昭和を代表する「Z1」「CB1100R」「CBX400F」
1960年代末期から世界の頂点に達した日本のバイク界は、続く70~80年代にかけて数え切れないほど多くのライダーたちを生み出しました。そんなオートバイの黄金時代に青春を送った多くの若者たちが、数十年たった今でも愛して止まないマシンたちが存在します。
「ケッチ」「サンパチ」「ヨンフォア」! 70年代に“中免ライダー”を虜にした国産バイク
それらの中には、中古車市場で発売当時とは思いもよらぬプレミアム価格で取引され、ビンテージバイクとなったものも多数あります。今回は、それらお宝マシンの中で代表的なバイクを紹介します。
カワサキ 900スーパー4【Z1】が600万円
カワサキ初の並列4気筒マシンとして、そして今に続くZシリーズの最初として1972年に誕生したのが“Z1”として有名な“900スーパー4”。しかし、大排気量の空冷直4エンジンとしては、1969年に発売されたホンダの750cc、ドリームCB750FOURに先を越されてしまいました。
そこで、Z1はCBを超える903ccという排気量と、高性能なDOHC2バルブ(CBはSOHC2バルブ)を武器にみごと巻き返しに成功しました。
なお、Z1は輸出専用車です。そのため日本にあるZ1は、海外から日本に里帰りしてきた逆輸入車となります。そんなカワサキZ1が、21世紀に再燃した旧車ブームでも大人気。新車当時は、北米で1895ドル(当時の為替相場で約57万1500円)で販売されていましたが、現在の中古車相場は少なくとも300万円。初期型で希少性が高く、程度の良いものであれば600万円は優に超えるというから驚きです。
一番人気は「火の玉カラー」の初代
特に、一番人気で高価なのが「ファイヤーボール」や「火の玉タンク」と呼ばれるカラーを採用した車両。初期型に設定され、Z1を代表する車体色です。日本国内ではバイクの排気量の上限が750ccの自主規制があったため、それに合わせ発売されたのが有名な「ゼッツー(Z2)」こと750cc版の“750RS”ですが、そちらでも初代にはこのカラーが採用されました。
ちなみにプレミア旧車市場でのZ2は、Z1を超える値段となる超お宝バイクで、当時の国内新車価格が41万8000円だったのに対し、今では1000万円以上の値が付く場合も! というのも、輸出仕様のZ1は全世界で推定16万台以上なのに対し、日本向けに作られたZ2は推定2万台と生産台数が圧倒的に違うからです。
そのため、現存する車両数もZ2の方が少なく、希少性が高くなっているのでした。それに当時に青春を送ったライダーたちにとっては、Z1より身近だったZ2の方が、より“思い入れある”ということが人気の理由です。
なんと今冬にシリンダーヘッドが再生産
Z1の空冷直4エンジンは排気量903cc。DOHCの採用により高回転まで回すことができ、最高出力は82psを8500rpmで発生させていました。Z1のエンジンは排気量に余力を持って基本設計がされていたため、この後、1000cc、1100ccへと進化していくこととなります。
現在バイクマニアの間で話題となっているのが、カワサキが2019年冬にZ1/Z2のシリンダーヘッドをわざわざ新規金型を作って再生産するというニュース。カワサキにとっても、それだけZ1/Z2は“大事にしたいバイク”ということのようです。
とにかくレストアを考えているオーナーには朗報でしょう。限定1000個ということから、おそらく激しい争奪戦が繰り広げられることは間違いありません。
Z1のオリジナルマフラーは4本出しでした。昔のバイクですので、転んで傷が付いていたり、集合管にカスタムされていることも多い部分ですが、お宝価格になるのはやっぱり当時オリジナルの姿を保っているものとなっています。
ただ、シリンダーヘッドといった大掛かりな生産設備が必要なものの再生産はなかなか難しいのですが、マフラーに関してはサードパーティのリプロダクト製品が存在しているので比較的レストアが容易なパーツと言われています。また、キャブレターはミクニ製のVM28をシリンダーあたり1個ずつ装着していました。
Z1は、砲弾型の2連メーターをキュッとライダーに向けて傾けた姿が、なんともスポーティ。乗り手を「ヤル気」にさせてくれます。
写真の車両はアメリカ向けに輸出されたもので、スピードメーターはマイル表示。目盛りの最高は160mph、すなわち257.5km/hまで刻まれています。アメリカにいた頃は、ハイウェイを豪快に疾走していたのでしょう。当時、実際の最高速度でも210km/h以上をマークしていました。
ちなみに、もしスピードメーターの「20」の文字が目盛りよりやや上に印字されていたら最初期型。取引価格が一気に跳ね上がる超お宝になります。
