「置き配」主流化の現実
2025年6月、国土交通省は標準運送約款の見直し案を示した。これにより、宅配の基本的な方法が「対面手渡し」から「置き配」へと変わり始めている。
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置き配とは、配達員が荷物を直接渡さず、受取人が希望する場所に置く方法である。置き場所としては、玄関前や宅配ボックス、ガスメーターの上などが多い。配達員は荷物を置いたあと、チャイムを鳴らすか通知を送り、その場を離れる。
この制度の変更は、再配達を減らすことや配達の効率を高めることを目指している。物流を社会のインフラとして見直す、長期的な考え方に基づいている。
6月26日、国土交通省は検討会の初会合を開いた。有識者や自治体の関係者、物流業界の人々が集まり、「置き配を標準サービスにする」という方向性について議論を始めた。秋までに方向性をまとめる予定であり、制度の変更は現実に近づいている。
しかし、現場の状況や住宅のつくり、受取人の行動を考えると、制度を一律に進めるには多くの問題がある。以下では、七つの具体的な課題をもとに、この制度が直面する現実を見ていく。
再配達率「8.4%」の落とし穴
まず注目すべき点は三つある。
第一に、再配達率では実態を正しく捉えきれていない。国土交通省が示した2025年4月時点の再配達率は「8.4%」である。しかし実際には、不在でも再配達が依頼されず、荷物が倉庫に残ったままになる例が多くある。このような「宙に浮いた荷物」に対して、配達員は翌日以降も対応しなければならない。未配達の荷物は拠点内にたまり、現場の負担が重くなる。こうした負荷は数字には表れない。再配達率は、現場の労力や時間の消耗を軽く見積もっているおそれがある。
第二に、再配達の有料化には一定の合理性があるが、現場で実行するには難しさがある。在宅にもかかわらず応答しない場合や、何度も不在が続く利用者に対しては、費用を負担させるべきという意見が根強い。考え方としては理解できるが、現場では課題が多い。配達員が現地で金銭を扱うと、誤配時のトラブルや時間のロスが起こる可能性がある。業務の手間も大きく、実行は簡単ではない。そこで、宅配ロッカーに支払い機能をつけ、決済が完了してから扉が開く仕組みとするアイデアもネット上では出ている。
今回の検討会では、再配達や対面受け取りに追加料金を課す案についての詳しい議論は行われなかった。ただし、国土交通省は今後の議題とする可能性を否定していない。
第三に、置き配には効率を高める効果がある一方で、リスクもともなう。とくに問題となるのは盗難や誤配である。アパートやマンションの玄関前など、多くの人の目にふれる場所では、第三者による荷物の持ち去りが現実に起きている。また、隣の家に誤って届けられた荷物が「配達完了」と処理されることもある。現在の補償制度には業者ごとの差があり、盗難に対する対応もあいまいなままである。
検討会でも、配達員が不在時に住宅の敷地内やマンションの共用部に立ち入ることを前提とした場合、セキュリティやプライバシーの問題が指摘された。制度を標準化するには、個人情報の保護やトラブル防止のために、明確な補償ルールの整備と建物設計の見直しが必要である。
一律運用を拒む現場実情
残る論点は四つある。
第一に、配達される荷物の種類が多様であり、すべてに同じ仕組みを当てはめることは難しい。宅配されるものには、以下のようなものが含まれる。
・温度管理が必要な食品や薬
・対面での受け取りが必要な代金引換の商品
・贈答用で手渡しが前提の商品
これらは置き配に適していない。さらに、インターネットの通販サイトの中には、配達日時を指定できないものもある。このため、利用者が配達に合わせて予定を調整できないことも多い。こうした問題は受け取る側だけに原因があるのではなく、配送サービスの設計にも課題がある。制度を広く適用するには、こうした例外に対応できる仕組みが必要となる。
第二に、配達員の業務負担がある。制度が改正されて置き配が広がれば、配達作業は軽くなると期待されている。しかし実際には、次のような対応が日常的に発生している。
