この記事をまとめると
■栃木県宇都宮市にて芳賀・宇都宮LRT(ライト・レール・トランジット)が開業
線路上を走ってもOKな場所もある!? 馴染みのない地域のドライバーにはけっこう怖くて謎な「路面電車」のルール
■駅で降りたその後の利便性の面で疑問視する声も上がっている
■75年ぶりの新規路面電車ということで、今後の動向に注目だ
ついにLRTが開業するも……
8月26日に栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅東口から、隣接する芳賀郡芳賀町にある工業団地の間を結ぶ、芳賀・宇都宮LRT(ライト・レール・トランジット)が開業した。新規路面電車の開業は75年ぶりとのことで話題を集めているが、ある報道を見ていると地元の人のなかには、「それでもクルマを利用する頻度は変わらない」という声も目立っていた。
LRTの駅がある東口の反対となる西口には発着路線数も多いバスターミナルがあり、また宇都宮の中心市街地まで徒歩圏となっており、東口に比べるとぎやかである。また、宇都宮が県庁所在であるといっても、地方都市の路線バスは運行本数が少ないのが「あるある状態」なのだが、西口を発着する多くの路線は行政からの補助金などもあり、運行本数がかなり多いのが特徴となっている。それだけクルマ社会といわれるなかでも、お年寄りや学生などを中心とした「市民のための公共輸送機関」の確保に行政も積極的な姿勢を見せており、LRTの導入もそのひとつといえるかもしれない。
路線図をみると、LRTの各駅のほとんどには「トランジットセンター」と命名された乗り換え施設が用意されている。そしてほとんどの駅には駐輪場が用意されている。さらに地域内交通乗降所というものも用意されている。これは、あらかじめ予約することで、駅と自宅などドア・ツー・ドアで結ぶ「デマンド方式」と、決められたルートと時間を運行する「定時定路方式」というものがすでに宇都宮市では用意されているのだが、LRTのホームページからはどのように運行されているのか筆者は知ることはできなかった。一般路線バスと乗り換えできる駅は4つのみ。さらに、ここが気になるのだが、駐車場を用意している駅が19駅のなかで4つしかないのである。
栃木県も含む北関東3県(ほか群馬と茨城県)はクルマ社会といわれて久しい地域。自宅敷地内には運転免許を持っている家族分のクルマが停められていることも珍しくないぐらい、日常生活の移動手段ではマイカー依存度が高まっているのである。そのなかで、交通渋滞の解消、つまりマイカー利用の抑制効果も狙ってLRTを導入するからにはLRTの駅前すべてに駐車場を設けるぐらいはしたほうが良かったものと考える。
LRTの普及促進をはかるためなら。LRTの駅から自宅やオフィスまでの接続交通の充実が肝心なのだが、宇都宮LRTでは、接続交通が自転車に絞り込まれているようにも見える。筆者としては、LRT導入に合わせて試験的な視点も含め、LRT沿線に限りライドシェアサービスを導入するぐらい踏み込んでみても良かったのではないかと考える。
クルマのほうがやはり利便性は高い
筆者は年に一度ぐらいのタイミングでプライベートにて10日間ほど南カリフォルニアを訪れ、その間の移動手段はほぼすべてレンタカーに頼っている。10日の旅を終えて日本に帰国し、とくに電車で空港から自宅に帰るときは乗り換えや車内混雑などを苦痛に感じてしまうほど(とくに他人との間隔が狭いのは結構プレッシャーに感じる)、マイカーでの移動は便利だなぁと感じてしまう。
この便利さに慣れきってしまった人の目を公共交通機関に向けるには、筆者個人としてはLRTの駅からの乗り換え交通が充実していないように見える。自宅や勤務先と駅の間を可能な限りストレスなく移動できることが大切ではなかろうか。インドネシアなどの新興国では、バイクタクシーというものがあり、リーズナブルで小まわりがきくのだが、日本ではまずそのような旅客サービスが許されるわけはないだろう。
路線バスの新規路線開設や、各駅にタクシー乗り場を設けようにも、手間だけでなく乗務員の確保もままならないいまでは、現実的とは言えない。ならば、それに代わってマイカー保有台数も多いのだから、一般ドライバーがマイカーでライドシェアサービスを行い、乗り換え交通機関の補完をするというのは、ライドシェアの本格解禁へ向けての試験的導入の意味合いでも大きいと考える。ロサンゼルスやその周辺は、アメリカのなかでもとくに自家用車がないと生活できないとまで言われたが、いまではライドシェアサービスの普及で若年層では運転免許を持たない人も目立ってきているとのこと。
また、自家用車を持てない(1台しかなくて家族の誰かが通勤に使ってしまい日中の移動の足のない人なども含む)所得層の人でも、ライドシェアサービスでショッピングモールへ気軽に出かけ買い物している姿も見かけるようになった。
前出の宇都宮駅西口の路線バスでも、運行間隔も短く利便性も高いのだが、通勤時間帯でも都内や隣接県でイメージするほど車内が混みあうことはない。マイカー移動に慣れきってしまったあとに、公共交通機関の利用へ移行するのは単に利便性を高めたとしても、意識変化を促すのにはかなり厳しいものがあるものと考えている。
75年ぶりの新規LRTの成否は乗り換え交通のさらなる充実にあるといっていいだろう。
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