1992年4月にスバルのサンバートラック(その後はダイハツからOEM供給)、2021年4月にホンダのアクティトラックが軽トラック市場から撤退して以来、日本車の軽トラックはダイハツハイゼットトラック、スズキキャリイトラックの2車種の争い(OEM供給を除き)となっている。
2021年12月、アトレー、ハイゼットカーゴは17年ぶりにフルモデルチェンジが行われた一方、2014年9月に登場したハイゼットトラックはマイナーチェンジにとどまった。
豪華装備CVT新搭載のハイゼット対4AT新搭載のキャリイ 軽トラ戦争の勝者はどっちだ?
アトレー、ハイゼット同様、FR用のCVTやデフロック付きの電子制御式4WDやキーフリーシステムやプッシュエンジンスタート、電動格納式ミラーなど軽トラ初の装備やクラス初のスマートインナーミラー装着など、装備が豪華になった。
一方、スズキは4月7日、キャリイトラックの一部改良を行った。
これまでの3速AT車を4速AT車に変更することで燃費を向上させるとともに、停車時アイドリングストップシステムを採用したほか、KX、特別仕様車 KCスペシャル、スーパーキャリイ XにLEDヘッドライト(マニュアルレベリング機構付き)をメーカーオプションとして設定した。
今、日本の軽トラ戦争はどうなっているのか? キャリイトラック、ハイゼットトラックのどちらがいいのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ダイハツ、スズキ、ベストカーweb編集部
■スバル、ホンダは撤退、残ったダイハツとスズキは
2012年2月29日をもってスバルは軽トラック&バンの自社生産を終え、軽自動車生産54年の歴史に幕を閉じた。写真はサンバー発売50周年記念特別仕様車「WR BLUE LIMITED」
ミドシップレイアウトを採用することから「農道のNSX」の異名をとったホンダ アクティ。2021年4月に惜しまれつつ生産終了
軽トラックは物流を支える大切な手段だ。2021年には国内で約76万6000台の商用車が新車として売られ、この内の50%が軽商用車だった。乗用車における軽自動車の比率は35%だから、商用車の方が軽自動車の普及率が高い。
そして軽商用車全体の44%を軽トラックが占める。軽商用バンに近い台数が販売されている。そこで今回は、軽トラックのライバル争いを取りあげたい。
日本自動車工業会の調査によると、軽トラックでは、農業の用途が44%を占める。ユーザーの購買理由も、荷物の積み降ろしがしやすい、狭い道(あぜ道)での扱いやすさなど、農業におけるメリットが多く挙げられている。
しかしその一方で、農業以外に使うユーザーも32%いて、乗用車としての用途も10%あった。メーカーの開発者も「軽トラックは農業などの仕事に加えて、日常的な買い物や会合など、短距離の移動に幅広く使われる」という。最も多い用途は農業だが「2名以内で移動する乗用車」と側面もあるわけだ。
このほか60%のユーザーが「ほとんど毎日使う」と返答した。軽トラックのユーザー年齢は、60代が33%、70代は40%に達する。農業人口の高齢化もあり、高齢者が70%を超える。
そのために大半のユーザーが「若い頃に比べて慎重に運転している」と返答しており、80%が衝突被害軽減ブレーキの採用を希望している。従って軽トラックでは、安全装備の充実も大切だ。
このように今の軽トラックには、乗用車に準じる快適性から安全装備まで、さまざまなニーズが寄せられている。これに伴って機能や装備も多様化した。
軽トラックの開発と製造を行うメーカーは、今はダイハツとスズキのみだ。ダイハツハイゼットトラックと、スズキキャリイが主力車種で、ほかのメーカーもこの2車種をベースにしたOEM車を扱う。
2021年12月にマイナーチェンジして登場したダイハツ ハイゼットトラック
ダイハツハイゼットトラックは、スバルサンバートラック、トヨタピクシストラックとしても供給される。スズキキャリイは、日産NT100クリッパー、マツダスクラムトラック、三菱ミニキャブトラックになる。
キャリイとそのOEM車は、乗用車メーカー8社の内、4社が販売しているわけだ。ダイハツもスバルとトヨタに供給するから、軽トラックを扱っていない乗用車メーカーはホンダだけだ。
軽トラックの開発と製造を行うメーカーは、ダイハツとスズキのみだから、一騎打ちの状態だ。軽トラック全体の売れ行きは、2021年の1か月平均が約1万4000台と多く、ライバル同士の競争も軽乗用車以上に激しい。そのために改良も綿密に行う。
ハイゼットトラックのCVT
最近の動向で最も注目されるのは、2021年12月に行われたハイゼットトラックのマイナーチェンジだ。この時には、後輪駆動用に開発されたCVTが新たに採用された。
CVTは無段変速式のATだから、従来型の4速ATに比べて、速度や運転状態に応じた最適なギヤ比が設定される。4速ATの場合、2速ではエンジン回転が高すぎて、3速では低すぎるといった場面も生じるが、CVTなら中間のギヤ比も無段階に選べる。
CVTではギヤ比の幅も広く、重い荷物を積んでいる時は、ローギヤードに変速して力強く発進できる。逆にほとんど荷物を積まずに高速道路を走る時は、ギヤ比を高めてエンジン回転数を低く抑え、燃料消費量を節約することも可能だ。
さらにCVTでは変速時のショックも生じない。エンジンノイズも抑えられる。動力性能や燃費に加えて、快適性も向上した。しかもハイゼットトラックのCVTに組み合わせる4WDは、電子制御に進化している。
従来は5速MT専用だったスーパーデフロックをCVTにも組み合わせた。極端に滑りやすい路面では、4輪駆動時にデフロックも作動させると、悪路走破力をさらに向上させられる。
衝突被害軽減ブレーキも機能を向上させ、スイッチ操作でエンジンが始動するキーフリーシステム&プッシュボタンスタートも採用された。
2022年4月に一部改良して登場したスズキ キャリイ
一方、2022年4月には、キャリイも改良を実施している。従来のキャリイには3速ATが多く設定され、ギヤ比の配分も粗かった。そこでATが4速に改良され、アイドリングストップも採用している。その代わり1組のクラッチを使う5速AGS(オートギヤシフト)は廃止した。
■ハイゼットトラック&キャリイを比較する:荷台と室内
キャリイ(左)とハイゼットトラック(右)の荷台サイズ。キャリイの荷台フロア長は2030mmで軽トラックNo.1とある。ところがハイゼットトラックの荷台フロア長も2030mm。さすが宿命のライバル!?
