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TBS「クレイジージャーニー」が、石戸谷蓮のエルズベルグロデオに密着。一気にまとめて読めるエルズベルグ10000字

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TBS「クレイジージャーニー」が、石戸谷蓮のエルズベルグロデオに密着。一気にまとめて読めるエルズベルグ10000字

宇宙一過酷なハードエンデューロと言われる、エルズベルグロデオ。これに5カ年計画で参戦中の日本人石戸谷蓮の2年目を、TBSの人気番組「クレイジージャーニー」が密着。いよいよ8月21日(木)に放映されることになった。

番組公式サイトでは、早速エルズベルグロデオの予告映像が掲載。収録にあたって「バイクのことを伝えるのって難しいなと思いました。タイヤの中身から、理解してもらえない。僕らは、もっと表現方法を学ばなくちゃなと。あと、なんでこんなところを走るんですか、とか根本的な質問がくるので、考えさせられましたよ」と石戸谷は言う。放映が、楽しみだ。

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エルズベルグロデオって?
エンデューロと総称される耐久オフロードバイクレースのうちでも、難しさを売りにしたものをハードエンデューロと呼ぶ。エルズベルグロデオは、まさにそのハードエンデューロの頂点として君臨しているオーストリアのレースだ。なんせ、会場では500人のライダーが崖に向かって突撃し、続々散っていく。知らない人から見たら、ただの滑落事故だ。

そして、このレースのさらにすごいところは、「宇宙一タフ」と言われる通り、1500台の予選から500台の決勝参加者が選抜され、決勝で完走できるのは例年10名ほど。年によっては、5名ということもあった。このレースに完走することは、まさに「超人」であることを証明する。

エルズベルグロデオはこれまで、何にも属してこなかった、ただの草レースだった。名誉とフィニッシャーフラッグだけが与えられる。2018年からは世界のエンデューロをシリーズ化した「WESS(WORLD ENDURO SUPER SEIES)の1戦として位置づけられているが、それよりも「エルズベルグロデオ」自体が一つのタイトルとしてとても尊重されている。

観客動員数はダカールラリーのほうが多いだろう。日数や経済効果もダントツでダカールだ。影響力はアメリカのAMAスーパークロスがダントツだろうか。しかし、エルズベルグにはそんな物差しは不要だ。現場に身を置き、その昂ぶる熱を全身で浴びれば、きっと意味がわかる。

ちなみに、エルズベルグは数字で語ってもなかなかスゴイ。

エルズベルグの数字
観客動員数は、45000人。4日間、1500人のコンペティターが40カ国から集まり、4500人が参戦の選考から漏れる。スタッフは800名、200名のガイドに、100名のエマージェンシースタッフが待機。ジャーナリストは250名が来場する。3つあるパドックは、10000台は駐車する。

なんだたったそんなもんか、と思うことなかれ。

この45000人の観客の濃さが尋常ではないのだ。

ダカールでは現地住民がずらーっと数十キロにわたり絶え間なく連なるけれど、45000人全員がエンデューロを見たい超コアな観客で、勝手な予測をするとそのうち40000人はエンデューロをしていると思う。ここに集まっているのは、一般人ではない。明らかにコアなハードエンデューロ野郎ども。だから、熱量が半端じゃない。むさ苦しいこと、この上ない。

毎年、4日間のうち2日目にRide on Eisenerzというパレードがおこなわれる。参加する台数は3000台を超えると言われ、小さな鉱山の街を、3000台のバイクが縦横無尽に走り回る。街も、経済効果あってのことか、歓迎ムードで盛り上がる。このパレードは、エルズベルグロデオにおける一つのハイライトである。

日本人とエルズベルグロデオ。田中太一の軌跡
2010年、トライアルのトップランカー田中太一がエルズベルグロデオの本戦に日本人として初参戦、予選で失敗して5列目スタート。圧倒的に不利な状況から13位での完走は、この世界の住人を震撼させた。それまで、日本ではほとんど取り沙汰されることが無く、マニアックな海外レースとしてとらえられていたのだけど、田中太一が完走をしてみせたことで一気に過熱。Off1.jpの私稲垣は2013年からこのエルズベルグロデオに密着を続け、2019年で5回目の取材となった。



