文・濱口 弘、写真:シャシン株式会社
限定生産車のハシリはポルシェだと思っている。そして私の夢の限定生産車は、ポルシェ959だ。幼かった私が穴が開くほど読んだ959を特集したクルマ雑誌は、表紙も、タイトルも、写真も文章も、その雑誌を持った時の重さまでも、全て思い出せる。日本で初めてポルシェを売り出した、六本木のミツワ自動車から父がもらった959のポスターを私は部屋に貼っていた。その斜め左から撮られたシルバーの959が、そのままの角度で40年の時を超えて、いま私の目の前にいる。何度も誌面の959を撫でた指先は、いまアイドリングで熱くなったリアのエンジンフードを撫でている。私にとって歴史に触れる日。今日、この959に乗れるのだ。
1985年、ポルシェは959をアンベールした。グループBラリーのホモロゲーションとして開発され、当時としては先進的な、ABSや電子制御可変式トルク分配付きAWDシステム、可変サスペンション、TPMSモニタリングなどの電子制御を満載させた。技術のショーケースと呼ばれ、’86年から292台製造された世界最速の量産車であった。
今や限定生産車として代名詞のようになっているフェラーリF40のデビューは、この959の翌年になる1987年。公道で走れるレーシングカーというコンセプトでデビューし、ドライバーのスキルを選ぶプリミティブな加速刺激と、当時の日本がバブル時代に突入した頃合いと相まって、クルマに詳しくない層が話題にするほど有名になった。「F40と959、どっちが欲しいか?」という夢の選択を話題にすると、大多数の人はF40であったが、私は父が当時ポルシェに乗っていたこともあり、断然959派だった。この2台の個性もオーナー像も真逆であり、見続けた自室の959のポスターが無機質なシルバー塗装に対し、当時のフェラーリは赤しかない時代でもあったが、F40は扇状的な真紅のビジュアルであった。この時はF40、959どちらも、生産台数が決められていること以外に共通点はなかったのだが、時が経ち、両車は共に同じ時代に輝いた、紛れもない名車となった。
幼い私が雑誌の中でしか会えなかった名車たちは、私の年齢と共にヴィンテージカー市場となり、それはコロナ禍以降、周知のとおり高騰している。オンラインオークションのプラットフォームも成熟し、参加と購入が容易になり、新興国富裕層の粋な趣味としても伸びている。959スピードスターや、F40のLMのような、超がつく限定車の取引価格が更新しているのは理解できるが、価値が曖昧なクルマに過ぎる価格がついているものもあり、時価3億円のこの959に果たしてその価値はあるのか、そう感じながら私は乗り込んだ。
内装に全く色気はない。特別感もなく、964ターボにいくつか電子制御のボタンが多くついた程度だ。ナットとレンチを手にしたメカニックが、来客にも気づかず背中を向け整備している油臭い風景が目に浮かぶ。ビジネスライクだし、色気も、高級感もない。潔癖なまでに媚を売らないこの車と、都会で会いたいわけじゃない。私は峠へとステアリングを向けた。
峠までの道中で959の性格とご機嫌は探り終わっていた。私たちは峠に入り、そこでアクセルを強く踏み込んだ。450馬力でフルタイム4輪駆動、加速でトラクションを失うことはない。太いトルクを腹から押され、少しアンダー気味だが、フロントがプッシュされる前にリアが回り込んでくる。車体は常にフラットに保たれ、そのことに歓喜の声を上げながら、私の友人である959オーナーと次のコーナーへ飛び込んだ。やっと乗れた子供の頃のドリームカーは、想像以上の性能だった。乗るまでに時間はかかったが、今で良かった。今の私ならば、このクルマと寄り沿う運転技術があるので、高性能なこのクルマを充分に堪能できる。個体差が存在する時代のクルマだが、オーナーの完璧なメンテナンスもあり、人為的な心配は0.1秒も感じる瞬間はない。ブレーキの効きも抜群で、鷹が獲物を掴むように4輪が路面に食いついていた。このクルマの時価を忘れ、いくつかのコーナーを攻めたところで、背中から吠えるツインターボに負けじと大声で友人に叫んだ。「すごくない? これ、40年近く前に作ってたんだよ!」
959で私は特に、シーケンシャル・ツインターボへ心を奪われてしまった。低回転時には小型ターボ1機の稼働でレスポンスを重視し、中回転域から大型ターボが加わり2機での稼働になる。これがドライバーには、ボトムからフラットなトルクでターボラグがないように感じる。近年、ここ5年ほどで、ようやくターボラグがないターボ車が主流になってきているが、それを40年近く前に製品として成し遂げていたポルシェに、私は今さらながら脱帽するしかなかった。
959との峠セッションを終え、アドレナリンが引いていく。959に乗る前に抱いていた、このクルマへの疑いももうない。このクルマとの素晴らしい共振を思い返した。このクルマは今のこの現代のクルマが、1986年にタイムトラベルしたんじゃないのだろうか。極めて先進的で革命的な技術ばかりを搭載したこの959は、40年後にクルマがどう進化するかを示唆し、リードするために生まれたクルマで、最初から比類なき名車だったんだ、と。
Hiroshi Hamaguchi
1976年生まれ。起業家として活動する傍ら32才でレースの世界へ。スーパーGTでの優勝を経て、欧州最高峰GTシリーズであるヨーロピアン・ル・マン・シリーズ2024年度シリーズチャンピオンを獲得。ル・マン24時間出場。フィアットからマクラーレンまで所有車両は幅広い。投資とM&Aコンサルティング業務を行う濱口アセットマネジメント株式会社の代表取締役でもある。
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