そこでハイゼットトラックとキャリイを比べたい。軽トラックで最も重視される荷台のサイズは、標準ボディの場合、両車ともに荷台長が1940mmで荷台幅は1410mmだから差は生じない。
しかし居住空間の上側を拡大したハイゼットトラックジャンボは、荷台長が1650mmで、荷台幅は1410mmだ。キャリイにも居住空間を広げたスーパーキャリイが用意され、荷台長は1480mmと短く、荷台幅は1410mmで等しい。
スーパーキャリイの荷台長は、ハイゼットトラックジャンボに比べて170mm短いが、シートの後部に設置された収納スペースの奥行は250mmだ。ハイゼットトラックジャンボの175mmを75mm上まわり、車内も開放的に仕上げた。
ハイゼットトラックジャンボの荷台
トラックの標準ボディ同士で居住空間の広さを比べると、両車とも同程度だ。標準ボディのヘッドレストは両車ともに固定され、ステアリングホイールとシートとの間隔もほぼ等しい。シートの座面の奥行寸法は、両車ともに440~460mmだ。
ただし乗降性は異なる。ドアを開いて、足が通る部分(ホイールハウスの前端とドア開口部の前端)を測ると、ハイゼットトラックは180mmだが、キャリイは230mmの余裕がある。
そのためにキャリイは、ハイゼットトラックに比べると、乗降時に足をスムーズに動かせて引っ掛かりにくい。軽トラックは前述の通り農業に多く使われ、作業中には乗り降りを頻繁に繰り返す。安全上は好ましくないが、長靴で運転することもある。乗降性は大切な機能で、この点はキャリイが優れている。
ハイゼットトラック インパネ
ハイゼットトラックエクストラ シート
とても軽商用トラックとは思えないハイゼットトラックのコクピット。豪華ではないが大衆食堂から格が1つ上がったイメージ。クラス初のキーフリーシステム&プッシュボタンエンジンスタート、電動格納式ドアミラーも装備
ハイゼットトラック。いろいろなものが置けそうな助手席ダッシュボード。ナビのディスプレイは豪華すぎて違和感があった
■ハイゼットトラック&キャリイを比較する:動力性能と安全装備
動力性能は、ハイゼットトラックが最高出力46ps/5700rpm、最大トルク6.1kgm/4000rpmになる。キャリイは50ps/6200rpm、6.0kgm/3500rpmだ。車両重量は、標準ボディ(2WD/AT)の場合、ハイゼットトラックが790~810kg、キャリイは750kgになる。
キャリイはハイゼットトラックよりも最高出力が高く、最大トルクは少し低いが、発生回転数を実用域に設定した。加えてボディが軽い。
そのためにキャリイは、荷物を積んでいない状態では加速が活発に感じるが、ハイゼットトラックはCVTの採用で加速が滑らかだ。CVTにはエンジンパワーを有効活用できるメリットもあり、両車の走りを比べると、ハイゼットトラックが上質に感じる。
WLTCモード燃費は、ハイゼットトラック(2WD/AT)が16.5km/L、キャリイは15.7km/Lになる。ハイゼットトラックのATはCVT、キャリイは4速ATだから、前者が優れた性能を発揮する。
衝突被害軽減ブレーキは、両車とも2個のカメラをセンサーとして使う。ハイゼットトラックのスマートアシストは、マイナーチェンジで機能を進化させた。キャリイのデュアルカメラブレーキサポートが検知するのは車両と歩行者だが、ハイゼットトラックは、自転車の検知も可能だ。
ペダルを踏み間違えた時の衝突事故を防ぐ誤発進抑制機能も、ハイゼットトラックは前進、後退ともにブレーキを併用するが、キャリイはエンジン出力を絞る機能のみだ。安全装備はハイゼットトラックが進んでいる。
以上のようにハイゼットトラックは、動力性能と燃費をCVTの搭載によって進化させ、安全装備も先進的だ。
価格(2WD/AT)は、ハイゼットトラック・エクストラが118万8000円、キャリイ・KXは118万1400円と互角になる。互いにライバル同士だから、価格競争も激しく、装備と価格のバランスはほぼ等しい。
近々の販売台数を見ると2022年3月はキャリイトラックが6275台、ハイゼットトラックが7587台、4月はキャリイトラックが3737台、ハイゼットトラックが7232台。2022年1~4月の累計販売台数はキャリイトラックが1万9332台、ハイゼットトラックが3万147台。販売台数から見るユーザーの判定はハイゼットトラックに軍配が上がっている。
軽商用車らしからぬ装備と2個のカメラを搭載した進化版スマートアシスト、CVT新搭載のハイゼットトラック、方やデュアルカメラサポートを搭載し、4AT新搭載のキャリイトラック。CVTか4ATかに使う人の取捨選択になってくるかもしれない。
いずれにしてもこの2車が切磋琢磨して今後日本の軽トラック市場を盛り上げていってくれることだろう。
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