・電話での連絡
・柔軟な再配達の要望への対応
このような業務が重なり、配達員の負担は大きくなっている。その背景には、「送料無料」や「即日配送」といった過剰なサービス競争がある。制度を変えるだけでは、現場の負担は軽くならない。利用者の意識を見直すとともに、事業者もサービスの方針を改める必要がある。
第三に、置き配には物理的な制約がある。都市部の住宅では、そもそも置き配ができないことが多い。たとえば、公道に面した玄関には安全な荷物の置き場所がなく、盗難や雨による被害の危険がある。また、オートロック付きの集合住宅では、配達員が玄関まで入れないこともある。
今回の会合では、マンションや一戸建てに宅配ボックスをどのように整備するかという住宅設備に関する議論も行われた。制度の改正だけでは不十分であり、住宅の側でも対応が求められている。
宅配ボックスがない建物も多く、対応手段がないまま制度だけが先に進められている。住宅の設備が整わないままでは、制度がうまく機能しないおそれがある。
第四に、制度の変更は消費者の行動や価格の仕組みにも影響を与える。もし、再配達や手渡しの配達に追加料金がかかるようになれば、便利さと費用が結びつき、ネット通販の利用を控える人が増える可能性がある。ただし、価格の仕組みがうまく働けば、配送方法に応じて消費者の行動が変わることが期待できる。
このように、物流資源の無駄な使用を減らすことにもつながる。
・価格は安いが置き配が前提の商品
・手渡し保証がついた高額商品
といったように、価格と配送の関係がはっきりすれば、ネット通販全体の仕組みも見直す必要が出てくる。
配送効率化が招く制度疲労
置き配を標準とする制度の変更は、宅配の受け取り方だけを変えるものではない。都市の構造や生活様式、さらに企業の事業計画にも影響を与える。こうした変化は、多くの分野にわたる見直しのきっかけとなる。
この制度には、配達の効率を上げ、人手不足や再配達の無駄を減らす目的がある。その意図は理解できる。しかし、制度を進めるには現場の複雑な状況を無視できない。
住宅の立地や建物の作り、荷物の内容、配達中に起こる予測できない事態など、さまざまな要素が関係している。すべての地域や家庭が同じ条件にあるわけではない。だから、ひとつの方針だけをすべての場所に当てはめるのは、かえって制度の目的に反するおそれがある。
制度が本当に目指すべきは、持続可能な配送の仕組みである。いま問われているのは、「標準」と決めた制度が、現実の生活環境や流通の仕組みに合っているかどうかである。
荷物の受け取り場所は、もはや個人の家の中だけの問題ではない。
敷地の使い方、共用スペースの設計、防犯の仕組み、近所との関係など、多くの要素が関わっている。そのため、制度の方針としては、受け取り方法をひとつに絞るのではなく、複数の選択肢を用意すべきである。住む人や企業が、それぞれの事情に応じて方法を選べる仕組みが必要である。
物流の仕組みは、今まさに大きな転換点にある。提供する側も使う側も、柔軟に対応できる力が求められている。置き配は、「どのような条件で成り立つか」をよく考えて導入しなければならない。あらかじめ決まった正解を押し付けるのではなく、実際の運用を通して改善を続ける姿勢が不可欠である。
めざすべきは、ただ便利で早い仕組みではない。それぞれの暮らしに合った、持続可能な受け取り環境の実現である。制度は一方的な命令ではなく、「人々が自分の生活や住まいに合った方法」を自ら選べる仕組みであるべきだ。そのような環境が整えば、物流の負担は適切に分散され、制度そのものも長く続けられるものとなる。
「標準」とは、すべてに共通するただひとつの形ではない。選べる道を残した上での、共通の出発点であることが望ましい。(猫柳蓮(フリーライター))
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みんなのコメント
常識の無い人間が蔓延る世の中で置き配泥棒に持って行かれたら誰が責任をとるのか?
性善説なんて言ってたら駄目だ。