油冷1156cc並列4気筒DOHC4バルブ VS 油冷249cc単気筒OHC4バルブ
私の名は小川恭範(おがわ・やすのり)。2019年10月までモーターサイクリスト編集部に在籍し、現在は主夫業と東洋医学関連の学業とを両立中。1996年に新発売されたスズキGSF1200Sにひと目ぼれしてニコニコ現金払いで購入。以来、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも(中略)、カスタムや修理費に大枚をはたきながら、14万6400km余りを共に駆け抜けてきた。身長178cm、体重はようやく3桁から2桁になったばかり。
【画像ギャラリー4点】新世代の油冷「SOCS」と、従来の油冷「SACS」の構造を比較する
そんな私の経歴に目をつけた(?)「モーサイweb」の編集長様からジキジキに、「油冷歴24年の“脂の乗ったライダー”は、新しい油冷マシンをどう思うのか語ってください」という依頼を受け少々困惑した。
忘れもしない1996年2月29日が発売日であるスズキGSF1200S。よりによって4年に1度しかない日を選ばなくてもいいだろう……。当時、モーターサイクリスト編集部で事前ニュースリリースを見て苦笑しつつも、実はその日が自分の誕生日でもあるため“運命”すら感じてしまったのは本当だ。
職権を乱用し!?、ヤマハXJR1200Rとの比較ページ(タイトルはカウル付きマシンの企画ということで「フーボーですよ!」)まで作成して試乗を重ねた末に購入を決意。気がつけば24年間も所有し続けている。
魅力の根源は、やはり油冷の1156cc・並列4気筒DOHC4バルブのパワーユニット。
トップ・オブ・レプリカGSX-R1100用エンジンのボアを1mm広げつつカムシャフトのプロフィールほか各部を徹底改良。最高出力こそ97馬力に抑えながらも、9.8kgmの最大トルクをたった4000回転で発生するという、いい意味で「超ド変態」な出力特性が身上だ。
ちなみに以降のイナズマ1200、バンディット1200シリーズではTPS(スロットル・ポジション・センサー)採用やキャブレター変更などでスムーズかつ乗りやすい方向への調教が進み、油冷を語る上でのキーワードである“ゴリゴリ感”は薄れていった印象がある。
閑話休題。現在はヨシムラの4into1チタンサイクロンを装備し、中速域までの極太トルクはそのままに、レッドゾーンまで豪快に吹け上がる仕様となった愛車。四半世紀近く付き合っているのにセルモーターを回すたび心拍数が跳ね上がる。ちょっとラフにスロットルをひねればフロントタイヤは簡単に離陸を開始……。
一般道はもちろん、高速巡航でも5速ホールド・4000回転以下でほぼ間に合ってしまうため、おとなしめの走りを心掛ければ18~20km/Lという実走行燃費もたたき出してしまう。弱点と言えば夏の熱気くらいか。
ここで話は冒頭に戻る。そんなGSF1200Sと新開発の249cc・単気筒OHC4バルブエンジンを搭載するジクサーSF250とを等しく論じてくれと依頼されてもねぇ。どだい同じ「油冷」と言ってもGSX-R750を起点とするGSFの「SACS」と、ジクサーの「SOCS」とでは、システムがまるで異なっている。
ちょいと割り切れない思いを抱えながら、取材当日の待ち合わせ場所へいそいそと。
マットプラチナシルバーメタリックNo.2の塗色をまとったジクサーSF250は陽光に良く映える。東京モーターショー2019以来の対面となるが、グラマラスなカウルデザインも秀逸で素直にカッコよく、単気筒エンジン搭載車と思えない存在感をうまく醸し出している。では、キーオンにして……。
「ああ、油冷スピリットは見事に受け継がれた!」
エンジンを始動してギヤをローへ入れ、走りだそうとした瞬間から笑みがこぼれる。何という頼りがいのある低速トルク! スリムな男女がタンデムしているくらいの体重を持つ私を載せているのに、アイドリング状態のままクラッチを素直に操作するだけでエンストの予兆すら見せずに車体はススススッと前へ進みだすではないか。
そこから谷もなくずっと発生し続ける太いトルクは、ストップ&ゴーの多い市街地で交通の流れをリードするのにも絶好だ。最大トルク2.2kgmは7300回転で発生するが(CBR250RRの最大トルクとその発生回転数は2.3kgm/11000rpm。YZF-R25とNinja250は2.3kgm/10000rpmで同一)、レッドゾーンの始まる1万回転強までフルに使い切れる好パフォーマンスを発揮。
さすがに力感こそGSF1200Sのような“ゴリゴリ”はなく“コリコリ”といったところながら、単気筒ならではの軽快な鼓動のなかにフリクションの少なさが明確に主張されており、そちらを低中速域の扱いやすさに振り分けた開発思想そのものが、私の愛して止まないGSF1200Sの油冷エンジンと同一なのだ。
高回転域でこそ絞りだされる最高出力値など、ある意味お飾りにすぎない。ライダーの技量を問わない扱いやすさと一般常用域での気持ちよさを徹底的に追求することこそが、GSFとの蜜月を通じて理解している“油冷”の定義であり神髄。それがジクサーSF250にも確実に継承されていたことに、ヘルメットの中で快哉を叫んだのであった。
なお、余談ながら見比べてみて驚いたのだが、GSFとジクサー250のタコメーターはともに1万回転からレッドゾーンの始まる仕様となっていた。最高出力&最大トルクに排気量なりの大きな差はあれど、極低回転域からレブリミットがかかるまでのパワーフィーリングとその演出は相似形と言っても過言ではない。
限界高負荷域をいさぎよく切り捨てた、ちょうどいい高性能こそがGSX-Rではない油冷モデルの真骨頂とするならば、ジクサー250シリーズの搭載する新時代の油冷エンジンは、まさしくその、正統後継ユニットなのだと太鼓判を押せる仕上がりを持っていた。
このエンジン、この油冷システムの今後の発展が楽しみでしょうがない。「4つ繋げれば、リッタークラスの油冷直4復活も!?」なんて、つい夢見てしまったり。
レポート●小川恭範 写真●岡 拓/小川恭範 編集●上野茂岐
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細かなニュアンスが知りたいです