BUGATTI CHIRON
ブガッティ シロン
元祖ハイパーカー、ブガッティ ヴェイロンの衝撃的な初試乗を振り返る 【Playback GENROQ 2017】
驚愕の第一印象
世界最速のロードカーとして君臨するブガッティの最新作、シロンが遂に路上に放たれた。前作のヴェイロン同様、W16クワッドターボをミッドに搭載し、1500psというパワーを実現! その異次元とも言える超高性能の世界に、スーパーカージャーナリストの西川 淳が対峙する。
「性能自慢の単なるハイパーカーではない。シロンは世界最高の乗用車でもある」
スーパーカーがそこに停まっていたとしよう。子どもたちは、どんな行動に出るだろう? しばらく手を叩いて喜ぶだろう。輝く笑顔で側にいる母親に何やら質問し、困らせるかもしれない。それにも飽きるとその子はきっと、こうする。両手でひさしを作りコクピットを覗き込んで必死で中の様子を探る。そんな時、メーターナセルの中が真っ暗だと、興ざめだ。ブガッティのデザイナーはそう考えた。
夢のクルマである。夢のある数字で子供たちにも語りかけたい。最新モデルといえば高級車やスーパーカーであっても、コストと機能性を追求し、いとも簡単にアナログメーターを捨てて液晶化を図っているがブガッティは違った。ヴェイロンの後を継いだニューモデル、シロンの速度計をアナログ表示とし、そこにフルスケール500km/hを刻んでみせたのだ。丸いメーターリングの頂点には、当然250km/h。何とも夢のある話じゃないか。
新型シロンの数ある逸話のなかで筆者が最も好きな話のひとつだ。一方、シロンは世界最高の乗用車でもある。レーシングカーのようなエアロデバイスをもつ、性能自慢の単なるミリオンハイパーカーではない。それゆえ、最早おとぎ話的な性能物語とは真逆に、機能性を最優先した物語も存在する。例えばドアハンドル。多くのクルマ好きが既に指摘している通り、シロンには把手型のドアハンドルが付いている。洗練されたスタイリングの中にあって非常にきれいな造形ではあるが、ドアハンドルはドアハンドルだ。格納型や隠し系など3億円のクルマには他にいくらでもやり方があったんじゃないか、と事情通ほど文句を並べたがる。
「ブガッティの創り出すマシンはどこまでも夢物語であり、どこまでも現実的」
もちろんブガッティのデザイナーも、その美意識からドアハンドルそのものを肯定しない。エアバッグのSRSマークのように、できればもっとリデザインできればいいと思っている。けれどもシロンにおいて把手型とすることは、必要なことだった。もちろん他のシステムを取り込む物理的スペースに制約もあったが、それよりもむしろ重要視されたのは顧客からの要望であった。ハイスピード走行を楽しんでいる最中、万が一アクシデントが起き、自力では中からドアを開けられなくなった時、できる限り早く救出されるために最大限の準備をしておいて欲しい。そのためにグラブタイプのドアアウターノブは未だ最も理想的なデザインであった。
どこまでも夢物語であり、どこまでも現実的。ブガッティの創り出すマシンにおいては、そんな背反する二軸が望んだ人すべてが求めるレベルにおいて実現されていると言っていい。つまりスーパーカーであることと超高級乗用車であることのハイレベルな両立。筆者が新型シロンのことを、ひと言で“世界最高の乗用車である”と表現する所以である。
「シロンの車名は夢と現実を織りなした空前絶後の名レーサーに由来する」
そもそもシロンという名前そのものが、夢と現実を織りなした空前絶後の名レーシングドライバーに由来するものだ。モナコ生まれのルイス・シロンは、ブガッティ史において最も成功したレーシングドライバーのひとりである。タイプ35や45といった名車を乗り継ぎ、タイプ51ではモナコGPをも制した。生粋のモナコ人がかのグランプリを制したのは、今日に至るまで後にも先にも彼ひとりだ。
それだけじゃない。シロンは最後のF1グランプリ参戦をモナコで終えたが、その時すでに56歳になろうとしていた。これもまた未だ破られていない最年長参戦記録で、今となっては何とも夢のような史実だ。シロン然り、ピエール・ヴェイロン然り、ブガッティの伝説は完璧なマシンとデザイナーやエンジニア、ドライバーを含む優れた人たちの濃密な共同作業によって紡がれてきた。
昨年春のワールドプレミア以来、待ちに待ったシロンの初試乗もまた夢のような、けれども未だ確かに身体全体が記憶する、それは体験だった。国際試乗会は、ポルトガル・リスボン郊外の小洒落たリゾートワイナリーを起点に開催された。市内からベントレー ミュルザンヌのシャトルで着いてみると、エントランスには3台のシロンが既に暖気運転を終えて並んでいる。ライトブルーとブラックカーボン、ゴールドとブラックカーボンの2台に、ブガッティラインまでブラックアウトされた漆黒のシロンの計3台。うちジャーナリスト向け試乗に供されたのは、前者2台であり、筆者にはアジア人の好みを知ってかゴールドが与えられた。
「公道限定で420km/hとなっているカタログスペックは近々で書き換えられるだろう」
通常は2人1組で、互いにナビしつつドライバー交代という形式がほとんどだが、ブガッティはそこからして違う。午前と午後に分かれてひとり1台、つまり1日4名という贅沢さ。しかも、隣でナビを務めてくれるのがアンディ・ウォレスとロリス・ビコッキというからたまらない。アンディは日本でもお馴染みのレーシングドライバーで、マカオGPやル・マン24時間レースの優勝経験もある。ロリスは1970年代にランボルギーニの開発を担ったドライバーでレース経験豊富。
