国家資格職の空洞化
「人が足りない」――。
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今や業界を問わず、人材不足の声が上がっている。自動車業界も例外ではない。なかでも自動車整備士の不足は、深刻な局面に入りつつある。単なる採用難にとどまらず、日常生活にも影響を及ぼしかねない静かな危機が進行している。
自動車整備士は国家資格を必要とする専門職だが、その数は年々減少している。日本自動車整備振興会連合会の統計によると、2011(平成23)年に34.7万人いた整備士は、2022年には33.1万人となった(4.6%減)。一見すると微減に見えるが、より深刻なのはこれからの人材が減っている点だ。
整備士を養成する専門学校の入学者は、長期的に見て大きく落ち込んでいる。2003年度には1万2394人だったが、10年後には半数近くに減少。その後も回復の兆しはなく、減少傾向が続いている。背景には少子化もあるが、それ以上に整備士になりたいという若者が減っていることがうかがえる。2003年からの18年間で、高校卒業者は約21%減ったのに対し、整備学校の入学者は47%も減少した。
一方で、自動車の保有台数は年々微増している。特に公共交通が乏しい地域では、自家用車は生活の必需品だ。その車を安全に保つ役割を担う整備士の減少は、地域住民の暮らしにも直結する問題である。
人手不足がこのまま進めば、整備の予約が取りづらくなる。修理や車検にも長い時間を要するようになるだろう。
「車が直せない時代」
が、すぐそこまで来ている。企業の課題ではなく、社会全体が直面する危機と捉えるべき段階に来ている。
所有欲なき世代の価値転換
自動車整備士は、人々の暮らしを支える重要な職業である。それにもかかわらず、なぜ若者からの支持を失ってしまったのか。
かつて自動車は、若者にとって一種のステータスだった。しかし時代が進むにつれ、所有の必要性が薄れてきている。とりわけ都市部ではその傾向が顕著だ。公共交通の発達に加え、レンタカーやカーシェアといった「使う」ための手段が充実したことで、クルマなしでも不自由なく生活できるという価値観が広がっている。
若者の興味の変化も大きな要因だ。スマートフォンの普及により、SNSやゲームといった娯楽が日常的に楽しめるようになった。その結果、休日にクルマをいじるといった趣味は廃れつつある。かつてのような車への憧れは薄れ、経済的負担の大きさも影響している。物価の上昇、税負担や社会保険料の増加により、クルマの優先順位は下がっている。
職業としての自動車整備士にも課題がある。今なお「3K(キツい・汚い・危険)」の印象が根強く残っている。敬遠される要因となっているのは、そうした労働環境のイメージだ。実際には、近年になって設備の改善や作業環境の清潔化が進んでいる。作業管理システムの導入によって業務の効率化も図られている。だが、依然として過去のイメージが払拭されていないのが現状だ。
さらに、給与水準の低さも深刻な課題となっている。整備士になるには、専門学校に通って国家資格を取得する必要がある。専門性と肉体労働が求められる職業にもかかわらず、賃金水準は他業種と比べて見劣りする。安定収入や高水準の給与を求める若者にとっては、選択肢になりにくい職業である。
また、体力に依存する仕事であるため、長期的なキャリア形成が難しいと感じる人も多い。職業選択の幅が広がるなかで、こうした負の印象が定着したままなのが実情だ。労働環境や待遇の改善が進みにくい構造が、整備士志望者の減少に拍車をかけている。
子どもが将来の人材源
この深刻な人材の空洞化は、整備学校の志願者を増やしたり、就職率を高めたりする表面的な対策では、もはや対応できない段階に達している。現場で起きているのは、教育、採用、定着といった一連の流れに断絶が生じていることである。この断絶は、
「育てる → 支える → 還元される」
という好循環を根本から壊している。求められているのは、個別の企業が人材を確保するための施策ではない。社会全体でこの職域をどう支えるかという、設計思想の再構築である。
現場ではすでに、多様な人材の受け入れが進んでいる。女性や海外出身者など、さまざまな属性に対応した職場づくりが試みられている。しかし、これも一企業の努力だけに頼っては限界がある。問うべき本質は、
「この仕事が社会でどのように位置づけられているか」
という認識のズレである。現代のクルマの意味は、都市と地方で異なる。都市では選択肢のひとつにすぎないが、地方では生活基盤そのものである。この車両の安全と機能を支える職種に社会的な評価がともなっていない構造は、供給者と受益者の間で無意識にコストを転嫁しているのに等しい。こうした状況で、従来の
「専門学校 → 国家資格 → 正規雇用」
という直線的な人材供給モデルは制度疲労を起こしている。教育機関の機能が低下し、企業が初期教育から実務訓練、資格取得支援まで一体的に担うケースが増えている。実務と学習を並行させる方式は、個人にとっては経済的なメリットがあるが、継続的な育成体制がなければ企業にとってリスクとなる。
資格取得までの長期的な投資を回収できる環境が整っていなければ、途中離脱、現場の疲弊、技能伝承の断絶といった悪循環に陥る危険が高い。つまり、これは単なる人事政策の問題を超えた産業構造の刷新課題である。クルマの安全を裏側から支える職能を持続可能な職域に変えるカギは、企業の短期的な採用目標ではなく、日常的な接点の再設計にある。
例えば、整備士という職業に対する関心は、メーカーへの親近感や子ども時代に見た整備士の姿といった個人的な記憶の積み重ねから生まれる。これは市場を支える潜在的なエネルギーであり、将来の人材供給に対する再帰的投資である。
地域の整備工場や販売店は、このような接点を意図的に設計し、職業体験や説明会、家族連携イベントを通じて未来の働き手との縁を築いていくことが求められる。これが教育機関の活性化や採用効率の向上につながる。
業界全体がこの仕事の価値を問い直し、それを社会に伝える責任を果たさなければ、局所的な採用成功は砂上の楼閣に過ぎない。整備士不足は車社会の持続性そのものを脅かす構造的な危機である。
その解決の糸口は、現在の関係者がいま足りないものではなく、未来に何を残すべきかを起点に思考を転換できるかにかかっている。
長期視点の採用戦略必須
整備士不足は単なる人手不足にとどまらない。10年後、20年後には人材が枯渇し、業界全体を揺るがす未来の危機となる可能性がある。
これは業界だけの問題ではない。車が生活必需品となっている私たちの社会にとっても見過ごせない課題である。整備士を必要とする企業は即効性のある採用策に目が向きがちだが、真に必要なのは長期的視点に立った採用ブランディングだ。
その実現には現場社員の協力が不可欠である。即効性が乏しい施策であっても、未来の危機を社員一人ひとりが自分ごととして捉え、人手不足に対する共通認識を持つ必要がある。採用を人事部門任せにせず、企業全体で取り組む姿勢と社内体制の整備こそが、業界の未来を守るカギとなるだろう。(徳田このみ(フリーライター))
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みんなのコメント
汚い、キツイ、危険な仕事は給料が高くあるべきだと思います。