田中太一エルズベルグにおける戦歴
2010年 13位
2011年 7位
2012年 5位(河津浩二も参戦、DNF ※DNF=do not finish)
2013年 7位(3人目の水上泰佑が参戦、DNF)
2014年 DNF

2015年には田中の意思を引き継いでモトクロスライダーの矢野和都が参戦するもののやはりDNF。で、5人目の挑戦者として2018年石戸谷蓮が5カ年計画でチャレンジ中だ。

石戸谷蓮のエルズベルグにおける戦歴
2018年 DNF
2019年 DNF

エルズベルグには、GNCCで感じたようなトップの世界がある
石戸谷は、元々スピードが問われる耐久とレースJNCCから芽を出し始めたライダー。モトクロスを素地に持つこともあって、ハードエンデューロとは遠い位置にいたが、いつのまにか自らハードエンデューロを主宰するようになっていた。2018年に石戸谷は、こんな形でインタビューに答えてくれている。

「元はと言えば、やはり太一さん(田中太一)の影響です。活躍はもちろん知っていて憧れていたんですけど、一緒にエンデューロクロスを作ろうとしていた時期に、いろんな話をされました。特に、フィニッシャーの価値や、ライダーとしてそこに進むべき価値を存分に感じることができました。僕はジャンルに固執したくなくて、オールマイティにスキルがあるライダーこそが今後の日本に必要だと思っているので、ハードエンデューロに取り組んでいます。

2016年に、KTMジャパンから派遣されてGNCCに参戦させてもらい、その時にすごく感じたのは、今まで聞いてきたスムーズに走ること、そのことだけでは足りないのだということでした。スムーズさを極めてもレベルは上げられない、GNCCのトップは常にプッシュしているし、バンクやギャップへの当て込み方もハンパじゃなくて、これが本場のXCなんだ! と思いました。自分に足りないのは、マシンを押さえ込む力や、いつも攻め込んでいるための熱量だったんだと。

エルズベルグには、たぶん僕らがいま日本で見ることができないハードエンデューロの本当の姿があると思うんです。それをまずは肌で感じて来たい。それが1年目にやることです」と石戸谷は言う。すでにいろんなところで5ヵ年計画が語られているが、当然魔の山エルズベルグを1年で制することができるとは思っていない。

5年の意味
「2年目は、確認です。1年目で知ったことを日本に持ち帰って、消化しきれているかどうか。そして、3年目からは3年連続での完走を目指します。

5ヵ年計画ですが、5年かけて完走では遅すぎる。楽しんで乗るなら、僕は何歳でエルズベルグに来てもいいと思います。でも、結果を伸ばしていけるのは今しかないと思っていて、1年で得られる経験値を最大限にアウトプットできるのは、この3年がピークだと思っています。だから、3年目でフィニッシャーを目指さないと意味がない。

特に、今年(2018年)からエルズベルグはWESSの1戦に組み込まれました。このことや、マシン、エキップメントの進化は、レースのレベルをさらに押し上げると思っています。5年かけて完走を目指していたら、この進化のスピードにおいて行かれてしまうとも感じるのです」

と。大方予想を裏切る大胆な目標だけど、石戸谷はこの5年でめまぐるしい成長をしてきていて、自分でもそのメソッドを確立できていると感じている。今、この自信の中でチャレンジすることに、大きな意味があるのだ。

エルズベルグのレベル
難所として有名な、ダイナマイトを上から眺めたとき、本当にどこを走るのかわからなくなる。ここを上ってくるのだと聞いて、そのレベルの計り知れなさを知った。田中は、そのダイナマイトで激昂し、実の父親に「どこや、ラインは!」と怒鳴りつけたという。トライアル世界選手権のランカーでもあった田中がラインを見つけられないのだ。

