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EV充電117%増の衝撃 なぜ「4割引」は効いて再エネ通知は響かなかったのか?

掲載 更新 36
EV充電117%増の衝撃 なぜ「4割引」は効いて再エネ通知は響かなかったのか?

EV充電を変える価格連動制

 二酸化炭素排出など地球環境への負荷低減を目指して開発された電気自動車(EV)だが、製造過程を含め一定の環境負荷がかかっているのは事実である。

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 ここで注目すべきは、供給されるエネルギーを無駄なく活用し、環境負荷を最小限に抑えるアプローチである。つまり、エネルギーロスを防ぐエコの考え方だ。

 この点で注目されるのが、電力を変動価格で提供するダイナミックプライシングである。電力供給に余裕があるタイミングで価格を下げ、需要と供給のバランスを調整し収益の最大化を狙う手法だ。さらに、その増加分の電力が太陽光や風力などのグリーン電力であれば、環境負荷低減の効果はさらに高まる。

 最新調査では、このダイナミックプライシングがEV充電スタンドでも有効に機能することが報告されている。

 手頃な価格で公共の充電施設にアクセスしやすい環境は、ドライバーのEV乗り換えを促進する重要な要素だ。一方で、EV充電が電力網に与える追加負荷は電力会社にとって新たな課題となっている。

「40%割引」で需要117%増

 価格を変動させるダイナミックプライシングは、EV充電に関する複数の課題を解決する可能性を秘めている。具体的には、利用のピークを避け、電力が安価かつ豊富な時間帯、特に太陽光や風力など再生可能エネルギーによる余剰電力が発生する時間帯に充電を誘導する手法である。

 この仕組みの有効性を検証するため、英再生可能エネルギー企業オクトパスエナジーグループ(Octopus Energy Group)傘下の研究機関「Centre for Net Zero」は、EV充電スタンド運営会社「Electroverse」と連携し、英国全土のEVドライバー11万人を対象に調査を実施した。

 調査では、11万人のEVユーザーをランダムに四つのグループに分け、価格変動イベント時に異なる通知をスマートフォンアプリで配信した。内容は以下のとおりである。

・Aグループ:通知なし(対照群)
・Bグループ:グリーンメッセージ(再エネ電力供給中)
・Cグループ:15%の割引告知
・Dグループ:40%の割引告知

 この結果、EVドライバーは価格変動に対して極めて敏感であることが明らかになった。特に、40%割引を告知されたDグループでは、充電需要が117%増と倍以上に跳ね上がった。15%割引のCグループでも、需要は30%増加している。

 一方で、グリーンメッセージを通知されたBグループには、顕著な行動変容は見られなかった。価格訴求が行動喚起において最も強く作用することを示す結果となった。

都市周辺で際立つ価格感応

 ダイナミックプライシングの影響は、

・低所得地域
・充電ポイント周辺

のドライバーに強く現れた。これらの地域では価格への感度が高く、また即座に車を利用できる環境にあるドライバーが多いためと考えられる。

 地域別の差異も顕著だった。イングランド北部および東部では、充電量の増加が最も大きかった。都市部でも充電量は増加したが、特に価格低下の通知に対する反応が際立っていた。

 調査チームによれば、公共の充電スタンドを利用するドライバーは、週に2~3回の40%割引によって、運行コストを1マイル(1.6km)あたり300~470円から180~280円へと削減できる可能性があるという。

「Centre for Net Zero」のCEOであるルーシー・ユー氏は次のように語る。

「私たちはエネルギーにおいて消費者が主役の時代に入りつつあり、インフラと同様に行動が重要になります。このように電力網の節約分をドライバーに還元することで、車両のランニングコストを削減し、システムの安定性を維持することができます」

さらにユー氏は次のように続ける。

「これらの研究結果は、自動車が電力網と連携し、よりクリーンで安価なエネルギーをスマートに充電できる強力なツールとなる未来を示しています。将来的には、V2G(Vehicle-to-Grid)技術などの新たなイノベーションが、消費者と電力網の双方にとって、これらのメリットをさらに高める可能性があります」

 一方、「Electroverse」のディレクター、マット・デイヴィス氏は、この実験が再生可能エネルギーと先端技術の組み合わせによって、社会に「変革的なインパクト」を与える可能性を示した「強力な証拠」だと述べた。

「ドライバーが豊富なグリーンエネルギーを最大限に活用できるようにすることで、路上、駐車場、職場の公共充電スポットに頼っている何百万人もの人々のコストを削減し、クリーンで手頃な価格の電気自動車をすべての人に利用できるようにします」

再エネ活用促す電力設計

 EVと電力のダイナミックプライシングの関係性を探る研究は、日本国内でも進んでいる。

 大阪大学の研究チームは2025年3月、「Journal of Japan Society of Energy and Resources」に論文を発表した。研究では、日中の余剰電力を宅配事業に有効活用できる可能性が示された。

 日本でも、電力のダイナミックプライシング導入が近いと見込まれている。同研究では、変動する電力価格に応じて最適な配送ルートと充電計画を決定する数理最適化モデルを構築。このモデルを活用すれば、より費用対効果の高い電力利用が可能になる。

 ダイナミックプライシングによって、再生可能エネルギーが豊富な時間帯の安価な電力を最大限に活用できるようになれば、EVの普及とエネルギーロスの少ない社会への転換がさらに加速すると考えられる。(仲田しんじ(研究論文ウォッチャー))

文:Merkmal 仲田しんじ(研究論文ウォッチャー)
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