分断される広域交通圏
2025年5月12日、東京都内で開かれた北陸新幹線建設促進大会は、「小浜・京都ルート(以下、小浜ルート)」による新大阪までの早期整備を国に求める決議を採択した。これに先立ち、石川県の馳浩知事は「米原ルート」を含めた再検討を求める文書を会場で配布していた。決議の採択時には、石川県選出の国会議員の一部が退席した。沿線地域が一枚岩でない現状が浮き彫りになった(『福井新聞電子版』2025年5月13日付け)
【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが「敦賀以西ルート案」です! 画像で見る(計5枚)
2024年3月16日、JR西日本が運営する北陸新幹線の金沢~敦賀間が延伸開業した。同時に、北陸本線の同区間はJR西日本から経営分離された。これにともない、大阪駅や名古屋駅・米原駅発着の特急は、敦賀駅以東への乗り入れを終了した。関西圏や中京圏と石川県・富山県を鉄道で往来するには、敦賀駅での乗り換えが必要になった。
北陸各県が新大阪までの北陸新幹線延伸を急ぐ理由のひとつは、
「関西圏との結びつきが弱まることへの懸念」
にある。しかし、敦賀駅~新大阪駅間は、いまだ着工に至っていない。これまでの経緯を確認しておきたい。
建設費1.5兆円超の現実
2016年4月27日、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)は、以下の「1」「2」「3」について、国土交通省に対して調査を行うよう求めた。「所要時間」「路線延長」「概算事業費」「需要見込み」など、将来の着工判断に資する項目について、半年程度の調査を行い、同年秋頃を目途に本委員会へ報告するよう促す中間とりまとめを提示した。
1.小浜舞鶴京都ルート:敦賀駅~小浜市付近~舞鶴市付近~京都駅~新大阪駅
2.小浜京都ルート:敦賀駅~小浜市付近-京都駅~新大阪駅
3.米原ルート:敦賀駅~米原駅(米原駅で乗換。米原~京都~新大阪は東海道新幹線を利用)
同年12月14日、PTの下に設けられた北陸新幹線敦賀・大阪間整備検討委員会は、「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームへの中間報告」において、敦賀~京都間のルートとして「2」の小浜京都ルートが適切であると結論づけた。一方、京都~新大阪間については、
・北回りルート(東海道本線の北側経由)
・南回りルート(同南側経由)
の2案の継続検討を記載した。PTはこの報告を受け、敦賀~京都間については小浜市を経由する小浜ルートを採用した。ただし、米原ルートを推す意見はいまも根強く残っている。
ここで、北陸新幹線の3ルートについて、メリット・デメリットを整理する。
小浜ルートの利点は、3案のなかで所要時間が最も短い点にある。一方で、建設費が最も高く、また人口の密集する京都市内では地下トンネル建設が必要になるという課題もある。2025年6月6日には、京都市議会が小浜ルートにおける大深度地下トンネル建設に反対する決議を採択した。
小浜ルートで京都市内に設置される駅については、2024年12月23日の中間報告において、
・桂川案(東海道本線桂川駅付近に新駅設置)
・南北案(京都駅に対して南北方向に駅を設置)
に絞り込まれた。JR西日本の長谷川一明社長は、2025年6月13日の会見でこの決議に対して難しい事態になったとの見解を示しつつ、京都駅に近いルートが望ましいが、桂川駅付近でもやむをえないと容認する姿勢を示した(『NTV』2025年6月13日付け)。
湖西ルートの利点は、湖西線をミニ新幹線に改修して活用できる可能性がある点だ。2025年2月19日に開かれた石川県関係の自民党議員による自主研究会では、湖西線のミニ新幹線化やフリーゲージトレインの導入も議論された(「北國新聞電子版」2025年2月20日付け)。
ただし、フル規格で整備する場合、湖西線が並行在来線と見なされれば、JR西日本からの経営分離が生じる可能性がある。これに対して地元は、経営分離に反対し、徹底抗戦の構えを見せている(滋賀県高島市「広報たかしま(号外)」2016年12月22日)。
米原ルートの利点は、中京圏に近いこと、建設距離と費用が最も少ないこと、さらに費用対効果(B/C)が最も高いことにある。一方、所要時間は3案の中で最も長くなる。また、東海道新幹線と直通運転を行う場合には、JR東海との調整が必要になる。さらに、フル規格で建設する場合は、北陸本線がJR西日本から経営分離される可能性もある。
東海道新幹線の運行本数分析
乗換が必要なら、敦賀駅でも大差はない。米原ルートを実現するには、JR東海が運営する東海道新幹線との直通運転が事実上必須だ。
現状、東海道新幹線の米原駅~新大阪駅間の平日列車本数は、時間帯によって異なるが、おおむね片道10本程度である。例えば、平日11時台に京都駅に到着する東海道新幹線下り列車は13本だ。
同様に、米原駅~名古屋駅間の平日列車本数もおおむね10本である。平日8時台に名古屋駅に到着する新幹線上り列車は12本である。
これらを踏まえると、いずれの区間もピーク時間帯を除けば、北陸新幹線の直通列車を運行する余裕はあると考えられる。
直通運転の最大課題
両新幹線の直通運転実現の主なハードルとして、
・車両規格
・保安装置
・両数
の違いが挙げられる。しかし、最も大きな壁はJR会社間の壁であり、通算料金導入を難しくしている。もしJR西日本の北陸新幹線とJR東海の東海道新幹線が直通運転を実現した場合、運賃は通算のキロ数で計算される。一方で、特急料金は米原駅を境に別体系になる可能性が高い。