何年もインタビューを重ね、3年同行した上で、ようやくそのレベルの片鱗が見えてきた。

一つ言えることは、田中の実力があまりに日本のハードエンデューロの中で突出していたことだ。2番手との差は、埋まるようには見えなかった。このことは、たぶん全日本トライアルを観戦するとわかると思う。今、トライアルを牽引しているトップライダー達は、世界戦をシーズンで体験して、みな「世界でトップに立つ」ことを目指し、もう少し手を伸ばせば手が届く、そんなライダーばかりだ。藤波貴久(2004年世界チャンピオン。日本人唯一)だけがスゴイのではなく、日本のトライアルは純粋にレベルが高い。田中は、その「トップライダー達」のうちの一人だったわけだ。

いわば、彼らエリートに立ち向かうことは、聞こえはいいが、実際問題数年でひっくり返せるような差ではない。幼い頃から、一生のうちの最も脂がのった時期に華開くよう、一心不乱に取り組んできたのだ。

前置きが長くなってしまったけど、田中であれば完走は堅かった。

完走のレベルを考えるにあたって、矢野の戦績も参考になる。矢野はセンスあふれるモトクロス出身のライダーで、IA2クラスの星として活躍していたが、引退後はダートスポーツ誌の編集部員として働きつつ、エンデューロにチャレンジしはじめた。センスの塊で、さらに努力家だったから、いろんなスキルを次々に身につけていた。ちょっと変わったところだと、引退後にはじめたんだと思うけどギターも相当うまかった。だから、トライアル的なテクニックもスポンジのように吸収していて、田中も「完走できる可能性は十分にある」と見込んでいた。

矢野は2015年、スタート付近のヒルクライムで失敗。1列目スタートのアドバンテージを、ここで一気に吐き出してしまう。1度失敗すれば、有象無象が這い上がってくる中をあみだくじのように上らなくてはいけなくなってしまい、一気になんでもない(といっても、これは完走するレベルのライダーの話)ヒルクライムが難所になってしまう。

それだけが原因ではない。「ビルの2階以上からたたき落とされて死ぬかと思った」という言葉をよく覚えているけど、4時間の時間制限の中、もがきにもがいた矢野は「ここからがエルズベルグの見せ所」と言われるカールズダイナーまで、たどり着けなかった。僕と田中は、カールズダイナーで街惚けていた。矢野は、完走できる可能性の線上にいたのだろうか。2年目の挑戦はなかったから、今となってはわからない。

石戸谷蓮の2018年「これ以上、前に進めない、と思うセクションには出会えなかった」


2018年、いよいよはじまった石戸谷蓮の5カ年計画。日本勢としては3年ぶりのチャレンジで、チェックポイント14まで到達。2015年の矢野和都と同じ位置で4時間を終えた。順位としては141位だ。

予選を204位、決勝を辞退した人のおかげで繰り上げ、198番手として4列目スタートとなった石戸谷。JNCCでほとんど百発百中のスタートを決める石戸谷も、今回ばかりは集団に飲まれてしまう。

たかだか、6名ほどに前に行かれただけで、この有様だ。視界の悪さでさらに出遅れ、立ち上がりは4列目の第2集団といったところ。

難しいヒルクライム、ウォーターパイプも一発クリアしていく石戸谷。「一発クリアでしたよ」とのこと。

ゴール後、石戸谷が言った一言は象徴的だ。「楽しい! 最高です!」

これまで、エルズベルグロデオは僕が取材してきたこともあって、その恐ろしさや難しさにフィーチャーして日本に配信してきた。実際、田中太一も、矢野和都も、楽しいというよりは「辛く、きつく、怖い」ことが先立っていたと思う。

「少なくともチェックポイント14までは、自分の中で恐怖を感じたり、これ以上はスキル不足で先に進めないようなところには出会いませんでした。落ち着いてトライできれば、とても楽しいレースだと思います」と言う。

渋滞をあえて作る、ハードEDの戦い方
難所のないスピード勝負のクロスカントリーなどでは渋滞の存在そのものが悪。渋滞するようなコースを作ると、主催者にクレームがどっと押し寄せる。だが、ハードエンデューロでは渋滞は当然のもの。むしろ、主催側は、渋滞をうまく使うことで、展開を縦に長くし、上位のライダーすらどうにも前に進めないというような最悪の状況を少なくする傾向がある。

