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ほぼ同一条件も命運がわかれたSTANLEYとARTA。それぞれのエンジニアの”真逆の狙い”【第4戦もてぎGT500決勝】

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ほぼ同一条件も命運がわかれたSTANLEYとARTA。それぞれのエンジニアの”真逆の狙い”【第4戦もてぎGT500決勝】

 第3戦鈴鹿の開催延期により、約2カ月間のインターバルを経て開催された2021年のスーパーGT第4戦は、ディフェンディングチャンピオンの1号車STANLEY NSX-GTが貫禄のポール・トゥ・ウインを飾る結果となった。その一方で、決勝は5位に喰い込んだものの、サクセスウエイト(旧称:ウエイトハンデ)を22kgを積む1号車に対し、さらに軽い14kgの条件でこのラウンドに臨んだ8号車ARTA NSX-GTは、戦前には本命視されながら予選Q1脱落というまさかの展開に苦しんだ。

 同じ車種、同じタイヤ銘柄でも、300km先を見据えた勝負にはあらゆるアプローチが存在する。そのことを端的に表す週末となった今回。2021年に挑む両チームのエンジニアに話を聞くと、その考え方に“真逆の狙い”があることが見えてきた。

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 そのクルマ作りの差異を簡潔にまとめれば『予選順位向上で決勝の戦いやすさを狙う1号車』に対し『アベレージの良さを武器に予選1発を課題とする8号車』の図式になるだろうか。

 規定変更でFR化された2020年から、8号車ARTAのエンジニアリングを担当することになったライアン・ディングル氏は「最初から『ロングに強いクルマを作ろう』って、去年の始めからやってきた」と語り、この2年目にも継続されるクルマ作りの狙いを説明する。

「でも去年は結果的に1発が良く出せて、今年はその逆(笑)。去年のラウンド7はここ調子が良かった(予選2番手から優勝)から、今回もそれをベースにターゲット設定したんだけど、そこは周りとのコンペティション。他車がよりアグレッシブなセットアップに行ったんじゃないの? っていう風には考えてて。結果的にはちょっと決勝向きのセットをしすぎたかな」

 MR時代を含むかつての8号車は、エース野尻智紀の純粋なスピードも含めて予選アタックに秀でる“スティフ”な印象さえ漂っていたが「少し昔にそういうイメージはあったかもしれないけど、今はそうではないよね。去年ちょうど車両も変わってて、基本の考え方も僕の考え方に変わって、結構違うセットアップになって。僕の考え方とか野尻とも細かく詰めて仕上げてるんで、ガチガチに硬いクルマではない」と、現在のARTA NSX-GTは徹底したロングラン重視という。

 今季第2戦富士では500kmのレースディスタンス中に、路面温度が10℃以上も変化(低下)するなか3スティントを1スペックのタイヤで走り切り、ホンダのGT500開発を率いる佐伯昌浩LPLをして「それがベスト(な選択)かどうかは置くとして、NSX勢では8号車がどのスティントでもアベレージが良かった」との評価も得た。

 今回の予選は「開幕岡山と似たようなパターン」で選択したタイヤのウォームアップが早く、先行して基準タイムを出しながらもQ1突破ならず。しかし決勝重視の方向性を持つクルマでも「1発を出す方法はあると思う」と、成功例である富士をヒントに予選改善を今季の課題に据えている。

「そう、去年とは割と真逆の課題で、クルマのバランスを上手く使えば富士みたいに予選でも全然上手く行くと思う。(2021年仕様車は)フロント周りで軽くなってるので、バランスだけではなくてフロント周りからリヤへと繋がる動き、そこが少し変わるので、どうやって動かすのかが今年ここまでのポイントと思う」とディングル氏。

 現行規定のクルマはいわゆる“予選セット”と“決勝セット”の落差が大きく、それを「上手く掴むのは難しい」というが、それを踏まえた上で今後はやはり富士での成功例を受け予選に向けたアグレッシブなクルマ作り「乗りづらくとも、パフォーマンスを出す、ダウンフォースを出す方向のセットアップ」を全サーキットで模索する。

「やっぱりSFやGT500はエアロが重要と思うから、どうやって効かすか。そのときに4隅のどのアクスル(車軸)が硬くなってるか(がポイント)、というのはある」

■2カ月間のインターバルでHRD Sakuraが投入した新たな“タマ”

 一方、昨季まで担当した"チャンピオンエンジニア"の伊与木仁氏を引き継ぎ、今季から100号車改め1号車のチーフエンジニアに就任した星学文氏は、このオフシーズンから「とにかく『1発の速さを出す』っていうところをいろいろトライさせてもらった」と話す。