面白いことにアンディはマクラーレンF1で、ロリスはケーニグセグで、それぞれ最高速度記録に挑んだ経験がある。おそらく新型シロンの最高速チャレンジも近々に行われる。そして現在、公道限定で420km/hとなっているカタログスペックが書き換えられることになろう。
最高速の話のついでに、もうひとつ面白いエピソードを披露しよう。ヴェイロンと同様にシロンにもスピードキーが備わる。通常、380km/hでリミッターが効く設定がデフォルトだが、スピードキーを使えば公道上でも理論上420km/hまでは試せる。その上を狙うためには十分な長さのテストトラックが必要で、ブガッティでは400km/hオーバークラブへ誘う顧客スペシャルプログラムも用意しているという。
「ヴェイロンとは比べ物にならないほどの静粛性」
それはさておき、面白いのはスピードキーだ。ヴェイロンの場合、それはアルミニウム削り出しの豪勢なケースのなかに仕舞われていた。シロン用はドライバーシートとドアの間に、スピードキー用の収納スペースとキーシリンダーが備わっている。前の方がもったいぶっていて良かった、とデザイナーに伝えると「失くしちゃう人が多いんだよ」と返された。本当に失くしてしまうのか、売る前にこっそり取っておこうとするのか、それは分からないけれど、これでシロン用スピードキーがネットオークションの類に出品される可能性もほぼなくなった、というべきだろう。
話をポルトガルに戻そう。筆者のパートナーはアンディだった。まずは助手席に座れという。感心したのは乗り心地の良さと走りのスムーズさで、ヴェイロンとは比べ物にならないほどの静粛性だった。軽快に飛ばすアンディの横で何ならそのまま居眠りしてもいいと思ったほど。まったく問題なくデートにも使える立派なプロムナードカーだ。
ブガッティの用意した直線のスペシャルステージでドライバー交替。シロンに一流ドライバーと共に乗るというWの緊張を覚えつつ、軽く踏む。驚くほど従順だ。踏めば踏んだだけ車体が軽くすうっと前に出る。本当に1500psのクルマか? と疑ってしまうほどの気安さ。ブレーキのタッチも右足の力の入れ方に従順で躾が行き届いている。気がつけば一般道を150km/hぐらいで流していた。コーナーでもほとんど減速しなくていい。オーバースピードではクルマが姿勢を正す。それも急に出力を落とすような、いわゆるお仕置き方式ではない。どこまでも自然。緻密で思いやりのある、素晴らしい制御だ。望めばクイックな動きで俊敏なレスポンスをみせる。前アシのさばきは、ハンドリングマシンへと変貌していたヴェイロン・スーパースポーツに比べても圧倒的に軽やか。
「一瞬で上半身がのけぞる異次元の感覚。加速フィールはまるでエンドレス・・・」
スペシャルステージに戻り、筆者もゼロ発進を試みる。ローンチコントロールもあるが、アンディ曰く、「そんなもの使わなくても十分」らしい。5つあるアダプティブシャシーモードのうちアウトバーンを選びマニュアルシフト操作で挑んだ。ただしシフトアップはクルマ任せ。しっかりと前を向きペダルを踏み込むだけ。一瞬で上半身がのけぞり、バックシートに張り付いた。直線が針のように細る。景色が流れ、溶け出した。血流がすべて、身体の後半分に張り付く。加速フィールはまるでエンドレス。加速しながら視線をメーターに向ける余裕はさすがになかったが、アンディと会話するだけの冷静さはあった。200km/hを超えると、平坦に見えた一般道も段差の連続だ。それでもシロンは四肢を路面に張り付かせ続ける。
アンディが「ブレーキ!」と叫んだ。ガツンと踏み込めばアッという間に減速し、ドライバーの気分も大波が引けたように落ち着いた。嫌な汗などまるでない。そんな信頼感の高さこそ、シロン最大の魅力であろう。シンプルなソード状ステーに並ぶ小さな計器にはからくりがあって、ワンタッチで“成績”を呼び出せる。筆者の成績は6700rpm、1475psまで使って最高速は320km/h。それを見たアンディはひと言、「悪くない」。夢と現実の織りなす3時間の経験は、こうして幕を閉じたのだった。
REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/BUGATTI AUTOMOBILES S.A.S.
【SPECIFICATIONS】
ブガッティ シロン
ボディサイズ:全長4544 全幅2038 全高1212mm
ホイールベース:2711mm
車両重量:1995kg
エンジン:W型16気筒DOHC+4ターボ
総排気量:7993cc
最高出力:1103kW(1500ps)/6700rpm
最大トルク:1600Nm(163.2kgm)/2000-6000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前420 後400mm
キャリパー:前8ピストン 後6ピストン
タイヤサイズ:前285/30ZR20 後355/25ZR21
最高速度:420km/h
0-100km/h加速:2.5秒
0-200km/h加速:6.5秒
0-300km/h加速:13.6秒
100km/h-0減速:31.3m
※GENROQ 2017年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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