だから渋滞するセクションを、いかに速く切り抜けられるかで完走の可能性が変わってくる。年々、その距離を増しているカールズダイナーは、当初は目算500mくらいを行ったきり戻ってこないレイアウトだったが、田中が参戦しているうちに往復させるようになり、さらに今では往復させたのちに、下の段も走らせるようになった。たぶん、2km近くの巨大なガレ地帯を走らされることになる。

石戸谷の1年目、出遅れたこともあってすでに渋滞が至るところにできてしまっていた。

観客のヘルプもものすごく多い。

それでも、どうにも前進できないシーンが多く石戸谷を襲った。落ち着いたレース運びをする石戸谷は、一息つきながら持っていった携帯で「いま渋滞中!」と僕らにメッセージを送ってきたほどだ。

このカットは、このあと右側にそれていくルートを発見し、ステアを制して30台くらいをごぼう抜きしたところ。石戸谷は全レースを通して60台はパスしたことになる。

カールズダイナーの岩は、おおよそ1mくらいのものがゴロゴロしている。だから、常にラインを見なくては、大幅に時間をロスしてしまうと言われていた。2012年あたりは、トップライダーにはメカニックがマインダーのようについて、ラインを指示する姿が見られた。田中も、メカニックと共にカールズダイナーを切り抜けた。矢野をカールズダイナーで待っていたのも、田中がラインを指示するためだった。でも、最近ではカールズダイナーまで到達するライダーが増えていて、ラインが定まってきている。走破スピードも格段に上がっている。

カールズダイナーは、無酸素運動の連続だ。常に重いフロントを持ち上げながら、ラインをトレースしていく。腕も足もパンパンになる。それでも、そこを突破しないと先は見えてこない。石戸谷が、ここを走る時、どう思うのか。2時間くらいでカールズダイナーまで来れれば、カールズダイナーで1時間使える。残り1時間では、かなり厳しい戦いになるだろう。

2019年、25周年のヤバサ
5年前の20周年…その頃、ガミータイヤ(ハードエンデューロ用にリリースされた、当時のイノベーションと言うべきタイヤ。それまでのエンデューロ用タイヤとは、まったく次元を異にするグリップ力を発揮する)が急激にマーケットを形成しはじめていて、ライダーもガミータイヤに対するスキルを学んでいった。そこで、エルズベルグ側も急速にその難しさを上げていく必要があった。ある意味、ライダーと主催者がスキルと設定で競い合っていた時期である。

2014年は、まったくもってライダー側の勝利だった。31名ものフィニッシャーを輩出。事前情報では、20周年なりの難しさを込めたと言われていたのにも関わらず。この事態に対して主催は翌年2015年にさらなる難セクションを追加。ところが、これが難しすぎて、トップ4名がヘルプしあわないと前進できないものだった。結果、この4名は抗議の意志をこめて同時フィニッシュしている。

さて。今年の25周年はどうだろうか。

Erzbergrodeo XX5: Tougher than ever!
Länger, härter und mehr Besucherzonen als jemals zuvor: zum 25sten Erzbergrodeo-Jubiläum servieren die Veranstalter die längste und spektakulärste Red Bull Hare Scramble Strecke aller Zeiten.

www.motorradreporter.comより

エルズベルグロデオ公式のメディアで語られているのは「Tougher than ever」。実に43kmの全長で、例年よりも長く、難しく設定されているとのこと。昨年は、23名の完走者が出てしまったため、いわば再び「揺り返し」の年だ。

石戸谷は2018年、予選であるプロローグを223位でフィニッシュ。繰り上げで4列目スタートであった。2019年はスタート順がとても大事なエルズベルグロデオで結果を残せるよう、石戸谷はこの予選にフォーカス。「遠いが、2列目を目指したい」と言う。

中腹の高速コーナーで撮影に臨んだ取材陣からみても、石戸谷の走りは昨年よりも鋭くなっていて、スピードも乗っていた。昨年だと面倒をみてもらっているBOSIレーシングのミケーレ・ボシに、石戸谷に「慣れていないから、きみならギヤ比のセッティングはスタンダードに近いほうがいい」と言われ、13-50Tで走っている。だが、今年は14-48Tとロングに設定。ミケーレと同じ仕様にした。

