懐かしのWRCマシンが多く参加していた
Turismo(ツーリングカー)からMonoposto(シングルシーター=レーシングフォーミュラ)まで、さまざまなヒストリックカーがワインディングを駆け上っていくヴェルナスカ・シルバーフラッグ。前回までにTurismo、Gran Turismo(GTカー)、Sport(スポーツカー)、そしてPrototipo(プロトタイプカー)、Monopostoと5つのクラスで気になった車輌を紹介しました。
「セレニッシマ」「ザウバーC2」「アバルト」にマニアも歓喜! ヴェルナスカ・シルバーフラッグを走った名車たち
今回はその第3弾としてRallyssime(ラリーカー)、Campioni a Scuola!(レーシングスクールのチャンピオン=ジュニア・フォーミュラ)、そしてAnteguerra(戦前のクルマ)と3つのクラスで気になったクルマに加えて、パドックで見かけた素敵なトランスポーターなども紹介していくことにしましょう。
モータリゼーションの歴史の長さと懐の深さを再確認
Rallyssimeは、1967年のランチア・フルヴィアHFラリーから同年のランチア・ストラトス、73年のFIAT 124アバルト・ラリー、77年のFIAT 131 アバルト・ラリー、82年のランチア・ラリー037、そして90年のランチア・デルタ・インテグラーレ16Vと、イタリアが誇る歴代のトップ・ラリーマシンが勢揃いしていました。
考えてみれば世界ラリー選手権(WRC)は1973年に始まり、今年でちょうど50周年のメモリアル・シーズンを戦っているのですが、その開始から20年間のうち13回はランチアかFIATがチャンピオンになるなど、イタリア車が覇権を握っていました。
だから少し乱暴な言い方になりますが、今回のヴェルナスカ・シルバーフラッグは、WRCの開始から20年間の歴史を振り返ることのできる一大絵巻だったのです。さらに、79年のFIATリトモ75のグループ2仕様や83年のアルファロメオGTV6のサファリ仕様(レプリカ?)、そして85年のFIATウーノ70のグループA仕様などマイナーなラリーカーも登場していましたから、ファンには堪えられないラインアップでした。
さらにCampioni a Scuola!も歴史を感じさせる内容だったのです。1959年のFIAT ボサート 1100 Fジュニアに始まり63年のデ・サンクティスFジュニア、77年のオゼッラS.F.フォード、89年のコルシーニF.ファイアーと多少のレベルの差はありましたが、歴代のジュニアフォーミュラが顔をそろえていたのです。フロントエンジンの時代からミッドエンジンに代わり、さらに空力を重視するようになり、フレームも鋼管製のスペースフレームからアルミモノコック、さらにはハニカム構造のモノコックに至るまで、まるでフォーミュラマシンが発展してきた歴史を再現するかのようでした。
そして、あらためて、彼の地のモータースポーツの歴史の長さと懐の深さを再確認させられました。Anteguerraでは1922年式FIAT 501Sに注目してみました。第一次世界大戦後の1919年にFIATが大衆車を目指してリリースした“戦後モデル”の第1号ですが、ライバル他社が戦前モデルの生産を細々開始した時点での新型投入は、FIATの底力を感じさせるものがあったようです。
何よりもこうして1世紀余りを経た現在、パレードランに等しいクラシックカーイベントとは言え、ヒルクライムに登場するところなどは、クルマを楽しむためのイタリア車らしいと言えるでしょう。そういえば『クルマを発明したのはドイツだけど、自動車工業を興したのはわがフランスだ』と、フランス自動車工業会の人々は口にするそうですが、その伝で行くなら「クルマをもっとも楽しんできたのはイタリアだ」と言うことになるのでしょうか。いずれにしてもイタリア車を持つこと、ドライブすることの楽しさをアピールする1台となっていました。
パドックで見かけたトランスポーターたち
ヴェルナスカ・シルバーフラッグの参加車両が魅力的なことは、ここまでに紹介してきたとおりですが、その参加車両をパドックに運び込んできたトランスポーターも、参加車両に負けず劣らず、魅力的で興味深いものがありました。
参加車両の多くはナンバー付き車両で、ステーションワゴンやミニバンの伴走付きながら自走で乗り込んできた猛者も見かけましたが、多くはトランスポーターに積載されてパドック入りしています。そのトランスポーターですが、日本国内のレースを引き合いに出すと、今やスーパー耐久でも当たり前のようにピット裏~パドックを占有するようになってきた大型トラックは、今回のヴェルナスカ・シルバーフラッグでは数台だけ。
その一方で、FIATドゥカートで競技車両を積載したトレーラーを引っ張ってくるタイプが多数派を占めていましたが、ドゥカートのシャシーキャブを利用したボックスバンも多く見受けられました。牽引式のトレーラーでは、シャシー(フレーム)だけでサイドパネルやルーフのないものからサイドパネルやルーフのあるボックス形状のものまでさまざま。ここではキャンピングカー・メーカーとして知られる、ウエストファリア製の1台を紹介しましょう。
シャシーにフロアを貼り、サイドパネルからルーフまでがワンピースの“蓋”を備えたタイプで、普段は庭の片隅で旧車のガレージ代りに使用できそうです。もっとも、これだけの機材を揃えるくらいなら、ちゃんと旧車用のガレージも備わった邸宅にお住まいでしょうけど……。
それはともかく、パドックに停めて蓋を開け、なかからアバルトが現われただけでもファンならば卒倒しそうなくらい恰好良かったです。一方、ドゥカートのシャシーキャブを利用したボックスバンですが、ホイールベースの長さによって何種類かのシャシーが用意されているようで、まさにオーダーメイドのトランスポーターが手配可能という訳です。
そんな豪華なトランスポーターが多いなか、1台のデリバリー・トラックが目を惹きました。これはトランスポーターそのものよりも積載方法、というか積み下ろしで注目を惹いた1台でした。軽便なリフトを備えたデリバリートラックは、国内でもコンビニに食品などを配達するトラックとしてよく見かけますが、クルマを積載するためには前後方向(折り畳んだ時には上下方向)の寸法が足りません。
だからクルマを積載して運搬しようとは普通は考えないのですが、ヴェルナスカ・シルバーフラッグで見かけた1台は見事な力技で“荷下ろし”をしていました。まず荷台からクルマを引っ張り出して、リフトの淵ギリギリまで進めたところでクルマをジャッキアップし、フレームの下に台車を潜り込ませます。ミッドエンジンなので、基本的には重心はリヤよりですから、台車もクルマの後方に持っていきます。
そして台車ごとクルマを前方に引っ張り出します。リヤウイングは取り外していますから後輪がリフトに載り出せば、それでリフトを下降させることはできますが、流石に重心はそこまで後ろではなく、台車も後ろにつけるとフロントが落ちてしまいます。そこで登場するのが人間ジャッキ(!)。
台車と後輪で支えられるようにノーズを持ち上げて、少しずつリフトを下げていくのです。クルマが無事地上に降り立ったときには、思わず拍手してしまいそうになりました。そんなこんなで今回のヴェルナスカ・シルバーフラッグ取材は、勉強にもなりましたが大変楽しむことができました。
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みんなのコメント
ストラトス、037、デルタ…
今でも見てるだけでワクワクする。
獰猛な獣のような、それでいて美しい。
ヤリスにはそれがない。あくまでお買い物クルマを無理矢理ドーピングしただけ。