ブレーキは、フロントに油圧式ディスクブレーキ。片押しの1ポットキャリパーをシングルで装備していました。マニアが多いZですので、今でもブレーキパッドの入手は容易です。
リヤブレーキはドラムブレーキとなっていました。1976年にZ900/KZ900と車名を変えたA4型からリヤもディスクブレーキに改められています。
ホンダ・CB1100R(RD)には700万円の中古車も存在
CB1100Rも今やプレミアムなバイクです。1970年代後半に、ワークスマシンRCB1000を擁しヨーロッパの耐久レースを席巻し、「無敵艦隊」と異名を取ったホンダが、その技術をフィードバックして1978年に発売した公道用市販車がCB900F。
CB1100Rは、それをベースに、ヨーロッパなどで盛んだった、市販車を改造して出場するプロダクションレース用に作られたマシンです。初代のB型が1981年に発売、写真の最終D型が発売されたのは1983年のことです。
CB1100Rは“公道を走ることができる車両”として、ヨーロッパなどの海外専売車として発売されましたが、これは「市販車をベースに限られた改造範囲で」という、現地のレース・レギュレーションに合わせるため。ですが、新車のときから中身にはレース用パーツをふんだんにつぎ込んでいて、実質的にレーシングマシンといっていい内容のオートバイだったのです。
そのため、新車で約250万円という高価格が設定されたのですが、これが予想外の大人気に。生産台数も市販車として認められる1000台をちょっと超える1050台と限られていたのもコレクター魂に火を点けてしまいました。当時の日本にも少量が逆輸入されましたが、わずかな台数だったようです。
B型のヒットを受けて、翌82年にカウル形状を大きく改めたC型、83年に最終型のD型が作られましたが、やはり各1500台ずつの限定生産。「新車当時から生粋のプレミアムバイク」、それがCB1100Rだったわけです。
レースに勝つためコストは度外視
当時としてはまだ珍しい、クリップオンのセパレートハンドルを装備したコクピットまわりは「非常にレーシー」と大好評。油温計も装備していました。カウルはFRP+カーボン製でタンクはアルミ製と、現在で見ても非常にコストのかかる作りとなっていましたが、これは本気でレースで勝つことを考えていたマシンであることの証でもあります。
エンジンは、CB900Fの空冷直列4気筒をベースに、「勝てる」仕様にするためにチューンナップされています。排気量は1062ccに上げられ、強化コンロッドやクランクシャフトなどが組み込まれていました。
初期型では115psだった最高出力はC型から120psにアップし、最高速は220km/hから245km/hへと一気に伸びました。CB1100Rは1台ずつエンジニアが手で組み立てたという、これまた贅沢な生産方法を取っていたのも有名です。
最もお宝なのは最終D型
そんなCB1100Rですが、旧車市場で最もお宝とされているのは最終型のD型。勝つために生まれたレース用マシンという生い立ち上、その熟成された完成形態という位置づけになっているからです。もっとも新車当時から本当にレースに使うオーナーは限られていたそうです。
お宝なので、大事に乗りたいという人が多かったのです。現在の相場価格に関しては、もう「ASK」の一言。700万円という値段になることもあります。
ちなみに、C型とD型はぱっと見でそっくりですが、見分けるポイントはふたつあります。ひとつめはカウルとフロントホイールのアクスルシャフトとの位置関係。D型はカウル先端がアクスルシャフトより後方となっています。C型では前に出ていました。これはレースレギュレーションの変更に合わせたものです。
ふたつめは、スイングアームの形状。D型は現代のようなボックスタイプ、C型以前は丸パイプとなっています。ただ、B型からD型まですべて生産数が少ないため流通台数もわずか。欲しい人が入手したらそうそう手放すことはないですし、まさに夢のマシンと呼べるのがCB1100Rなのです。
ホンダ・CBX400Fは新車価格の4倍
ヨンフォアことCB400Fを1977年に生産終了させたホンダは、しばらく「中型クラスには4気筒より2気筒が適している」と唱え、ホークシリーズを展開していました。
しかし、1979年にカワサキがZ400FXを発売するや市場では4気筒ブームが到来。これを受けてホンダも、再び並列4気筒マシンを投入することになります。それが1981年に登場したCBX400Fでした。
リア1本サスでスポーティさを強調
リヤ2本サス仕様のZ400FXは、70年代にカワサキが海外で主力とした1015ccのZ1000Mk-IIから続く1970年代的スタイルでした。
それに対しCBX400Fは、スポーティなヨーロピアンスタイルで、レーシーなどで採用されたリヤ1本サス、アルミ製スイングアームなどを装備し、1980年代にふさわしい“新しさ”を持っていました。