「もともと昨季の100号車はレースの力強さはあったので、その『下から追い上げてく』ってとこに良さはあるんですけど、やっぱり予選でさらに前に行ければ、レース展開も少しラクになるんじゃないかな、っていうところが課題でした」

 星エンジニアは長年にわたり8号車のチーフを務めた当事者、まさにその人であり、MRなりのクセに対する理解とFRへの転用という部分を認識しつつ「予選1発はこういう方向で」「レースに向けてはこういう方向で」という色分けが「まだ発展段階とは思うんですけど……」と言いつつ「多少、今回は形になって来たかなとは思います」と手応えを口にする。

「当時担当させてもらってた野尻くんはよくポールを獲ってくれたんで、そういう(1発に秀でる)イメージだと思うんです。その頃でも予選とレース『どっちも上手く』ってパターンは出来てなくて、当時は僕も課題で……」と星エンジニア。

「野尻も(福住)仁嶺も1発の速さはもう誰よりも速いと思うし、ショートランでポール獲るってのは8号車にとっては今までも良く獲れて来たと思うので、あとはどうやって安定させて8号車はシリーズを戦うかってのが彼らの今の課題だと思う。ちょっと1号車とは逆の感じですよね(笑)」と、お互いに旧知のディングル氏が目指す方向性に理解を示す。

 今回のもてぎに向けては、通常の冬場は「調子良く走る」ものの、エアロの効率が相対的に落ちる夏場、高温化の環境でどれだけのパフォーマンスが出せるかに不安があったという1号車。しかしフタを開けてみれば、予想を上回る暑さにも関わらず持ち込みから大きな変更もなく「ドライバーとも焦らずにアジャストできた」ことで「予選ポールからレースを戦って、これまでより以上に戦略の幅を広くしてラクに戦えるようになる」という目論見どおりのレースウイークを過ごした。もちろん、チャンピオンのドライビングも勝利を大きく引き寄せる要因になった。

「今回みたいに(山本)尚貴はタイヤのマネジメントからバックマーカーの処理とか、やはりスキルとして改めてスゴイところがあるドライバーだな、と感じました」

 加えて、この2カ月間のインターバルでGT500開発を率いるHRD Sakuraが投入した新たな“タマ”も「効果的で大いに役立った」という。

「ホンダさんの開発領域で出来るところはとことんやってもらったので、そういうのがなかったら当然この結果には繋がってなかったと思いますし、車体側の出来る範囲の軽量化だとか、その辺も今季に向けて研究所さんが頑張ってやってくれたので」

 開幕戦岡山での厳しい結果を受け、このインターバルで「本来なら『こんな効果の小さなものは普段はやらないな』っていうモノでも、積み重ねだということでやりました(ホンダ徃西友宏氏)」というNSX-GTは、土曜公式練習から高速区間S字の進入でも鋭さを感じさせる動きを見せ、ブレーキング時のスタビリティやノーズの反応、そして脱出に向け前へ前へと出ていく高いトラクション性能を見せつけた。

「総じて今回の1号車は高速コーナー区間のセクター2などで(公式練習の)混走の時間帯でも割と速いタイムがアベレージ的に出せたかな、と。それと最終セクターですね。そこも今回はNSX、とくに1号車は予選に関しても割と良いタイムが平均的に出せてるというところで、そこが他車に対してよく仕上がっててアドバンテージがありそうでした」と、NSX-GTの車体開発を担う徃西氏。

 こうした地道な改善が車体側からのフィードバックをより的確で鮮明なものとし、その高い解像度を望むドライバーにも相乗効果として還って来た部分があるかもしれない。改めて、両エンジニアの総括を聞く。

「新しいクルマの規定になって……そういう研究所さんからの支援もあって、どういう方向性でそれぞれ『予選』『決勝』という風に作っていけば良い、っていうのが少し見えて来たような感じはありますね」(星)

「ドライバーの好みには去年より合ってると思うから。あともう1歩、2歩くらいで本当にどのサーキットでも『1発が出る、ロングもOK』みたいなことが実現する。それを見つけるまで努力、続けていきたい」(ライアン)

 これまでどおり、レギュレーションが決まっている狭い範囲の中で、セットアップ領域の重要性が高いことは明らか。昨季は17号車が先行してFR初年度の"最適解"に到達し、その効果が陣営全体に波及した実績もあった。開発側の競争と同時に「走らせる側の勝負」もまた、濃密な時間が続きそうだ。

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