事前のトレーニングで講師にあたってくれたのは、地元のオッシー・レシンガー。このアイアンロードでトップを走れるスペシャルなライダーである。「オッシーから学んだのは、大きくラインをとること。それにコーナリングの時間を少なくすることです」と石戸谷は言う。「コースは、事前にならしていたみたいで、まったく荒れていませんでした。走り方もだいぶわかっているし、去年とはくらべものにならないレベルで攻めることができた」と。

2日ある予選だったが、石戸谷は最終的に昨年と同じ4列目に落ち着いた。石戸谷は、昨年より進歩したことを確認できた予選だった、と語る。

スタートの大失敗
エルズベルグロデオでしてはならないことは、スタートに出遅れることだ。蟻地獄のように待ち構える最初のセクションで、渋滞にまきこまれるとここで5分以上をロスすることになる。

#164の黄色いウエアが石戸谷。見事に出遅れてしまっている…。石戸谷のヘルメットカメラビューで見て見よう。



石戸谷のコメントも入っている映像だが、これは…ちょっとひどい。ともかく、グレーゾーンの多いレースだが、タイミングがまったくわからない…。

ここまで出遅れると、スタートしてすぐのセクションでこうなる(左下、黄色ウエアが石戸谷)。4列目の最後尾近くだから、おおよそ前に200台いる状態で、石戸谷はレースを進めることになるわけだ。田中の2011年はそれでも前に出て完走したのだが、これは並大抵のことではない。

さらにレースを進めると、こんな渋滞状態が連続する。こんなの…どうやって進めと…。目前に見えるのはゼッケン77だから、2列目スタートのライダーだ。これでも、石戸谷は切り抜けてだいぶ前にやってきたと言える。



エルズベルグロデオの制限時間は4時間。2時間ほどで石戸谷はCP9まで到達。「でも、そこで1時間つぶしました。その前にもラインを塞がれて30分くらい時間をつぶしたり…1本道で塞がれるとどうにもならない」と言う。3時間30分の頃、石戸谷はようやく渋滞でどうにもならない地点を抜けた。そこからは、スイスイとチェックポイントをこなしていったが、時すでに遅し。タイムアウトしたときには、2018年よりも進めていない地点のCP12だった。

「去年は、1年目だったこともあって、終わったときに楽しかったと思えました。今年は、悔しさが強いです。去年の反省を活かして、移動路も飛ばしたし、イメージ通りの走りができてました。でも、渋滞はどうにもならない。走ってない時間が90分はあったと思います。みんなエンジン止めて、ずっと待ってるんですよね。なんとか回り込もうともするんですけど。

最後の30分くらいで、しっかり攻めきったから、体はもう攣りそうです。まだ行けた。悔しいなぁ…。今回は、オフィシャルも厳しかったですし、ノーヘルプゾンーンも増えていて、条件が厳しくなっていました。

でも、いい感触は掴めました」と石戸谷は言う。展開は、2018年と変わらなかった。スタートに出遅れ、そして渋滞に巻き込まれて時間をロスしてしまう。ここからまずは抜け出さないと、前進できない。

マリオ・ロマンとの朝食
エルズベルグの取材後、取材班はミラノに向かった。たまたま、アイゼンナーツから遠く700km離れたミラノのホテルに、マリオ・ロマンがいた。エルズベルグロデオで3位に入った、あのマリオだ。夢かと思った。

ともかく、マリオと取材班は朝ご飯を同席させてもらう機会に恵まれた。エルズベルグはどうだったか。あなたたちにとって、エルズベルグってどういうものなのか。

「エルズベルグは、やっぱりすごく難しいよ。そして、年々難しくなっていることが特徴なんだ。毎年、これまでで一番難しいと言われ、走ってみるとたしかにそうなんだよね。僕らトップライダーには、ワンミスが命取りのレースだよ。たとえば、去年からポイントになっているグリーンヘル。ここには、優勝を狙うライダー達が僅差で集まってくる。だから、キャンバーでちょっとミスしただけで、2~3人には抜かれることを覚悟しなくちゃいけない。

