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ホンダのものづくりの現場「栃木研究所四輪開発本部」に直撃! ホンダらしさは感じられたのか?

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ホンダのものづくりの現場「栃木研究所四輪開発本部」に直撃! ホンダらしさは感じられたのか?

 ホンダ車はどんなところで研究開発がなされているのをご存じだろうか? 今回、メディアを対象とした、栃木県宇都宮市郊外、芳賀郡にあるホンダの栃木研究所・四輪開発本部を見学する機会があったので紹介していきたい。

文:ベストカーWeb編集部/写真:ホンダ

【画像ギャラリー】ホンダのものづくりの現場「栃木研究所四輪開発本部」を写真でチェック!(18枚)

ホンダの栃木研究所は驚きの連続だった!

 ホンダの生産工場を見学したり、テストコースでの試乗することはあっても本田技術研究所そのものは、外部の人間はなかなか見ることができない。今回、初めてメディア向けに四輪開発本部・栃木研究所を見学できるというので、ワクワクしながら栃木技術研究所の正門をくぐった。

 ホンダは、営業販売部門と研究開発部門を切り離し、本田技研工業と本田技術研究所としてそれぞれ独立させているのをご存じだろうか? 研究開発部門が独立しているのは、一人の天才が開発を率いていく、つまり個人ではなく集団でチャレンジしていき、新しい価値を創造していくという考えからだ。

 本田宗一郎という稀代の天才技術者が本田技研工業を1948年に創業して以来、これまで先進的かつ独創的な製品をこの世に送り出してきたのはこの営業と研究開発部門が独立しているために生まれた気質だろう。

 その気質とはホンダのフォロソフィーのなかにある、基本理念(人間尊重と3つの喜び)に記されている「自立」。この「自立」とは、「既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性を持って行動し、その結果について責任を持つことです」。つまり、既成概念にとらわれない、自由な発想で新しいモノを生み出す、ホンダらしさであると思う。

 さて、このホンダの研究開発施設は日本を含め北米・中南米、中国、アジア・大洋州、欧州に拠点があり、日本には北海道地区、栃木地区、埼玉地区、東京地区、浜松地区、鈴鹿地区、熊本地区の7つの主要拠点がある。

 今回訪れたのは栃木県芳賀郡芳賀町にある四輪開発本部・栃木研究所である。東西1360m、南北1860m、約2.13km2の敷地に研究開発施設とプルービンググラウンドを備えている。ここで働いている従業員はなんと2万人。栃木プルービンググランドは1979年、栃木研究所は1986年の設立である。

 栃木研究所の四輪開発本部の建物に入って見学、といっても具体的にここが企画部門です、開発部門ですと言われたわけではなく、当然写真撮影は禁止。立ち入ることだけでも嬉しかった。とにかく、四輪開発本部の心臓部の人の多さに驚いた。

 写真撮影禁止なので、説明しづらいが、ぶっ通しの1フロアで、1区画に目算で500人×5フロア(ほど)もあった。ぶっ通しの1フロアにしたのは、ワイガヤの文化のためだろう。ワイガヤというのは職位や年齢にとらわれず徹底的に意見をぶつけあい、新しい思想や価値を生み出す、ホンダらしい社風である。

 ライトグレーの一人一人のデスクの上にはモニターが設置されていた。おもしろいのは、大型スーパーの駐車場にある、あの太いコンクリートの柱があり、その柱に30とか31とか番号がペイントされていたこと。さすがに「自分の机はどこにあったっけ?」と迷ってしまう人が多いのだろう。

 左側の5mの幅の通路には、ちょうど昼時ということもあって、川を泳ぐ鮎のように食堂へ一目散に向かう白い作業服を着たホンダの従業員たちが足早に移動していた。

 ちなみにホンダの制服は指定場所によって異なるが、上着は白(半袖、長袖あり)、ズボンは白か、紺色とのこと。

 通路側から、一人のモニター画面を凝視してみると、足回りパーツが映し出されていたので、「ここはシャシー設計の部署なのかな」とつぶやきながら後にした。

1回の衝突実験にかかる費用は150万円! 

