日本では2021年1月26日に発表されたセダンの「M3」とクーペの「M4」モデル。どちらもBMWの「M」シリーズを代表する存在で、本誌では先行してM4コンペティションを紹介している。そのパフォーマンスはまさに感嘆させられるものだったが、今回のM3コンペティションでもそれは同様であった。(Motor Magazine2021年8月号より)
標準車から大きく変化した迫力の専用フロントグリル
「M3」というワードは、BMWの歴史を語る上で欠かせない存在だ。2代目の3シリーズ(E30)のときに、レースへ出場するためのモデルとして登場したのが初代M3だ。その後も、3シリーズが新しくなるたびに、M3も生まれ変わってきた。2代目(E36)、3代目(E46)、4代目(E90)、5代目(F80)ときて、最新の6代目(G80)M3が、いよいよ日本で登場の時を迎えた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
それまでのM3は、ベースになった3シリーズの基本デザインは守りつつも、バンパー部の空気取り入れ口を大きくするとか、ワイドフェンダーや前後エアロパーツを加える程度で、エクステリアデザインそのものを大胆に変えてしまうことはなかった。しかし最新型は、ノーマル3シリーズセダンとは異なる縦長キドニーグリルに変更された。
これはM4クーペ(G82)に準じるもので、新しいMモデルの顔として認識されるが、M3の歴史の中ではビッグニュースである。縦長キドニーグリルは、ノーマルの4シリーズクーペ/グランクーペ/カブリオレに採用されているがM4/M3に採用された縦長キドニーグリルはノーマル4シリーズのものとは異なり、クロームの枠はなく開口部面積も横に若干広くなっている。
細かいことは別にしても、4シリーズクーペをベースにM4クーペの開発を始め、エンジンルームに入る空気コントロールを同じにするために、同型エンジン搭載のM3セダンもM用縦長キドニーグリルにしたのだろう。BMW本社のデザイン部門とは別に、MモデルをプロデュースするBMW M社にもデザイン部門がある。そこで新しいM3/M4はデザインされているから、Mとしての顔になったのだ。
新型M3でもうひとつのトピックは、前後のタイヤサイズが異なることだ。先代のF80でも前後で偏平率と幅は異なっていたが、G80ではリアのホイール径が1インチ大きくなった。今回試乗したM3が履いていたのはフロント275/35ZR19、リア285/30ZR20というサイズだった。
タイヤ全体の外径としてはフロントが675mm、リアが680mmだから大きな差ではないが、その中でフロントのホイール径が25.4mm小さい。つまりその分、タイヤのゴムが占める領域が大きくなっているということで、乗り心地の面ではたわむ範囲が広くなり有利になるが、ハンドル応答性の面ではダイレクト感が削がれてマイルドな手応えになる可能性はある。もちろん、これはタイヤだけの範囲で想像したもので、実際には全体を見てチューニングされているはずだ。
M3セダンのディメンションは4805×1905×1435mmで、M4クーペの4805×1885×1395mmと比べると全幅が20mm広く、全高が40mm高くなっている。同じプラットフォームで構成されているから、まさにボディの違いだ。リアドアの後ろからリアフェンダーが大きく膨らんでいて、その膨らみは片側10mm広がっている。
M4クーペと比べると乗り降りが楽な気がする。ドアの長さはM3の方が短いので開閉が楽で、ドア上下の開口部もM3の方が大きい。シートに座るとヘッドクリアランスに余裕があるからヒップポイントを高くできる。押し込まれた感じのないのがM3だ。ここに、車高が40mm高いメリットが表れている。
もちろん後席の居住性もM4クーペとは比べものにならないくらい広い。M4は4人乗りだが、M3はきちんと5人乗りになる。
Mモデルらしさに満ちたスペシャルエンジンの魅力
新型M3のイメージカラー、鮮やかなその名も「マン島グリーン」は相当に派手だ。実際にこれが売れるとは思えないが、プロモーションとしては印象に残る色だ。以前に取材したM4クーペの「サンパウロイエロー」も派手だが、M3/M4はこの路線で推すのだろう。
エンジンは、すでにM4クーペでご紹介しているS58B30A型と呼ばれる3L直列6気筒ツインターボのM社スペシャルエンジンである。M4クーペの試乗時は、走行距離が2000kmを少し超えた程度だったが、今回のM3はすでに5000kmを超えているので、フリクションが少なくなっていて、軽く回る感じであった。今回試乗したM3のエンジンは低回転域のレスポンスもトルクもあり、さらに高回転までアクセルペダルに付いてよく回り、トルク感と上まで伸びる気持ちよさを備えていた。
