チャレンジャー武井が挑む「歴代フェラーリ・スペチアーレ」インプレッション。今回の主役は、創立50周年を記念してわずか349台のみ生産された「F50」だ。「公道を走るF1」と称されたモデルの真価に迫るクローズドインプレッション!!
※本稿は2025年9月のものです
【画像ギャラリー】F1のDNAを色濃く受け継ぐ3代目スペチアーレ!! 修善寺でフェラーリ F50を全開インプレッション(16枚)
文:チャレンジャー武井/写真:音速movies
初出:『ベストカー』2025年10月10日号
フェラーリ50周年を刻む至高のスペチアーレ
フェラーリ社50周年を祝し、1995年のジュネーブモーターショーで華々しくデビューを飾ったF50。
3代目スペチアーレとして歴史に名を刻むこのモデルは、先代F40が想定外の反響で生産ラインが追いつかず、バックオーダーを抱えた反省と、欧州の新たな排ガス規制などから生産数は349台に限定された。
大胆な決断を下したのは、当時のCEOルカ・ディ・モンテゼーモロ。世界的な景気減速期を考慮しつつ、希少性と価値を高めたこの一台は、まさに「走る芸術品」である。
優美さと先進技術の融合
F40と比べ、F50はより洗練されたエレガンスを湛える。ピニンファリーナが手掛けた流麗なボディラインは、曲面を巧みに操り、当時の最先端エアロダイナミクスを体現。ボディ各所に設けられた大小の開口部は、冷却と放熱を最適化する機能美を追求したものだ。
さらに単なる美しさに留まらず、スクーデリア・フェラーリの技術を結集し、見た目と性能の完璧な調和を実現している。
F50発表の翌1996年、ベネトンでシリーズチャンピオンを獲得したミハエル・シューマッハがフェラーリに加入。低迷していたスクーデリアに変革の風を吹き込み、後に黄金時代を築くきっかけとなった。F50は、そんな新時代の幕開けを象徴する存在でもあるのだ。
伊豆修善寺で解放されるF1マシンの片鱗
修善寺サイクルスポーツセンターのクローズドコースで、F50の真価が解き放たれる。イグニッションキーをONにし、スターターボタンを押すと、セルモーターが軽快に回り、V12エンジンが鼓動を始める。
アイドリングでも甲高いエキゾーストノートが響き、アクセルを踏み込めばタコメーターの針が跳ね上がり、まるで管楽器の音色のような官能的なサウンドがコクピットを満たす。
F50は単なる速さの追求に留まらない。コクピットはカーボンファイバーとスエードで構成され、レザー張りのシートは身体をしっかりとホールドする独特の形状で、横Gを軽減。市販車としての快適性とレーシングカーの機能性を両立させている。
跳ね馬マニュアルシフトの定番、シフトゲートは健在。左上が1速だ。クラッチペダルは驚くほど軽く徐々にリリースすると、トルクフルなエンジンにより、アクセルを煽ることなくスムーズに発進する。加えて市販車とは思えないほどの短いストロークのシフトは、クイックかつ正確なシフトチェンジが可能だ。
操る歓び、極まる走り
クローズドコースでの全開走行は、まさに圧巻。アクセルを踏み込むと、乾いたエキゾーストノートがF1マシンを彷彿とさせ、コックピットに響き渡る。低速から力強いトルクを放ち、高回転まで瞬時に吹け上がる520馬力のエンジンは、1990年代当時としては驚異的。現在でもそのポテンシャルは色褪せない。
ハンドリングはレーシングカーのように鋭く、フロントタイヤの接地感がステアリングを通じて明確に伝わり、プッシュロッド式サスペンションは路面を確実に捉える。
F1由来のショックアブソーバーが路面状況に応じて最適に可動し、フラットなクローズドコースでは最高のパフォーマンスを発揮する。この足は、刻々と路面状況が変化する公道においても突き上げ感のないしなやかな乗り心地を実現している。
最高速325km/hの実力
最終コーナーを3速で進入してメインストレートに入ったところで、アクセルを床まで踏み込み4速にシフトアップ。空気をものともせずに美爆音とともに軽やかに加速。
5速に入る頃にはメーターは軽く240km/hを超える速度域に突入。この速度域でも空力性能の優位性による抜群の安定感には驚かされた。カタログ値の最高速325km/hも決してブラフではなさそうだ。
エンジンのポテンシャルに感心していると、あっという間に下りながらの緩やかな左コーナーにさしかかる。アクセル抜き、次の右コーナーの手前でフルブレーキングと共にシフトダウン。すると強烈な減速Gが身体を襲う。
F50のブレーキは大径クロスドリルド・ベンチレーテッドディスクが採用され、サーボアシストを持たない仕様。ドライバーの踏力で効きが変化し、進入時のボトムスピードを自在にコントロールできる。旋回Gが残っていても的確に速度が落とせるのは、車体の前後バランスと優秀なサスペンションの賜物だ。
時代を超える価値
発売当初の価格は約5000万円だったが、限定生産ゆえに市場では数倍のプレミアムがついた。近年の中古価格は、9000万円から1億円を超え、今なお高騰を続けている。
個人的な見解だが、フェラーリが真のスーパーカーメーカーとして成熟したと感じたのは、このF50が初めてだ。
わずか2年の生産期間、限られたオーナーに向け淡々と造られた3代目スペチアーレは、後世に語り継がれるスーパーカーであり、跳ね馬の情熱と技術が凝縮されたフェラーリは時代を超えて輝き続けることだろう。
Tipo 040型改 エンジン解説
フェラーリF50のエンジンは、F1マシン「F92A」に搭載されていた自然吸気V型12気筒を市販車向けにデチューンしたもの。
ジュラー鋳鉄製ブロックや鍛造アロイピストン、チタニウム製コンロッドなど、市販車ではまず使われることがなかった贅沢な部品を採用し、高回転までスムーズに回るエンジンに仕上げ、レースマシンさながらの仕様となった。
総排気量は4698cc、ボア×ストロークは85.0mm×69.0mm、圧縮比は11.3:1で、最高出力520PS/8500rpm、最大トルク48.0kgm/6500rpmを誇る。過給機付きエンジンとは異なり、扱いやすさとトルク感のある瞬発力が特徴だ。
ミドシップ(MR)レイアウトによりエンジンを車体中央に搭載。レブリミットまで回した際のエキゾースト音は、スクーデリア・フェラーリの妥協なきこだわりが感じられる、官能的で「美爆音」と称したくなるサウンドだ。
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みんなのコメント
この記者だけは喜んで納得しているらしい。
”520馬力の「フェラーリF50」一瞬で吹け上がる!”
「吹け上がる」………まだこんな表現で凄さが伝わると思っているらしい。
”未だ色褪せないその魅力とは”
この記事の書き方が既に色褪せてますけど。