 今回の見学会の目玉の1つは、衝突実験を実際にこの目で見られること。映像で見ることはできても、なかなか自動車メーカーの衝突実験施設を見ることはできないので貴重な体験だ。

 栃木研究所内にあるこの衝突実験施設は、世界初の屋内全天候型で2000年4月に完成。この屋内全方位衝突実験施設ができる前は、外部の施設でクルマ対クルマの衝突実験を行っていたものの、屋外のためスケジュールは天候に左右されることがネックだった。

 天候に左右されないため、コンスタントにリアルワールドに近いクルマ対クルマの衝突実験を1日平均2~3台、2輪車も含め、計600回のテストが行われているというから驚き。

 法規だけに対応するのではなく、自分たちで実際に起きている事故を研究し、そこで得られた知見をもとに独自の基準を設けてテストを行い、世界トップの安全性能を目指そうと考えたという。それが、世界初の屋内全天候型全方位衝突実験施設を建設する動機になったという。

 衝突実験が行われる前に案内されたのはまるで飛行場にある管制塔のようなコントロールルーム。床上4.5mに設置されたコントロールルームからはすべてのコースが見渡せる。

 コントロールルームでは、衝突テストの開始/停止の操作をはじめ、照明やカメラ、実験車両の出し入れを行うシャッターの開閉や安全管理など、衝突実験に関する制御を一手に担っている。

 テストの効率化を図るため自動化システムによって、衝突形態や照明、カメラの設定を記憶しておき、類似したテストを再現する際の準備期間短縮を図っているという。

 コントロールルームからは南北方向に272m、東西方向に178m、屋根高は15mあり、130m四方にわたって柱のない空間となっている。

 ここに正面衝突の0度コースを基本に、15度刻み(180、15、30、45、60、75、90度)で合計8本のコースが設けられており、正面衝突だけでなく斜め前方からの衝突、斜め後方からの衝突、側面への衝突など、全方位からの衝突テストができるという。前面衝突は100%フルラップ、50%、25%オフセット衝突など、さまざまなオフセット率を再現することができる。

 衝突試験用ダミー人形の姿勢を安定させたまま80km/hまで加速できるようにするため、各コースの長さは130mとした。ここでは2台のクルマを同時に最大80km/hで牽引することが可能。また、40km/h対60km/h、40km/h対80km/hなど、2台のクルマを異なる速度で衝突させる異速度衝突も可能としている。

 今回、実際にフリードを使用した50%オフセットのクルマ対台車の衝突実験が行われた。20秒前からカウントダウンが始まり、フリードと台車が50kmで50%のオフセット衝突。コントロールルームのなかにいるとはいえ、ガツン!とものすごい衝突音がした。やはり現場ならではの臨場感は凄まじく、恐怖さえ感じた。

 フリードと衝突した緑色の台車はフィットe:HEVほどの1200kgの重量(欧州や中国では1400kg)で、デフォーマルバリアと呼ばれ、先端のほうが柔らかく後ろにいくほど固い、実際のクルマと同じエネルギー吸収構造となっているという。

 フリードの助手席には小柄な女性を想定したダミー人形、運転席にはより人間に近づけて開発された前面衝突試験用ダミー人形「ソアー」が装着されている。このダミー人形は大人の男性(身長約175cm、体重約77kg(付属物を含めた試験時の質量は約90kg)を模擬したものだ。

 衝突実験後のフリードを近くで見たが、キャビンがほとんど変形しておらず、ドアはしっかり開くことができていた。テスト結果は、ナスバ(独立行政法人自動車事故対策機構)が実際した、車速50km、台車速度50km/hの新オフセット前面衝突試験の結果、175.07点に準じた良好なものだったという。

 ちなみに1回の衝突実験にかかる費用は150万円ほどだという。台車の衝撃を吸収するグリーンの部分を毎回代えることでコストを削減。解析が終わると、スクラップにされるという。

 見学のメニューには含まれていなかったものの、興味深かったのはEVの衝突実験に対応した作業場だ。リチウムイオン電池は強い衝撃が加わったり、損傷を受けてしまうと発熱・発火するリスクを抱えているが、衝突した際にどうなるのかという不安があったので衝突実験ではどうしているのか気になっていたからだ。

 念のため言っておくと、ホンダ車に搭載されているバッテリーパックは発火しないよう安全性を担保しているが、やはり万一の際のリスクに対応するため、EVは専用の作業場で電解液の漏れなどの計測や整備作業を行っているという。

 ここで万が一火災が発生した場合は延焼を防ぐ作業を行いつつ、鎮火後はフォークローダーで施設の外に運び、専用に設けたプールに水没させる設備を整えている。

圧巻のドライビングシミュレーター

 ドライビングシュミレーターを聞いて、まず頭に浮かぶのはPS「グランツーリスモ」だが、ホンダのドライビングシミュレーターはどこまで精微に再現されているのか期待を胸に、オペレータールームに入る。