ちなみに、新車時から2000kmまでは5500rpm以下で走る慣らし運転をして、オイル交換を済ませたら上まで回していくが、5000kmくらいまで積極的に高回転域の慣らしをすると軽く、よく回るエンジンに仕上がる。こうすると絶好調になるのが1万kmくらいからの時期で、うまく慣らしをすると快調な状態を長く維持できる。
さて、このエンジンでドライビングが楽しいのはやはりワインディングロードだ。ただし、ときどき鹿などが飛び出してきそうな道だったので安全なスピードをキープしながら、自分のペースでM3の「駆けぬける歓び」を感じながら走る。
ドライブモードはプリセットもできる。エンジン、トランスミッション、シャシ、ステアリングアシスト、ブレーキ、DSCの好みの組み合わせが2組作れるのだ。それを呼び出すのは、ハンドル内にある赤いスイッチのM1とM2を押せばいい。ちなみにDSCをカットする場合には、確認のため2回押しが必要だ。
きれいな舗装面ならシャシ、つまりダンパーのセッティングをスポーツモードにしてもいいが、舗装が荒れた部分も多い道だったのでコンフォートモードがマッチする。ワインディングロードでは丁寧なアクセルペダルワークが必要なので、エンジンのモードはエフィシェントが過敏にならずに良い。
ヘアピンカーブが多いワインディングロードだがほとんどは180度までのワンアクションの操作で事足りる。それでも操舵力は軽い方が楽なので、ステアリングアシストはコンフォートモードを選ぶ。ブレーキはサーキットでタイムを詰めるわけではないが、浅い踏み込みでも効いてくれる感じのスポーツモードを選ぶ。
DSCをオフにするとMトラクションコントロールで電子的なリミテッドスリップデフのコントロールが可能だが、サーキットではないのでここではDSCオンのままで走行する。
同じM3でもモデルが新しくなるほど電子デバイスが増えて、事前にセッティングできる要素が増えてくる。M3のように一般道を普通に走る場面とサーキットを走る場面、ときには今回のようにワインディングロードを走るという様々な場面に合わせたセッティングができるのは嬉しい。ある時は快適に走り、あるときは熱い走り、あるときはタイムアタックと1台で何役もこなせるクルマになる。
コンフォートモードで十分。しなやかな走りを満喫
舗装面が荒れているワインディングロードでも、M3はかなり快適に走れた。タイヤとサスペンションが路面の凹凸をうまく吸収してくれて、乗員を大きく揺することもなかった。試しにシャシをスポーツモードにしたら、乗り心地が悪くなるだけでなく、跳ねてタイヤのグリップも失われる感じになった。あくまでも、しなやかに路面を掴むコンフォートモードが良かった。
コーナリングではグリップ限界が非常に高く、ずっとオンザレールで走る感じだった。タイトターンでハンドルを切り足していってもフロントが逃げていかず、ダイレクトにそのままヨーが付いてくる感触は安心感につながる。
今回の取材では初代M3にも乗ることができた。並べてみるとその大きさの違いに改めて驚かされる。こんなにもコンパクトだったのだ!左手前が1速となるレーシングパターンのシフトが懐かしい。直列4気筒2.3Lエンジンは当時、ものすごく速い!と感じたが、あれから30年以上の時が過ぎたいまは、その性能に驚くことはない。
ただし、Mのスピリットは共通だ。エンジンを高回転まで引っ張っていくに伴って盛り上がるパワー、ダイレクトな操舵フィールなど、M3の根幹の部分での魅力は変わらない。
それにしても、30年経っても丹精込めて整備されていれば、今でも元気よくMモデルらしく走れるのは、何より素晴らしいことだ。(文:こもだきよし/写真:永元秀和)
BMW M3コンペティション主要諸元
●全長×全幅×全高:4805×1905×1435mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1740kg
●エンジン:直6DOHCターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
●最大トルク:650Nm/2750-5500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・59L
●WLTCモード燃費:10.0km/L
●タイヤサイズ:前275/35R19、後285/30R20
●車両価格(税込):1324万円
[ アルバム : BMW M3コンペティション はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
CGの中でなら、出来る人は居るかも?笑