この記事をまとめると
■日産が次世代LiDARシステムを使ったグランド・トゥルース・パーセプション技術を公開
スカイラインにレヴォーグにLS! 広がってきた「手放し運転機能」の「安心感」に差があるワケ
■このシステムを装着したスカイラインHVにテストコースで試乗することができた
■従来のシステムよりも認知能力が高く複雑な動作もこなせる自動運転に欠かせない技術だ
最新運転支援技術「グランド・トゥルース・パーセプション」を体験
日産自動車は、次世代高性能「LiDAR(light detection and ranging)システム」を搭載し、緊急回避性能を飛躍的に向上させる運転支援技術として「グランド・トゥルース・パーセプション(Grand truth perception)」技術を公開した。日産のテストドライブコースにおいて、現行「スカイラインHV」に装着されたその機能の一部を体験することができた。
まず、もっとも重要なのは従来のレーダーやソナーだけでなく、次世代LiDAR装置を装着したことで、その認知精度をより高めることで確実な状況判定を行うことが出来るようになっているという。
従来のLiDARだと、車体の高さ500mm程度の位置に装備し、その高さをほぼ平面に切り込むような形でしか認知性を機能させることができていなかった。たとえば車体下の空間が500mm以上あるようなトラックなどが前方を横切った場合、燃料タンクやタイヤなどは認識できるが、その下が空洞の部分では光が通過してしまい物体として認識できない。散発的に前方を通過する物体としてしか捉えられないので、あたかも草木が揺れているような状況と判定されてしまうという。
それがこの次世代LiDARでは、前方の仰角を25度程度にまで広げることができ、また車体のルーフ部分に搭載することで、より広く高い視点から物事を3次元的に判別することができるようになっているという。
例えば、路面に落ちている物体を認知し、あるいは高速道路で対向車線から外れたタイヤが飛んでくるような状況でも、次世代LiDARはセンサー情報から判定し、正確な状況を認知させることができるという。
今回の試乗テストでは開発者の飯島徹也氏が運転し、特定のコースを走る。前方300mまでの位置でこの新しいシステムは異常を検知することができるといい、それに応じた必要な操作をクルマが行う。
設定状況は、60km/hで走行中に左側の物影から突然車両が車線上に飛び出してくる。それをLiDARが検知し右車線に自動的に移行するが、すると今度は右車線前方の右側から子供(人形)が飛び出してくるという複雑なシーン。通常のドライバーであれば左から飛び出た車両を避けることが精一杯で、次に右側から飛び出てくる人影などを認知することは難しい。
しかし、LiDARシステムはそれを確実に検知し、子供(人形)の手前で車体を停止させることができた。
このように従来の単一の異常検知機能から複数の異常を検知しつつ、車体の制御を最適に行うということが今回の重要な部分である。
自動車事故は軽微なものであれば年間210万kmに1件の割合で起きており、その10倍の2450万kmで重症度の高い事故が起きる。また、死亡事故になると、さらに10倍の2億3700万km毎に起きているというデータがあるという。その1件1件をすべてビッグデータとして収集し、機能に反映することができれば、より多くの場面に制御を介入させることができるという考えに基づくが、それには膨大な作業が必要となる。LiDARは目の前で起こった事象をいかに正確に認知、判断して、クルマに正しい制御操作を介入させるかというところがポイントとなっているのだ。
次世代LiDAR機能は危険回避だけでなく自動運転でも必須だ
異常を回避する機能は従来の運転支援と同様に、電動パワーステアリングを操作し、また前方の障害物の手前で停止するのは、衝突被害軽減ブレーキをより高度にして完全停止させる機能を生かしたものだ。
つまり、これまでのプロパイロットシリーズが持っている運転支援機能に次世代LiDARを装着し、アップデートさせることで高度に活用することができると見込まれているのである。
こうして緊急回避性能が確実なものにならないと、自動運転自体が安全なものにならず、目的地へ到着する手前で事故が起こってしまっては元も子もないという発想によるのである。また、自動運転機能に関してもこの次世代LiDARシステムを使い、より道路周辺環境の認知が正確に可能となる。
たとえば、従来の自動運転は、ホテルを目的地に設定すると、そのホテルの入り口まではナビゲーション機能との協調で到着することができるが、その敷地のなかに入って私道を走って玄関前に到着させることは、ドライバーが自ら運転して行わなければならなかった。しかし、次世代LiDARでは、玄関前の位置情報を入力することで、一般道から施設内に入ってからは路肩や車線など、また人の動きや標識、ルート方向案内などを認知し、それに沿って正確に玄関前の到着指定位置まで自動で運転してくれる。
このように次世代LiDAR機能は緊急回避や安全性を高めるだけでなく、より自動運転を完全なものにするためにも必要な装置といえるのである。
今回披露されたシステムは、その機能から予測される完璧な状態に対して、まだ50%程度の完成度だという。だが、日産自動車は2025年前後を目処に商品化できるレベルにまで完成度を高めることを目標としているという。
今後、電動車、あるいは電気自動車(BEV)が増える傾向が予測され、電気自動車になることにより、駆動力やブレーキ制御などが行いやすくなることから、次世代LiDARシステムを搭載した自動運転支援機能の装着も行いやすくなる。一方で、これを後付け装置として装着することは難しく、基本的にはクルマのハーネス部分に多くの取りまわし配線が必要となるので、標準設定することが重要となる。
システムは、前方方向に従来の多眼カメラやレーダーソナー、次世代LiDARシステムを装備することで構成されている。
この次世代LiDARは、ある波長を持った光を発射し、その反射を機械が読み取って判別することで認知している。したがって、西日などの人間の目には判別しづらいような状況でも、LiDARの発する光の反射があれば、それを正しく認知して判別可能だという。また、雪国で多くみられるホワイトアウトのような場面では、精度こそ低下するものの、氷の粒が通過するたびに読み取れる隙間の部分を上手く演算してひとつの画像を構成することが可能だという。この粒子が細かくなり密度が高まってしまうと判別が非常に難しくなるのは人の目と同じだが、現状でも人間の視力よりもはるかに検知機能として優れているという。
自動運転に関しては、2012年ごろから日産は、緊急回避や自動停止ブレーキなどを中心にかなり高い完成度をアピールしていた。その結果、プロパイロット2.0に見られるような「レベル2」の自動運転を市場投入することが可能となっていた。
10年かかった割には、いささか進歩の度合が低いと言わざるを得ないが、この間に地球温暖化の問題で二酸化炭素の排出を抑える処置、またそれに伴う電動化の方に開発のプライオリティが置かれたからといえるだろう。
電動化に舵を切ったことにより、今後は自動運転に対しても開発のペースを上げていくことが出来るようになると期待されている。
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