「2500台停止」による現場崩壊
日本郵便の不正点呼問題が、大きな波紋を広げている。世間からは、ゆうパックや郵便事業の継続性、あるいは値上げへの懸念が相次いでいる。
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物流業界からも、
「業界の恥さらしだ」
「日本を代表する物流企業で何をやっているのか」
「これでは業界全体が悪く見られる」
といった厳しい声が上がっている。一方で当の日本郵便は、既存事業に影響はないと必死に訴えている。
本稿執筆時点で、国土交通省が明らかにした具体的な処分は、車載重量1t以上のバン・トラック2500台に対する事業許可の取消しである。これらの車両は、
・大口顧客向けの集荷
・集配局と郵便局間の輸送
などを担っていたという。「新しくトラックを購入して、事業許可を再取得すればよい」と考えるかもしれないが、今後5年間は一般貨物自動車運送事業の新規申請も禁じられており、この方法は使えない。
日本郵便によれば、対象となるトラックは月間11万8200便の配送を担っていた。これに対して同社は、郵政グループ外の運送会社に委託する割合が34%、子会社の日本郵便輸送への委託(外注含む)が24%、そして残る42%は自社の軽バンで代替する方針を打ち出した。これは2025年6月17日に発表された対策だが、筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は
「4割を軽バンで代替する」
という点に強い違和感を覚えた。本気でそんなことをいっているのか――。あまりにも非現実的で、愚かに映る。
受付負荷を無視した運用拡大
愚かと感じたこの感覚を共有するために、あえて乱暴な例えを使わせてほしい。
修学旅行を控えた中学校があるとする。生徒は200人。移動手段はバス5台に分乗する予定だった。ところが、バス会社から「バスが用意できないので、代わりにタクシーを出す」といわれたとしよう。
タクシー1台に生徒4人が乗るとすれば、必要な台数は50台。これだけの台数が一斉に動けば、乗降に大きな時間がかかる。特に見学先での乗降が問題になる。50台で200人の生徒が乗り降りするだけで、相当な時間を要する。そもそも、そんな数の車両が駐車できる場所を確保できるとは限らない。
場合によっては、見学先から「バス5台なら歓迎するが、タクシー50台では駐車場が混雑してしまう。他の来場者に迷惑がかかるので来ないでほしい」と断られる可能性もある。ここで、軽バンの最大積載量を350kgと仮定する(実際は車種により異なる)。
・最大積載量1000kgのバンを軽バンで代替するなら、少なくとも3台必要
・3500kgの4tトラックを代替するには、最低10台
・10000kgの大型トラックなら、最低29台が必要になる
つまり、これまで4tトラック1台で集荷していた物流センターには、今後は軽バン10台が出入りすることになる。これは物流センター側にとって
「迷惑」
以外の何物でもない。車両台数が増えれば、その分だけ受付の負荷が増す。受付業務は車両のサイズに関係なく1台あたり一定の手間がかかる。さらに、軽バンではフォークリフトやカゴ台車を使った荷役ができない。すべて手積み・手卸しとなるため、作業負担が一気に跳ね上がる。
物流現場に押し寄せる手積み地獄
日本郵便で今後使用できなくなる2500台の車両が担当していた「比較的大口の顧客」とは、ECや通販事業者、あるいはトラックをチャーターするほどではない企業間輸送などが該当すると考えられる。
例えば、カゴ台車を使って4tトラックに荷物を積み下ろす場合、作業は30分ほどで完了するだろう。しかし、これを軽バンに手積み・手卸しで行うと、スキルの高い配達員であっても1台につき最低10分はかかる。4tトラック相当の荷物であれば軽バン10台が必要になるため、作業時間は10分×10台で計100分。4トントラックと比べて、3倍以上の時間がかかる計算になる。
このような運用が現場に導入されれば、物流センターの入出庫効率は大きく低下する。結果として、入出庫時間を延長する必要が生じ、倉庫作業員には長時間労働が発生する可能性がある。
荷役時間だけでなく、荷待ち(待機)時間も増加するだろう。物流センターの周辺には待機中の軽バンがあふれ、近隣住民から苦情が出るおそれもある。
さらに、来春から大手荷主や物流事業者には
「1運行あたりの荷待ち・荷役時間を2時間以内に抑える」
という『1運行2時間ルール』が適用される。このルールの順守にも悪影響を与える可能性がある。
「大は小を兼ねる」とはよくいわれるが、逆は成り立たないことが多い。トラックの役割を軽バンで置き換えるというのは、日本郵便側の都合にすぎない。そのしわ寄せは、発荷主・着荷主の双方に及び、深刻な迷惑を引き起こすおそれがある。
ほかにも、日本郵便が大量の軽バンを確保することで、軽バンによる配達を担ってきたAmazonや楽天といった事業者において、配達員の確保が難しくなる懸念がある。
配送混乱が招く値上げ圧力
この状況が進めば、
・配達の遅延
・翌日配送可能地域の減少
といった悪影響が、軽バンを使った配達業界全体に広がる可能性がある。
とはいえ、筆者はバン・トラックによる輸送を軽バンで代替することによる悪影響は、それほど大きく出ないのではないかと考えている。その理由は、
「日本郵便から顧客が離れていく可能性」
が高いからだ。理屈をいろいろ書いてきたが、物流業界の感覚としてトラックの代わりに軽バンを送り込む」いうのは、常識ではありえない。そのうえ実際に不便が生じれば、
「これ以上、日本郵便には任せられない」
と判断する荷主も増えていくだろう。実際、これまで日本郵便にゆうパックなど小型荷物の配送を依頼してきた荷主や元請の物流事業者のなかには、ヤマト運輸や佐川急便といった他の宅配事業者に切り替える動きが出始めている。
「今のところ、うちにはまだトラックが集荷に来ているから」として様子を見ていた荷主も、いざ軽バンが集荷・配送を担い始めれば、やはり無理だと切り替えを検討するだろう。その結果、日本郵便は事業許可を失った2500台の車両が担っていた月間11万8200便の配送を維持できなくなる。取扱量は減り続けることになるだろう。
日本郵便の主張をそのまま信じるなら、配送件数が42%減って6万8556便まで落ち込めば、軽バンによる代替輸送は不要になる計算だ。
今回の不正点呼問題によって、日本郵便の小型貨物輸送が4割程度減少するというのは、十分あり得る見通しである。そうなれば、本稿の前半で述べたような懸念は杞憂に終わるかもしれない。
だが同時に、日本郵便の経営はより一層厳しくなる。経営が悪化すれば、現在は行わないとしている
「郵便やゆうパックの値上げ」
も、現実的な選択肢となってくるだろう。日本郵便は、宅配で2割、メール便では8割のシェアを持つ、日本有数の物流事業者である。現在、バン・トラックのみならず、軽バンに対する処分も国土交通省や総務省の判断待ちという状況にある。物流業界だけでなく、日本社会全体への影響も避けられない。
ここで取り上げた軽バンでトラック輸送を代替するという話は、氷山の一角にすぎない。日本郵便は小手先の言い訳で国民を煙に巻くのではなく、自社の影響力を正しく把握し、社会に与える影響について誠実に説明すべきである。(坂田良平(物流ジャーナリスト))
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