 ドライビングシミュレーターには、大きく分けて2つの用途がある。

1:量産開発段階での官能評価・安全検証

実車テストの前段階で、走行性能や安全性の課題を徹底的に洗い出し、対策を講じることで開発効率を最大化。実車テストの負担を軽減しながら品質を高める狙いがある。

2:将来技術・商品価値の検討

実車を作らずに将来の技術や新しい価値、商品コンセプトを検証可能。コスト削減と開発期間の短縮を同時に実現し、より魅力的なクルマを迅速に市場へ届ける。

 当然、クルマの開発テストはドライビングシミュレーターだけで完結していない。このドライビングシミュレーターで行うバーチャルなテストと、テストコースで行うリアルの開発テストがあり、50%ずつの割合で行われているという。

 ホンダが使用しているドライビングシミュレーターには数種類あり、AD/ADAS系の機能検証に用いる自動運転/先進運転支援技術評価用ドライビングシミュレーター(視界重視型、走行感覚重視型)、開発初期段階でのコンセプト検討や方向性の確認、各デバイスや制御仕様を製作開始する前に行う最終確認時の検証に活用する小型ドライビングシミュレーター、そして、今回見学するのは、四輪ダイナミクス性能評価用ドライビングシミュレーターである。

 オペレータールームから見ると右側にヴェゼルを半分切った形のドライビングシミュレーター、そこへ向かうボーディングブリッジが見える。その下にはダンパーのようなアクチュエーターが設置されている(写真参照)。

 ドライビングシミュレーターの構造は、6軸アクチュエーターと3軸アクチュエーターが組み合わさることで、ドライバーがまるで本物の車両を運転しているかのような感覚を得られる。さらにボーディングブリッジの高さ調整により、シミュレーター特有の違和感を排除し、現実の乗車体験を忠実に再現。合計約3000のパラメーターと250の自由度を持っており、実際に図面に落とし込むことが可能となっている。

・6軸電動アクチュエーター:加速度や路面入力といった高周波側の動きを再現

・3軸電動アクチュエーター:加速や制動、旋回時の持続的なGを再現

 このアクチュエーターはイタリアのVIグレードと、日本の鷺宮製作所が制作した2つのシステムをホンダがカスタムを依頼して作られているという。

 さっそく、ボーディングブリッジを通り、ドライビングシミュレーター内の運転席に座る。設定車種は2022年式のCR-Vで、50km/h固定(クルーズコントロールなし)で走行した(ハンドルは握れなかった)が、実際の道路を精微に再現し、動きもリアルだった。

 ではどのように乗り味、ポテンシャル性能をテストしているか? 一例を挙げると、コーナーでは以下のような評価項目があるという。

・コーナー入口:リニアリティ、初期応答性、応答遅れ

・コーナー進入:切れ上がり(巻き込み)、旋回内向き感

・コーナーのクリッピングポイント:ロールモーション、弱前下がり、内外輪荷重移動、前後荷重移動

・コーナーの立ち上がり:ダイアゴナルモーション、尻下がり、めくれ上がり、リアサス収れん、しっかり感、接地感

 もちろん、実際のテストコース、例えば栃木や鷹栖のプルービンググラウンドの路面をデジタルデータ化し、実車と同じサスペンションやタイヤモデルを組み込むことで、シミュレーター上でリアルな車両挙動を再現可能しているという。

 これにより、同条件での繰り返しテスト、危険なシナリオの安全な再現、環境負荷の低減といった実車では難しい条件を効率的に満たすことができる。付け加えるとこのドライビングシミュレーター、実走テストのほかに、ベンチやテスターによる基礎データの計測やセッティングを行う台上試験がある。

 このドライビングシミュレーターによって初めて開発されたのはホンダの次世代BEVのゼロシリーズで、2025年10月末から開催されるジャパンモビリティショーにも出展される予定。

道がクルマを作る! テストコース「プルービンググランド」

 最後は、開発テストコース、プルービンググランドをバスに乗ってコース内を周回した。プルービンググラウンドと聞いて、耳慣れないと思うかもしれない。開発車両で走行テストを重ね、量産化に向けて技術とクルマを鍛え上げていく開発テストコースのことだ。

 リアルワールドの環境を忠実に再現し、実際に走らせ、厳しい条件のテストで、走る・曲がる・止まる、のクルマの基本性能を確認し、実走行から得た検証結果を企画・開発にフィードバックする舞台である。

 ホンダは1958年、日本初の高速テストコース、荒川テストコースを開設したが、増大するテストのノーズに対応するため、1979年に栃木プルーグランドを開設。

 総敷地面積は1.41km2。東京ドーム140個分になるという。四輪車だけでなく、二輪車や芝刈機、耕うん機等の汎用製品など3つの製品を同時に行っているのは世界的に珍しいとのこと。

