モーターでアシストするレスポンスと駆動力
ハイブリッドシステムは長く燃費/環境性能改善技術として語られてきたが、現在は自動車メーカー各社が走行性能の向上を目的に活用する領域へと変化しつつある。
「ハイブリッドは燃費だけ」なんていつの時代の話? 運転の醍醐味を増すイマドキの電動化技術
日本では新車販売の6割以上をHEVが占めるが、欧州でも排出ガス規制の強化により、ポルシェ911やフェラーリやランボルギーニといったスーパースポーツまでもが積極的に利用し始めている。
しかし、その本質は規制対応ではなく、「速さの獲得」にある。
電動アシストを積極的に駆動力として活用。エンジンの過給遅れをモーターで補完することで、従来の内燃機関やターボ過給では得られなかった高レスポンスを実現。モーターは低回転から最大トルクを瞬時に発生するため、ターボ過給圧の立ち上がりを待つ必要がなく、アクセルに対する応答がきわめて自然で鋭いのである。
さらに前後にモーターを備えるPHEVでは、左右・前後の駆動力配分を電子制御で最適化できる。これにより旋回中に必要な限界Gを高めながら、立ち上がりでは電動駆動トルクが即座に路面へ伝わり、コーナー進入から脱出までの姿勢変化がきわめて滑らかになる。
いわゆるeアクスルの活用はスーパーカーの操縦安定性向上に大きく寄与しており、エンジン性能だけで競う時代は終わりつつある。
一方、HEV化はバッテリーやインバーター、冷却系の増設によって重量増を招く。とくに車体中央付近にバッテリーを搭載すると重心が下がる半面、相対的な慣性モーメントは増大し、車体の回頭性に影響を与えてしまう。
そのためスーパーカーメーカー各社は、バッテリー配置を含めたパッケージングと冷却マネージメントに多大な工夫を凝らしている。総じてハイブリッドのスーパーカーは、電動化による重量増をはるかに超える動的メリットを得ており、現代の高性能車にとって電動アシストは不可欠の技術に変化している。
ターボ+電気モーターの二重過給に死角なし
スポーツハイブリッドの進化形として注目されるのが、トヨタが示す”デュアルブーストハイブリッド”である。これはターボ過給とモーターアシストを併用することで、低回転域から高回転域までトルクの谷を完全に排除する構想である。
ターボは中高速域で大きな出力を得られるが、低回転では過給が立ち上がるまで時間を要する。モーターはこの領域を補完、0回転から最大トルクを発揮するため、アクセル開度に対する車両応答を鋭く、かつリニアに保てる。この「二重の過給」はたんに加速力を高めるだけでなく、ドライバビリティそのものを高度化する。
たとえばコーナーのクリッピングポイントから立ち上がる際、ターボのタイムラグがないため車体の姿勢変化をコントロールしやすい。トラクションが安定するので結果としてドライバーはアクセル操作を細かく調整可能で、車両を意図したとおりのラインに導きやすくなるのだ。
また高電圧化されたバッテリーとインバーターにより、モーターの高出力連続維持が可能となり、スポーツ走行時でも電動ブーストが安定する。将来的にはモーターの小型化や固体電池化によって重量増という課題がさらに縮小し、エンジンと電動が共存した”軽いハイブリッドスポーツ”も現実味を帯びる。
BEVが絶対的な加速性能を追求するのに対し、スポーツHEVはフィーリング、音、重量バランスをキープしながらレスポンスを引き上げられる。現代のF1マシンやWECのハイパーカーの技術がエンジンの存在感を残しながら速さを追求できる基礎にあり、今後のスポーツカー開発で核となるパワートレインになると考えられるのだ。
モーターアシストの要は出力よりも制御技術
スポーツ走行を視野に入れてHEVを評価する際、単純に出力値やバッテリー容量の大小だけで語るのは不十分だ。重要なのはモーターアシストが「どの領域で」、「どの程度の時間」使えるかという制御面の熟成度である。
まず確認すべきは、モーターアシストの持続性を決めるSOC(=充電率)の管理だ。高負荷時の連続アシストが可能か、すぐに出力制限がかかるかで走行感覚は大きく変化する。
次に重要なのは前後駆動力配分で、とくにeアクスルを前後に採用する車両ではトルクベクタリングの精度が走りの質を決定づける。
旋回中に外輪へ適切なトルクを与えられる車両であればコーナリング限界は高く、ドライバーの操作に対する再現性が高い。
回生ブレーキの立ち上がり特性も評価からはずせない。とくにスポーツ走行では回生が唐突に入ると前後荷重が乱れてコントロール性を損なうケースがある。自然な減速Gを得られる車両ほど走りの質が高いと言える。
さらに冷却性能は長時間の高負荷走行に直結する要素で、インバーターやバッテリー温度が上昇しすぎるとアシスト出力が制限される。スポーツ志向のHEVでは冷却系の強化と温度管理の徹底化が必須なのだ。HEV選びでは出力値より「制御の巧みさ」と「マネージメント技術」、「回生マネージメント」が鍵になる。
HEVの特性を活かすスムースな加減速
HEVをスポーティに走らせる際、モーターと回生という特性を正しく理解した上でドライビングを組み立てる必要がある。
まず重要なのはアクセルオフのタイミングだ。早めに減速を始めることで回生を効率的に利用し、バッテリーの充電量を高める。これによって電動アシストを長時間利用することが可能となり、立ち上がりでの加速性能が安定する。
また急激な加減速を繰り返すとSOCが乱れ、アシストが不安定になりやすい。サーキットなどでの連続したスポーツ走行では、一定のペースでラップを重ねる走り方が結果的に速さと安定性を両立させる。
コーナーでは出口までに車体を進行方向に向け、モーターの瞬時トルクをトラクションとして最大限利用できる姿勢を作ることが重要だ。とくに前輪にもモーターを備えたe-AWD車では、立ち上がりで前輪を積極的に引っ張らせる姿勢に持ち込むことが有効で、”ゼロカウンター”姿勢も理にかなってくる。
回生ブレーキはアクセルオフ直後に立ち上がるが、その強度や車種により、またドライビングモードなどで異なる。ブレーキングに入る前の「初期減速」を回生に任せるように意識して速度調整すると車体姿勢が安定し、ブレーキディスクの温度上昇も抑えられる。減速Gによって摩擦ブレーキの介入の度合いをどう設定するかも車種ごとに異なっていて、開発側の意図が反映されている。
ハイブリッドは特性を理解しているドライバーほど性能も好燃費も引き出せる動力システムであり、運転技術との相互作用によって走りの質が大きく変化する。効率と速さを同時に追求できる点が、現代のHEVが持つ最大の価値と言えるのだ。
講師 中谷明彦
武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒。ル・マン24時間のほか海外レースで活躍、全日本F3000/ツーリングカー選手権などで優勝経験を持つレーシングドライバーであり、モータージャーナリスト。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設。F1とインディカー、両方の表彰台を知る唯一の日本人レーシングドライバー、佐藤琢磨らを輩出。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年2月号」の記事を再構成して掲載しております
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阿呆みたいに燃費連呼するより100倍マシ。