ホンダ「インサイト」が、BEVのクロスオーバーSUVとして生まれ変わりました。初代は2ドアクーペのハイブリッドカー、2代目は5ドアハッチバック、さらに3代目では上質なセダンへと進化するなど、世代ごとに大きく方向性を変えてきたインサイト。そこには、時代ごとの「電動車のあり方」を模索してきた、ホンダらしい挑戦がありました。
文:吉川賢一/写真:HONDA
【画像ギャラリー】新型ではBEV専用クロスオーバーSUVへ大胆チェンジした、ホンダ「インサイト」の歴代モデル(29枚)
クーペ、ハッチバック、セダン……時代を先取りし続けた歴代インサイト
2026年4月16日、ホンダは新型BEV『インサイト』を発表し、翌17日に発売しました。今回の新型は、これまでのセダン路線から大きく方向転換し、BEV専用のクロスオーバーSUVへと生まれ変わっています。
今回の新型が4代目となるインサイト。1999年に登場した初代モデルは、2ドアクーペスタイルの超低燃費ハイブリッドカーでした。アルミボディの採用や徹底した空力設計など、「とにかく燃費を追求する」という強い思想を持った、量産車としてはかなり挑戦的な存在でした。
ところが2009年登場の2代目では、5ドアハッチバックへと大転換。価格や実用性を重視し、ハイブリッド車をより身近な存在へ広げる役割を担いました。当時のトヨタ「プリウス」を強く意識したモデルだったことを覚えている人も多いでしょう。
その後、2018年登場の3代目では、今度はセダンスタイルへと移行します。2モーター式ハイブリッド「e:HEV」を採用し、静粛性や上質感を高めた「大人向けハイブリッドセダン」へとキャラクターをチェンジ。運転がしやすくて燃費もよい、非常に優れたミドルクラスセダンでした。
ベースは中国向けの「e:NS2」。SUVとしては低い全高をもつ「走り」のクロスオーバー
そして4代目となる新型インサイトは、BEV専用のクロスオーバーSUVへと進化しました。ベースとなっているのは、中国市場向けBEV「e:NS2」。まず注目したいのが、その独特なパッケージング(車体構成)です。
全長4785mm×全幅1840mmと同社のCR-V(全長4700×全幅1865)に匹敵する体躯を持ちながら、全高は1570mmとSUVとしてはかなり低く抑えられています。この全高は同社のコンパクトカー「フィット」と同等で、最低地上高も140mmとフィット(135~160mm)に近い数値です。同社のSUVである「ヴェゼル(165~185mm)」と比較すると、25~45mmも低くなっています。
一般的なSUVは、視線の高さや力強さを強調するために最低地上高を高めに確保しますが、新型インサイトはそれよりも「低重心」「空力性能」「走行安定性」を重視した設計思想なのでしょう。筆者は2026年3月のバンコク国際モーターショーで、ベース車となる「e:NS2」の実車を確認しましたが、車高を少し上げた大型ハッチバックという印象をうけました。デザインも従来のホンダらしさからは少し離れたシャープで未来的な造形となっており、内装の質感も非常に高く感じられました。
航続距離は535km。徹底した静粛性対策の一方、ホンダらしい味付けも
パワートレインには、最高出力150kW(約204ps)、最大トルク310Nmを発揮するモーターを搭載。68.8kWhのバッテリーを組み合わせ、WLTCモードでの航続距離は535kmを確保しています。さらに50kW級急速充電では、20~80%まで約40分で充電可能とされており、日常用途だけでなくロングドライブにも配慮された性能となっています。
静粛性への取り組みも徹底されています。ボディ剛性強化や制振材追加に加え、不快な音を打ち消す「アクティブノイズコントロール」や、ロードノイズを低減する「消音機能付きアルミホイール」まで採用。その一方で、走行モードを「SPORT」に切り替えると、心地よい加速音を演出する「アクティブサウンドコントロール」が作動。静かなだけでは終わらせない、ホンダらしい味付けも盛り込まれています。
インテリアに目を向けると、BEVならではの床面のフラットさを活かした開放的な空間が広がっています。12.8インチの大型センターディスプレイ、11.5インチのヘッドアップディスプレイ(HUD)、BOSE製12スピーカーオーディオなども用意。さらに、車内を彩るアンビエントライトやアロマディフューザーまで装備されており、移動時間を豊かにする上質な空間演出に力が入れられています。
とくに印象的なのが、後席まわりのつくり込みです。足元スペースは十分な余裕があり、大開口のリアドアによって乗り込みやすさも配慮されています。後席の快適性を重視する中国市場のニーズを意識したものと思われます。
3000台限定販売ににじむホンダの「迷い」
そんな新型インサイトですが、販売に関してはかなり慎重な体制となっており、販売台数は3000台限定。ここからは、ホンダのBEV戦略の「迷い」も見てとれます。
ホンダは2026年3月、北米で予定していた「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の開発・発売中止を発表。電動化戦略の見直しに伴う損失は、今後分も含め最大2兆5000億円に達する可能性があるとしています。
一方で、ホンダは長期的にはEVを最適解としながらも、足元では需要の高いハイブリッド車へ開発・生産リソースを再配分する方針を打ち出しました。そこへ、中国市場向けBEVをベースとするモデルを「インサイト」として3000台限定で日本導入する。これは日本でEVの火を消さないための布石とも読めますが、同時に“本命EV不在”を埋める苦肉の策にも映ります。
かつてホンダ初の量産ハイブリッド車だったインサイトの名をBEVに冠したところに、ホンダの狙いと迷いの両方がにじんでいるように思えます。大丈夫かホンダ。ちゃんと「大きな絵」は描けているか。裏側ではしっかりと、ホンダらしい大胆な技術と戦略が動いていると期待しています。
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開発担当者様には本当にお疲れ様と言いたい。