これまで開業した整備新幹線(九州新幹線、北海道新幹線、北陸新幹線)では、JR会社境界駅で2社の特急料金を合算するか、または会社間またがり利用時に加算料金を徴収する制度を採用している。
現行料金をもとに新幹線特急料金(通常期)を推定すると、福井駅~米原駅間は2400円、米原駅~新大阪駅は3060円で、合計5460円になる。一方、福井駅「米原駅経由」新大阪駅の営業キロは現行の北陸新幹線から北陸本線を経て東海道新幹線の201.8kmと同じだ。これをJR西日本管内完結の特急料金水準と仮定して通算特急料金を推定すると、4060円になる。この場合、5460円との差額1400円が発生する。
この差額分はJR西日本とJR東海の減収となるため、両社が距離に応じて分担する必要がある。福井~米原間約95.1kmと米原~新大阪間106.7kmの割合で分けると、JR西日本は約660円、JR東海は約740円を負担することになる。
結果として、特急料金は福井~米原間が1740円、米原~新大阪間が2320円となる(通算後の料金を距離割合で案分するとJR西日本約1913円、JR東海約2146円となるが、ここでは差額1400円を両社で分担する仮定で進める)。他区間の現行特急料金も変更を免れない。
関西広域連合の試算によると、米原ルートの利用者は1日約3万3000人、年間約1204万5000人に上る。料金値下げによる年間減収額は、JR西日本が約79億円、JR東海が約89億円に達する。この特急料金問題は、現行JR体制の課題として解決が求められる。JR西日本にとって79億円は2024年度の当期純利益約1139億円の7%に相当し、大きな負担だ。JR東海にとっても、東海道新幹線の過密ダイヤに北陸新幹線の直通列車を組み込み、両数の異なる列車を受け入れるメリットに疑問を持つ可能性がある。
なお、小浜ルートで整備された場合の福井~新大阪間の新幹線特急料金は3170円と推定される。関西圏と北陸地方を移動する際、料金面でも所要時間面でも小浜ルートが最も有利になる見込みだ。福井~新大阪間の所要時間は約50分、越前たけふ~新大阪間は約45分であり、福井県内から大阪への通勤も可能となるだろう。
反対意見の整理と新たな視点
1987(昭和62)年4月1日の国鉄分割民営化から38年が経過し、JR各社間の格差は大きく広がった。JR北海道、JR四国、JR貨物の3社は依然として政府系の独立行政法人である鉄道建設・運輸施設整備支援機構が100%株式を所有し、JR会社法適用の特殊法人のままである。
一方、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州の4社はJR会社法の適用対象外となり、純粋な民間企業へと変わった。政府保有株はすべて売却され、上場企業として株主価値の向上を求められている。したがって、上場企業のJR西日本やJR東海の経営者が、企業価値の低下を招く可能性のある
「北陸新幹線と東海道新幹線の通算料金導入」
に積極的になるとは考えにくい。国鉄は最終年度の1986年度に1.3兆円を超える当期純損失を計上したが、JR上場4社は2024年度決算で合計約8400億円超の当期純利益を上げている。JR北海道とJR四国の営業損失612億円を差し引いても、JRグループ7社合計でなお大きな黒字を確保している。ただし、JR各社は自社の採算確保を優先するため、今後も自社優先の経営姿勢を強めると見られる。
上場JR4社間には株式の相互保有はあるが、連結対象となるほどの資本関係はない。各社は独立した企業体として自社の経営を優先することが企業価値向上につながる一方、その結果、乗換増加や在来線の長距離列車減少など利便性低下が起きている。これらは制度設計の失敗であり、JR各社に
「利益を犠牲にして利便性向上を優先する責務」
を求めるのは酷である。ゆえに、JR体制の見直しで対応するのが妥当だ。実際にJRグループ体制の再検討を提唱する声もある(石井幸孝JR九州初代社長、中村智彦神戸国際大学教授など)。
仮に「ワンJR」が実現すれば、JR各社間の直通運転や通算料金導入が進みやすくなる可能性がある。ただし、国鉄時代に開業した東北・上越新幹線は開業当初から東海道・山陽新幹線と料金体系が別で、国鉄時代には直通運転の計画があったものの、JR発足後にJR東海が難色を示し実現していない。
いずれにせよ、一日も早い北陸新幹線の新大阪駅までの延伸が求められている。まずは新大阪まで延ばすことが重要で、最速で実現できるルートを選択すべきだ。米原ルートや湖西ルートが早期開業につながるなら、排除すべきではないと筆者(大塚良治、経営学者)は考える。国もこれらのルートの可能性を視野に入れ、
「JRグループの再編」
を本格的に検討する必要があるだろう。(大塚良治(経営学者))
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みんなのコメント
いま大阪に行くのに乗り換えはしなあかんし、運賃も片道1200円も高くなるし良いことなんて何もないやん
大阪までどうするのか、どうせ生きてるうちには結着がつかない気がするし、最後には大阪延伸は凍結になりそうな予感
福井の人間からすればこれまで関西の繋がりが深かったのに、そこをないがしろにしたらあかん、もちろん京都の人の意見も無視したらあかん
関東の人の利便性よりも関西の人とのつながりをこれまで同様に大事にしたいって本音がある
延伸は捨てて大阪、金沢間のサンダーバートの復活でいいやん
東京から新幹線で
大阪からサンダーバードで
名古屋からしらさぎで
ほどよい旅情の時間だったのに…
名古屋から敦賀は短すぎて高速バスに客が流れ
関西は敦賀で乗り換えるから特急だけではなく新快速を利用する人が増え
それでは敦賀での観光客が増えたのかと言えば乗り換え専用駅に過ぎず
全てが微妙な結果になった。