ホンダ中型4気筒の復活を待ち望んでいたライダーたちをはじめ、多くの若者たちがCBX400Fに熱狂。普段の足からツーリング、そして当時流行したサーキット走行やレース参戦に至るまで、大いに青春を共にしました。
当時のホンダの広報リリースを見ると、販売計画に月間5000台という数字が踊り、製造終了までの約3年間で6万台以上が生産されたというから驚きです。
それだけに、当時を懐かしむライダーを中心に今もCBX400Fは大人気です。旧車市場では、お宝バイクを代表する1台に数えられることとなっています。
新車価格が単色で47万円、ツートンが48万5000円(共にI型)だったのに対し、現在の中古相場価格はなんと200万円以上! 6万台以上が作られたCBX400Fですが、もう約40年も前のバイクですし、中型バイクという性格から乗り潰されてしまい、程度のいい車両の現存数はそんなに多くはないからです。
現在でも、あまりに人気のためバイク泥棒に狙われやすく、盗難保険に入れないバイクとして報道されたこともあるほどですが、ショップによっては加入することもできるので事前にしっかり確認しておきたいところです。
80年代を意識させる進化
CBX400Fのエンジンは、排気量399ccの空冷並列4気筒。逆回転クランクやオイルクーラーといった当時新しかった装備を持つエンジンは1万回転以上回り、48psを1万1000rpmで発揮。Z400FXの43ps/9500rpm以上の高性能を誇っていました。
また、車重でもZ400FXより10kg以上軽く、80年代にふさわしい進化ぶりを見せていたのが特徴です。マフラーのエキゾーストパイプは1・2・3番と4番がクロスする独特の取り回しとなっていました。
足まわりも新しさが光っていました。ホイールには、当時ホンダ車の多くに採用された軽量・高剛性のブーメランコムスター、前輪にはインボードディスクブレーキも組み合わされていました。
特に、ブレーキは独特で、制動力は強力だがサビやすい鋳鉄ブレーキディスクをカバーで覆い、雨などで濡れることを極力低減するといった機構でした。また、カバーには冷却用のエアダクトも設けられ、高い制動力と耐久性の両立が図られました。
さらにフロントフォークにはブレーキング時のノーズダイブを抑える「TRAC」機構、リヤにはレースなどからフィードバックされたプロリンク式モノサス(1本式ダンパーをリンク式マウントで車体に取り付ける方法)など、最新機構を随所に盛り込んでいたのでした。
人気のために異例の再生産も
1983年末に後継のCBR400FにバトンタッチすることとなったCBX400Fですが、その後も人気が衰えることがなく、ホンダは1984年に異例の再生産を行いました。通称II型と呼ばれるモデルがそれにあたります。
旧車市場ではII型の方が重宝されていますが、その理由は搭載エンジンが後継モデルCBRで改良されたタイプがベースで、熟成が進んでいるためです。
また年式が高いため、それだけ状態が良いということもあります。加えて、再生産は1年間のみで、I型と比べたら生産台数が圧倒的に少なく希少性が高いことも人気の秘密のようです。
I型とII型は外見でも微妙に異なっており、2か所で見分けることが可能。ひとつめはメーターハウジングの厚みで、II型の方が少々厚くなっています。もうひとつはシリンダーヘッドの後部で、II型にはボルトの下にちょっとした出っ張りがあります。「II型はCBR400Fエンジンをベースにしている」といわれる所以はここです。
CBR400Fでは、エンジン回転数に応じて2バルブ→4バルブに切り替える新機構=REVをこの箇所に装備していました。CBX400Fは4バルブ固定で、REVの採用はなし。ということで、II型用エンジンは、再生産をするときにREV装着箇所を埋めた跡が残っています。
なお、熟成されたII型の方が速いという説もありますが、実際にI型とII型の両方に乗った人の話ででは、違いはあまり感じられないとか。II型の高値は程度の良さと数の少なさが大きなファクターになっているようです。
名車バイクの購入者は、比較的年齢層が高い人たちが多いのですが、結局のところ旧車市場でお宝になる車種は、当時多くの人が『青春時代を共に送った、または憧れていたバイク』であることが多いようです。
そのため、例えばZ1のような逆輸入車の場合、同じ車種でも近年に逆輸入されたものより、憧れていた当時(昭和)に国内で初登録されたものの方が重宝され、価格も高くなります。
バイクを通して青春時代を振りたい……そういった思いが強い人たちにとって、これら名車たちの価格がかなりプレミアムだとしでも、少しも惜しくないようです。
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