 コースの種類も多く、周回コース、特殊路、総合コース、旋回路、登降坂路、水槽路、低μ路、中μ路、悪路コース、ワインディングコース、直線コース、モトクロス・スーパークロスコース、バギーコース、パワープロダクツテスト場などを備える。コースの種類は40以上におよび、総延長は74kmに達する。

 やはり開発テストコースで華となるのは、バンクのある周回コースだろう。1周4kmの周回コースには、内側から特殊レーン、低速レーン、中速レーン、高速レーンの順に並んでおり、高速周回路の各コーナーにある最大傾斜角45度のバンクは最高速度200km/h(二輪は240km/h)までのテストが可能。

 この高速周回路では高速域での直進安定性、車線変更、ブレーキング時の挙動や静粛性などをテストしている。この高速周回路はライセンスを持っていないと130km/hまでしか出せないそうだ。

 高速周回路(バンクは走行不可)や曲がりくねったワインディングコースは、よくホンダの新車が発表される前の事前試乗会のコースとして実際に走ったことがあり、ハンドリングや乗り心地、静粛性などをチェックしたことがあるので、あまり驚きはなかったが、走ってみたいというコースが2つあった。

 1つは周回コース内の世界のさまざまな路面を再現した特殊レーン。石をベルギーから取り寄せ、職人が1枚ずつ敷き詰めたというヨーロッパの石畳路の道、ベルジャン路や、レンガを敷き詰めたブラジルに多い道、アメリカのハイウェイに多いつぎはぎだらけコンクリート路など10種類あり、ここで騒音低減や乗り心地をテスト。次回の事前試乗会にはぜひ試乗コースに入れてもらいたいものだ。

 また周回路に設置されていた横風送風装置も体験してみたいものだ。最大毎秒30mという台風並みの風を吹かせることが可能で、トンネルの出口で突然受ける横風など、走行時に受ける横風の影響をテストすることができるという。

 時節柄、水深を自由に設定でき、浸水テストなども行える水槽路も合わせて、災害時に強いクルマを作るという点では興味深いものだった。

 さらに自動運転など先進安全技術を開発するために2016年に開設した栃木プルービンググランドさくら(栃木県さくら市)、1993年に開設した北海道・旭川市にある鷹栖プルービンググランドがある。

 この鷹栖プルービンググラウンドのワインディングコースは、ニュルブルクリンク北コースを模して作られ、1周6180mのコースには、9Rから160Rまで大小のコーナーを配置し、高低差は57.5m。厳しいアンジュレーションやブラインドコーナー、ジャンプスポットを備えた過酷なコースである。

 NSXやインテグラタイプで試乗したことがあるが、ボディ剛性やハンドリングの限界や特性がよくわかる、横Gがきついコースだったと記憶している。

 蛇足になるが、トヨタや日産は開発者とは別に、開発テストドライバーが存在しているが、ホンダは開発者自身がテスト、実験をして新車開発をしているというのは初耳だった。

まとめ:ホンダのモノづくりの現場を見学して思ったこと

 今回、栃木の四輪開発本部の衝突実験施設、ドライビングシミュレーター、プルービンググランドの3施設を見学したわけだが、筆者のようなベテランのメディア関係者にとっても、単刀直入に言って「垂涎ものの体験」だった。他のメーカーも含め、工場見学はあっても、潜入ともいえる見学会はこれまでなかったからだ。

 ホンダのものづくりの一端を見ることだけでも嬉しいことだが、欲をいえば、ホンダ車を開発している現場と開発者たちとざっくばらんに話したかった。言い換えればホンダの人づくりの現場を見たかった(到底無理な話だと思うが……)。

 職位にとらわれない自由闊達な意見交換、常識にとらわれない自由な発想で新しいものを生み出す。それがホンダらしさだと認識しているが、これからもそれを実践していってほしい。

 今回紹介した施設以外にも「実車風洞」「台上試験施設」「環境試験施設」「XR検証施設」「金属3Dプリンター」をホンダのテクノロジーサイトで解説しているので、もっとホンダの研究施設を知りたい人はぜひ覗いてほしい。

文:ベストカーWeb ベストカーWeb
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みんなのコメント

3件
  • 130クラウン230グロリア♪
    じっくり見学して自分の言葉で書かれている記事。ベストカーもちゃんとした記事をアップできるようだ。頭悪い系くるまのニュースのおバカな連中は、きっと見学自体を断られるだろうw
  • F.Kナビオ元マネージャー
    その会社に行ってその会社らしくないという記事なんか書けるわけはないんやが、読売本社に行ってなぜ優勝しそうな広島の中心選手を金で取って弱体化させたのか?なぜ妊娠中絶選手を報道規制で隠してたのか?なんか答えられんのと一緒。
    「らしさ」は感じられても真実までは分からん。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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