スーパーカーを作るために単身イタリアに渡ったオラチオ
アルゼンチンのカルシダに生まれ、スーパースポーツの世界に我が身を置くためにイタリアへと渡った、オラチオ・パガーニ。彼の名前、そして彼が社長を務めるパガーニ・アウトモビリの名前は、もはやスーパーカー・ファンの間では知らない者はいないだろう。
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オラチオが最初にその門を叩いたのはランボルギーニにほかならなかった。ここでデザイナーとして、そしてまたのちのパガーニ車に大きな影響を与える先進的な複合素材についての研究を務めたオラチオは、ランボルギーニ時代にもさまざまな作品をデザイナーとして残している。たとえばカウンタックの最終モデルとなったアニバーサリーや、それ以前にランボルギーニが試作した実験車のカウンタック・エボルチオーネにも、彼の才能は最大限に発揮されているといってよいだろう。
1980年代終盤のランボルギーニは、カウンタックの後継車を誕生させるために必死であったから、オラチオの存在は必要不可欠な存在だった。実際オラチオは1991年に、それまでの経験をもとに軽量なCFRP製品の開発と生産を行うモデナ・デザイン社を、ランボルギーニの本社に程近いサンチェザリオの地に設立。いわゆる社外スタッフとして次世代12気筒モデルの姿を探る立場にあった。
パガーニがまず抵抗を感じたのは、これまで受け継がれてきた鋼管スペースフレーム構造で、新たにCFRP製のモノコックタブを基本構造体として使用することを、ランボルギーニに強く問うことになった。
だが当時のランボルギーニには経済的な事情から、その案を受け入れたニューモデルを市場に送り出すまでの余裕はなかった。同時に描かれた流麗なボディデザインとともに、パガーニによる次期ランボルギーニ製12気筒モデルは、残念ながら廃案となってしまったのだ。
実際に1990年にデビューしたのは、それまでのカウンタックと同様のメカニカル・アーキテクチャーを持つディアブロで、これはマルッチェロ・ガンディーニと当時の親会社であるクライスラーによってデザインされたモデルである。
走る芸術と言われるクルマは数あれどパガーニこそがふさわしい
パガーニがこの時、胸中に描いていた次期12気筒モデルは、すなわちスーパースポーツの究極像は、1999年のジュネーブ・ショーで、パガーニ・アウトモビリ社から姿を現すことになる。かつてのグループCカーのように、流れるようなボディラインとコンパクトなキャビンを持つこのモデルには、「ゾンダ」のネーミングが与えられ、ジュネーブ・ショーでの大きな話題となった。
ちなみにゾンダとは、アンデス山脈からオラチオの故郷であるアルゼンチンへと吹き降ろす風の名前。ファーストモデルの「C12」は、妻のクリスチーナの頭文字と、パガーニにとって12番目のミッドシップカーのプロジェクトであり、また12気筒エンジンを搭載するスーパーカーであることを意味していた。
ゾンダが大きな特長としていたのは、パワーユニット一式を、ドイツのメルセデスAMG社から供給を受けていたことだろう。これは同じアルゼンチンの出身で、F1GPを5回も制覇したファン・マヌエル・ファンジオのアドバイスによるもの。排気量6リッターのV型12気筒エンジンを搭載する5台のC12がすべての始まりだった。
ゾンダはその後、7リッターのV型12気筒エンジンを搭載する「C12S」、7.3リッターの「C7.3」と、コンバーチブルも含めて次々に進化を遂げていき、2005年には最高出力で600馬力を超える「F」でひとつの頂点を迎える。
その後は後継車の「ウアイラ」の開発をスタートさせると同時に、ゾンダのワンオフモデルの製作を積極的に行っているから、その仕様はすでに数えられないほどに大きな数となっているのが実際のところだ。
こうして数億円もするハイパーカーやワンオフモデルを得意顧客に売るというビジネスモデル作り上げたオラチオ・パガーニ。今ではこのビジネスモデルは、ピニンファリーナのようなカロッツェリアも真似をしている。
ちなみに何度かオラチオ・パガーニ本人にもあったことがあるが、南米人特有の陽気なおじさんかと思いきや、いかにもデザイナーといった物静かでシュッとした紳士だった。アルゼンチンから夢を抱いてイタリアに来た直後は、自転車しか持ってなくて、それでランボルギーニに通っていたそうな。
ウアイラも含め、パガーニのモデルに乗ると、そのパフォーマンスはもちろんのこと、デザイナーとしてのオラチオのこだわりがあらゆるところに見えてくる。小さなビス一個にもパガーニのエンブレムが刻印されていたり、操作性を重視してスイッチ類を配置していたりするなど、それは美しさとともにカスタマーを喜ばせて尽きないだろう。
リヤグリルの中央に4本出しされるエキゾーストパイプもまたパガーニ車の大きな特徴。そのサウンドは甲高く、ドイツ製のパワーユニットからのものとは思えないほどに刺激的だった。
イタリアとドイツの共作ともいえるパガーニ・ゾンダ。その魅力はいつまでも不変であるに違いない。
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