしてもう1台はプレゼントされたものの、”貸与”という形でミュージアムに戻った。今日、このスピードスターの価値は計り知れないものがあり、割れやすい卵のように大切に管理されている。撮影は特別な場合にのみ許可される上、その場所も制限される。

今回もポルシェ・ミュージアムの屋上においてのみという約束で、撮影が許されることになった。

Porsche 356 America Roadster

ポルシェ 356 アメリカ ロードスター

ドライビングプレジャーに特化した軽量オープン

スピードスターは、ポルシェにとって非常に重要なモデルと言える。スポーツカーメーカーの中核をなすブランド価値を、これほど純粋に反映したモデルはほとんどないからだ。運転する楽しさと優れたドライビングダイナミクスに加えて、コンパクトなフロントガラスと必要最小限の装備を備えたオープンエア、それがスピードスターである。

スピードスターの起源は、オーストリア・グミュントで製造された最初のポルシェ「356 “No.1” ロードスター」にある。そして、現代に続く“スピードスター”の特徴を持って製造されたのが、1952年に登場した「356 アメリカ ロードスター」。簡易的な折りたたみ式ソフトトップドア用のはめ込み式ウインドウ、軽量バケットシートを備えたこのスポーツカーは、レースに夢中なアメリカのマーケットに向けて特別に企画された。356 クーペよりも60kgも重量が軽く、21台のみが製造されている。

1954年秋には限られた機能とソフトトップを備え、はるかに安価な後継モデル「356 スピードスター」がデビューした。

ボディはアルミからより安価なスチール製ボディに変更。アメリカにおいて2995ドルという非常にリーズナブルなプライスタグがつけられたことにより、爆発的なヒットを記録している。そして、1957年には「356A 1500 GS カレラGT スピードスター」がデビュー。このモデルは、ポルシェの生産モデルとして初めて、最高速度200km/hを突破した。

Porsche 993 Speedster

ポルシェ 993 スピードスター

フェルディナント・アレクサンダーの誕生日にワンオフで製作

時は流れて、1995年12月11日。フェルディナント・アレクサンダー(F.A.)・ポルシェの60歳の誕生日に、特別なプレゼントが企画された。フェリー・ポルシェの長男であり、911のデザイナーとして知られているF.A.のためにワンオフで製造されたのが、グリーンの993 スピードスターだった。

911(タイプ993) カレラ2 カブリオレをベースに、964 スピードスターのフラットなウインドスクリーンが取り付けられ、その特徴的なリヤセクションのデザインも964からデザインを引き継いでいる。ティプトロニックトランスミッション、RSシートを含むダークブラウンレザーのインテリア、美しいウッドトリム、ソフトトップ収納のコンパートメント下には、特別な収納スペースが誂えられた。

F. A.は、このスペシャルなプレゼントにたいへんな喜びようだったという。ごく稀にだが、自身がステアリングを握ってドライブもした。その走行距離は2000km以下に留まっている。

Porsche 997 Speedster

ポルシェ 997 スピードスター

その豪華さゆえに議論を呼んだタイプ997 ロードスター

ポルシェのスピードスターの歴史は続く。 2010年、タイプ997に登場したスピードスターは、初代にちなんで365台限定で登場した。ターボ仕様のボディをベースにスピードスター化され、最高出力408psを発揮する3.8リッターの水平対向6気筒自然吸気ユニットを搭載している。

タイプ997 スピードスターには豪華な装備が与えられており、それが議論を呼ぶことになった。多くのポルシェ・ファンたちは伝統に反していると感じたのだ。“スピードスター”を名乗るのであれば、もっとピュアで荒々しい、操る喜びに徹したモデルでなくてはならない。一度でもステアリングを握れば、誰もが忘れることのできない存在であって欲しいと。この難しい課題を前に、ヴァイザッハの開発部門は独自のアプローチで挑むことになった。

Porsche 991 Speedster

ポルシェ 991 スピードスター

ポルシェ創立70周年に登場したタイプ991スピードスター

1948年6月8日に登録された「356 “No.1” ロードスター」から70年となる、2018年6月に開催されたポルシェ・スポーツカー70周年イベント(70 Years of Porsche Sports Cars)において、「911 スピードスターコンセプト」が発表された。そして、2019年5月には生産仕様が公開されている。

ベースとなったのは2016年型(タイプ991)911 Rと911 GT3で、最高出力510ps&最大トルク470Nmを発揮する911 GT3の4.0リッター水平対向6気筒自然吸気ユニットを搭載。ギヤボックスはシフトダウン時のブリッピング機能を備える6速マニュアルトランスミッションが組み合わせられた。0-100km/h加速は4.0秒、0-400m加速は11.9秒、最高速度は310km/hというスペックを誇る。

低く構えたウインドシールドと小型化されたサイドウインドウに、964 スピードスターから続くダブルバブルリヤカバーを装備。ソフトトップは軽量小型化され、ロックを解除することで簡単に手動開閉することができる。そして「356 “No.1” ロードスター」がデビューした1948年にちなみ、1948台が限定生産される。

アメリカのコメディスターが注文した2台目の993スピードスター

さて、このストーリーの冒頭で、タイプ993のスピードスターは2台存在すると書いたことを覚えているだろうか。1台はフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェの60歳の誕生日に贈られた個体。それではもう1台は?

ひとりの有名なポルシェ・マニアがアメリカにいる。彼の名前はジェリー・サインフェルド。そう、1989年から1998年まで放送されたコメディドラマ「となりのサインフェルド(Seinfeld)」の主人公を務めた、その人である。彼は貴重なポルシェのコレクションを所有している。

1998年、サインフェルドはシルバーの911 カレラ4S カブリオレをオーダーした。その2年後、彼はお気に入りのタイプ993を大西洋を越えてポルシェへと送り返し、「“本物”のスピードスターに換装してほしい」とリクエストした。ポルシェは、彼の強い想いに応えてみせる。2001年10月、完成した993 スピードスターが再びアメリカのサインフェルドの元へと搬送された。2台目となる“本物”の993 スピードスターがここに誕生したのである。

そう、だからこそ、もし誰かが今回紹介した2台以外に993 スピードスターが存在し、それが「本物」だと断言したら、まずは疑ってみなければならないのだ。

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