バスの伝統的認識とその限界
多くのバス事業者は、バスを単なる移動支援の手段と捉えている。安全で安心な移動を提供すれば、それで役割は果たしているという考え方だ。
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だが、バスの車両は単なる移動装置ではない。
「巨大な箱」
であり、空間そのものである。人を運ぶだけで収益を上げるのはきわめて難しく、すでに限界に近い。現実として、バス会社の約96%が赤字に陥っている。
・モータリゼーションの進行
・コロナ禍
・2024年問題
これらの要因が重なり、事業の回復や収益改善は見通しにくい。
いま求められているのは、バスという「巨大な箱」を停車中でも収益源として活用する新たな方法論である。空間をどう生かすか。その発想の転換が、事業継続のカギとなる。
「巨大な箱」の多用途展開
バス車両が持つ空間的価値を、いま一度見直す必要がある。単に乗客を運ぶための大きな空間と捉えていては、応用が利かず、事業の好転も難しい。重要なのは、従来にない活用法を打ち出すことだ。
北海道の十勝バスは、車内を移動スーパーに仕立て、買い物ができる路線バスを運行している。神奈川の東急バスは、路線バスを使ってパンを運び、地元のパン屋の物流を支援している。兵庫県の全但バスや徳島の四国交通では、宅配便の荷物を路線バスで運ぶ貨客混載を実践している。
札幌観光バスは、本格的な厨房設備を備えた大型車両「クルーズキッチン」を開発。屋外レストランやウェディング、食育イベント、音楽フェス、ディナーショーなどに対応する移動型空間として活用している。
ウィラーのレストランバスは、1階が厨房、2階が食事スペースという構成の2階建てオープントップバスだ。季節の食材を使った料理を、移動しながら楽しめる仕掛けになっている。
事業主体がバス会社でなくとも、新たな可能性は広がる。例えば「サバス」のような移動式サウナバスは、サウナという全く異なる文脈での空間利用の好例である。
これらの事例は、バス車両が人を運ぶ「巨大な箱」という従来の枠を超えた多様な使い方を提示している。移動のための物理空間にとどまらず、生活者のウェルビーイング(病気でないというだけでなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であること)を高める新たな価値創出の場として、バスはまだ進化できる。
「巨大な箱」を価値に変える仕掛け
バス業界が苦境に立たされるなか、ユニークかつ多角的な展開で注目されるのが平成エンタープライズ(埼玉県志木市)である。業界関係者の間でも好事例として頻繁に名前が挙がる存在だ。
公式サイトを見ると、同社の事業はバスにとどまらない。ラウンジ、宿泊・飲食、健康・美容、不動産、旅行・観光、農業、地域創生など、多岐にわたる。企業として柔軟な発想と行動力で新たな価値を創造することを使命に掲げている。
例えば農業分野では、自社でいちご農園を運営している。そこでは寿司職人が出張し、朝に豊洲で仕入れたネタをその場でさばき、握り寿司を提供する。会場の隣のビニールハウスでは、いちご狩りも楽しめる。寿司もいちごも食べ放題という体験型ツアーだ。
平成エンタープライズの強みは、こうした独自のストーリーをもつバスツアーを設計し、顧客のウェルビーイングを高めている点にある。ただの移動ではなく、そのバスに乗らなければ体験できない価値」を生み出している。いい換えれば、
「「巨大な箱」に乗る理由」
を自ら創り出しているのだ。バスという空間の存在感を高め、体験価値と結びつけている。こうした発想の転換が、今のバス事業には欠かせない。
さらに、複数の事業領域を組み合わせることで、収益の一部をバス事業に還元し、全体として安定した収益構造を築いている点も見逃せない。同社は2023年、貸切バスの売上高で全国1位となった。
顧客体験を軸に据えたビジネスデザインこそ、これからのバス業界に求められる姿である。
電動化が拓く顧客接点
バスは単なる移動手段ではない。移動する「巨大な箱」としての可能性を秘めている。だからこそ、バスは厨房にも、スーパーにも、サウナにも変わり得る。
筆者(西山敏樹、都市工学者)の研究室が行った調査でも、テレワークスペースとして活用したいという声が多く寄せられた。例えば、大きな移動型厨房を使えば、自然を楽しみながらの屋外レストランを実現できる。サウナバスを併設すれば、食前や食後にサウナを楽しむことも可能になる。
これは、従来の枠に収まらない「巨大な箱」だからこそ実現できる顧客体験である。バスを単なる輸送機器ではなく、
「モバイルライフスペース」
として捉える発想が、その基盤にある。
今後は電動バスの普及が進み、電源確保が容易になる。バスを意外な場所に配置することで、顧客体験にさらなる付加価値を加えやすくなる。Wi-Fiや電源を備えた環境は、イベントやポップアップショップの展開にも適している。
バスを通じて新たな顧客接点を創出し、収益化につなげるチャンスが広がっている。重要なのは、「巨大な箱」をどこに移動させ、どんな新しい体験を生み出すか――という視点である。
付加価値創出による需要喚起
バス事業は乗車運賃への依存度が非常に高い。バスを主軸に据える以上、一定の運賃依存は避けられない。しかし、それだけでは成長は望めない。バスの役割を再定義し、新たな活用方法を模索する必要がある。生活者にとって魅力的な利用シーンを描き、具体的に実現する手法を構築することが重要だ。
交通インフラとしての役割を果たしつつ、
・事業の安定化
・地域貢献
を両立させることが今後のバス事業者に求められる視点である。例えば、二階建てバスをレストランとして活用すれば、自社主催のツアー展開だけでなく、車両貸出ビジネスも可能になる。付加価値の高い車両ほど貸出需要は自然に生まれる。一方で、特徴のない一般車両にはニーズが生まれにくい。
社会的価値を高めつつ事業を継続するには、思い切った資金調達と投資戦略も必要だ。この「巨大な箱」をいかに収益源に変えるか。どうすれば乗らざるを得ない存在にできるか。ストーリー設計の巧拙がバス事業の持続可能性を左右する。
現在はバス事業への参入が容易になり、新規事業者が増えている。AIをはじめとするデジタルトランスフォーメーション(DX)技術の進化により、新たなビジネス展開のチャンスも多様化している。デジタル化やスマートシティ構想と連携すれば、新たな価値創出が可能だ。具体例として、
・医療バス(動く診療所)
・銀行バス
・役所窓口バス
など、過疎地の生活支援に寄与するサービスデザインも十分に考えられる。人口減少や人手不足が進む中、都市の生活機能を過疎地に移動させる必要性はますます高まるだろう。高齢者や障がい者の増加、子育て支援の需要も増している。生活者のニーズは常に変化している。こうした移動制約者のためにも、バス車両の多様な活用が期待される。
持続可能な地域交通の確保と経済的安定を目指すなら、今こそ多角的にバスという「巨大な箱」の活用法を考える時期だ。事業者にはマインドの転換が求められている。
もはや、バスを単なる「バス」と呼ぶ時代は終わったのかもしれない。(西山敏樹(都市工学者))
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みんなのコメント
費用対効果として到底バス会社にプラスになるとは思えない。
そんなもん、昭和の頃から常識ですが・・・