簡単に言うとね。エルズベルグは、スプリントなんだ」

マリオは、イタリアのロングコーヒーを舐めながら言う。この壮大なるスプリントで、マリオは3位表彰台に立った。気分はとてもよさそうだった。

「エルズベルグみたいなレースは、僕は苦手なんだ。僕のライディングは、長距離向きで、もっとタフなレースを望んでいる。たとえば、ルーマニアクスのようなね」

ハードエンデューロは、一括りにされがちだ。難しいセクションが続くレース=ハードエンデューロ。いや、そうではない。その実態はバリエーションに富み、既存の枠に縛られないルールやフィールドを魅力とするレースの総称だと考えたい。マリオも何度か走っているアメリカのTKOは、エルズベルグよりもさらにスプリント。マリオはスーパークロスに近いモノだと説明する。「コディ・ウェブはエンデューロクロスが得意だろう? 短距離で一気に駆け抜けるレースが得意なんだよ」とマリオ。そこで必要なのは、跳ね返ってくるマシンを押さえつける無酸素運動の強さだ。体力こそキモになるルーマニアクス(ラリー形式で4日にわけておこなわれるハードエンデューロ。エルズベルグと人気を二分する、世界屈指のハードエンデューロだ)とは、まったく求められるものが違う。

「エルズベルグで順位の鍵を握るのは、やっぱりカールズダイナーだね。年々距離が増えてるけど、ここをいかに早いスピードで抜けられるかで、おおまかな順位が決まる。グレアム・ジャービスのようなライダーは、こういうところがウマイ。頭が良いんだよ。タフなだけじゃ、ハードエンデューロは勝てない。クレバーさは、とても大事なんだ」

田中太一が、これまでエルズベルグの様々なことを解明してきた。しかし、マリオの一言一言は、また違った次元で重い。エルズベルグがいかに特殊か、そして何が大事なのか…。遠い日本にいる僕らは、少しずつ学んでいくしかない。

エルズベルグ2年目の挑戦から、2ヶ月
果たして、2年目のエルズベルグは思い通りのライディングができつつも、チャンスに恵まれず惨敗。この結果を受け、石戸谷は3年目へ向け何を思うのだろう。

「終わって、ウェイトトレーニングを始めました。これまでは持久系のトレーニングをしてきたんですが、もっとマシンをふりまわせるようにならなくちゃと考え直しました。体重は10kgは増やす方向で考えてます。現状で2kg増量しています。たとえば、路面にグリップさせる瞬間です。

それと、スキルと体力を明確にわけて考えるようにしていますね。後半のグリーンヒルに関して言えば、試走時にまったく上がれる気配がなかったんです。辿り着けてはいないけど、これでは完走できないと。トライアルの練習も、トライアル車でやってます。

カールズダイナーに到達できる100人の中に、僕はまだ入っていない。だから、まずはスピード練習です。朝練はずっとスピードを磨いてます。とにかくコーナリングを無駄なく済ませることをまず考えてます。下田丈くんの走りは、理想ですね。あとは、エンデューロGPなんかで参考になるのは、ルイ・ラリューとか…。ぶん回してるわけじゃないのに、減速・旋回・加速の流れがキレイです。僕も、やれる瞬間はなくはない。でも、精度が低くて話しにならないんですね。新たな技術ではないと思う。基礎を、磨いていくこが大事なんだと思います。特別なことが必要なわけじゃないんだと」と石戸谷は言う。

5カ年計画については、すでに遅れ始めている。来年完走するというプランは、難しいだろうと本人も言う。「カールズダイナーを突破できれば、だいぶ成長できたと思える。で、残り2年でつめていければ、完走は非現実的だとは思っていません」と石戸谷。この2年、自分のイベントをやったりと精力的に活動してきたが、その反面自分のスキルを磨く時間を失っていた。「まずは、だから朝練。そして、1年しっかりプランも見なおして、2020年のエルズベルグへ向けて前進しますよ」と。

はっきりいって、石戸谷の参戦を追い、この2年…エルズベルグの完走がいかに難しいかを、知らしめられた。奇跡がおきても、届いたりはしない。この魔の山は、スキルとスピードと…とにかく完走に不足する人間を無慈悲にはじき返してくる。だが、だからこそ面白いのだ。果て無き挑戦を、また来年も見守ろう…!

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